そして姉妹に加わる助っ人とは?
舞台は戦術人形どうしのトライアルマッチへ!
姉妹に立ちはだかる最優のチームはやはり“あの少女”が率いていた――
〔お姉さんと妹ちゃん〕 第3話「天使に願うプレイヤ」、第3節です!
【作者より】
亜麻色の髪の少女、ついに登場です。若干ご機嫌ななめな様子。
「今度のトライアルに、わたしとお姉さんで参加ですか!?」
ミーティングスペースで声をあげるG36cに、
「ええ。三人一組ですから、もう一人探す必要がありますけれど」
G36はうなずいて、携帯端末に基地内フォーラムを映してみせた。
L211基地おなじみの訓練トライアル大会。
単なる競い合いだけでなく、試合の外ではオッズが立てられて賭け金が飛び交うレクリエーションと化している。かなり派手に喧伝され、観客側は人間も人形も、基地のスタッフ全員が盛り上がるイベントである。
一方、トライアルに参加する人形にしてみれば、自分の能力を試す――あるいは見せつける機会とも言える。精鋭と評される第一部隊と第二部隊。彼女たちが認められているのは戦場での働きだけでなく、こういう場でもトップランクを示していることが理由として挙げられる。
そして――トライアルを仕切っているローズ指揮官は、常に大会に
「そんな……急に、言われても――」
「――あなたは、トライアルに出たことがなかったものね」
G36はそう言うと、向かいに座る妹の手を軽く握った。
「だからこそ、やるべきなのよ。第三部隊が〔
青い瞳でじっと覗き込むと、緋色の瞳が逃げるようについと逸らされる。
「……わたしは、別にそこまでしなくても……」
「ご主人様――ローズ指揮官のご意向でも?」
姉の言葉に、妹が大きく目を見開く。
G36は、握っている手に少し力を加えると、うなずいた。
「ええ、ご主人様は、あなたが出場してトライアルで優勝することを望んでおられます――ううん、正確には違いますね。あの方はこうおっしゃいました」
メイドは喉元に手を添えた。
指揮官の音声を合成して、メモリから再生してみせる。
『優勝するだろう、とかではないよ。G36cなら、必ず優勝する。この基地の子の考え方なら、好きなことも嫌いなことも、得意なことも苦手なことも、みんな知っている。そのうえで、敢えて言うよ。出場するなら、必ずあの子がトロフィーを手にする。私は知っているから、断言できるんだ』
その音声を聞いて、G36cの目が大きく見開かれる。
姉は、それを認めて、少し咳払いをすると自分の声に戻って、言った。
「……あなたに、本当に悔しいという気持ちはありませんか? 悔しさでなければ、羨望や嫉妬でも構いません。たとえば〔
「わたしは――あの子ほど、できる人形ではありませんから」
緋色の瞳を揺らして妹が言う。
それに対して、姉はかぶりを振ってみせた。
「できるできないの話なら、スオミは存外不器用な子ですよ。一生懸命ですけど、目の前しか見えなくなる癖がありますし、かなり抜けているところもあります。副隊長のFALも似たところがありますから、わたしがサポートに回るのはいつものことです」
そこまで言って、G36は目を大きく見開いた。
険がなくなった青い眼差しはやわらかく――だが強い光を帯びていた。
「スオミが、何に長けているか分かりますか?」
「……作戦能力ですか?」
「違いますよ――意志の強さ、自分の我を通す強さです」
メイドは肩をすくめて、ふうとため息をついてみせた。
「あの子は好き嫌いをハッキリ口に出しますし、こうと決めたら譲らない頑固さがあるのです。彼女が選ぶ作戦は最適解ではないことも多いのですが、それでもいったん決めたらやり遂げようと皆を引っ張っていきます。結局のところ、〔
姉の言葉に、妹は眉をひそめてみせた。
「それは……お姉さんにとって、ご迷惑ではないのですか?」
「ええ。迷惑ですとも。だけど、放っておけないのも確かなのです――あの子に引っ張られていくと、ついつい熱意に当てられてしまうのですよ」
G36はふっと微笑むと、妹の頭をそっと撫でた。
「あなたが見習うべきは、スオミの我儘さだと思います。認めてほしい、評価してほしい――そう思うなら、目に見える形でアピールしないと。でないと、分かってほしい方には伝わらないものです。想いは、言葉と態度で示さないといけないのよ」
赤ベレーの乙女は黙って聞いていたが……緋色の瞳は、揺れていた。
姉は肩をすくめて、さらに言葉を続けた。
「あの子――スオミがなんだかんだ“
そう言って、姉が黙ってみせる。
しばらくしてから、そっとつぶやくようにG36cは言った。
「わたしに――できるのでしょうか」
「あなたがそう望みさえすれば。ローズ指揮官は人形をからかっても、嘘はつかない人。優勝する、と断言するからには――当のあなたさえ本気になれば、スオミの率いるチームでさえ、打ち負かすことができるでしょう」
