お姉さんと妹ちゃん   作:Tico Ruzel

13 / 20
作戦任務が終わり、
ひとときグリフィン基地に潜むことになった404小隊。

ところが手配の都合で416とG11は、
UMP姉妹とは別の基地に身を寄せることになり……?

お姉さん役を期待され、やむなくG11の世話係に
なってしまった416の明日はどっちだ!?


【作者から】
姉妹じゃないけど、疑似姉妹ということで416とG11のペアのお話です。
ある意味メーカーは同じですから親戚筋ではございますね。



ep.4 姉妹ならぬ絆のラーヴェ Ch.1

「それじゃ、可愛い妹の面倒は頼んだわよ。お姉さん?」

 

 隊長のUMP45から言われて――

 ある程度予想していたとはいえ、わたしは反論した。

「ちょ、冗談じゃないわ! 別にこいつと姉妹じゃないし!」

 

 気色ばむわたしに向かって、隊長の隣のUMP9がにこやかに言う。

「だめだよー、416? そんなこと言っちゃ。404小隊は家族なんだから」

 表情は穏やかな笑みだったけど、彼女の目は完全に据わっていた。

「家族だから、親子であり、姉妹なんだよ。だからお願い、ね?」

 

「だけど……」

 わたしがまだ承服しかねていると、UMP45がため息をついた。

「仕方ないでしょう。〔止まり木(パーチ)〕が今回は二つに分かれたんだから。いざということを考えたらツーマンセルの行動が望ましいし、それを考えたら――」

 UMP45の胡乱な視線が、わたしの背中の彼女に向けられる。

「――あなたと一緒にいるべきなのは、G11だと思うけど?」

 

 グウの音も出ない。

 わたしが無言のまま険しい顔をしていると、

「えへへ、416といっしょだぁ……」

 ずいぶんぼやけた声で、背中におぶっているG11が言った。

 

 そのまま寝息が聞こえるので、たぶん寝言。間違いなく寝言。

 とはいえ起きていても、こいつが言うことは変わらない気がする。

 

 それでも、主張せずにはいられない。

「姉代わりとしても、こいつの面倒を見る義務なんて――」

 

「――あら、お母さんと呼んであげたほうがよかった?」

 UMP45がうっすら笑いながら言う。

 

 口の端はつりあがっていても、目は笑っていない。

 これ以上つべこべいうと、拳にモノを言わすぞという顔だ。

 そして、彼女に限っては単なる振りでこんな表情はしない。

 

 わたしはため息をつくと、言った。

「わかった、わかったわよ……まかされましたっ」

 ヤケ気味に承諾の言葉を吐き出すと、隊長は満足げにうなずいた。

 

「よろしい。じゃあ。わたし達の〔止まり木(パーチ)〕は東の方だから――くれぐれも演技がバレないようにね。表向きは、行動中に迷子になって保護を求めるグリフィンの戦術人形……でも本当は戦場を飛び巡る渡鴉(ラーヴェ)――それがわたし達よ。いいかしら?」

 

 念押ししてくる彼女に、わたしはフンと鼻を鳴らした。

「当たり前でしょ。わたしは完璧なんだから」

 

 その言葉に、返事はなかった。

 UMP45が軽く手を振りながら踵を変えて歩き出す。

 そのすぐ隣にUMP9が連れ添って歩く。

 もともと顔立ちも似ている姉妹だが、後ろ姿は瓜二つだ。

 

「さて――と」

 わたしは背中のG11がずり落ちないように、再度おぶりなおした。

 

 軽く揺すられて、この寝汚い相方がつぶやく。

「んあー……416はわたしがいないとダメなんだぁ――」

 それはこっちの台詞よ。

 

 思わず舌打ちして、不承不承、〔止まり木(パーチ)〕の方へ歩き出すと。

 ――なにやら首元にぬるっとした感触があった。

 

「まさか……」

 顔をひきつらせながら、なんとか右手を伸ばして探ってみる。

 戻してみた手には、ねっとりと人形の湿潤液……つまり、よだれだ。

 

「ああああ、このバカぁ!」

 

 声をあげても、この寝ぼすけが起きるはずもなく。

 わたしは泣く泣く、襟元の不快感に耐えながら――

 仮のねぐらとなったグリフィン基地を目指して歩いた。

 


 

「ねえねえ、知ってる? 人形の幽霊の噂!」

「えーっ、なんですソレ。人形が化けて出るわけないですよ」

「それがさ、いるらしいんだよ……誰からも認識されない人形が」

「ほ、ホントですかー?」

 

 食堂の一画できゃいきゃいと黄色い声が上がっている。

 怪談話というには、いささか明るい雰囲気であった。

 

「いつの間にか員数外の人形がまぎれこんでいてさ……さも実在しているように振舞うんだけど、いつの間にかいなくなっちゃうの。基地の帳簿も在籍データも矛盾はないし、誰も覚えていないんだけど――」

 

 話し始めた人形が、そっと声をひそめる。

「みんなで話していて、『あれ? こないだの任務ではもう一人いなかったけ?』とか、『このマグカップ、あの子のお気に入り……あの子って誰だっけ?』とかなってさ。いるはずがないのに、たしかに誰かいた感じはあって――まるでいつの間にか紛れ込んでいて、素知らぬ顔ですぐ隣にいたりして――」

 

 続けられる胡乱な話に、聞いてた人形がついつい身を乗り出していると。

 その後ろから「わあっ!」と別の子が声をあげて、くだんの子が仰天する。

 不満げな文句とくすくす笑いがまざりあって、結局かしましい騒ぎになっていた。

 

 そんな様子を横目でにらみながら、416は肩をすくめた。

「……グリフィンの基地ってホントに呑気よね」

 

 不機嫌にささやくと、隣から眠そうな声が応じた。

「仕方ないじゃん。グリフィンって、人形にしたらホワイト企業だし」

 G11がもそもそとパンを齧りながらしゃべっている。

「うん、ここもご飯は美味しいね」

 

「……こぼすんじゃないわよ、みっともない」

 相方のお粗末な食事作法にため息をつきながら、416はテーブルを手で払った。

 

 グリフィンは民間軍事会社であり、戦術人形はつまるところ傭兵だ。

 ただ、人間と異なるところは、バックアップさえ取れれば蘇生可能だということだ。つまり命の替えが効くというところである。むろんバックアップも完全ではなく、数日間巻き戻ることもあるが、それも慣れればどうということはない。戦闘で痛い思いや苦しい思いをするかもしれないが、辛い体験でもメモリのデフラグやクリーンアップで整理することも可能だ。

 

 そのあたりを割り切れば、衣食住がしっかりついて、お給料もなかなか良いグリフィンという職場は、人形にとってみればキツイ仕事ではあっても悪い場所ではない。そのうえ、彼女達を使う指揮官は基本的に人形のケアには気を使える人材であることが条件だ。民生用人形なら一般市民からすげなく扱われることがしばしばでも、グリフィンであればそれなりに大事にしてもらえる。

 

 それどころか指揮官と良い仲になれば、〔誓約〕を交わして自然人のパートナーとなる目もある。会社を退いたグリフィンの指揮官が、退職金をパートナーの人形の身請け代――市民権獲得の資産に充てて、幸せなカップルとして一般社会で暮らしていくというシンデレラストーリーはしばしば囁かれるところだ。いささか誇張されて伝わっているが、例がないわけもない。

 

戦術人形の全部が全部、チーズケーキみたいな思考回路というわけではないが……

割とそれなりの数、“楽をしたい”人形もいるのが現状だ。

 

「――だから気に食わないのよ」

 416は顔をしかめながら、スープを飲んだ。

 それなりに美味しいはずなのだが、〔止まり木(パーチ)〕に来るとどうも居心地が悪い。

 

「またそんな顔してる……」

 横からG11がぼそぼそと低い声で言った。

「いいじゃん、休める時は休んでおけばさ」

 

