一方、妹の後を追ってモシンナガン達も近くまでやってきた。
思いがけない同行者を前に、グリフィンの人形は――
ナガンはどう決断したのか?
敵も味方もない無人地帯でのエピソード、これにて閉幕。
「おお! これは大漁じゃ!」
荒野に打ち捨てられたように見えるコンテナを開けて、ナガンは目を輝かせた。
「バッテリーはもちろん、食糧もあるし――おおお、ウォッカまで!」
すっかり舞い上がった様子のウシャンカの少女に、
「なんかたくさんあるのはわかったから……」
セリェと名付けられた銀瞳の少女はうんざりした声で言った。
「早く電力ちょうだい――なんだか気が遠くなりそう……」
「おお、すまんすまん。ちょっと待っておれ――」
バッテリーを手に取りながら、はたとナガンはセリェをねめつけた。
「――充電完了後に、とびかかってくるとか無しじゃぞ?」
「しないわよ、そんなこと……ああ、なんだか視界が白い――」
「わあ! 待っておれ、いま接続してやるからの!」
ナガンは慌てて、手にしたバッテリーを銀瞳の少女に繋いでやった。
蓄電池のランプが灯り、セリェがふうと息をついた。そんな彼女の様子を見て、にぱっとナガンは笑うと、物資の中にあったトーチでお湯を沸かしはじめた。
「いま熱い紅茶を淹れてやるからの――野戦用のビスケットとジャムもあったから、そこそこ腹もふくれるはずじゃぞ」
ウシャンカの少女の言葉に、銀瞳の少女は目をぱちくりとさせた。
「……紅茶? ビスケット? ジャム?」
「うん? まさか食べ物とか知らんのか?」
「知識としては知ってるけど――食べたことはないわ」
「なんじゃあ、〔鉄血〕は文字通り味気ない職場なんじゃの」
「戦闘用の人形に、そんなもの不要だもの……」
そう言いながらも、銀の瞳はナガンの手元の食料品に釘付けだった。
「……わたしでも、食べられるのかしら」
「試してみるがよかろうて」
そう言って、お湯が沸いたのを確認してナガンは紅茶を淹れた。
セリェの前に、マグカップに入った紅茶と、開封してやったビスケットとジャムのパッケージを置いてみせる。銀瞳の少女はためつすがめつ、目の前の食べ物を眺めていたが――ややあって、意を決した表情でジャムを指先につけて舐めてみた。
途端、銀の瞳が煌めいたかのようだった。
驚愕と歓喜がないまぜになった表情で、うわずった声をあげる。
「なにこれ……なんなのこれ――!」
「お気に召したようじゃの」
歯を見せてナガンは笑うと、言った。
「たぶんおぬしがいま感じておるのは、美味しいという感覚じゃよ――あー、ジャムをビスケットにつけてもいいし、ジャムを舐めてから紅茶を飲んでもええぞ」
ナガンの言葉を聞いて、セリェが目を丸くする。次の瞬間には、せわしなくまばたきをしながら、色々と組み合わせては口に運ぶのに忙しい様子だった。
「――まあ、そんだけ食べられればだいじょうぶじゃろなあ」
ウシャンカの少女はそう言うと、自身は紅茶をすすりながら思った。
(――間違いない。“デストロイヤー”と呼ばれておるタイプじゃ)
メモリ内のライブラリにあったデータと照合させて、ナガンはひそかに思った。
鉄血のエリートタイプの中でも特に危険な個体だ。見た目こそ幼い少女だが、撃ちだされる連発式榴弾砲の火力はすさまじく、グリフィンの部隊が何度苦杯をなめさせられたか分からない。
つまりは、倒すべき敵性に違いない。
ナガンは肩に提げたホルスターにそっと手を当てた。
補給物資の中には銃弾もある。それに、そもそも弾切れというのも嘘だ。
相棒であるリボルバー拳銃には、一発だけ実弾が残っている。
そして、向かい合っている彼女には、武装らしいものはない。
食事に夢中のいまなら、額に銃口を当てて引き金を引くだけ――
(――やろうと思えば、簡単なんじゃがのう……)
ナガンは眉をひそめて、向かいに座る銀瞳の少女を見つめた。
白い髪、白い肌、銀の瞳。
