お姉さんと妹ちゃん   作:Tico Ruzel

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ある基地の姉妹人形、97式と95式のお話し。

指揮官への想いを巡って、微妙なわだかまりを抱えたまま、
不慮の出来事で戦場に取り残された二人。

なんとか撤退をこころみる最中に、意外な遭遇にでくわすのですが……?


ドルフロファンノベル新シリーズ、〔お姉さんと妹ちゃん〕開幕!
 
第1話は「恋慕のコランダム」。全4節を毎日更新!




ep.1 恋慕のコランダム Ch.1

 あたしのお姉ちゃんは、自慢の美人さんだ。

 

 白いハーフコートに青の差し色。

 黒いストッキングに包んだ脚はすらりと伸びている。

 そして、さらさらした長い髪が、とても艶やかに光っている。

 

 でもお姉ちゃんは単に美人ってだけじゃない。

 この基地の戦術人形で、お姉ちゃんほど射撃の上手い子はそういない。

 狙いが上手いんだって、指揮官が褒めていた。

 確実に敵の急所を狙って撃ち抜くのが、お姉ちゃんの得意技。

 ――バンバン撃って手数勝負のあたしとはそこが違うの。

 

 でも、あたしたち二人は同じ部隊で上手くやってきた。

 後衛として部隊の火力のメインになるアサルトライフル型。

 うちの基地じゃ、お姉ちゃんとあたしの部隊が一番戦果をあげている。

 

 お姉ちゃんは、あたしにとって頼れるパートナーでもあるんだ。

 

「やっぱりあなたとペアを組むのが一番しっくりくるわね」

「当たり前じゃん! 姉妹なんだもん!」

 

 

 でも、お姉ちゃんと一緒で大変なこともある。

 

 お姉ちゃんは世話焼きさんだ。

 お節介屋といってもいいかもしれない。

 それに、ちょっと規律に厳しい人だ。

 あたしが少し羽根を伸ばしていると、すぐにお小言なんだよ。

 

 正直、それにはちょっとうんざりしていた。

 基地から外出して街で遊んで来たら、必ずゲートで待ち構えている。

 そしてお土産を両手に抱えたあたしに、あきれたような顔。

 もっと訓練しなさい、とか言われて喧嘩するのはいつものこと。

 あたしとお姉ちゃんの言い争いに、一緒に行った子が決まって青くなる。

 

「またそんなに買い込んで! 無駄遣いはだめでしょう?」

「もーう、何を買ってもいいじゃん! 命の洗濯だよっ」

 

 

 でもそこは、同じ姉妹で気兼ねないからこそだと思うんだ。

 

 言い争いになっても、ほどほどでおさまるし。

 それにお土産を渡せば、お姉ちゃんは喜んでくれる。

 

 だから、喧嘩して十分後には笑顔でおしゃべりなんて当たり前。

 お姉ちゃんは街の様子をいつも聞きたがる。

 何が流行ってるのか、どんなお店があるのか。

 

「それで? その人、あなたになんて声をかけたの?」

「えぇ……ナンパされた話とか、恥ずかしいよぉ」

 

 

 本当はわかってる。

 お姉ちゃんは基地の副官も務めているから忙しい。

 戦術人形として戦う以外に、事務仕事だってある。

 

 だから、気軽に街へ行けない。

 だから、羽目をはずしている子がいれば注意する。

 

 お姉ちゃんの事情もわかってるから――

 お小言も、土産話も、お姉ちゃんにとってせめてもの楽しみなら。

 あたしはつきあってあげられる。

 

 お互いに想いやるのが、姉妹ってものだから。

 

 二人はずっと仲良し。ずっと一緒。

 そう思っていた。

 

 

 だから――あの夜のこと。

 灯りも少ない食堂で、指揮官とお姉ちゃんが話し込んでいて。

 そして、指揮官がそっと小さな箱を出してみせて――

 それを見たお姉ちゃんが二言三言交わしてから、指揮官とそっとキスした時。

 

 あたしは……すごくモヤモヤしてしまった。

 

 指揮官の持っていた箱は、きっと〔あれ〕に違いない。

 そして、副官を務めるお姉ちゃんは、あの人と過ごす時間も長い。

 別に不思議なことじゃない。考えてみれば自然なことだもの。

 

 

 でも――あたしはなんかイライラしてしまった。

 どうしてお姉ちゃんだけ? どうしてあたしじゃないの?

