パワフルプロ野球ポケット 〜両利きのエース〜 作:人類種の天敵
俺の名前はパワ村風太郎。
父の影響か、物心ついた時から野球が大好きだった俺は、地元のパワフルリトルに幼馴染みと共に入団した。
「悪いなパワ村くん。でも、監督の言うことは絶対だから。これから聖の相棒はボクだ」
「すまない……パワプロ」
幼馴染みの六道聖と一緒に小学4年生でリトルに入団して5年生の進級と同時にパワフルリトルのエースになった俺は、夏前に突然入団してきた新顔の鈴本大輔にチームのエースの座も、相棒すらも奪われ、いつしか二番手ピッチャーに甘んじていた。
(くそっ!今に見てろよ、鈴本。エースも聖ちゃんも、必ず実力で奪い返してやる!)
そう奮起した矢先ーー。
「母さん!パワプロ!!父さんの会社、倒産しちゃったよーー!!なんちゃって!全然笑えないけどね!」
「は?」
「これから父さんの実家に家族で引っ越しになる。父さんの親父、お前にとっての祖父ちゃんのパワ村英作はパワフル村で農家を営んでいるからその仕事を手伝うことになる。パワフル村のパワ農って言えば結構有名だぞ?」
「は?」
「もうお前のリトルの監督さんにも話と手続きはしておいたから、2日3日で荷物を纏めて、直ぐにこの街を出るぞ」
「は?」
見渡す限りの山と段々畑、曇りない晴天、眩しすぎる太陽。
都市部から離れて何時間、山に入って何時間、半日以上車を走らせたその先に、パワフル村はあった。
「着いたぞ!ここがパワフル村だ。ーーっ、んーーー!!やっぱ田舎は空気が上手い!お前も久しぶり過ぎるか?はっはっはっは!」
「私先にお義父さんに挨拶してくるから、パワプロはその辺散歩しなさいな」
「………………………」
結局父の会社が倒産してしまい、鈴本とエース対決をすることもできず、聖ちゃんやチームのメンバーにお別れを言うこともできず、何処とも知れない、ど田舎の圏外村に引っ越すことになってしまった俺は、魂の抜けた抜け殻のように呆然としていた。
「………」
「とうさーん!あれ?オヤジー!!いないのかー?」
「おお、帰って来たか。馬鹿息子、とっとと荷物を置いて仕事を手伝え。ん?そのユニフォーム…お前の子供も野球をしてるのか?」
「ああ、地元のリトルにね。そうだパワプロ!お前の祖父ちゃんのパワ村英作は昔甲子園で活躍して神童なんて呼ばれるほどの投手だったから、この際祖父ちゃんに野球を見て貰ったらどうだ?なんせ、我がパワ村家は代々野球が好きで好きで堪らない一族だからなぁ」
投げては三振の山、打ってはホームラン。
親父が誇らしげに語る先では英作爺ちゃんが昔の話だと鼻を鳴らして俺を見ていた。
「お前、エースとして男として負けたっつー顔してんなぁ」
「えっ?」
爺ちゃんと目が合って投げかけられた言葉にギョッと驚いた。
図星だった。
鈴本にエースを取られてから、アイツとバッテリーを組み出した聖ちゃんは、練習中は鈴本と投球練習でつきっきりな他、休日に遊ぶ時でもよく鈴本の名前を口にしていた。
『ストレートも変化球もコントロールも一級品だ!私もキャッチャーとしての腕が鳴るものだ。今一緒に開発している変化球があるのだが。うむ、完成が楽しみだ』
彼女が、聖ちゃんが鈴本を褒め称えるほど俺の中のプライドはボロボロに砕かれていった。
彼女の知らない一面をまざまざと見せつけられているようで、幼馴染みの立場も、彼女に抱いていた感情も、全て鈴本に奪われていくようだった。
悔しかった。今の自分じゃ到底敵わない実力を持つ鈴本が。
辛かった。聖ちゃんが、初めて見るような表情を俺じゃなくて鈴本に見せる瞬間が。
妬ましくて、疎ましくて、鈴本を嫌う、そんな自分が嫌で嫌で堪らない。
だから、本当はほっとしていたのかも知れない。
親の都合で田舎に引っ越すことになって、あの2人から離れることが出来たことが。
それに気付いてしまったことで、俺の中にあった自信は、跡形もなく崩れ去ってしまった。
聖ちゃんに対する初恋も、今までの投球フォームも道連れにして。
「………チッ。馬鹿息子。孫は俺が鍛えてやるから、その分お前はしっかり働けよ」
「はは、こりゃ手厳しいな。でも。頼むよ親父。コイツも急な引越しでまだ心の整理がついてないだろうし、野球に打ち込めるならその方がマシだろう」
「それだけだったら良かったんだろうが。コイツは随分根っこが深ぇや。おう、先ずは走らせて走らせてスタミナを付けさせることにすっか!」
こうして英作爺さんのもと、俺のパワフル村での野球人生が始まった。
「オラ走れ!今のお前に必要なもんは投げて投げて投げまくれるスタミナだ!どうせ田舎に練習設備なんてねーんだ!その代わり走れる土地ならアホほどあるからな!遠慮なく走って走って走りまくれ!」
と言ってもパワフル村は呆れれほどのド田舎。
それに加えて英作爺さんはここら辺の土地をほぼ所有しているようで「ぐるっと見回したとこは俺の土地」と言った通りとにかく土地が広い。
その中を朝も昼も夕も夜も走れと言われるのだから溜まったもんじゃなかった。
でもそのお陰で走ることに必死で鈴本のことも聖ちゃんのことも少しの間だけ忘れることが出来た。
「ああ?ピッチャーの癖に投球フォームを忘れた!?俺の投げ方を教えてくれえ!?カァー!!ンなもんこの大自然の中で見つけろぃ!探してみりゃ至る所にヒントは隠れてるぞ!畑仕事に動物に自然に!お前だけのフォームを探してみるんだよ!」
はっきり言って英作爺さんの教育方針はスパルタであり、半ば放任主義だ。
そりゃあ、昼間は畑仕事があるにせよ、馬鹿広い土地を走り回らせてその途中で投球フォームを見つけて来いって、その昔神童と呼ばれた伝説的ピッチャーのやることかよ!?