姉の言葉に――妹は自分の手に置かれた手をさらに上からかぶせた。
そのまま、すうっと一呼吸してから、こくりとうなずいてみせる。
「やって……みます――お姉さんは、構わないのですか?」
「もちろん。今回の参加枠は部隊の縛りがありませんからね」
そう言って、G36はにやりと笑んでみせる。
「それに一度、スオミとFALのコンビとは矛を交えてみたかったのです。あちらもびっくりするでしょうね……ふふっ」
「――つまり、レクリエーションですか?」
「ええ、レクリエーションですとも」
妹の問いに姉が答える――ささめき笑いをにじませながら。
「……それにしても、あと一人ですか。誰をチームに加えたら――」
G36cが考え込んだところへ、ひょいと声がかけられた。
「――フムン。ご助力つかまつりましょうか、
赤銅の髪。戦列歩兵のような実用性と装飾を兼ねた軍装。
肩から提げた、戦歴を重ねた古強者のごとき年代物のライフル。
「エンフィールドさん……」
G36cは驚いて声をあげたが――
少しの逡巡を置いて、彼女に向かって手を差し出した。
淑女は翠の双眸を細めると、その手を握ってみせた。
「……よろしい。これでメンバーは決まりですね」
三人の乙女は視線を交わすと、そろってうなずいた。
今回のトライアル大会もまた、随分と大がかりだった。
特設の大型訓練場に、本物の資材を持ち込んで市街戦を模したフィールドを構築している。三人一組の簡易チームを組んでの対抗戦。銃弾の弾頭は模擬戦用のものになっているが、単なるペイント弾などではなく、当たれば干渉ジャミングを発生させて人形の動きを阻害するという実に凝ったものだ。
一応は、L211基地だけのレクリエーションということになっている。壁のスクリーンにデカデカと表示されたオッズも、基地のスタッフだけのお楽しみのはずだが――
「――その割には……毎回、お金かかってますよねえ」
亜麻色の髪の少女は眉をひそめながら、控室でうなった。
「あら、なにかご不審な点でもあるの?」
栗色の髪の相方――FALが訊ねると、スオミは腕組みしながら言った。
「いえ、模擬弾自体がどこから出てきた新兵器なの? という感じですから。実際、指揮官って単純な雇用関係以上に、グリフィン本部と繋がりがあるみたいですし。わたし達の試合も実際のところは、ずっと偉い人に見られているのかも――」
やや深刻そうなつぶやきをはじめた少女に、相方はため息をつくと、
「なーに難しいこと考えちゃってるの。やっぱりアレ? 指揮官が大会のしょっぱなにわたし達にコインを賭けてくれなかったのが気がかり?」
そう言って、スオミの頭をぽんぽんと軽くたたいた。
「わぁ! もう、そんなんじゃないです」
言いながらも、少女が頬をぷうとふくらませてみせた。
アイスブルーの眼差しは不機嫌そのもので険しくなっている。
「どうしてあの人ったら、あんなことを――」
大会の開始挨拶で、ローズ指揮官は高らかに宣言したのだ。
G36cのチームにコイン五万枚を賭ける、と。
さらに優勝チームには、「それぞれ何でも望みをかなえてあげる」とも。
大盤振る舞いを通り越して、頭のネジが外れたとしか思えないが――もともとローズ指揮官の変人ぶりは知られているので、みんなお祭りの熱狂に当てられて、気前のいい景気づけぐらいにしか考えていない。
「だけど、あの人のことですから……なにかたくらみがあるに違いないんですよ」
難しい顔をしてみせるスオミに、
「すでに公言されちゃったものを悩んでも仕方ないじゃない。それよりは、ほら――その指揮官ご指名のチームの出番みたいよ」
FALがそう促すと、スオミは控室のモニタに目を向けた。
G36cがポイントマン、G36がバックアップ。後方からエンフィールドのスナイプ。
その戦いぶりを見て――少女が眼光鋭くつぶやいた。
「……手堅い戦い方ですね」
「ちょっと意外。指揮官が肩入れするから、トリッキーな戦い方をするのかと思ったけど」
FALがそう感想を洩らすと、スオミは小さくかぶりを振った。
「以前、指揮官から教わったことがあります……チェスで最強の布陣とは、ゲーム開始時のそれだって。あの構えをそのまま押し立てていければ、負けることはないと」
「また、あの人らしい無茶な言い振りね」
「でも、G36cは少人数でその再現に成功しているように見えます」
スオミの眼差しがモニタの中の彼女たちに向けられる。
見事な連携プレーだった。お手本通りに見えて、実は細かなタイミングのズレをわざと作って相手側の対応を迷わせている。ポイントマンとリーダーを務めるG36cが自らサーチ役を担うことで、後から続くメンバーの配置を効果的にしているのだ。大胆に突撃しつつ、相手の隙をみて巧みに切り崩していく手際は、とても急造チームとは思えない。
