96話です。さあ、いってみよう。
「やあ」
「よお」
「こんばんは」
トリスターノとギルドで飲んでいると今日一日中見なかった奴が姿を現した。
短い挨拶を交わしたのは銀髪の男だか女だか分かりづらい盗賊のクリスだ。
「祭りにいたのか。警備してたのに全然見なかったから、来てないと思ってたよ」
「ああ、うん。色々あってね…」
疲れ果てた顔で遠くを見るクリスを見るになにか厄介事だろうと思い、関わりたくない一心で聞かずにいた。
だがクリスは俺が座っている隣の席に座ると、口を開いた。
「何で祭りで見かけなかったのか聞きたく…」
「ない」
「なんでさ!聞いてよ!」
自分から言うのかよ。
トリスターノが聞いてあげましょうよと言ったせいで、クリスが今日何をしていたのかを不幸感を漂わせながら語り出した。
クリスは酒を注文し、ヤケ酒気味に飲みながら語るせいで長くなったので、短くまとめてしまうと今朝アクアに捕まったせいでアクア祭りの方の手伝いをやらされていたらしい。
「そんな短くまとめないでよ!大変だったんだから!」
「モノローグのところにツッコミ入れてくるんじゃねえよ」
「まあまあ。幸運値が高いクリスさんとは思えないレベルで不幸でしたね」
「そうだよね、トリタン!最近のヒカルは冷たいよ。あたしのセリフをこんなにカットするなんて」
「別にカットしたのは俺じゃない。というか何でお前が来るんだよ。そろそろゆんゆんのターンだと信じてたんだよ馬鹿野郎」
「残念あたしでしたー!これからしばらくあたしの愚痴に付き合ってもらいまーす!」
酒を入れて酔ってきたのか頬を少し染めてハイテンションに宣った。
俺がため息をつき、トリスターノが苦笑する中、クリスは語り始めた。
そしてクリスの愚痴は一時間ほど続いた。
というか、まだ続いてる。
「それでね…」
「おい、もうその焼きそばのキャベツ担当にされた話は三回目だぞ」
「違うよ!一回目はカズマくんやアクアさんにキャベツを切る役を押し付けられた話で、二回目はキャベツが頭突きしてきて逃げられた話。これからのは…」
「あーはいはい」
酒をどんどん飲みながら語るせいで、何回か同じ話をされた気がしたので聞いてみたら、どうやら少し違う内容だったらしい。
アクシズ教徒が屋台を出してた区画では詐欺紛いの屋台を出していて、それを止めようと考えたカズマは自ら屋台を始めた。
カズマは少し前に料理スキルを取得していて、そのスキルでソースを作り出すことに成功した結果、日本のお祭りの屋台で絶対に一つは見かけるであろう焼きそばの屋台を始めたのだった。
そしてその焼きそばを効率良く作るために役割分担をして、見事クリスはキャベツを切る係を押し付けられた。
この世界において、野菜を調理する=戦いだ。
この世界の野菜は動くし、この世界の料理の基本の基本は食材の生死の確認をすることだとも言われているほどだ。
もし生きていたら逃げられたり、反撃されたりして最悪怪我をする。
というか俺は怪我をした。
まだ俺が弱くて、俺達が一緒に住み始めた頃に野菜から反撃を食らい、ヒナからは野菜を逃したことで説教を食らった。
まとめるとクリスはそんな役割になってめちゃくちゃ大変だったから、こうしてうるさく愚痴ってるわけだ。
でも俺だって今日は大変だったんだ。
そろそろゆんゆんに今日の疲れを癒やしてもらいたい。
悪いが、ここはトリスターノに押しつけて逃げよう。
「俺ちょっとトイレに…」
「逃しませんよ」
「どこ行くのさ」
まるで考えが読まれたように、二人に両手をガッシリ掴まれて動けなかった。
「ト、トイレぐらい行かせろよこの野郎!おい、てめえ空のジョッキ渡してくんじゃねえよ!ここで出せってか!ざけんな!」
「これに出していいから、ついでにシュワシュワ注文しといて」
「俺の搾りたて飲ませんぞ馬鹿野郎!てか離せ!わかったよ、行かねえよ!行かなきゃいいんだろ!」
「そういえばYAKISOBAの前の話したっけ」
トリスターノは手を離したが、クリスは手を離さないで続きを話し始めた。
「いいから離してくんない?」
「
「手を離せって言ってるんだよ、この酔っ払い」
「ちゃんと聞いてくれる?」
「ずっと聞いてただろうが」
「逃げない?」
「逃げないから離せ」
目をウルウルしながら上目遣いで見てくるクリスに少しイラッとしつつも逃げないと答えた。
そこまで言うと、クリスはやっと手を離した。
俺がクリスを意識なんてするわけないだろ、俺はこれの正体も本性もだいたい知ってるのだから。
そして愚痴は続いて更に一時間が経ち…。
「あたしのせいで一人のエリス教徒が、ぐすっ、エリス様嫌いだって、ひっく、ふええぇぇぇ…」