それは確かに異質に見えたが、こうして初めて味わうであろう食事を心から喜んでいる様子を目の当たりにしては、戦意も殺意も萎えるというものだ。
なによりも、だ。
(わしも食事中に撃たれるのはイヤじゃからのう)
結論になっていない結論を自分の中で出すと、ウシャンカの少女もささやかな食事に手を付けた。ここに来るまでにそこそこ時間がかかったので、空はもう橙に色づき始めている。そうこうしているうちに夜の帳が降りてくるだろう。
「――ひゃあ。美味しかった!」
無邪気な笑顔を見せながら、セリェが感極まった声をあげる。
そんな彼女にうなずきながらも、ナガンは訊ねてみた。
「のう……おぬし、これからどうするつもりじゃ?」
問われて、銀瞳の少女は目をぱちくりとさせた。
「……どうしよう……」
出てきた言葉はなんとも頼りなく、声も弱々しい。ナガンはかぶっていたウシャンカを脱ぐと、わしわしと自分の檸檬色の髪をかきながら言った。
「あー、はっきりさせておきたいのじゃが……わしとおぬしは敵どうしじゃ。ひとまず、ゆえあってここまで一緒に来て、食事を共にしておるが――本来、それぞれ帰るべき場所があるはずなのじゃ」
ナガンの言葉に、セリェがなにやらしょんぼりと顔をうつむける。
そんな彼女を見つめながら、ナガンは言った。
「わしは通信機器を修理して、友軍の助けを呼ぶ――つまり、ここで待っておればいいのじゃが……そうしたら、グリフィンの仲間がおぬしを見て、どう反応するかが心配じゃ。捕虜にするならともかく、恨み余ってこの場でおぬしを殺そうというのも――」
そこまで言って、銀瞳の少女が「ひゃん!」と声をあげた。
顔をうつむけたまま、ふるふるとかぶりを振ってみせる。
「うん……あたしとあんたは敵同士……頭では分かってるんだけど、なんだか納得いかない――あんたを殺さなきゃ、って衝動が湧いてこない」
言いながら、セリェの声がわずかに震えた。
「〔エルダーブレイン〕の声が聞こえないと、どうしたらいいか……」
かすかにつぶやいて、少女は顔をあげた。
銀の瞳を涙で潤ませながら――彼女はナガンに言った。
「ねえ……二人でこのまま旅をするとかできないかな? こんな感じで集積所を探して、どっち側にも帰らずに一緒に歩いていけないかな?」
気まぐれというには、あまりにも切実な声。
ナガンは――渋面を作ると、また自分の髪をわしわしとかき回した。
そしてため息をついてから、手櫛で髪を整える。
ウシャンカをかぶり直すと、ナガンは――
♪ああ、歌よ、少女の歌よ
輝く太陽を追って飛べ♪
――いきなり、声を張り上げて歌いだした。
「な、なんなの?」
目を白黒させるセリェをよそに、ナガンは構わず続きを歌った。
♪そして遠い国境にいる兵士に
カチューシャから想いを伝えて♪
一節歌い終えると、ナガンは立ち上がり、少女に手を差し伸べた。
「歌おう! なんか頭をごちゃごちゃにしてるより、歌う方がましじゃ!」
ナガンに手を引かれて、セリェも立ち上がったものの、
「――でも、歌ったことなんかないもの……」
「気にするでない! 歌は心じゃ! 適当にわしについてこい!」
ウシャンカの少女はそう言うと、銀瞳の少女の肩に手を回した。
「では、最初からいくぞ! 困った時も兵士は歌うんじゃ!」
ナガンは、空いてる手で拳を作って振り始めた。
星が瞬き始めた空の下、二人の歌声が流れ出していく。
「――なッ、なにやってんのよ、あの子!」
「仲良く歌っているように見えますね……ただ、案の定というか、お連れの方がグリフィンの所属ではないようですが」
「狙撃するわ――あなたも手伝ってちょうだい」
「まあ、落ち着いて。この距離と暗さでは妹御にも当たりかねません」
「――ッ。でも!」
「ああして歌っているということは、敵であっても敵意はない、ということでしょう。まずは確実に身柄を押さえてからでも遅くないとおもいますが」