 

 そう考えた時……気づいちゃったんだ。

 あたしも、お姉ちゃんと同じ人が好きなんだって。

 だけど、選ばれたのはお姉ちゃん。

 あたしは選ばれなかった子。

 

 一緒だった道が二つに分かれてしまって――

 永遠に離れ離れになるような気持がして。

 怖くて。寂しくて。切なくて。

 

 そして、そんな想いを抱えている自分がイヤで。

 

「――ねえ、どうかしたの? このあいだから変よ?」

「なんでもないよっ。お姉ちゃんには関係ないもん!」

 

 作戦に向かう最中のヘリでもつっけんどんにしてしまって。

 戦闘の最中も感情パラメータが不安定なまま……

 いつものスペックが出せないのにすごくイライラして。

 

 そうすると、ついお姉ちゃんの方へ視線が向いちゃって。

 こんな気持ちになるのはお姉ちゃんのせいだって――

 そんなふうに考えちゃって。

 

 別にそんなことはないはずなのに……

 ……全部、あたしの勝手な想いなのに。

 

 “ガラスの家に住む者は石を投げてはならない”って言う。

 本当にそうだね。人を妬むと、災いは自分に返ってくるんだ。

 

 作戦で敵に押されて撤退するときに、ふと思った。

 “お姉ちゃんだけ戦場に残ったらどうなるんだろう”って。

 

 バカだな、あたし。

 

 そんなことを考えるから、こんな目に遭うんだよ。

 急ごしらえで設置された、〔鉄血〕のジュピター砲。

 あの忌々しい大砲にヘリが狙われたとき――

 

「あなたは逃げなさい!」

 お姉ちゃんがそう叫んで、あたしを突き飛ばした。

 

 そして、あたしは――お姉ちゃんのその手を思わず掴んだ。

 

 二人して落下して、地面に投げつけられて。

 からくも急上昇したヘリをかすめて、砲撃が宙を裂いた。

 

 仲間たちが空高く逃れていくのをただ眺めながら――

 あたしたちは、呆然と戦場に立ち尽くすしかなかった。

 


 

「目は覚めた? 97式?」

 姉の言葉で、彼女の思考パルスがデフラグから浮上した。

 

 ぱちぱちと目をしばたたかせて、視覚素子を覚醒させる。

 認識領域に、心配そうに自分を覗き込む黒髪美人が投影される。

 パーソナリティ上、〔姉〕と認識している95式だ。

 

 それを確認して、97式はぶんぶんとかぶりを振った。

 豊かな黒髪のツインテールと紅いリボンを盛大に揺らすと、ふうと息をつき、

「うん――いま起きた」

 しっかりとした言葉で答える。

 

 それを聞いて、彼女の姉がそっとほほ笑んだ。

「よかった……メンタルモデルに負荷がかかっていたのね」

「もしかして……ずっと見張っていてくれた?」

 妹の問いに、姉――95式は、こくりとうなずいた。

 

 たちまち、妹――97式が、ばつの悪そうな顔をみせる。

「あたしだけダウンしちゃうなんて……」

「気にしなくていいのよ」

 姉がそっと妹の頬を撫でた。優しく、柔らかい感触。

 

 だが、その手の甲に黒ずんだ擦過傷を見つけて、97式は顔をくしゃっとゆがめた。

 姉の手をにぎると、自分の額に当てて涙声で、

「巻き添えにしちゃった……ごめんなさい、お姉ちゃん」

 

「いいのよ。わたしこそごめんなさい。びっくりしたわよね」

 こんな時でも姉の言葉は気遣いにあふれている。

「わたしが急に突き飛ばそうとするものだから――でも、かえってよかったかも。二人一緒なら、なんとか切り抜けられるかもしれないわ」

 

 自分の手を握りしめる妹の手を、さらに自分の手でくるんで、

「さあ、立ちましょう。なんとか後方へ撤退しないと」

 そう言って、姉が手を引いてくる。

 

 妹は、こくりとうなずいて、そろそろと立ち上がった。

 腕をくるりと回し、とたとたと足踏みしてみせる。

「ん――躯体はだいじょうぶみたい」

 

「よかった」

 ほうと息をつきながら、姉が微笑んでみせる。

「とりあえず移動しましょう。この岩陰だと、また〔鉄血〕に見つかるかもしれない。どこか落ち着ける場所を探して、撤退ルートを考えないと……」

 姉がうなずき、妹が頷き返す。

 