「あーもうめんどくせえよ。今日は真面目に働いてたのに何なのこの仕打ち」
「な、慰めてあげましょうよ。クリスさん、泣かないでください」
クリスは昼間のことを思い出し、そして酔いも回りまくって泣きながらも語り倒していた。
俺は俺で隣で泣き喚くクリスを呆れた目で見て愚痴を零し、トリスターノはクリスを慰めるべく話しかけていた。
クリスがアクシズ教の屋台を一つ手伝った結果、一人のエリス教徒がアクシズ教に改宗したらしい。
結果部分はかろうじて聞こえたのだが、泣きながら話すせいで、ほとんど聞こえなかった。
そのせいで何の屋台かもわからん。
これまでの話を聞いて、クリスの正体を知っている俺は呆れるしかない。
「最近は良いこと無いよ!今日はずっと手伝わされるし、少し前はヒカルが手伝ってくれないせいで神器の回収に失敗するし!」
「おい、声大きいぞ!あと俺のせいではないだろ!」
「クリスさん、一度落ち着きましょう!水でも飲んでください」
トリスターノに渡された水を飲むと少し冷静になったのか、クリスは泣かなくなった。
「トリタンは盗賊……団のこと知ってるんだよね?」
「ええ、まあ」
クリスは一応盗賊団とはハッキリ言わずに聞くと、トリスターノは少し言いづらそうに肯定した。
俺がクリスの誘いを断る時にトリスターノにバレた話や危ないことはしない約束をしたこととかを話したからだろう。
「じゃあ、反対だったんだ?」
「流石に王城に潜入して捕まってしまったら大変ですからね」
「もし危険度が低かったら、どう?」
「それなら考えてみてもいいかもしれませんね」
「ヒカル!話が違うじゃんか!」
クリスが俺を恨みがましい眼で見ながら抗議してくる。
トリスターノめ、そこはもっと反対しろよ。
「というかその話はもう終わっただろ。それに失敗した時の話を聞いたけど、俺がいてもどうしようもなかったと思うぞ」
「同じ盗賊団の仲間でしょ!?」
「違うわ!頼むからもう一回水飲んで落ち着けよ。ここでする話じゃないぞ」
クリスが不満そうに水を飲むのを眺めながら、クリスの神器の回収の依頼を断った時のことを思い出していた。
クリスがヒナの誕生日パーティーで話したいことがあるからと言われて聞いてみると、俺だけじゃなく俺以外のメンツにも神器の回収をお願いしたいとクリスは頼み込んできた。
簡単に言ってしまうと何かあれば力になって欲しいという内容だった。
ヒナは当然YES、ゆんゆんは友達のお願いを断れるわけないのでYES、トリスターノは人が良いのでYESだった。
俺はその時そんな気分ではなかったし、緊急時には無理矢理手伝わされる羽目になると考えていたから聞き流していた。
祭りの日から少し前に神器の回収の話があった。
回収する神器は貴族の館にあった。つまりは盗み出すことになるので、今回声をかけた俺達のパーティーメンバーに協力を要請出来るわけもなく、クリスが頼ったのはカズマと俺だった。
王城に潜入して見事に成し遂げたメンバーだし、当然と言えば当然なのだが、そもそもの話をすると俺は盗賊職ではない。
だから断ったのだ。
足手まといになるだろう、とか色々理由をつけて断ったが、クリスはそれでも俺を保険として引き入れようとしていた。
断る理由はまだある。
前回の王城の時のように国の命運がかかってるわけでも無ければ、メリッサのような新勢力を相手にするわけでもない。
前回は協力せざるを得なかったが、今回に関しては違う。
普通に、と言うと変かもしれないが普通に盗賊二人で貴族の屋敷に潜入して神器をいただいてくればいい。
王城への潜入も途中まではスムーズにやれたのだから何も問題は無いはずだ。
俺の役割は見つかってからが出番なわけだし。
結局俺は行かずに二人で潜入し、見事やり遂げ……られなかった。
回収するはずだった神器は聖鎧アイギスというのだが、その鎧はどうやら自我があって喋るらしく、今の環境を気に入っていたアイギスはクリス達に回収されることを拒否し、貴族の屋敷中に聞こえる声で騒ぎ出したせいで盗むどころではなくなり、回収出来なかったという。
それからと言うもの俺が断ったのを根に持ってるのか、ヒカルがいれば無理矢理回収出来たとか、出てくる警備兵を倒してアイギスを引っ張ってこれたとか、そんな愚痴をクリスに会う度に言われるようになったのだ。
「回収に手伝ってくれる為にクエストだって手伝ったのに…」
「最近の大討伐クエストに何回も同行してたのはそういう理由だったんですね」
「あれはクリスが勝手に付いてきたんだろうが。俺は頼んでないぞ」
「酷いよ!頑張ったし、活躍だってしたのに!」
そうだっけ。