「でも……どうすれば」
「ここはひとつ、おまかせいただけませんか? お二人を動けなくしたら合図しますので、それからゆっくり来ていただければ結構です」
「……妹に変なことしないでしょうね?」
「もちろんですとも――わたしはいたって淑女ですから」
ナガンとセリェは歌っていた。
とりあえず思考回路を空っぽにして歌うことに集中していた。
最初はなんとか合わせる程度だったセリェがようやく歌詞を覚え――
二人きりの合唱が、静まり返った夜闇に響くようになった矢先。
そのささやかな平和は、急に終わりを告げた。
「――動かないでください」
穏やかだが、冴えわたった声。
ナガンがぎょっと目を丸くし、セリェが彼女にすがりつく。
暗がりの中から突如として、ライフルを構えた淑女が現れた。
さながら暗幕の向こうから、手慣れた早業で舞台に登場するかのように。
ただ――その銃は少女たちを狙っていない。
二人の後ろの“何か”を狙っていた。
銀瞳の少女が目つきを険しくして微かにうなってみせると――
すかさず、ウシャンカの少女が彼女の肩をつかんで止めた。
「待つのじゃ。この御仁、思ったよりも曲者じゃ」
ナガンが渋面をつくると、あごをしゃくってみせた。
「彼女が狙っておるのは弾薬箱じゃ――撃てばたちまち誘爆する。わしら二人なんぞあっという間に背中から蜂の巣じゃぞ」
「――――ッ」
おそるおそる背後を確かめたセリェが、はっと息を呑む。
二人の様子に、淑女――エンフィールドは、うなずいて言った。
「その通り。これはさらに、二つのことを同時に示しています」
謎めいた言葉に少女たちが目をぱちくりさせるのに、淑女は答えた。
「仮に銃を撃って弾薬箱が誘爆すれば、わたしも無事では済まない……つまり、たちまち運命共同体であり、同時にわたしが軽々に銃の引き金を引かないこと。そして――」
翠の瞳が、銀の瞳を見つめる。かすかに笑んで、淑女は言った。
「そこのお嬢さんがまともな〔鉄血〕なら、そんなことはお構いなしにわたしにとびかかってくるだろう、ということです。少なくとも現時点で彼女は敵性ではない」
そこまで言うと、エンフィールドは銃をおろした。
「試す真似をして申し訳ありません――休戦状態にあるのは確かなようです」
淑女が指笛を吹き鳴らした。
時を置かず、夜闇の中から白いウシャンカとコートの乙女が姿を現した。
目つきは険しいながら、渋々といった様子で銃口は下げている。
「あっきれた――心配になって探しに来たら、まさか敵と仲良く歌ってるとか斜め上すぎてあきれるどころじゃないわ」
口をへの字に曲げたモシンナガンである。
不満げな姉の顔を見て、妹は目を白黒させながら、
「ま、待つのじゃ! こやつは確かに〔鉄血〕じゃが、わしの命の恩人での! その、なんじゃ、恩義を返さないのも義にもとるというかなんというか――」
「――敵だっていう認識はちゃんとあるのね……よかった、倫理暴走したのかと思った。でもこれ、帰投したら始末書もので営倉行きよ? 〔鉄血〕のデストロイヤー型なんかと仲良しこよしとか、指揮官が聞いたら何というか……」
「……なんか、じゃないもん」
銀瞳の少女が頬をふくらませて講義の声をあげた。
「セリェだもん。この子が名前つけてくれたんだから」
その言葉にモシンナガンは思わず顔を覆って天を仰いだ。
「ああ、もう。名前とかつけちゃったの? 救護室で保護した動物とは違うのよ?」
嘆き半分の乙女の声に、エンフィールドがさざめき笑いを洩らした。
「――たしかに、この場合の取り扱いは教範にないですからね。もとより〔鉄血〕との間に捕虜交換の取り決めはない。潰すか、潰されるか、ですから」
「な、なあ……それ、なんじゃがのう……」
おずおずとナガンが手を挙げて言った。
「こやつを――仲間のところへ帰してやるわけにはいかんかの?」
その言葉に、ライフルを手にした二人が鋭い視線を向ける。