 それぞれの銃を携えながら、二人並んで歩きだす。

 姉は左。妹は右。

 いつのまにか、自然と決まった位置取りだ。

 

 それぞれの〔持ち場〕を見張りながら、慎重に歩を進める。

 黙りこくったまま、三十分ほど歩いただろうか。

 はたして、沈黙に耐え切れなくなったのは、妹のほうだった。

 

「……ねえ、どうして、あたしだけヘリから降ろそうとしたの?」

 ためらいがちの妹の問いに、姉はちらと目を向けると、

「あなただけは助かってほしかったのよ」

「変だよ。だって、あそこで撃墜されて全滅したって、バックアップから復帰できるじゃん――そうだよ、そっちの方がこんな苦労せずに基地へ戻れたのに――」

 

「ダメよ。それはいけないわ」

 繰り言じみてきた妹の言葉を、姉はぴしゃりと遮った。

「今回の作戦は急だったから、記憶の完全バックアップは四日前まで戻ってしまうもの。あなたにはちゃんとメモリを保持したまま、帰還してほしかったの」

 

 姉の言葉は、真摯そのもので気遣いに溢れていたが――

 それだけに、妹の感情パラメータはズキンとネガティブに跳ねた。

 

 姉と指揮官が話し込んでいたのは、一昨日のことだ。

 針で心臓を刺されたような、あんな痛みを抱えて生き残れというのか。

 

 むしろ姉の方こそメモリを持ち帰るべきではないのか。彼女がメモリを失えば、おそらく指揮官の告白の言葉も、キスの思い出も失ってしまうだろうに。それとも、姉にとってそれらは取るに足らないことなのだろうか。

 もし、姉にとってその程度のものなら、いまも自分の思考回路を疼かせるこの痛みはなんだというのか――まるで、自分の想いなんて、どうでもいいみたいではないか。

 

「……なんなのよ、もうッ」

 苛立たしげにつぶやいて、気が付くと妹は目についた石ころを蹴り飛ばしていた。

「こらっ、なにしているのっ」

 姉が眉をひそめる。妹はぷいとそっぽを向いた。

 

 蹴られた石ころは予想外に何度も跳ねていき――

 とうの昔に残骸となって打ち捨てられたバスにぶつかった。

 

 ……いや、そのように見えたが、違った。

 バスに石がぶつかった瞬間、車体に見えたそれが波紋をさざめかせて揺らめく。

 

 姉妹は顔を見合わせると、すかさず銃を構えた。

 ――熱光学迷彩だ。

 石ころがぶつからなければ、気づかずに前を通ったかもしれない。

 カモフラージュの向こうに敵性が潜んでいたら、背中から撃たれていただろう。

 

 いや――いまこの状態でも、相手の方が数は上かもしれない。

 敵である〔鉄血〕の人形は、より軍事向けの躯体だ。グリフィンの戦術人形が対抗できているのは、部隊として訓練して、チームワークで戦えているからにすぎない。

 それが、たとえ息の合った姉妹であっても、二人きりではなんとも心もとない。

 

「……先に撃っちゃう?」

「いえ――下手に銃声を鳴らしたら、周辺の敵性に気づかれるかも」

 妹の提案に、姉がかぶりを振ってみせる。

 

 二人で息を殺しつつ、バスに潜んだ何者かを睨みつけていたが――

 不意に、何かを叩くような金属音が小さく聞こえた。

 コーンコン・コン。コーンコン・コン。

 

「……モールス信号?」

 姉がつぶやいた。だとしたら“NE”――“Not Enemy"だ。

 

 妹が身をかがめ、足元の石で地面をたたく。

 コツコツ・コツ。コツコツ・コツ。

 “MT”――“Me Too”と伝える。

 

 ややあって――バスの車体に見えていたそれが、地面に近い端から、さも当然のようにめくりあげられた。熱光学迷彩が切られてダークグレーの布に変じる。

 

 ほんのわずかに開いた隙間から、誰かの顔が見えた。

 整った顔立ち、白い肌、赤銅のような艶の長い髪――グリフィンの戦術人形。

 

 姉妹を認めると、その人形がそっと手を突き出した。

 真っ白い手袋をはめた手で、素早く手招きしてみせる。

 

 姉妹は目を合わせてうなずくと、思いがけない遭遇者の許へ駆け寄った。




次回、第2節は明日20:00にアップ予定です。

姉妹が遭遇した人物とは?
指揮官たちの思惑とは?

そして事態打開の活路とは?

お楽しみに!
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