だが――それを見つめる少女の顔は静寂そのものだった。
雪山の奥深くにひっそりと在る湖のごとく。
鏡のように静かな湖面は、どこか硬質さと冷たさを感じさせる。
そんな相方の様子を見て、FALがにんまりと笑んでみせた。
「……ふふっ、対策はもう準備済みってわけ?」
「対策というほどでもありません。単純な手ですけど、だから利くでしょう」
「――なら、聞かせてもらおうじゃない、リーダーさん?」
じっとモニタを見守っていた三人目のメンバーが声をあげた。
艶やかな長い黒髪、ツンとつりあがった目元。
黒を基調にした衣服に、胸元に映える赤いネクタイ。
そして手にしたライフルは意欲的な独特のデザインをしていた。
「隊長権限をいいことにいつも無茶振りしてくる、あの紅茶マニアにはいっぺん痛いのを食らわせたいんだから」
彼女の言葉に、スオミはうなずくと、そっと手を差し出す。
「作戦を説明します――プライベートデータリンクを」
戦乙女の呼びかけに、仲間たちは次々と彼女の手に触れた。
『ンンン、さーあ、決勝戦! いよいよラストバウトだ!』
ローズ指揮官の飄々としたアナウンスが流れる。
『まずはチームブルー。王者の貫禄、〔
そこまで言って、ひと呼吸置いてからロロはさらに声をあげる。
『そして、チームレッドだ。みんなまさかと思っていたろうが、私は当然だと思っていたよ? ここまで勝ち上がってきたのは、第三部隊のリーダーをいつも務めるG36c。そして、彼女に助力するベテラン二名だ!』
ロロのアナウンスに歓声が沸き上がる。
それがひとしきり落ち着いたところで、ロロは言った。
『彼女の部隊については〔
声高らかに、指揮官が宣言する。
『いま決勝戦に挑む彼女へ……私から正式な部隊名をプレゼントしよう。今後はどんな編成であれ、このロゼ・ローズの指揮下では、これが彼女の率いる部隊の正式名だ――』
彼女の言葉に、観客たちがしいんと静まり返る。
そこへ、ロロの声が響き渡った。
『――その名は〔正しき資質〕……“ライトスタッフ”だ!』
どよめく観客たち――基地のスタッフたちに、ロロは語りかけた。
『並外れた勇敢さとか、優れた作戦能力でもない――彼女が率いる部隊は、その時その場面において、戦う相手にとって最適の対応ができるメンバーとなる。だからこそ、部隊は固定化しない。その時に応じて、最もふさわしい技量を持った隊員で形作られ――だからこそ第三部隊のリーダーには、単なる強さを超えたものが求められる。それを果たせる戦術人形は……この基地でG36c、彼女しかいない』
基地のスタッフ達から、どよめきがさらに沸いてくる。
それを制するかのように、指揮官は最後のひと押しの声をあげた。
『まだ疑う者がいるだろう。あやぶむ者がいるだろう――でもね、私は人形について嘘はつかないし、過大評価もしない。私は、知っていることをそのまま話しているだけサ。あとは――赤ベレーの彼女が証明してくれるだろう……』
そこまで言うと、ロロはにやりと笑んで最後に叫んだ。
『……さあ、試合開始まで十分足らず! 投票をやり直すなら急ぎたまえ!』
けしかけるような呼びかけに、観客が一斉に沸き返った。
試合フィールドへ向かう通路で――
G36cは口を押さえて立ちつくしていた。
肩がかすかに震え、目には涙を潤ませている。
彼女の耳にも、ローズ指揮官のアナウンスは聞こえていた。
そして、それに続く歓声も。
半分は相手チームを応援する声。
だが、もう半分は自分を呼ぶ声、自分の部隊名を呼ぶ声だ。
思わず涙が溢れそうになった時――力強く、肩を叩かれた。
目に入ったのは、フリルのついたヘッドドレスと冴え冴えした金髪。
「これからです――あなたは実力を証明しなくてはいけません」
姉の青い瞳が、優しげに、だが強い光をたたえている。
「ご主人様があそこまで言ったのよ。恥をかかせてはだめ」
その言葉に……G36cは天を仰いで、大きく一呼吸した。
ひとつまばたきをして、正面を向き直る。
その瞳にもう涙は溢れていない。
代わりに闘志の光がたぎっている。
「――行きましょう。〔
「『勝てると思えば勝てる。勝利には信念が必要』というところですね」
背後でエンフィールドがそっとつぶやく。
G36cは自らに従う二人に向かってうなずくと、声高らかに叫んだ。
「
次回第4節は明日20:00更新よていです!
ついに始まったトライアルマッチ決勝戦!
手堅い陣形で勝ち抜いてきたG36cのチームレッド。
スオミ率いるチームブルーは意外な方法で迎え撃つ!
はたして勝利の行方は?
チャンピオンがロロに願ったささやかな望みとは?
次回、クライマックス! お楽しみに!