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……こ、こんなんでほんとに鈴本を超えるピッチャーになれんのかな??」
走り続けて何ヶ月が経つ。
スタミナが付いて余裕が出来てくると、英作爺さんは足に重りを着けて走らせるようになった。
重い、辛い、苦しい。
毎日死んだようにベッドに眠り込む日々、割とスパルタで有名なリトルでの練習が可愛く思える英作爺さんのこの特訓に不安を抱きながらも、今の俺にはこれしか無いんだと走り続けしかなかった。
「振り上げて、振り下ろす。言葉にすりゃ簡単だがその途中にこそ意味がある。振り上げるときの姿勢、肩、腕の位置、腰、足の踏ん張り、目線。振り下ろす瞬間の重心移動はスムーズか?そういう気付きが未来のエースを作るんだろうさ」
学校がない休日は畑仕事を手伝わされたり何処そこに連れて行かれたり、でもそう言ったものに目を向けろって口酸っぱく言う爺さんに従って、俺は俺の投げ方を見つけるべく頑張った。
「鍬を、斧を振り下ろすことに、力は要らない。最後の一瞬だけに力を込めるんだ」
「呼吸からリズムを作る。周りが聞こえなくなるほどの集中を」
「イメージは鉈……いや、鍬で畑を耕す様に……」
「草刈り鎌で雑草を、根元を刈り取る様に。低く、低く……」
気付けば小学校を卒業していた。
中学生になり、その年の夏に英作爺さんと3打席勝負をして、その三つともを場外ホームラン張りにかっ飛ばされた。
「打たれたお前が拾っとけよ」
「何処まで飛ばすんだよ!?爺さん今年で何歳だ!?」
お前のへなちょこピッチングなら力じゃなくて技術で十分だとドヤ顔の爺さんに若干の恐怖を抱きつつ何処かへ行った硬球を探して山の中に入る。
野生動物に会わないうちに探してしまおうとするが何処にも見当たらず、周りの景色も徐々に暗くなっていくので焦っていると、近くの茂みからガサゴソガサゴソと音が鳴る。
「ヒィエッ!?だ、だだだ、誰だ!?」
熊か!?猪か!?はたまた何だ!?威嚇のつもりでバットを振り上げて音の発生源を見るも、茂みの中の何某かは一際大きな音と黒い影を残影にして何処かへと飛び去っていく。
「さ、猿か?……ん?」
木々の向こうへ消え去っていく影からぽろっと白い球体が3つ。
あの爺さんがかっ飛ばした硬球だ。
「こんなところに落ちてるなんてツイてる!やった!」
もうこんな所に用はないとさっさと家まで踵を返して家まで帰った。
そんな俺の後ろ姿を、木々の隙間から見ている人影に気づかないまま……。
それから、秋に入って……しんと静まる田舎道を帰る途中、不意に猫と戯れる少女に出会った。
黒髪のおかっぱの、黒い服を着込んだ、肌の白い少女だ。
100人が見れば100人が美少女と言うだろう美しさ……綺麗と言うよりは可愛い系の小柄な少女だ。
どことなく幼馴染みだった聖ちゃんに似た雰囲気を感じて、俺は彼女に目を奪われてしまった。
こんなド田舎でこれほどの美少女が?と疑問になるが、その辺の野良猫の腹を撫でる手つきはとても様になっている。
「……美味そう」
「いや、食うなよ?」
予想外すぎる言葉につい口が出てしまった。
振り返ってこっちを見つめる少女にウッ、と今更ながら挙動不審になる。
(なんてこった!思いの外可愛過ぎてヤバい。大丈夫か俺、変な顔してないよな?)
とりあえずニコニコと笑って見るものの、少女は猫に視線を戻し、猫を可愛がっている。
見てるだけで癒される様な光景がーーーー。
「……スキヤキにしよう」
「いや本当に食べないよな!?」
……少女の続いての言葉に俺もまた突っ込まずにはいられなかった。
その後少女が、「名前」と言って、猫が鳴いて返事をするのを聞いて、ああ、その猫の名前をスキヤキにするって意味ね。と解釈した俺は、それにしてもスキヤキが名前ってどうよ?と内心首を傾げざるを得なかったが。
「……それじゃあ」
「あ……ちょっと待って」
その少女は、ふらりと姿を消した。
夜空に溶け込む影の様に、周囲を見渡したとして、彼女のあの美しい白い肌も、吸い込まれるような翡翠色の瞳さえ見つけることは出来なかった。
「何だったんだ……あの子」
名前、聞いておけば良かったな。
狐に化かされたみたいで今日のこと出来事を両親や爺さんに言って聞かせようとは思えなかった。どうせ、信じないさ。
夏を過ぎる頃、中学一年の秋。
俺は、彼女に出逢ってしまったんだ。
パワ村風太郎
主人公。エースになって早々に鈴本くんにエースと聖ちゃんを奪われる。
圧倒的な実力の差、しかし鈴本くんには秘密が……。