トリスターノと思い付いたアレを試してたことぐらいしかあまり印象にない。
大討伐クエストの時は確か…
季節は夏。
暑いのに一段とやる気のヒナやクリスに連れられて昆虫型モンスターの大討伐クエストに参加することになった。
夏は弱いモンスターが一番活発になる時期らしく、開催を目前にしたエリス感謝祭の為に一匹でも多く狩って祭りが安全に行われるようにしなければならなかった。
祭り以外にも森で大量発生したモンスターを倒さなければならない理由があるのだが、それは割愛しよう。
今回は大討伐クエストということで、多くの冒険者が参加していたが、その中にはカズマ達のパーティーも参加していた。
モンスターをおびき寄せるポーションで釣られたモンスターを倒す。
そんな簡単な作戦ではあるもののスムーズに討伐数は増えていき、モンスターの数が少なくなった頃に空が爆発した。
わざわざ説明するまでもないと思うが、めぐみんが爆裂魔法を放った。
俺達は爆風で地に這いつくばり、昆虫型モンスターは爆裂魔法の余波で倒された。
そこまではよかった。
いや、あまり良くはないが。
その爆裂魔法は森にいた虫型モンスターを怒らせてしまったのか、あるいはその爆発音に釣られたのか百を優に超えるモンスターの大群が迫ってきた。
その大群を見た俺達は散り散りに逃げて、結果残ったのはいつものパーティーメンバーとクリス、それに引率のギルドの職員だった。
「『ワイヤートラップ』!『ワイヤートラップ』!『ワイヤートラップ』!これで少しは勢いは削れるはずだよ!」
クリスは木々の間にワイヤーを仕掛けて、迫ってくる虫型モンスターのストッパーを作った。
どれぐらい保つかはわからないが、有効な戦法だろう。
「クリス、よくやった!ヒナは回復と支援、それと職員さんの警護!クリスと俺は近付いて来る奴を切る!ゆんゆんは『サーチ』しつつ、魔法をぶっ放せ!トリスターノは」
「『アレ』ですね?」
「ああ、『アレ』を使う時が来た」
『アレ』?と俺とトリスターノ以外は首を傾げていた。
トリスターノに準備をするように言うと、即座に準備に入った。
トリスターノは矢が無くなってしまった時、『クリエイト・ウォーター』と『フリーズ』で氷の矢を作り出して打ち出す。
それにプラスして氷の矢の先に空気に触れると爆発するポーションの瓶を仕込む。
俺がポーションの瓶を投げて、トリスターノが射抜くのが今までのパターンだったが、投げた先が微妙だったり、トリスターノが準備出来ていなかったりと諸々の問題があり、それを改善したのが今回考え出した、爆発する氷の矢、『アレ』だ。
まだ試作段階で名前も決まっていないし、改良の余地はいくらでもあるだろうが、今回は良い実験になるだろう。
「ゆんゆん、トリスターノの準備が出来るまで牽制してくれ!」
「わかったわ!『カースド・ライトニング』!」
「トリスターノ、試しにポーション三つ仕込んだ奴も頼む」
「ほ、本気ですか?それこそ話が出た段階ですし、弓で飛ばせるか分かりませんよ?」
「お前ならやれるだろ」
「……了解です」
困惑した様子で聞き返してきたが、俺が平然と言うとトリスターノは不敵に笑い、矢の作成を始めた。
「ヒカル、三時方向からヒトキリが来たわ!」
「人斬り?」
ゆんゆんが魔法で虫の大群を次々と落としてる中、サーチに引っかかったモンスターを報告してくる。
言われた方向を見ると、俺やトリスターノを越える大きさのカマキリが接近していた。
俺が刀を抜くと、警戒する様にある程度距離を置いて巨大カマキリは降り立った。
「ヒカル!ヒトキリはここら辺だとかなり強力なモンスターだから気をつけて!」
ヒナから警告されたが、されなくてもこのモンスターが強いことはよくわかる。
巨大カマキリの鎌はまるで何か名のある武器のように不気味に輝いていた。
ヒナから支援魔法をもらい刀を構えると、ヒトキリは両手の鎌を高く上げて威嚇する様に構えてきた。
読み合いの時間をしている暇はない、俺は地面を蹴りヒトキリの懐へと飛び込んだ。
ヒトキリは鎌を振るい、俺は刀を振る。
鉄と鉄がぶつかる音が数度響き渡った。
「ぐっ!」
確かに強いモンスターだ。
だが今までに相手にしてきたヤバい奴らに比べたら、当然それほどではない。
ないのだが俺は体が竦んで、思ったように動けなかった。
心臓のあたりがチクチクと痛むような、違和感のようなものを感じて集中出来ない。
ヒトキリの鎌が陽の光に反射して光るのを見る度に、パラメデスとの戦いを思い出してしまう。
あの槍が俺の胸に入り込んできた記憶に、痛みに、恐怖に、呑み込まれそうになる。
「こんの、馬鹿野郎がっ!!」
自分に向けて叫ぶ。
動け、動け動け!