ウシャンカの少女は、一瞬たじろいだが――
身じろぎする銀瞳の少女をかばうように立ち、大きく一呼吸して言った。
「こやつに命を助けられたのは確かじゃ。それはこやつにとっては計算だったかもしれんが、少なくとも命の恩人という事実に変わりない。ここはわしの顔に免じて、こやつを見逃してやってくれんかの……?」
妹の懇願に、姉は目を剥いた。
「バカ言わないでよ! 敵よ? 〔鉄血〕よ?」
吐き捨てるように、モシンナガンは足を踏み鳴らした。
「さっきの戦闘で仲間をやったやつなのかもしれないのよ? 仲間の仇討ちとか考えなさいよ。あなた、本当にセルフモニタリングは正常なの!?」
そんな苛立ちまぎれの言葉を口に出した後であった。
エンフィールドの穏やかな声が、何かをそらんじるように流れた。
「フムン。曰く、『〔鉄血〕にとって人類は敵。ゆえに人類にとって〔鉄血〕は敵。しこうして問わん。人類の代理として戦場に赴く戦術人形にとってみれば、はたして〔鉄血〕は敵か否か?』というところですか」
唐突な命題に――妹は目を見張り、姉は胡乱な視線を向けた。
「……それ、誰の言葉? 背任ものの考えじゃない」
モシンナガンが口をとがらせて言うと、淑女は肩をすくめてみせた。
「困ったことにうちの指揮官でしてね――あ、ご報告されても構いませんよ。よりによって、社長臨席の指揮官級会議の場で放言したそうですから」
その言葉に、ウシャンカの乙女は口をぽかんと開けた。
「――ねえ。“遺体”の回収といい、あなたの指揮官どうかしてるわ」
「よく言われます。さて、ここの問題ですが……整理するならシンプルです」
銀瞳の少女とウシャンカの少女を、淑女が代わるがわる見つめる。
「彼女は〔鉄血〕です。仲間の元に戻れば、〔エルダーブレイン〕の手で同期されて、元通り戦闘マシーンになるでしょう。ただ、ナガンさん、でしたね……貴女と行動を共にしたことが、あるいはひとつの波紋になるかもしれません。共に食事を摂り、共に歌ったことが、何かしら一石を投じられるかどうか――つまり、これは一種の賭けです」
姉妹そろってぽかんとした様子に、淑女は薄く笑んでみせた。
「胴元は運命。プレイヤーは貴女です。さて、賭け金に何を積みますか?」
エンフィールドの言葉に、ウシャンカの少女はにやりと笑んだ。
「おぬし……なかなかの悪党じゃのう」
「英国人の気質を受け継いだパーソナリティですからね」
「そうじゃの……さすれば、わしの賭け金はこれじゃ!」
言うや、ナガンは自身の拳銃を引き抜き――
すかさず、自分のこめかみに銃口を押し付けた。
「わしはこやつに命を救ってもらった! じゃから――こやつを帰すかどうかを賭けというのであれば、わし自身の命が賭け金じゃ!」
その言葉に、ウシャンカの乙女も銀瞳の少女も息を呑んだ。
真剣そのものなナガンの顔に、エンフィールドは薄く笑んでみせた。
「グッド。良い面構えです。ならば、もう試すことは何もありません」
淑女は手にしたライフルを天に向けて掲げ、撃ち放った。
実弾では――ない。
代わりに、赤い輝きが光の尾を引きながら、空高く打ち上がっていく。
「さあ、これで決しました」
エンフィールドは唇の両端を吊り上げて言った。
「信号弾に注意を引かれて、ほどなく周囲の〔鉄血〕がやってくるでしょう。われわれグリフィン陣営としては、ここから遁走するほかございません」
しれっと口にした淑女の言葉を聞いて――
姉妹はそろって「えーっ!?」と驚きの声をあげた。
「じゃあの。わしが言うのも変じゃが、元気でな」
「あんたもね――その、色々ありがとう」
「う、うむ。できれば憶えておいてくれると……」
別れの挨拶をぐずぐず長引かせる妹に、わたしは苛立ってしまった。
たまらず、彼女の襟首をつかんで引っ張る。
「ほら! さっさと引き上げるわよ! 次に来るのは敵なんだから!」
わたしは顔をしかめながら、妹をずりずり引きずった。