「あなたはいいわよね、存分に眠れるんだから」

 相方の呑気な言葉に、つい棘のある返事をしてしまう。

 

 待機場所に決まったグリフィン基地にいるといつもこうだ。

 気に食わない、と思うのだ――当の幽霊の身からすれば。

 ここの連中が実に呑気に戦争ごっこなどをやっていることが。

 

 ゴースト。ファントム。あるいは“存在しない部隊”。

 416もG11も、先だって行動を別にしたUMP姉妹も、その幽霊部隊の一員なのだ。

 


 

 コードネーム「404小隊」。冠されるコールは“Not Found”。

 

 グリフィンの戦術人形の振りをしながら、しかし、命令系統は指揮官でもグリフィン本部でもない。もっと深くて暗いところから、自分たちの雇い主は指示を出してくる。それでいて、自分たちの存在はグリフィンの中枢も黙認しているのだ。

 

 非合法部隊。隠密部隊。ウェットワーク(汚れ仕事)の専門家。

 

 通常のグリフィンの人形なら倫理規定によって、人間――自然人の命を故意に危険にさらすことはできない。だが、404小隊なら簡単だ。必要とあれば、そいつの頭に銃口を突きつけて、銃爪を引くだけ。実に他愛もなくやれる。

 

 もちろん、こんな人形は違法もいいところだ。

 バレれば即座に身柄を確保され、解体されるだろう。

 

 だが、自分たちの存在は秘匿されている。こうして作戦任務外でグリフィンの基地にしれっと紛れ込んでいても、出ていく段になれば、基地の記録や人形のメモリから自然な形で消去され、自分たちがいた事実は消え去る。ただ、わずかな物理的な痕跡やメモリの欠片から微妙な違和感をおぼえる者もいるだろう。

 

 それが都市伝説じみて、グリフィン内部でひそやかに語られているのだ。

 あるいは怪談のように。あるいは夢語りのように。

 

 だが――実際はそんなにロマンティックなものではない。

 

 基地の記録を消去するということは、つまりバックアップが取れないのだ。

 404小隊の各メンバーが持っている命は、ひとつきり。

 そして下される任務は、危険で面倒な特殊任務ばかり。

 

 生き残るためには卑怯な手は当たり前だし、誰に情けもかけない。

 そういう“本来の傭兵”なのだ――404小隊というのは。

 

 なればこそ、シリアスでシビア、そしてパーフェクトであるべき。

 常々、416はそう思っているのだが――

 

「ふわああ……ご飯食べたら眠くなっちゃった……」

 隣で呑気な声があがったかと思ったら、バタと音がした。

 案の定、G11がパンとコップを手にしたまま、テーブルにつっぷしている。

 

「ちょ、あなた、こんなところで寝ないでよ――!」

 あわてて声をかけるが、当の相方はとっくに微睡みの向こう側だ。

「ああ、もう、本当にこいつは……!」

 

 ここで寝かすわけにはいかないが、かといって食事も放置するわけにはいかない。どうしたものかと、416が束の間迷ったところへ、

 

「――ここは片づけておきましょう。ご友人をベッドまでお連れなさい」

 湖面がさざめくような、穏やかな声がかけられた。

 視界に入ったのは、赤銅の髪と翠の双眸。

 

 この基地の戦術人形? 誰だろうか――

 416がネットワークを検索しようと思った矢先、

 

「ほら、ここはおまかせください。ご遠慮なさらずに」

 何か言う暇を与えず、彼女はてきぱきとテーブルを片づけ始めた。

 

「……どうも」

 厚意をむげにもできないだろう。

 そう考えた416は、軽く頭を下げると相方を背負って宿舎へと向かった。

 ――お節介な人形に、どことなく違和感をおぼえながらであったが。




次回第2節は明日20時に更新予定です!

退屈ながら平穏なはずの〔止まり木〕の日々。
ところがG11の振る舞いがなにやらおかしくて……?

怠惰なはずの相方のまさかの行動に疑念を持つ416だが……

どうぞお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。