⑨《バカ》と玩具《オモチャ》は使いよう   作:げに味わい深きレモン

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 筆が乗ったけど次回からはこうはいかないから亀更新or打ち切りです。


玩具の九十九神

 

 付喪神、または九十九神。物に神が憑いて動き出したり、物そのものが神になったり。要するに物が意思を持って行動し出す、ということらしい。いつかの持ち主が言っていた。

 私は言葉の感じからして恐らく後者だ。

 ただのゼンマイ仕掛けのおもちゃだった私が意識を持てたのは、このツクモガミになれたからなのかもしれない。

 ただし、今でも私はねじ巻きのおもちゃだ。背中のゼンマイが誰にも回されなくなってから、もう沢山の時間が流れている。

 ゼンマイの動力が無ければ、私は歩くどころか声を出すことも、目を開けることすらできない。

 せっかく稼働部が沢山増えたのに、少しも動けないなんて。とても残念だ。

 

 

 ……あぁ、ただのおもちゃだった頃からは想像できないぐらいいろいろなことを考えられる。

 何故私はこんな素晴らしいことを今まで出来なかったんだろう。一番素晴らしいのは、五感に対して感情を持てることだ。

 

 聞こえてくる森のざわめきや小鳥や虫なんかの鳴き声。美しい。

 身体を撫でるそよ風やふくらはぎあたりでで小さく波打つ水の感触。心地よい。

 がらんどうの身体の中にみっちり詰まった苦い泥の味。忌まわしい。

 

 感じる物全体が新鮮で、感情を覚えるのが楽しかった。

 

 …感情の名前は、人間たちの言葉を思い出してつけたから、間違ってるかもしれないけど。

 

 

 ある時、またいつものように感情を楽しんでいた時だった。

 その日はよく晴れていたようで、お日様の光がよく当たって暖かかった。

 あったかいな、きもちいいな、なんて考えてたら、いつもとは違う音が聞こえてきた。

 どこか外れた調子の、女の子の鼻歌。それと足音。

 元気いっぱい、と言った感じの女の子が、こちらに近づいてきているようだ。

 人間らしきものの存在を感じるのは、感情を持ってから初めてのことだ。

 嬉しかった。また人間のために働けるかもしれない。人間を喜ばせるのが私の仕事だ。

 

 鼻歌と足音が止まって、「ん?」という声が聞こえた。どうやらこちらを見つけてくれたようだ。

 

 こちらに駆けてくる足音が聞こえて、私のすぐ横で止まった。

 

 その瞬間、周りの空気が少し冷たくなった気がした。

 

「?なんぞこれ」

 

 少女が呟いた。

 

 棒のようなもので顔を数回つつかれた。くすぐったい。

 

「んーーー?」

 

 少女の方は、訝しげな声をあげた。容赦なく身体中を棒でつついてくるが、動けないので耐えるしかない。

 

「おーい生きてるかー?」

 

 これは難しい質問だ。意思があるから生きている、と定義できるなら私は生きているのだろう。

 

 しばらくして、散々身体をつつかれた後に、からん、という音がした。少女が枝を捨てた音のようだ。

 

「コイツの背中のこれ、なんだ?」

 

 コイツ、というのが私を指すなら多分それはゼンマイだろう。ぜひ反時計回りに回して欲しい。そうすれば私はあなたに驚きと楽しさを感じさせることができるだろう。

 

 少女の冷たい手がゼンマイを掴んだ。

 

「……ハンドルか?」

 

 ……回す、というのは合ってる。おしい。

 

 少女が両手でゼンマイを掴んで、回そうと力を込めた。時計回りに。

 ゼンマイは全く動かず、むしろ私の身体のほうが少し動いた。

 

「んん?動かんぞ。ハンドルじゃないのか?」

 

 ……反対向きにも回してみて欲しい。動ききった状態だと時計回りには回らないんだ。

 

「あっそうか!」

 

 気付いてくれた!よし、じゃあ今すぐにゼンマイを反時計回りに「持ち手か!」…………え?

 

「そうだよ持ち手だよ!なんかがっしりしてるしここ持ってコイツを振り回すんだな!あたいったら天才ね!」

 

 

 

 …………離れた。

 っていうかそこ、デリケートだからあんまり乱暴にしないで欲しいんだけど…。

 

「よーしじゃあさっそく!」

 

 うわ本気でやる気だこの娘うわやめてください何でもしますからそこ持って振り回すのだけは後生ですお願いしますやめてやめてやめて

 

 グッ、と少女が腕に力を込めたが、泥の詰まった私の身体は少ししか持ち上がらなかった。

 

「なんだこれ。おもたいな〜」

 

 助かった。初めて泥に感謝した。動かされたせいでちょっと口から出てきたけどうわなんか味変わったうっわまずい。

 

 しかも少女に何故重いのか見破られてしまった。なんでそういうところには頭が回るんだ…。

 

「あー!泥が詰まってるのか!待ってろ、今洗い流してやるからな!」

 

 身体が微妙に持ち上げられて、水の中に放り込まれた。

 さっきは私を守ってくれた泥が、放り込まれた拍子に空いたお腹の扉からどんどんと出て行く。身体の中が洗い流されて大分スッキリはしたが、軽くなったら今度こそ少女に振り回されることになる。

 

 ヒヤヒヤする、というのはこういうことか。

 

 

 

 かちり、と音がした。

 

 泥が綺麗に落ちて、全身の歯車がきちんと噛み合った。

 

 …今まで歯車の間にいろいろ挟まってることを知らなかった。あんな状態でゼンマイを回そうにも、回らないどころか下手をしたら壊れていたわけか。

 

 『持ち手』を掴まれて水から引き上げられた。水気でパーツが錆びたりしないか心配だが、後で錆止めか何か貰えばなんとかなるだろう。少女がいるなら大人もいるはずだ。

 

 ところで、私のことを鈍器か何かだと思っていたこの少女は、お腹の扉をみてやっと私をゼンマイ仕掛けのオモチャだと認識してくれる…よね?

 

「……おー?こんなとこが開くのか。…おおっ!歯車がいっぱいだ!かっけー!」

 

 大丈夫そうだ。この身体を得てから自分の仕組みが複雑になりすぎてそんなところに扉がついてるのか知らなかったけどどうやらこの娘は歯車を知っているらしい。

 

「なるほどなるほど…ここがこうなってこうつながって…」

 

 歯車がどう繋がっているのかも理解できるようだ。よし、これは期待大だ。あとはその『持ち手』がゼンマイであることを理解して…

 

「んでこうなって、殴ったときの威力がさいきょーになるわけだな!こんなことがわかるなんて、アタイったら天才ね!」

 

 …………ハイ、モウイイデス。ワタシハドンキデス。ドウゾオスキナヨウニフリマワシテクダサイ。

 

「んじゃ、いっくぞー!」

 

 少女が私を振りかぶった。

 

 次の瞬間、ゼンマイがほんの少し、反時計回りに動いた。

 

 久しぶりの動力。身体にほんの少しだけ力が戻った。この機を逃したらもう次はない。私は次にすべきことを最速で導き出した。

 

 ゼンマイを両手で掴んでいる少女の手首を、まとめて左手で掴む。初めて動かしたが、前と比べ物にならない器用さに驚くのは後だ。

 驚いてこちらを向いたはずの少女の顔を見て、言葉で意思を伝えるために、なるべく動力を使わずに、最短で首だけを回す。横に回すだけなら前にもできたが、前よりも可動域がかなり広い。最大限利用させてもらう。

 

 とても久しぶりに開いた目には、沢山の緑と、水色と肌色が映った。

 その水色と肌色が人の顔だと認識するのに時間がかかってしまった。

 水色の髪の人なんて見たこと無いし、そもそもとして角度がおかしかったからだ。

 

 とにかく、可動域を最大限活かした結果、少女とバッチリ目を合わせることに成功した。

 あとは声を掛ければなんとかなる…!

 

「………」

「………」

 

 …喉が捻れて全くもって声が出なかった。失念していた…。

 声を出せずに、口をパクパクさせる。

 

 ここで、相手の視点になって考えてみよう。

 

 自分の両手を掴んで、首を明らかにおかしい向きに曲げてこちらを凝視しながら口をパクパクさせる人型の何か。

 

 ……少女の顔から血の気が引いていった。

 

「う、あ、あ…」

 

 なんとかして危害を加えないことを伝えなくては…そう思って私が取った行動は、最悪の一手だったかもしれない。

 

 つまり、とりあえず顔だけ笑顔にしました。

 

「ぎゃあああああああああ?!」

 

 少女は凄まじい悲鳴をあげて、ものすごい速度で逃げていってしまった。

 放り出された私は、右手を遠い少女の背中に伸ばした。

 

 ゼンマイが止まった。身体に力が入らなくなり、這いずって手を伸ばした姿勢のまま固定された。

 

 今度は目が開いてるから、今までよりも感情の勉強が捗りそうだ。

 でも、動けるようにはなりたかったなぁ……。

 

 ところで、なんであの女の子の背中のあたりに氷がいくつも浮かんでたんだろう。

 青いワンピースを着た、あの女の子……。

 

 

 

 また会えるといいな




 九十九神化は転生タグつけたほうがいいのだろうか。

 てか東方要素どこやねん。二話からちゃんと出してくつもりだからオニィサンユルシテ
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