⑨《バカ》と玩具《オモチャ》は使いよう 作:げに味わい深きレモン
めーでーめーでー。こちら…そういえば名前ないな……ゼンマイオモチャ、現在行動不能により救援を請う。なに、怪しくないよ。ただ背中のゼンマイ回して欲しいだけなんだ。なにもしないから。だから無視しないで……。
冗談はここまでににしよう。あれからどれだけ経ったのか。朝と夜が何度か来た。数えるのは苦手だからよくわからないが、おそらく20回は超えないぐらい。
正真正銘五感で世界を楽しんでいるところだが、やはりもどかしさが残っている。
一度は動けてしまったのだ。もう一度動きたいじゃないか。
これまでは気付かなかったが、どうやら目の部品もゼンマイの動力が無ければ動かせないようだ。目の焦点を合わせることもできず、二羽の蝶々が全く同じ動きで視野の外に飛び去っていった。
この感情を、退屈だと言うのだろうか。すべきことも無いし、自分でできることもない。せいぜい耳を澄ます程度だ。
季節は微妙に変わっていっていて、前よりも木の葉が青々として、日差しも強くなっている気がする。これから暑い夏になっていくのだろう。日光は部品の変形を招くから、早いところ動けるようになりたいところだ。
これまでに放置されて劣化し切ったカラダを、例の水色の少女のために無茶に動かしたせいか。歯車がいくつか欠けたり抜け落ちたり、
今のところ、自分を見つけてくれたのはあの少女だけ。しかし、子供がいるなら大人もいるはずだろう。
こんなファンタジーな、自分でも構造を把握しきれていない身体を直せるかはわからない、が。
そういえば、あの少女はかなり珍しい、というか見たことのない姿格好をしていた。そこそこの数の人間の手に渡ってきたが、水色の髪というのは見たことが無い。髪の色に合わせた水色のワンピースに水色のリボンというコーディネートはなかなか似合っていたと思うが、人間が日常的にするような服装でもないだろう。
というか、彼女の背後には氷柱が浮いていたが、そんな人間はいるのか?記憶の限りでは見たことがない。
じゃあ彼女はなんなのか?覚えてる限りには彼女の特徴を満たす人種はいない。まあ知ってるのは黒人白人黄色人種で全部だけど。
「こっちこっち、確かこの辺だよ!」
「さっきもそう言ってたけどちがったのに〜」
「いや、今度こそあってる!」
「それ聞くの5回目だよ〜」
遠くから女の子らしき声が聞こえた。二人分だ。そして片方には聞き覚えがある。あの時の女の子ようだ。友達を連れて見に来たのだろう。
今度こそ、動けるようになるのだ。
2度目のチャンス、モノにしなくては。
「前はちょっとだけ、ちょーーーーっとだけびっくりしたけど、今度はそうはいかないぞ!よくわからない奴はさいっきょーのあたいがたいじしてやる!!!」
……おっと?いきなりなんか不穏だぞ?
「いきなりおどかして来たから一時てったいしたけど、こんどはそうはいかないぞ!氷漬けにしてちょうこくにしてやる!!」
……アカン。これは…いけない。
動けるどころの話ではない。このままでは冷たい(らしい)氷の中で過ごすことになる。冷たいのは嫌だ。動けなくとも皮膚感覚はあるんだ。
ところで、氷漬けという発想が1番に出てくるのってどうなんだろうか。そもそも、そんなに大きい冷凍庫があるのか?
いや、待て待て待て。そんな事を気にしている場合ではない。動くどころの話ではないのだ。
このままでは私は氷漬け玩具の彫刻などという前衛的アートにされてしまう。
「おっ、いた!大ちゃん、こいつだよ!この倒れてる奴!」
見つかった。背後から少々喧しい声とふよふよという聞いたことのない音が聞こえる。
……?背後は水辺だったはずなのになんでそっちから声が?
小川だったのかとも思ったが、流れはなかった筈だ。少なくともそのまま歩いては来れないのでは……?
すとん、と、軽いものが落ちたような音がした。
「チルノちゃん、これがその……脅かしてきた化け物?」
どんなトリックを使ったのかわからないが、二人の少女は私のすぐ後ろにいる。
ふむ、喧しい方が『チルノちゃん』で、おとなしそうな方が『大ちゃん』か。あだ名にしても特徴的すぎないか?