「ああ、なんか探しに来て、すっごい損した気分!」
たまらず声をあげると、妹が「たはは」と笑いながらも、訊ねてきた。
「のう……なんでわしを探しに来たんじゃ? 未帰還で四十八時間たてば停止信号を送ってそれまでじゃったろう? あとはバックアップから復帰するのを待てば――
」
彼女の問いに、わたしはぷいと顔を背けて言った。
「――ピロージナエ・カルトーシカよ」
「は? お菓子がなんじゃと?」
「あなたが作戦前に、随分はしゃいで言ったじゃない。『珍しく上手に作れた』って。それで、帰ったら一緒に食べよう、って」
「ああ……そんなこと言っておったな」
「バックアップから復帰したあなたじゃ、どの冷蔵庫にお菓子をしまったのか、分からないでしょう――だからよ」
わたしの言葉に、妹は目を丸くた。
「は、なんじゃ? お菓子なぞのためにこんな危険を?」
「ち・が・う・わ・よ」
わたしは妹を吊り上げるように立たせると、つんと鼻を指でついた。
「そのお菓子、わたしが基地に来た記念日用に作ったんでしょ」
「むむ……バレておったか」
「当たり前よ。パーソナリティ上、わたしが姉になってるけれど、すくなくともうちの基地ではあなたが先任なんだもの」
「たはは――毎度のことながら、調子が狂うのう」
「分かったら、とっとと歩く!」
妹は肩をすくめると、私の隣に並んで歩きだした。
ややあって、彼女がぼそりとつぶやいた。
「あやつにも――わしのお菓子を振舞えればいいんじゃがの」
「基地まで連れていく気? バカなこと言わないで」
「あくまでかなうならば、じゃよ。いま願うことは、そうさの……」
そう言って、妹が集積所のあたりをそっと振り返った時だった。
もう遠くなったトーチの明かりのかたわらから――
硝子のような繊細な歌声が、そっと聞こえてきたのは。
♪彼に一途な少女のことを思い出させて
彼女が歌うのを聞かせて
彼に祖国の地を守らせて
愛はカチューシャが守る♪
その歌声を聞いて、妹がふっと微笑んだ。
「……次に会う時は、あの歌をあやつが憶えてくれるといいが」
「冗談じゃないわ。次に会ったら間違いなく殺されるわよ」
「そうさの――それでも」
妹は、わたしの顔を見上げて、はにかんでみせた。
「わしにとって、あいつと過ごしたのは決して嫌な時間ではなかったよ」
言ってみせる妹を軽く小突きながら、わたしは目を凝らした。
遥か前を行くエンフィールドが、灯りをぐるっと回してみせる。
――なんだか、奇妙な夢を見ているようだ。
凪の淑女と、銀瞳の少女。
あるいは二人とも、幻の世界の住人ではないだろうか。
グリフィンと〔鉄血〕の戦場に、そもそもいてはならない存在。
そんな夢うつつに、姉妹そろって化かされたのでは、と。
セルフモニタリングがおかしくなっていないだろうか。
わたしは、ひそかに、真剣に――心配になっていた。
結論から言えば、二人とも幻ではなかったのよね。
セリェと呼ばれた〔鉄血〕とは後日遭遇することになったの。
しかも、彼女はまぎれもなく敵のはずなのに――
わたしを見て、こう言ったのよ。
「あれ、あんた……カチューシャの歌の子の、お姉さんよね?」
なんで憶えていたのか、とか含めて。
銀瞳の少女とは、妹も巻き込んで大騒動になったんだけど。
それはまた、別のおはなし。
〔ep.5「少女達のノーマンズランド」 End〕
ひとまず第5話を持って
「お姉さんと妹ちゃん」のシリーズは終えることになります。
それぞればらばらの基地にいる彼女たち、
どこかでゲスト出演するかもしれません。
新シリーズは趣向を変えて
おねショタ系に挑戦したいなと思っています。
どうもTicoの書く男性指揮官には情けないヤツが多いので、
未熟で青臭くても、熱いものを持ってる少年と、
彼を取り巻く乙女達のドラマが書ければと思っています。
また次の更新をお待ちくださいませ(/・ω・)/