知り合いだと思われたくない。
街の中を走り抜けるトマト野郎の後ろ姿に対して俺が思うことと言ったらそんなことだった。
大方ギルドの職員との会話で時間をくっているのだろう。
「神様、今帰りました。」
「おかえり!べ…テッド君。」
傍から見ると清々しい程テンションの落差が分かる。
今にも飛びつく様な格好から露骨なほどの落ち着きようだ。
嫌われているわけでは無いだろうが、やはり元々の期待値が大きかっただけに残念だったのだろう。
「いや〜、よく無事に戻ってきたね。それでベル君はどうしたんだい?
朝は一緒に出て行っていたよね。もしかしてはぐれたのかい!大変だ!そしたら…」
「落ち着いてください、神様。クラネルとはダンジョンに入ってから別れたんですよ。」
「初心者が別行動をとるなんて何を考えているんだ。もし何かあったらどうするんだい!」
会話をしていて思うがこの
知識で知っていても引く程だ、何も知らずに会話をしていたとすると、流石の俺でも一緒にいるのは耐えられなかったであろう。
「大丈夫ですよ。最初に二人で2階層までのモンスターを一通り狩って安全を確認してから別行動に移りましたから。
例えば調子に乗って深くまで潜っていない限りそんなに危険はありませんよ。」
「だといいんだけど…」
と、そんな話をしていると当の御本人が帰って来た。
クラネルが死にかけたなんて話したときは、鬼の様な形相をして睨んできたもんだ。
んでまぁ、話を聞いていると、仮にも神ともあろうものが揚げ物屋でバイトときた。
「クラネル、君はそんなミノタウロスがでるような下層まで降りていったのかい!?」
「いや、流石にそんな下層まで行きませんよ。5階層までしか降りてませんよ。」
「はぁ、それでも二人で潜った所より3階層も下じゃないか。
今の君はヘスティアファミリアの数少ない家族なんだ。命をもっと大事にしてくれよ。」
確信は持っていなかったとしても、近々ベル・クラネルが命の危機に瀕する事になると知っていながら、何も言わなかった男の言いざまでは無かった。
しかしテッドにとっては、安全マージンをとれていないにもかかわらず、次へ次へと進んで行くことは自殺行為でしかなかった。
そんな馬鹿としか言いようのない行動で死ぬのならばテッドとしては自業自得でしかなく、もしベル・クラネルに対して愛情を抱いていたとしてもその死を悲しむ事はなかっただろう。
テッドにとって英雄に憧れることは何ら悪ではない。
しかし何の計画性もなく、ただ運と一時のテンションに任せて行動する事は、英雄に憧れての行動では無く、行動している自分に酔っている気持ちの悪いナルシストにしか映らないのである。
しかしそんなテッドであってもベル・クラネルに対して向ける感情は違った。
物語の主人公として決められた人生以外を他のモブ達とは違い、絶対に歩む事ができないと認識していたからである。
なのでテッドにとって、今回の事件でベル・クラネルが死ぬのだとしたらそれはそれで良かった。
もし死ぬのなら物語の主人公にもなれなかった出来損ないの馬鹿の屍が1つできるだけであり、死なぬのだとしたら決められた人生を歩むだけの哀れな道化であったというだけである。
よってテッドが今回の様にベル・クラネルを助けようと行動する事は決して無いであろう。
テッドにとっては特別に哀れな存在を見ることができ、下らない自己の優越感を満たすことが出来るのだから。