「あんまり近づくな!いつまた動き出すかわからないぞ!」
いや、ゼンマイを回してもらうまでは少しも動けないです、ハイ。
「というか、これ九十九神なんじゃないの?人間にしても妖怪にしても、こんな大きなゼンマイはついてないんじゃ……」
おお!大ちゃんとやら、大正解だ!それはゼンマイだ!ささ、そうとわかれば早速反時計回りに回して……
「ん?それ持ち手じゃないのか?あたいがひねっても回らなかったぞ?」
それは時計回りにしか回してないからです。
「まあ、ものは試しってことで、回してみるね」
ひんやりとしてるのにどこか暖かい手がゼンマイに触れた。一度時計回りに回してから、逆か、と反時計回りに回る。まだだ、まだ動くな。もう少し回してもらわないとまともに動けない。
「あっ、回った!」
「おお?!あたいの時はまわんなかったのに!大ちゃんったら天才ね!」
「多分チルノちゃんが逆に回してただけだと思うんだけど……」
かちかちとなりながらバネが力を蓄え、三周と少しだけ回ってから、彼女の腕力では回らなくなってしまった。
「固いぃ……!もう回らないよぉ」
少々心許ないが、また回してもらえばいいか。
指先に力を込める。ポキポキ、と引っ掛かりながら指が曲がっていく。
腕を体の下に入れる。ギギギギ、と音を立てて、肘と肩が動き出す。
膝を立てる。ガタガタ、と足首が鳴って、嫌な音と共にもげた。
腰を曲げる。ボトボト、と残っていた泥とパーツの欠片が開いたままのお腹から零れ落ちる。
首を曲げる。ゴロゴロ、と砂埃の入った硝子の眼球が回る。
体を立てる。カタカタ、と体をゼンマイの動力が駆け巡る。
「お、起きた……」
「……ボロボロだ」
足首から下が壊れてしまったので、膝立ちになり振り返る。
そこにいたのは、見覚えのある青い髪に青いワンピースの少女と、萌黄色の髪を黄色いリボンでサイドに纏めた青いワンピースの少女だった。
ふむ、とりあえず挨拶でもしてみようか。挨拶はだいじ。
にこり、と笑いかけると左頬がポロリと欠け落ちた。
「ヤア、オ嬢サンガタ。私ハ
うーむ、発音は初めてだからか、やたらとカタコトになってしまった。一応日本語だし通じる……よね?
「……しゃ、喋った」
「ぬぬぬ……アヤシイやつ……。やい!名を名乗れい!」
やや、名前とな?これまでいくつかつけてもらったけれども、今は無い。なら……。
「名前ハ未ダ無インダ。良ケレバ付ケテハクレナイカイ?」
じり、と二人が後退りした。ふむ、どうやら私には人を怖がらせる才能があるようだ。
ではとりあえず名前を聞いておこう。さっきまで会話を聞いていたから名前は知っているが、これ以上怪しまれないように、ね。
「君タチ、名前ヲ教エテクレナイカイ?」
「……怪しい奴には名前を教えるなって、寺子屋で習った」
おおう、更に警戒されてしまった。待って待って、見捨てないでくれ。
「ナラ、ナラセメテ私ヲ直セソウナ人ノ居ルトコロニ連レテ行ッテクレナイカイ?怪シイ人ニ着イテ行クナトハ言ワレテモ、怪シイ人ニ道案内スルナトハ言ワレテナイダロウ?」
必死の説得が効いたのか、大ちゃんの方は少しだけ心配そうな表情になってきた。もう一押し……!
「後生ダ、今マデ自分ノ意思デ動クコトナンカ出来ナカッタンダ。オ願イダヨォ……」
悲しげな表情を作り、手を合わせて哀願する。泣き落としって奴だ。
「……チルノちゃん、案内してあげようよ。チルノちゃんの話だと、この子、ここに二週間以上動けないままだったんでしょ?かわいそうだよ」
おお!
「うーーん……大ちゃんがそう言うなら」
「アリガトウ……!」
助かった……。これでまた人を喜ばせることができる。
「ところで、服は着ないのか?ぬぅですとって奴なのか?」
「エ?服……」
自分の身体を見下ろしてみる。所々にヒビが入り、日に焼けて劣化し穴まで空いたボディには、布の一切れも纏っていなかった。どうやら朽ちてしまったらしい。
別に隠す必要があるような部位は無いが、人間の常識としてこれはいけない。
「ジャア服モ手ニ入ルトコロニ連レテ行ッテクレナイカイ?流石ニ裸ハマズイ」
私を直せる修理屋なら服もあるだろう。代金を請求されたらどうしようも無いが。
「それだとアリスさんのところかな?魔法の森の中だけど」
「こーりんのとこの方がいいんじゃないか?近いし」
「じゃあ霖之助さんの所にしよっか」
「よし、じゃぁしゅっぱーつ!」
そう言うと、チルノはさっさと歩き出してしまった。大ちゃんもそれに着いて行ってしまう。待って待って、重大な問題があるんだ。
「待ッテ、サッキ足ガ壊レタカラ歩クノハデキナイ……」
えっ、と二人がこちらを振り向いた。
「じゃあ飛べばいいんじゃないか?」
とぶ……?
「あんた、妖怪か何かじゃないの?じゃあ飛べるでしょ?」
妖怪……?
「ほら、こんな風に」
チルノの背後に三対の氷柱が現れふよふよと浮遊し始めた。
「私もできるよ」
大ちゃんの背後に鳥の羽と虫の翅を合わせたような翼が現れ同じように浮遊した。
「エッ飛ベルノッテ常識ナノ……?」
ただの九十九神になった玩具が飛べるとでも……?
…あれからどれだけ経ったのか、作者にも分からん。
そもあんな文書いてる時の思考回路の再現が出来ねぇ
一話書いてる時の自分天才すぎんか普段あんなの書けねーぞ
プロットが無い…!1ミリも…無いんだよ…!!!