今年もよろしくお願いします。
95話です。さあ、いってみよう。
「久しぶりのトリタンですよ」
「……」
うわ、変な人だ。関わらんとこ。
そう思った俺は変な人の横を通り過ぎ……
「ちょ、無視は純粋に傷付きますよ!?」
ることは出来なかった。
「……ああ、トリスターノか。キヅカナカッタワー」
「絶対嘘ですよね!?」
「おう」
「いや、認めるのもどうかと思いますよ!何でそんな塩対応なんですか。数話ぶりのトリタンなんですから、もっとテンション上げてくださいよ」
「だりぃよ。そのテンションだりぃよマジで。数話ぶりって言うなら、ゆんゆんもそうだろうが。そろそろゆんゆんのターンだと思ってたよ」
「残念ながら親友のターンです。というか最近出番が少なすぎますよ。前の章も一人でパラメデスを倒しているとはいえ散々でしたからね」
「何さりげなく自慢してんだよ馬鹿野郎」
「事実ですから」
ドヤ顔をするな。
これだからイケメンは。
「ところで街の警備はもういいんですか『エリス教の狂戦士』さん?」
「お前まで変な呼び方するんじゃねえよ。というか俺はエリス教じゃねえし」
「あれだけ活動してるのに…。リーダー自身も有名ですけど、何より『狂戦士』という職が珍しいですからね。アクセル周辺の幾つかの街を含めてもリーダー一人ぐらいでしょうから職で呼ばれるのは無理もないでしょう」
「はいはい、変な職についてすいやせんでした」
「レアな職ですよ。確かに珍しいとは思いますが、私はそこまでレアだとは思っていません。円卓の騎士にも狂戦士はいましたから」
「へえ、それは初めて聞いたな」
「モルドレッド。彼は円卓の騎士で唯一の狂戦士でしたよ。グレテン軍の切り込み隊長でしたね、彼を援護するのは大変でした」
少し懐かしむような表情でトリスターノが言った。
あまり詳しいわけではないが、モルドレッドは叛逆の騎士だとか裏切り者だとかで有名だった気がするが、こちらの世界ではどうなんだろう。
「まあ、彼のことはどうでもいいんですよ。街の警備はいいんですか?」
「……休み無しでやってたし、一日目の祭りはそろそろ終わりだから早めに上がらせてもらったんだよ」
日が沈み始めて、街は暗くなり始めていた。祭りでまだ活気はあるが、そろそろ客側は帰り始める時間だ。運営側は片付けやら次の日の準備やらでまだ大変そうだが。
「なるほど、私に会いたくて会いたくて仕方がなかったと」
「寝言は寝て言えこの野郎。ゆんゆんに会いたかったに決まってるだろ。というかゆんゆんを見なかったか?ゆんゆんのことだから警備中でもチョロチョロ後を着いてくるかと思ったんだが」
友達は出来ても祭りに誘うのはゆんゆんには少し難易度が高そうだ。
「ゆんゆんさんならめぐみんさんと祭りを周っているのを見ましたよ」
ああ、めぐみんに連れられたパターンね。それなら想像がつく。
「そうか。楽しんでるならよかった」
三日目の花火大会だけは絶対に一緒に行くと約束しても、ゆんゆんは納得してなさそうな顔をしていたから心配だったが、これならあまり怒ってないかもしれない。
「リーダーは楽しかったですか?」
「仕事してたのお前も知ってんだろ」
嫌味かこの野郎。
そう言ってやろうと思ったら、先にトリスターノが口を開いた。
「ヒナさんとはまだ喧嘩中ですか?」
「……」
言葉が引っ込んだ。
何を言えばいいか分からずに俺は目を逸らす。
「この一ヶ月ずっと寂しそうでしたよ。何も言ったりはしませんでしたが」
「……色々あってな」
「リーダーはいつも色々ありますね。異世界とか転生とか能力とか天界とか、親友でもないとついていけませんよ?」
ぐうの音も出ない。
まさにその通りだ。
ヒナが天使になってしまった時、トリスターノに俺やヒナの事情を話すことになった。
トリスターノは難解そうな顔をしつつも俺の話を黙って聞いて、それから信じてくれている。
「それも悪かった。アホみたいな話だろ?当人である俺でもそう思うんだからわかってくれ」
「……まあ最初は私も魔王軍幹部の側近とかいうアホみたいな話をしましたからいいですけどね」
そういえばそうだった。
あの時から一年も経ってないのに、それ以上の年月が経ったような気がするほどの懐かしさだ。
「にしてもそれはないな。なんだよ魔王軍幹部の側近って」
「リーダーの事情に比べたら些細なことですよ。私の方はまだ近いニュアンスなので」
「お前のニュアンスどうかしてんだろ」
お互いの軽口に顔を見合わせると、なんとなく可笑しく感じてしまって吹き出してしまった。
トリスターノも堪え切れずに笑っていた。
「なんか懐かしく思ってたら色々思い出してきた。お前あの打ち明け方は無いぞマジで」
「いいえ、あの打ち明け方でよかったんですよ。リーダーを絶対に逃がすまいと畳み掛けたのがかなり効果的でした」
「ふざけんじゃねえよこの野郎。まったく、あの時は現実逃避しか出来なかったよ」
「こっちもびっくりしましたよ。次の日会っても何事も無かったように挨拶してきた上に、態度もまったく変わらないものですから。この人はかなりの大物だろうと確信しました」
「うるせえ、相当な小物で悪かったな」
道すがら笑い合いながら懐かしい話をした。
あの時は生きるのに必死すぎたし、トリスターノの事情なんか俺には荷が重すぎたから現実逃避するしかなかった。
「いえいえ。リーダーと会ってからは驚きの連続ですよ。あり得ないほど低いステータスにスキルすら知らない世間知らず、それに冒険者カードの扱いまで知らないんですから」
「おいこの野郎。お前達が囲んで俺の低いステータスをバカにしたり、冒険者カードの使い方を教えてきたの今でも根に持ってるからな」
「バ、バカにしてませんよ。ただ、その、少し精神状態がよろしくないのかなーと思いまして」
「バカにしてんだろうが。このっ」
トリスターノを小突くと大袈裟に痛がり始めた。
トリスターノとバカなやり取りをしていると、先程まであったモヤモヤした気持ちが無くなっていた。
なんだかんだでこいつは俺の
「親友。ちょっと飲みたい気分だ、付き合え」
俺がそう言ってギルドを指差すと、トリスターノがポカンと口を開いて数秒固まった。
こいつがここまで間抜けな顔を晒すのは珍しい。
「なんだよ、行きたくないのか?付き合い悪いぞこの野郎」
「………い、いえいえいえいえ!行きます!行かせていただきますとも!で、ですのでもう一度!もう一度今のセリフをお願いします!」
「なんだよ、行きたくないのか?付き合…」
「いや、そっちじゃなくて!」
「先入るぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!もう一つ前のセリフですって!」
「さあ、お願いします。もう一度親友と…あ、いや待ってください。録音の魔道具を買ってきてからでお願いします」
「気持ち悪いからやめろ」
「親友に気持ち悪いとは何ですか!」
「親友でも気持ち悪い時は気持ち悪いんだよ馬鹿野郎!」
「とうとう否定もせずに言葉にするようになりましたね。とうとうフラグが立ったと」
「本当に気持ち悪いなお前」
先程注文した酒が届いて、二人でカチンと音を鳴らして乾杯した。
「親友に乾杯」
「はいはい、乾杯」
俺達はごくごくと喉を鳴らして一気に飲み干して、その勢いのまま、また注文をした。
「これが親友一気ですか」
「お前いつにも増してウザさと気持ち悪さが振り切ってんだけど」
「もうツンデレはやめてください。今日はデレの時代ですよ」
あーもう呼ぶんじゃなかったなこれ。トリスターノが変なテンションになってるよ。今更どうしようもないが。
すぐに来た二杯目をまた半分くらい飲み干した。
「二杯目を飲んでおきながら聞くんですけど、来てよかったんですか?ゆんゆんさんお怒りでは?」
「もう怒らせてるし、ゆんゆんもめぐみんも親友との時間も必要だろ」
「なるほど。確かに親友との時間は必要ですね、ええ」
うんうんわかるわかるみたいな感じで何度も頷くトリスターノに俺は続けた。
「それに」
「それに?」
「何かあったらトリスターノに飲みに誘われたって言うし」
「いやいや!ちょっと待ってくださいよ!それ怒られるの私じゃないですか!」
「おう」
「何でそんな力強く頷いてるんですか!勘弁してくださいよ!というか実際は逆じゃないですか!」
「実際は、とか重要じゃないから。怒りの矛先が少しでも分散してくれる方がありがたい。だから誘ったんだよ」
「いや、ぶっちゃけすぎですよ!純粋に喜んでた気持ちを返してくださいよ!」
「馬鹿野郎。気持ちや言葉ってのはな、出しちまったらもう戻すことは出来ないんだよ」
「ちょっと良い話風にしないでください!」
「ゴクゴク。とりあえず親友ってのはアレだよ。良い面も悪い面も知ってるからこそだ。だから日本では親しい友と書いて親友なのさ」
「おお…。それはなんだか凄く良い話を聞いた気がします」
トリスターノが感銘を受けたような顔で俺を見てくる。
飲み終わってジョッキを机にドンと置いてから俺は飲み切った勢いに任せて言い切った。
「だから俺になんか不利なことがあった時に一番最初に名前が出てくるのがお前ってことだ!」
「一気に悪い話になりましたね!?」
「お前のことは何があっても忘れないよ……ゲフッ多分」
「いや、最後!最後ゲップしながら多分って言うの最悪すぎますよ!というかこの先私に何があるんですか!?そこまでのことが起こるなら名前出さないでくださいよ!」
「それは無理だ!親友だから!」
「い、言われて嬉しいのが悔しい!」
複雑そうな顔をして飲み切ったトリスターノはジョッキをトンと机に置いた。
俺は店員さんを呼んでトリスターノの分も注文すると、なんとなく既視感のようなものを感じた。
それを何か考えていると、トリスターノと目が合うと深く頷いてきた。
俺が疑問に思っている間にトリスターノは行動に移った。
「店員さん」
「はい、何でしょう?」
注文を聞いていた店員さんにトリスターノは呼ぶと、店員さんは少し顔を赤らめて首を傾げた。
「カップル割は、ありますか?」
お、おい、まさか既視感の正体は……この店員さんか…っ!?
やめろ、その終わり方は封印したはずだぞ!?
「……カップル割はありませんが、カップルだと私に証明してくだされば、一杯ずつサービスしましょう!」
期待を込めた眼差しで俺達を見てくる店員さんに気を取られていると、俺の手を取り恋人握りをしてくるトリスターノが顔を赤らめて、店員さんを見ながら続けた。
「これでどうでしょうか?」
俺が強烈な気持ち悪さを感じて、すぐにトリスターノの手を振り払った。
店員さんは鼻血を出しながら、サムズアップとウインクをしてきた。
「ナイスカップル!!約束通り一杯ずつサービスしますね!」
な、懐かしい話をしたら、懐かしいオチを持ってきやがったあああああああああ!!!!