何度も鎌との打ち合い、真正面から鎌を受け止める。
そして次の打ち合いは受け止めない。
上から真っ二つにしようと迫り来る鎌をいなして、いなした刀で下段からヒトキリの肘部分を切断した。
黒板を爪で引っ掻いたような音、それがヒトキリの悲鳴だった。
「てめえ、いい加減にしろこの野郎」
今度は自分に向けてではなく、他人へと言った。
ヒトキリがもう片方の鎌を振りかぶろうとしても返事が返ってこないので更に話しかけた。
「早く終わらせろ、クリス」
「あれ?邪魔しちゃったら悪いかなと思ったんだけど」
ヒトキリは声がして初めて後ろに潜むクリスに気付いたらしく、咄嗟に対応しようとしていたが、すでにクリスはヒトキリの細い首にダガーを振っていた。
ヒトキリの首が落ちるのと同時にクリスが俺の隣に着地して、こちらを得意げに見てきた。
「どうも」
「まあまあ、お互い助け合いが大事だからね。この分はこの後の潜入で返してくれればいいからさ」
「俺は行かないって言っただろ」
「またまた〜。って汗すごいね、どうしたの?」
「……なんでもない」
クリスがニコニコしながら俺が神器の回収を手伝う前提で話していたが一蹴した。
それはともかく、こんなので冷や汗をかくなんて情け無い。
気持ちの悪い汗を拭いながらトリスターノの元に行くと、すでに準備は終わっていたらしく、ゆんゆん達の援護をしていた。
「リーダー、準備完了しました」
「了解。じゃあ景気付けにポーション三つの矢で行こうか」
「ええ、盛大にかましてやりましょうか」
ポーションが三つ凍った矢を番えて、ゆんゆんが撃ち漏らしたモンスターの大群を睨み付けるトリスターノ。
その大群より少し上に弓を向けたかと思えば、矢は放たれた。
その矢は当たることが確定しているかの様に飛んでいき、子犬ほどの大きさをしたカブトムシのツノ部分に着弾、そして
ドオオオオオオオオオオン!!!
大爆発を引き起こした。
矢を放ち、その矢が爆発した。
是即ち
「掎角一陣、ってことでいいだろ」(※)
「キカクイチジン?」
「なんでもない。あと残りは?」
「数匹で終わりです」
「了解、さっさと終わらせるぞ」
「活躍してるじゃん!ヒカルを助けたじゃん!」
「人の回想にツッコミ入れるんじゃねえよ。というかあれは助けたっていうより役割の違いだろ」
俺が注意を引き付けて、クリスが倒す。
最初は俺が倒そうと思ったが、ヒトキリの後ろに忍び寄るクリスが見えたので、クリスに倒すのを任せようと思ったがいつまでも倒さないので内心困惑したものだ。
「えぇ〜?なんかあの時辛そうじゃなかった?」
「別に」
「怪しいなー」
クリスが肩に手を置いてダル絡みしてくるので顔を逸らすと、トリスターノが真剣な表情で俺を見てきた。
「何かあるなら言ってくださいね」
「何かあったらな」
これは俺の気持ちの問題だからな。
ところで
「クリス、明日はまたアクア達の手伝いをやるのか?」
「えっ、し、しないよ。明日は流石に…」
自信なさ気に言うクリスを見て、俺は思ったことをそのまま言った。
「なんか手伝うことになりそうだな」
「なりそうですね」
「や、やめてよ!て、手伝わないよ!明日はちゃんとエリス教側の区画にいるから!」
「あー…」
「フラグですね…」
涙目になって否定してくるクリスを見て、俺達は確信していた。
明日の祭りの間もこいつの姿を見ることはないだろう、と。
まさかまさかのクリス回。
ゆんゆん回を書いていたのですが、色々あって先にクリス回を書きました。
※のところがわからない人は気にしないでください。
とある作品の四話の前書きでこの作品の名前が出ていたので、ほんの少しだけお返しした感じです。矢が爆発したので掎角一陣です。異論は認めません(ガチレスされても困る)