シャングリラ・フロンティア ~Side:Alinoiyu~ 作:ゆくゆく
目の前の男は今なんて言ったのだろうか…私に、もう一度、あの世界に行けと?無理だ、嫌だ、行きたくない。そんなネガティブな思考が頭の中を渦巻いている。当たり前だ。あの世界は私、
「えっと、有野さん?ごめん、何か気に障ることでも言っちゃったかな…」
気に障るも何もあるか!最悪だよ!地雷完全に踏み抜きやがって!!そう叫びたい気持ちが沸き起こる。だけど、それは単なる八つ当たりにすぎない。いくら頭に血が上っていてもそんなことをする気にはならなかった。
「ううん、大丈夫。もう授業始まっちゃうからこの話はまた今度でいい?」
「あ、うん。ごめんね、手間とらせちゃって」
もうこの話をしたくない。そんな私の気持ちが通じたのかは知らないけど、彼は私との話を諦めたようだ。
その後は最悪だった。あの世界で味わったトラウマ、死の記憶が鮮明に蘇って授業に集中するどころの話ではなくなっていたからだ。一時間目が終わったあとも彼は私に話しかけようとしてたみたいだけど、席のまわりに殺到した人の対応で私に話しかけようにもできない状況だった。正直、助かる。別に彼は悪くないけど、あの世界を思い出してしまうから。
◆
「有野さん、ちょっと話したいことがあるんだけど」
放課後、授業が終わりすぐに帰り支度を始めた私に彼がそう話しかけてきた。
「ごめん、急いでるんだ」
「いや、そんな時間はとらせないから。朝の話の続きをしたいんだ。」
やっぱり。あの時は角がたつのを恐れて今度っていったけどちゃんと断っておけばよかった。
「あの、私シャンフロは…」
やりたくない。そう私が言おうとしたとき
「この前配信されていたシャンフロの動画、あれを見て私もシャンフロを始めたいと思ったんだ。確かサンラク、だったかな。彼のプレイングは凄かった!一人の人間があそこまで素晴らしい輝きを見せれるなんて!」
サン…ラク…?
彼はそのあとも、彼の台詞はまるで演劇を見ているみたいだったとか、まさか最後に女体化するとはね、驚いたよ!とか言っていたけど私の耳にはほとんど入ってこなかった。
忘れるはずもないその名前。私の過去の過ちの象徴。喋るヴォーパルバニーを連れた半裸の変態。一度復帰したときに聞いた話ではユニークモンスターをたくさん倒しているらしい、あの世界で最も注目されているプレイヤー、サンラク。まさかまた聞くことになるなんて…
過去のアレコレを思い出して暗い気持ちになっていた私に彼が更なる爆弾を、あとから考えると私の気持ちを奮起させる起爆剤となった言葉を放った。
「だから、私はシャンフロをプレイして彼に会ってみたいんだ!あなたのファンですって言うためにね!」
サンラクに会いたい!?
「えっ、ザーイド君、サンラク…さんに会いたいの!?」
「?ああ、そうだよ。ひょっとしてこの前の配信見てないのかな?結構噂になってたと思うんだけど。」
知らなかった、そんな配信。いやまぁ、あの世界の情報はできるだけシャットアウトしてるからしょうがないけど。…あとで確認しよう。
でも、彼がサンラクに会うためにあの世界に赴くと言うのなら同行してもいいかもしれない。だって、過去の私の悪行を清算できるチャンスかもしれないんだから。そう考えるともう止まらなかった。
「ザーイド君、むしろ私の方から頼みたいわ。私と一緒にあの世界、シャングリラ・フロンティアの世界に行ってくれる?」
今日の私の態度を考えるととても虫のいい頼み。断られてもしょうがないかなと思っていたけど…
「ああ、もちろんさ!一緒に遊ぼう!」
こうして、私と彼のシャンフロ生活が始まった。