シャングリラ・フロンティア ~Side:Alinoiyu~ 作:ゆくゆく
一歩踏み出すと決めたのだから
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最初は単なる好奇心だった。跳梁跋扈の森でさんざん首を刈られたレアモンスター、ヴォーパルバニー。それが町の中を歩いているだけではなく、服まで着ている。さらに半裸の変態、もといプレイヤーと一緒にいる。…言い訳をするわけではないけど、正直誰でもあんな状況を見たらSSの1つは取ると思うんだ。
ただそのあとの行動が余りにもよくなかった。当時、ネチケットなんて言う概念がなかった私はその写真をゲーム内の掲示板にアップしたのだ。当然掲示板はお祭り騒ぎ。プレイヤー『サンラク』は多くのギルドから付け狙われることとなった。しかも、私はそれを悪いとは思っていなかった。なんならユニークシナリオを秘匿していたプレイヤーを白日のもとに晒したと言うことで正義感すら感じていたかもしれない。
当然そんなことをした私の名前はあっという間に広がり、好奇や悪意の視線にさらされ続けた。そのときについた呼び名が『晒し屋』。酷いときにはログイン地点を突き止められ、激しく粘着されたこともあった。正直、運営の対応が厳重注意だったことを呪いたくなった。いっそ垢BANでもしてくれれば…
でも、そんな状態も長くは続かなかった。サンラク、オイカッツォ、アーサー・ペンシルゴンの三名のプレイヤーによるユニークモンスター『墓守のウェザエモン』討伐。そのニュースの前では私ごときの噂なんてあっという間に忘れ去られた。当時は助かったと思ったけど、今考えると謝るチャンスを永遠に逃したとも言える。だって向こうは私のことなんて知らないだろうし。
結局、その後は普通にプレイしてたけど特に誰かに何か言われることはなかった。まぁ、レイドモンスターを倒そうとしてとんでもない殺され方をしたせいでシャンフロをやめちゃったんだけどね。だから、よりにもよって今ここで『晒し屋』の名前を聞くなんて思ってなかった……
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「兄貴?知り合いでやんすか?このアリノイユとか言う女と」
「バーカ、ちげーよ。こいつはな!あのユニークを独占しているクソ野郎の情報をネットに晒したクソ野郎なんだよ!」
下卑た見た目をした男が嫌な顔と声で笑う。
「うーわ、最低でやんすねぇ、兄貴ぃ!」
「そうですよ、こういうやつは
いかにも小物といった見た目をした二人の男がそれに追従する。
「ああ、そうだよなぁ!おい、感謝しろよぉ、晒し屋ぁ!このPKerの『兄貴』様が直々に
冷静になって考えれば、小物も小物。そもそも町中でPKをすることのリスクも知らない辺り初心者に毛が生えた程度だろう。ただこの男が昔の私を知っていると言う事実。これ以上騒げばさらに昔の私を知っている人が現れるかもしれないと言う恐怖。何より、私を励まし一緒にゲームをしようと言ってくれたザーイド君に私のことが知られると言う恐怖が私から抵抗する気力を奪っていく。
「おら、こっちこいや!」
周りの人も不穏な気配に気付き止めようとしてくれてるみたいだけど、あまりにも分かりやすいチンピラだから関わるのをためらってるみたい。
(ここで殺されたら、シャンフロをやらない理由になるかな…)
そんなことを考えてしまうくらいには、心が折れそうになっていた。
(ああ、でも……)
彼の顔が、声が、脳裏によぎる。私を励まさんとかけてくれた台詞が頭の中で再生される。
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「ねぇ、有野さん。言いたくなかったら言わなくてもいいんだけどさ、昔シャンフロで何かあったの?」
一緒にシャンフロをする約束をし、帰ろうとした私を呼び止めたザーイド君がそんな前置きと共に私の過去を探るような質問してくる。正直、答えたくない。まだ、割りきれたわけではないのだから。
「…ごめん、答えたくない。」
「あー、いや、こちらこそごめん。」
「ただ1つだけアドバイスをさせてよ」
アドバイス…?
「なぁに?それ」
「うん、『停滞は楽だけど変化がない。いい方向か悪い方向かは分からないけれど一歩踏み出せば必ず何かが変わる』ってね。」
一歩、踏み出せば…か…
「まぁ、うちの執事の受け売りなんだけどね…」
その後、照れたようにザーイド君は帰っていったけど、その言葉は私の脳内で何回も繰り返されていた。
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「おい、ガキ!聞いてんのかぁ!?」
思考の海に沈んでいた意識が引き戻される。
「ったく、晒し屋さんはろくに人の話も聞けねぇのかぁ!?」
彼の言葉を思い出したことでちょっと冷静になる。私、何でこんなやつの言葉に素直に従おうとしてたんだろう。そう考えるとちょっとイライラしてきた。
「……さい……」
「ああ!?何か言ったかぁ!?」
「うるさいっていったんだよ!このチンピラ!!」