お姉さんと妹ちゃん   作:Tico Ruzel

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激戦地跡に着いたモシンナガン達。
そこで見せたリー・エンフィールドのなんとも奇異な行動とは。
そして二人は行方不明のウシャンカの少女の足取りをつかむが……?

【作者より】
戦術人形ってどこで生き死にの線引きをするんでしょうね。


ep.5 少女達のノーマンズランド Ch.3

「――あらためて見ると、ひどい有様だわ」

「さながら硝煙弾雨の土砂降りという具合ですね」

 “グラウンド・ゼロ”にたどり着いた二人は、そうつぶやいた。

 

 激戦の跡は惨憺たるものだった。

 無数に転がる〔鉄血〕の人形と戦闘機械。

 その中にかすかに見える鮮やかな色彩の服の残骸――

 

 グリフィンの、戦術人形だ。

 

「――――ッ」

 モシンナガンは思わず唇を噛んだ。

 

 不安になって見渡すが、とりあえず視界に白の色彩はない。

 姉とおそろいの白いウシャンカとコートが、妹の色だ。

 

「……わたしは先に自分の用事を済ませます。貴女は先に妹御の捜索を」

 エンフィールドはそう言うと、乙女の肩にぽんと手を載せた。

 

「気を強く持たれることです。躯体の停止シグナルが来ていないなら、まだ生きている可能性がある。そう思ったから、ここまで来たのでしょう?」

 淑女の言葉に、モシンナガンはうなずいた。

 

 お互いに二手に分かれて、それぞれの探し物を始める。

 夜明け前から早朝にかけて行われた戦闘を、再度メモリから再生してみた。

 

 認識領域に投影された記憶は混乱と騒音に満ちている。

 感情パラメータがネガティブに跳ねそうなのをこらえつつ――

 妹をどこで見失ったか、トレース解析を始める。

 

 メモリを再生して、認識領域に不意に鋼の巨獣の姿が投影された。四本脚のマンティコア。〔鉄血〕の中でも大物の歩行戦車だ。こいつが五体、一挙になだれ込んできて、こちら側の防衛陣形が突破されたのだ。

 

 そして、再生した視界の隅で――白いウシャンカの少女を見つけた。

『こっちじゃ、このデカブツ! かかってこんか!』

 かすかに拾っていた音声を確認して、思わずため息が出てしまう。

 

 妹は銃を景気よく撃ちながら、歩行戦車を挑発していた。

 狙いは――姉であるモシンナガンから遠ざけるため。

 

「いっつも変な敢闘精神を発揮するんだから……」

 思わずぼやきが出るが、妹の習い性だから仕方がない。

 

 ――ともかくは、マンティコアが手がかりだ。

 案外、下敷きになって伸びているかもしれない。

 そう考えて、歩行戦車を目印に捜し始めた。

 

 鋼の巨獣はいずれも擱座して地面にへたり込んでいる。

 その中の一体に――モシンナガンは妙な違和感をおぼえた。

 

 弾痕で穴だらけだが、さらに至近での爆発で大きく損なわれている。

 だが、グリフィンの人形が使う武器にしては、やけに威力が大きい。

 気になって当の歩行戦車を調べてみると――

 

「――あっ」

 乙女は声をあげて、それを拾いあげた。

 銀縁の刺繍がついた黒いリボン。妹のウシャンカについていたものだ。

 

「……じゃあ、あの子はどこなの?」

 モシンナガンはあたりを見回したが、あの小柄な躯体は転がっていない。

 

 代わりに見つけたのは、やけに大ぶりな榴弾発射装置。

 黒光りする仰々しい武装は、やはりグリフィンが使うものではない。

 

「〔鉄血〕の……エリートタイプがいたの?」

 しかし、武装がパージしてあるものの、本体はどこなのか。

 

 モシンナガンが眉をひそめて、不可解な状況を考えていると――

『――エンフィールドです。そちらはいかがですか?』

 同行してきた淑女から、不意に通信が入ってきた。

 

「ああ、うん。手がかりらしいものは見つけたんだけど……」

『フムン。どうも一筋縄ではいかないようですね』

 まるでこちらの思考パルスを読んだかのような言葉。

 

『お手伝いしたいところですが――その前に、こちらの用事に少しご助力願えませんか? なに、ちょっと人手がほしいところで』

「わかったわ……いまそっちに行く」

 淑女の頼みに、ウシャンカの乙女はうなずいてみせた。

 


 

 モシンナガンが駆けつけてみると――その目に入ったのは。

 

「……むごいわね……」

 

 思わず、そう言葉が出てしまう。

 奮戦の挙句、敵の銃弾でさんざんに撃たれただろう戦術人形。武装は見当たらないが、砕けたシールド装甲からして散弾銃型だろうか。四肢は完全に砕け、顔面の疑似生体は一部削がれて乳白色の硬化セラミックの頭蓋がかすかに見えている。胴の躯体も大きく損なわれ、制御コアが生きているかも怪しい。

 

 どうみても死亡判定の戦術人形。本来なら、戦死シグナルを発信して、バックアップ躯体での復帰にはいるところだ。

 

 だが――エンフィールドは、背嚢から取り出したらしいバッテリーを人形の残骸に繋いでいた。バッテリーの反応から、細々ながら電力供給が行われているようだった。

「な……なにやってるの――その子、死んでるんでしょう?」

 モシンナガンがおっかなびっくり訊ねると、淑女はかぶりを振った。

 

「人形に本来の意味で死というものはありません。彼女は、まだここにいます。それを連れ帰るのが、ここに来た理由でもあります」

 エンフィールドの翠の双眸が、凛として煌めいていた。

 

 彼女が、斃れた人形をそっと抱き起こしてみせる。

 頚椎に当たる部分を見せながら、モシンナガンに言った。

 

「少し気分が悪いかもしれませんが、このような態勢で彼女を保持してほしいのです。わたしは彼女への呼びかけと、サルベージを行いますので」

 

「な……何をするの?」

「説明は後で。さあ、頼みます」

 淑女に促されて、モシンナガンは渋々応じた。エンフィールドに変わって、人形――というよりはむしろ残骸――を抱きかかえる。それを見て、淑女がうなずいた。

「グッド。そのまま保持を願います」

 

 そう言うと、淑女は手早く背嚢に詰まった機器から二本のケーブルを取りだした。一本は倒れた人形の頚椎から接続プラグに接続し、もう一本は自分自身の頚椎のそれに繋ぐ。 モシンナガンが目を丸くして見守る中――

 

 淑女は倒れた人形の頭蓋をそっと撫でながら、語りかけるように口を開いた。

「……わたしが見えますか? ああ、泣かないように。よく我慢していましたね。事前のブリーフィングでローズ指揮官が言っておられたでしょう? 『エインヘリャルたることを私は許さない。必ずきみ達を連れ帰る』と……そうです、わたしが迎えですよ……ご心配なく、お小言も労いもちゃんとあの人はくださいます……はい、他のメンバーも手分けして回収に行ってます。心配せずに……」

 

そこまで言うと、淑女がすっと目を細めた。

 

「……段取りは分かってますね? はい……そのままガイドに従って――少し窮屈かもしれませんが、そこは辛抱してください……では、始めましょうか」

 

 エンフィールドが語り終えた途端――人形の残骸がかすかに震えた。

 直後に、背嚢の危機から規則正しいリズムの信号音が流れだした。

 

「フムン――これでひと安心です。あとは転送が済むまで見守るだけですね……ありがとうございます、作業が完了するまで彼女をこちらで預かります」

 そう言って、エンフィールドが人形の骸を受け取った。

 

 一連のやりとりを見て、モシンナガンが目を丸くしていた。

「な……この子、“死んだまま”戦場に転がっていたの?」

 

「不思議なことではありません。基地から強制停止パルスを撃ち込まれない限り、人形のマインドマップは保存されているものです――ただ、L211の指揮官の方針で、死亡判定であっても人形のメモリは必ず帰還させることになっています」

 

「……そんな非効率なこと、何のために……」

「意味がない、とお思いかもしれませんね」

 エンフィールドはうなずいてみせた。

 

「ただ、ローズ指揮官は人形が死に瀕したメモリを特に重要視されているのです。メンタルモデル的にはよくない影響しかもたらさないように思えますが――」

 淑女の翠の双眸が、ウシャンカの乙女をじっと見つめた。

「いわく、『死に対する恐れこそが、真に人形をその枠から超えさせる』と」

 

「……あなたのところの指揮官、変な信仰でもあるの?」

「さてはて。いまだに推し量れないところがありますからね、あの方は」

 

 そこまで言って、エンフィールドは軽くかぶりを振った。

「それはさておき。妹御の手掛かりらしいものは?」

 淑女に促されて、モシンナガンは携帯端末を取り出してみせた。

 

 記録したいくつかの画像を見せながら、眉を曇らせた。

「確かにここにいたみたいなんだけど――」

「フムン。確かに妙ですね。遺棄された〔鉄血〕の武装――おや?」

 

 携帯端末を見ながら、エンフィールドは画面の一点を指さした。

「ここ、拡大できますか?」

 言われてモシンナガンは端末を操作した。

 そこに映ったものを見て、はっと息を呑む。

 

「……足跡だわ……」

「ええ。戦場の荒れ具合で目につきにくいですが、小柄な人型がここから北西の方角へ歩いているように見えますね」

 

「北西――そうか、物資集積所!」

 ウシャンカの乙女の言葉に、淑女はうなずいてみせた。

 

「おそらく補給や修理の必要があって、そこへ向かっているのでしょう。自力で歩けるということはそんなにひどい状況でもないということです」

 

 エンフィールドにそう言われて、モシンナガンは思わずへたり込んだ。

「もう……じっと待っていてくれればいいのに」

 

「そうはいかない理由があったのでしょう――ところで、その足跡を解析にかけて頂けますか。そうですね、歩行速度や推定体重など」

 淑女に言われて、モシンナガンは端末を操作した。

「うそ……なんでこんな推定体重が出てるの?」

 示された解析結果に、ウシャンカの乙女は目を丸くした。

 

「はい、重すぎます。あなたの妹御だけでしたら、これだけにはなりません」

 淑女の翠の双眸が、緊張をはらんで光った。

 

「あなたの妹御は誰か、あるいは何かを連れています――動けなくなったグリフィンの人形と一緒に、ということなら、別に問題はないのですが……」

 

 エンフィールドが、画面の隅に映る〔鉄血〕の武装を見つめる。

 微妙な雲行きに――モシンナガンは、思わず瞳を揺らした。




次回第4節は明日20時に更新予定です!

集積所にたどりついたナガン達。
一方、妹の後を追ってモシンナガン達も近くまでやってきた。
思いがけない同行者を前に、グリフィンの人形は――
ナガンはどう決断したのか?

敵も味方もない無人地帯でのエピソード、ここで完結。
お楽しみに!
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