98話です。さあ、いってみよう。
祭り二日目。
「ふあああ〜、もう少し寝させてくれてもいいんだぞ」
「お前という奴は…」
「ダクネスさん、本当にすみません…」
俺は大欠伸をしながら呆れる二人に言い放つ。
今日警備し始めた瞬間に昨日のギルドの大喧嘩のせいで警察に捕まり、少し反省しなさいと言われて留置所に入れられた。
俺はこれ幸いとばかりに留置所に入れられた三秒後に寝始めたのだが、こうしてお昼頃に警察の留置所に二人が俺を引き取りに来ていた。
「知らない仲ではないし、日頃教会や孤児院に祭りの手伝いまでしてくれているから出してやれるのだからな」
「はいはい、ララティーナお嬢様」
「ララティーナと呼ぶな!……はあ、もうこんなことはやめるのだぞ。せめて祭りの期間中はな」
「悪かったよ。余計な苦労をかけさせた」
「わかってくれればいい。また祭りの警備をお願いしたい」
「了解」
ダクネスの父親が色々あって仕事を出来る状態ではなく、ダクネスが領主の代行として務めているのだが、アクア感謝祭の影響か祭りの一日目から苦情が殺到しているらしく、昨日から辛そうな顔を見せられた身としては言われたことは素直に従うべきだろう。
そう考えた俺は言われたことはなるべく守るつもりだ。
なるべく。
「ヒカル、僕達昨日すごくシリアスな感じで別れたのに、これは何なの?」
「人生いろいろあるってことだろうが」
「そんなスケールの大きい話なわけないでしょ!」
俺だってまさかこんなことになるとは思わなかった。
ほぼ全員を喧嘩に巻き込んでぶっ飛ばしたのがいけなかったのだろうか、それとも逃げたのがいけなかったのか、もしくはギルドの机と椅子をぶっ壊したからだろうか。
何度かギルドで喧嘩して怪我人を出しても大した問題にならなかったから、捕まるとは全く思っていなかった。
「何があったか分からないが、せっかくの祭りなのだ。警備という仕事があっても祭りは楽しんでくれると嬉しい」
「はいよ」
俺が返事をしながら牢屋から出ると、ヒナがダクネスに向かって頭を下げた。
「お忙しい中、本当にご迷惑を…」
「その話はもうよしてくれ。本当なら二人も祭りを楽しむ立場なのに、貢献してくれているのは本当に助かっているんだ。ただ先程言ったように、もう捕まるようなことはしないでくれ」
「わかった」
「わかりました、でしょ!」
お前は俺のお母さんか。
ヒナが睨んでくるのをスルーしてるとダクネスが微笑ましそうに見てきた。
「では二人とも、引き続き警備を頼む」
「了解」
「はい!」
俺達は留置所から出ようとした時に、なんとなく思ったことをダクネスに聞いてしまった。
「そういえば今日は街を回れそうなのか?」
「……あー、どうだろうな。私としてはそうしたいのだがなぁ…」
老け込んだような顔で言うダクネス。
こいつもクリスと同じようなフラグを残したということは無理そうだな。
ダクネスと別れて、ヒナと祭りが行われている街の区画に戻ってきたのだが。
「なんか人少なくないか?」
「……」
ヒナは俺の言葉を聞くと、不機嫌そうな顔になった。
昨日より半分くらい人がいない気がする。
ガラガラに空いてるわけではないが。
「もしかして祭りの一日目だけめちゃくちゃ盛り上がる感じか?」
「……違うよ」
「じゃあなんだ?」
「……ん」
ヒナが更に不機嫌になった顔で指差したのはアクア感謝祭が行われている方の区画だった。
ヒナが指差した方向へと向かうにつれて、人が増えていき、屋台の宣伝のような人の呼び込みが聞こえてきた。
「なるほどね」
「むぅ…」
昨日とは正反対の光景が広がっていた。
昨日はエリス教側の区画は人で溢れていたが、アクシズ教側はそうでもなかった。
だが今日は区画を分けたその先は人集りが出来ていた。
人が多くて見え辛いが、焼きそばにたこ焼きにかき氷などの屋台が出ていた。
まるで日本の祭りのようだ。
アクアはどうだかわからんが、とうとうカズマが本気を出したか。
この日本風の屋台でアクシズ教側に人が持って行かれてるみたいだ。
「懐かしいなぁ」
焼きそばの屋台から漂ってくるソースの匂いで思わず呟いてしまった。
「……早く戻ろ」
不機嫌そうにしているが、ヒナのことだから日本の食べ物と聞いて食べたくないわけがない。
でもこいつのことだからエリス教徒だし、我慢しなくちゃいけない、みたいな考えになっているんだろう。
「お前も食べたいだろ?俺が二人分買ってきてやろうか?」
「本当!?……い、いや、いいよ。別にお腹空いてないもん」
ヒナはパッと顔を明るくしたが、すぐに我に帰り意地を張り出した。
他のSHINSENGUMIのメンバーはすでに街の警備をしているみたいだし、俺達が少しぐらい何か食う時間はあるだろうに、何を遠慮してるのか。
「俺は飯食ってないんだし、俺の昼飯ついでにお前も食ってけよ。じゃあ、行ってく…」
「ま、待って!」
返事を待たないで買いに行こうとしたら手を掴まれて止められた。
振り返るとヒナが口を開いた。
「ヒカルも食べたいかもしれないけど、昨日僕達が警備してたせいでアクシズ教徒には目を付けられてると思うから、そっち側に行くのはやめた方がいいと思うよ」
そんなことあるか?
……いや、昨日アクシズ教団のブラックリストに名前が載ったみたいなこと聞いたな。
今も食べたいが、いつかカズマに頼むなり金でも払うなりして作って貰えばいいし、我慢するか。
もしかしたらその頃には作れる日本料理がもっと増えてるかもしれないし。
「変なのに関わりたくないしな。諦めてこっち側でなんか食うか。それぐらいはいいよな?」
「それぐらいはいいよ。でも問題が起きたら」
「そっち優先にするよ」
「よく出来ました」
そう言って微笑むヒナはエリス様に似ていた。
それから俺達は二人で祭りを回った。
特に大きな問題も起こらず、警備とは名ばかりの街の見回りだ。
昨日みたいにギクシャクすることもなく、今まで通りの俺達だった。
と思う。
「なんでお前さっきから手握ったり開いたりしてるの?」
「えっ!?べ、別に?」
慌てたように手を隠すけど、先程から複雑そうな顔で手を見て握っては開いてを繰り返してたのを見てたのだ、今更隠されてもな。
「はっ!ラブコメの波動を感じる!」
「クリス!早くキャベツ切ってってば!」
「ご、ごめんなさい!すぐに切るね!」
「なんかあるのか?見せてみろ」
「な、ないです」
「いいから見せてみろ。ほれ、お手」
「……僕は犬じゃないんだよ」
「犬でも出来ることが出来ないんだから、そらそうだろ」
「……」
ブン!
「危ねえ!!?」
下から迫る拳をなんとかスウェーで避けると、天高く拳を掲げたヒナはヤケクソ気味に言い放った。
「ほら、見せたよ!」
「アッパーが手を見せた扱いになるわけねえだろ馬鹿野郎!!」
「うるさい!ヒカルの方が馬鹿野郎だよ!」
「なんでだよ!いいから見せろ!」
空振りしたアッパー状態の手を掴むと、空いてる方の手で俺の腹を狙って殴ろうとしてくるのでその手も掴んだ。
「うