プロローグ
A級1位太刀川隊。
彼らがトップに君臨しているのは、他を追随しない実力、弛まない鍛錬の成果である。
今日も今日とて鍛錬をしているのだ。
「ちょっと、切島先輩!弱いものいじめ反対ですよ!」
「訓練じゃ!馬鹿野郎!おまえが使いものになれば俺らも楽できるんだよ!逃げんな!シールドで守れ!撃ち返せ!」
「無理ですよ!!訴えてやる!!」
…鍛錬しているのである。
「で、次のシーズンまでにこいつは使い物になりそうなの?」
「無理」
「でしょうね」
「ひどい!」
「はっはっはっ」
出水公平からの質問を切島司はバッサリと切り捨てる。
「唯我、次のシーズンはスポッターで出ないか?」
「なるほど、お前、天才だな」
「嫌ですよ!あんな地味なポジション!僕は前線で活躍したいのですよ!」
「したことないだろ」
「柚宇さん、この前のランク戦の映像だしてー」
「OK〜」
「やめてください!ほら、太刀川先輩もなにか言ってくださいよ!」
「いや、俺もいい考えだと思うぞ」
「ここにボクの味方はいないのか!」
スポッターというポジションで活躍している隊員は、現在、A級8位の片桐隊の尼倉亜澄のみ。攻撃手段を一切もたない代わりにダミービーコンで撹乱したり強化レーダーで部隊をサポートしたりと色々と厄介なポジションである。同様にサポートするポジションで特殊工作兵、いわゆるトラッパーというのもあるが、こちらは高いトリオン量が求められる。トリオン量5の唯我には厳しい。
「あ、そうだ、切島。これから暇か?」
「ん?何かあるんですか、太刀川さん?」
「いやー、根付さんからお前にとある部隊の指導してほしいって」
「俺以外でよくないっすか、それ。部隊の指導だったら、作戦たててる太刀川さんの方がいいでしょ」
太刀川隊の作戦は隊長である太刀川慶が全てたてている。大学のレポートはあまり書かないし高校生時代はよく赤点をとる不良生だったが、隊長としては限りなく優秀なのである。
「いやー、それがさ、その部隊、拳銃二丁タイプの銃手二人なのね」
「あー、なるほど。それは確かに俺が適任っすね」
銃手の中で、拳銃タイプを二丁扱ってる隊員は少ない。主だっている隊員で言うと太刀川隊の切島と唯我、弓場隊の弓場隊長ぐらいである。
「で、その子達、いつ来るんですか?」
「今から」
「は?」
「失礼します」
太刀川が質問に答えたと同時に作戦室の扉が開かれる。そこに立っていたのは2名。
「B級の茶野真です。こちらが」
「同じくB級の藤沢樹です。指導してもらえると聞いてきたんですが」
「太刀川さん…はあ、まあいいです」
「お邪魔でした?」
「いや、全然。悪いのはこの伝えなかった隊長だから。あー、この部屋散らかってるし、君たちのほうの作戦室で話聞くから待っといて。鍋食い終わってからすぐ行くから。今、〆のラーメン食ってるところだから大体10分後くらいに」
「わかりました。ありがとうございます」
自身の皿にある肉や野菜をかきこみ、鍋の中にあるうどんひと玉分を急いで腹に詰める。
「じゃ、いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
「戻ってきたら、また指導だからな、唯我ァ!」
「なんで!?」
茶野隊の作戦室は太刀川隊と比べてだいぶ片付いており綺麗な部屋であった。
「うおっ、綺麗」
「ありがとうございます。で、来ていただいた件なんですけど」
「指導してもらいたい、だったね」
「はい。実はこの前のランク戦見てて」
「あーなるほど」
どうして自分に雄株が回ってきたのかがわかったところで、
「君たちは俺に何をしてほしい?」
「何とは?」
「部隊を上にしてほしい、だったり、銃の扱い方を教えてほしいだったり」
「部隊をもっと強くしてほしいです」
「ふーん、なるほど。じゃあ、君たちのトリガー構成を教えて」
言われた通り、茶野は説明する。拳銃タイプで使う弾はアステロイドとハウンド。あと、入ってるのはシールドとバックワーム。
これに切島は頭を抱える。
「なるほど…厳しい言い方になるけどいい?」
「は、はい」
切島の言葉に茶野と藤沢は唾をごくりと飲む。
「エース隊員を一人入れろ。それが一番早い」
単純明解な回答であった。しかし、言うは易く行うは難し。B級下位である茶野隊に入ってくれるエース級の隊員はいない。
「それが難しい、ってのはわかる。ただなぁ、他の手段で言うと…うーん、そうだな。君たちはなんで拳銃型を使っているの?」
「なんで…?」
「そう、ボーダーの中で拳銃型を扱っている銃手は少ない。さらに二丁使っている銃手はさらに少ない。理由はわかる?」
茶野隊の二人はしばらく考えたが諦めたように
「すみません。わからないです」
「だったら、質問を変えよう。銃手の基本スタイルってわかる?」
「射程を使って戦う、ですか?」
「そう、その通り!じゃ、なんで拳銃二丁があまり流行らないか、というとそれより突撃銃一丁のほうが断然と使い道があるからだ」
「?あまり変わらないのでは?」
「いや、大分変わる。拳銃型と突撃銃型の違いは射程。拳銃型は射程を削って威力に振っている。だが、それでもシールドを破壊できるほどの威力じゃない。突撃銃同様に連射して削らないといけないんだけど、射程の短さ的に攻撃手の攻撃範囲に入ってしまう」
「なるほど…でも、切島さんはこの前のランク戦でシールドを割っていたような気がするんですが」
うーん、と悩みだす切島。確かに切島は前のランク戦でシールドを割った。
「言いにくいならいいですけど…」
「いや、大丈夫よ。言ってもマネできんやろうし。俺の銃、実はメインとサブ、少し仕様が違う」
「仕様が違う?」
「メインのほうは通常のタイプと同じだけど、サブのほうは威力を削って弾速に振ってるんだよね」
「なるほど…でも、それは」
「ここだけ聞いても意味分からんと思う。だけど、実際、関わってくるんだよね。簡単に言えば、弾を弾でブーストしてる」
「は?」
「弾に弾をぶつけて押すことで威力を上げてるんだよね」
「そういうことなんですね、確かに真似できなさそう…」
実際、このやり方を一目でわかったのは、風間隊と東さんのみ。それくらいわかりづらい妙技であり、安易に真似できるようなものでない。
「まあ、銃手でも一人でガンガンとる人はいるんだけどね。二丁拳銃だと弓場さんかな、やっぱ」
弓場の拳銃は射程と弾数を削ることにより威力と弾速に特化している。その分、扱いが難しい。
「やっぱり厳しいですか…?」
「いや、もう一つ方法があるんだけど、嵐山隊の戦い方ってわかる?」
「はい、わかります」
「嵐山隊はテレポートを使ってクロスファイアで相手の逃げ場を断ちながらシールドを削りきる、っていうエグい戦法なんだけど」
「逃げ場をなくす…」
「そういうことだね。これがなかなか凄い。逃げれないからシールドで防ぐしかないんだけど、段々とヒビが入って最終的に割れて銃弾が降ってくるっていう軽いホラーなんだけど」
「わかりました!ありがとうございます!」
「んじゃ、実践あるのみだな」
「え?」
訓練室に茶野隊を無理やり詰め込み、切島も入っていく。
両者ともにトリオン体に換装したところで、
「よし、じゃあ、戦ってみようか」
「わかりました」
ここにB級16位茶野隊VSA級1位太刀川隊所属切島司の戦いが幕を開けた。
数分後、
「ま、負けた」
「さすが、A級1位…」
ぼろぼろな茶野隊に対し無傷な切島。
「嵐山隊の戦法を取り入れようという考えはわかるんだけど、連携があまりに拙い」
茶野がまわり込もうとすると同時に藤沢も動くという最悪なパターンであった。
「嵐山隊とお前らの違いは圧倒的な連携力の差だ。こればっかりは実戦あるのみやしなぁ」
「なるほど」
茶野は自分の考えが幼かったことを悟る。正直に言うと、訓練室に入れられたとき、なんで、という気持ちだった。しかし、戦ってみて、わかった。見通しが甘すぎることに。
「なるほど、問題点がわかりました…失礼かもしれませんが、これから連携の練習に付き合ってもらうことって…」
「構わないけど、ちょっとまって」
切島は携帯を取り出しとある男を呼び出す。数分と立たないうちに唯我尊がやってきた。
「ぜーはーぜーはー。3分以内にこなかったら千本勝負ってないでしょ…」
「お、よくきた。こいつはB級より弱いやつだけどお前らよりは強い。こいつ相手に連携の練習をしろ」
「え、嫌ですよ!ボクの本領は部隊戦なんです!」
「テメェの本領じゃねぇよ、それは。さっさと換装しろ、バカ」
「嫌だ〜!!」
「はっはっはっ、残念だったね、茶野隊の諸君。A級の実力は君たちにはまだ早かったようだね」
「やかましい。蜂の巣にすんぞ」
茶野隊× × × ×○○××○×
唯我尊○○○○××○○×○
「今日はこれくらい?」
「いや、あと10本お願いします」
「唯我ー、もう10本。あと、今日から訓練、茶野隊との模擬戦にするから」
「構いませんよ。後輩の成長を促すのもまた先輩の役目ですので」
その言葉にイラついた切島はノータイムで唯我を撃ち抜いたのだった。
切島司
ポジション:銃手
トリオン…7
攻撃…6
防御・援護…7
機動…7
技術…10
射程…5
指揮…4
特殊戦術…6
トータル…51
トリガー内容
メイン…拳銃:アステロイド、孤月、旋空、シールド
サブ…拳銃:アステロイド、グラスホッパー、バックワーム、シールド