お姉さんと妹ちゃん   作:Tico Ruzel

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G11の行動をいぶかしむ416。
相方と射撃訓練場へと向かう最中に出くわした、
この基地の指揮官の言動から、ますます疑念が強まるのだが……?

【作者から】
416お姉ちゃん、気の休まる時がありません。



ep.4 姉妹ならぬ絆のラーヴェ Ch.3

「ふわあ……眠い~」

「あなた、どれだけ眠れば気が済むのよ……」

 

 基地の通路を、416とG11は連れだって歩いていた。

 正確には、前を歩くのが416。

 彼女に手を引かれて渋々ついていくのがG11だ。

 

「こんなに待機ばかりじゃ、勘が鈍るわ。訓練ぐらいしないと」

「えー、ヤダァ」

 ぶうたれるG11に、416が振り返って冷たい視線を向ける。

 棘だらけの視線でにらまれて、相方はげんなりした顔をしてみせた。

 

 二人が向かっているのは射撃訓練場である。

 偽装の効果なのか、二人は再配属待ちの基地預かりという待遇のままであった。なにか仕事を振られて、それで暇をつぶすなり、緊張感を保つなりできるかと思ったのだが――実際は閑居する日々であった。不善を為すというならG11はこれ幸いと眠りっぱなしであって、416は所在なげに基地をうろついては無為の時間を過ごしていた。

 

 エンフィールドが射撃訓練に誘ってくれたのは、もっけの幸いだった。

 人形の射撃性能が劣化するということはまずないのだが――

 メンタルモデル的には、訓練できるならやっておきたいところなのだ。

 

 少なくとも416としては、完璧を目指す以上、刃は研いでおきたい。

 

「ほら、ぐずぐず言わずに、さっさと歩く!」

「え~~~」

 

 手を引いて歩くというより、ずるずる引きずるていであったところへ、

「――おや、二人で仲良くどこへ行くんだ?」

 ずしりと低い声がかけられた。

 

 視界に入るのは黒と臙脂の制服を着こんだ、隆々とした男であった。

 胸板は厚く、腕は丸太のように太い。髪は短く刈り込んでいる。

 だが、顔つきは神父か牧師のように福々しく、穏やかであった。

 

 彼に向って、416はすかさず敬礼してみせた。

 ――相方に肘でつつかれて、G11がのそのそと続く。

 

「リーゼ指揮官、お世話になっています」

 416がきびきびとあいさつすると、彼はうなずいてみせた。

 

「いやいや、いいんだよ。指揮系統を離れてしまって、元の部隊もわからないのでは大変だろう。娯楽は少ないだろうが、ゆっくりしてくれたまえ。じきにグリフィン本部から再編成の指示がくるだろうから……」

 

「あの――指揮官? 遠慮などなさいませんように。退避組とはいえ、戦術人形である以上、基地のお役に立つべきですから」

 凛とした声で416が言ってみせると、その隣で、

「……えー、ラクできるなら別にいいじゃん」

 ぼそぼそした声でG11が言うのに、416は無言で足を踏んで黙らせた。

 

「ああ、いいんだよ。待機中に本来の所属が分かるかもしれないし、それまでに諸君に何かあったら困るからね――それはそうと、最初の質問に答えてもらっていないね?」

 

 穏やかな笑みを浮かべて訊ねる巨漢に、416はきびきびと答えた。

「はい、寝てばかりもいられませんから、銃の訓練を」

 

「熱心だね、自分を磨くのはいいことだ――まあ、怪我には気をつけなさい」

 指揮官はそう言うと、敬礼をして二人のそばを通り過ぎようとして――

 

「……じゃあ、またな」

 軽くそう言うと、G11の頭をそっと撫でていった。

 

 そんな彼の後ろ姿を見送って、416はぽつりとつぶやいた。

「なんか……見た目はすごく男らしいのに、なんかなよっとしてるのよね」

 

 彼女の疑問に答えたのは相方である。

「軍の出身らしいよ。第一線の戦闘部隊じゃなくて、治安活動で活躍していたみたい。ただ、軍がそっち方面をグリフィンにアウトソーシングしだしたから、転職を決めたんだってさ」

 

「……なんでそんな詳しいのよ……」

「食堂で皆の話聞いてると、ちょいちょい耳に入ってくるよ」

 G11が上目遣いで見上げてくる。

 

 鉄錆色の瞳が、とがめるような視線を投げかけてきた。

「――隊長がいないからって、気を抜いていない? アンテナは張らないとさ」

 ぼそっと言ってみせる相方の言葉。

 

 416はにんまり笑むと、平手でぱかんとG11の頭をたたいた。

「あだっ」

「えらそうなこと言うなぁ! 一日中寝ている子が何を言うのよ!」

 

「たたくことないじゃない……」

 G11は口をとがらせながら、かぶっていた帽子を直した。

「せっかく指揮官が撫でてくれたのにさ――」

 

「……そういえば、去り際の『またな』ってなにかしらね……」

「別に不思議なことじゃないでしょ」

 相方は眠そうな声で416の疑問に答えてみせた。

 

「同じ基地だから、また会うのは当たり前じゃん」

「それも……そうよね」

 かぶりを振りながら、416は同意してみせた。

 

 ふと湧き上がってきた疑念を振り払うと、声をあげた。

「ほら、しゃんと歩く! 訓練場に着くなりへばるんじゃないわよ?」

「……はいはい……わかったよ、もう」

 相方の返事を聞いて、416は再び手を引きながら歩きだした。

 

 歩きながら――

 認識領域の片隅に、先ほどの指揮官の仕草がしつこく残っていた、

 何度繰り返し見ても、G11の頭を撫でる時の指使いが気になる。

 

 それは妙になまめかしく、どこか気色わるいものに見えたのだ。

 


 

『こちらソルト。こちらソルト。ビネガー、聞こえますか?』

「こちらビネガー、よく聞こえますよ」

 

『……このコールサイン、ちょっとアレじゃないですか?』

「ポテトやコッドでは嫌だと言ったのは貴女でしょう」

 

『いいです。本題に入ります――隊長がデータを送ったブツですが』

「さすが、仕事が早い。クロだったでしょう?」

『ええ、ケミカル系の……グリフィンでもあるんですね、こういうの』

 

「めずらしいことではありません。ウチが清潔すぎるんです」

『……ある意味でお嬢様学校並みですからね』

「学園長がそれはもう気を使っていますから」

 

『――それで? 正面から堂々押し入りますか?』

「ほぉ。なかなかいい考えですね」

『……お気に召しませんか?』

 

「可能なら穏便に済ませたいところです。その意味では、いまここはイレギュラーを抱え込んでいますからね。彼女達にちょっとだけ手伝っていただきましょう」

 

『あ……悪いことを考えている声だ』

「英国人のパーソナリティを受け継いでいますからね、仕方ありません」

『……それは、わたしも同じはずですが、隊長ほど曲がっていません』

 

「あの方の薫陶によるものですね。早くこちらへおいでなさい」

『またの機会にしておきます――ひとまずは、どんな準備を?』

 

「正式なワラントを入手してください。あとはこちらでやります」

『大丈夫なんですか? そのイレギュラーとやら』

 

「読みが確かなら、彼女たちはこの手の事案は慣れっこのはずですよ」

 

『……いったい、何者なんです?』

「“悪戯妖精が化かされた事件(Case Tricked Gremlins)”は聞いたことあるでしょう?」

『それじゃ、まさか――』

「おっとそこまで。見えないものは、見ないことにするのが吉です」

 


 

 射撃訓練も食事も終えて、416とG11は宿舎に戻っていた。

 

 ライフル部隊の隊長だけあって、エンフィールドの腕前はなかなかのものだった。ほぼ一週間ぶりに銃を撃ってみて、自分たちの感覚が鈍っていないのを確認できたのも安心できる要素だった。 

 

そのあと、くだんの淑女が食事に誘ってくれたのも、ありがたかった。

 ただ、ひょんなことから「手料理でも作りましょうか」と先方が言い出し、メニューを聞いてみたところ「ウナギのゼリー寄せに、マッシュポテトがいいですかね」などと言い出し、丁重に遠慮するのには随分と苦労したのだが。

 

 ベッドに倒れ込んで、うつぶせで横になりながら、

「はあ――いつまで続くんだろ、この生活」

 

 ついぼやきが出てしまう416に向かって、G11が眠そうな声で答えた。

「だから休養してればいいじゃん――任務になったらまたツライんだし」

 そそくさと寝間着に着替えながら、大あくびをしてみせる始末。

 

「ふわあ……ねむ……寝るねー」

「宣言しなくても見りゃわかるわよ」

 

 鼻を鳴らしていったんはそう応じた416だったが、ややあって、

「――ねえ、まだ起きている?」

 

「寝てる」

「起きてるじゃないの」

「……なあに?」

「あなた、夜にいったい何をしてるのよ」

「ああ……食堂へ適当に漁りに――」

「……それだけ?」

「なんかサイクルずれてるっぽい――もう寝かせてよ」

 言うや、G11がすうすうと寝息を立て始める。

 

 416はしばらく相方の顔を見つめていたが、

「なら、いいんだけどさ……」

 ため息をついて、毛布をかぶると相方に背中を向けた。

 

 ――躯体をクールダウンさせる呼吸の音がなくなり。

 サスペンドモードになって寝返りも打たなくなり。

 二人きりの宿舎には、しいんとした静けさが満ちた。

 

 閑寂とした時間が流れて、どのくらい経ったのか――

 

 

 不意に、片方がそろそろと身を起こした。

 

 ぼさぼさした灰色の髪を手櫛で整える。

 別のベッドで寝ている銀髪の相方をしばし見つめた後。

 こくりとうなずくと、赤錆色の目をこすりながら――

 

少女は、昨夜と同じように、寝間着にスリッパだけの姿で宿舎を出た。

 


 

 そして。

 

 相方の一部始終を、世話役を自ら任じている彼女は、見ていた。

 

 毛布の隙間から小型カメラを覗かせて、自分の視界に接続しておいたのだ。

 がばと跳ね起きると、携帯端末を取り出して位置シグナルを確認する。

 

 基地の見取り図は入手していたが――食堂へ行くには方向がおかしい。

「……あのバカ、まさか本当に変なことを――ッ」

 舌打ちと同時に、いまいましげにつぶやいて、宿舎の扉へ向かう。

 

 変なこととは何なのか。予測はできるが、416は敢えて考えないようにした。

 もし“本当にそうなら”、これからあいつをどんな目で見ればいいのか。

 

「頼むわよ、本当に、もう……」

 銀髪をかきあげると、キッと表情を引き締め――

 携帯端末を片手に、彼女は相方の後を追って歩き出した。




次回、第4節は明日20時に更新予定です!

G11と指揮官の密会の場を目の当たりにしてしまった416。
思わぬ事態に戸惑う彼女の前に現れたのは、まさかの――?

はたして姉妹ならぬ二人の仲は無事に済むのか?

どうぞお楽しみに!
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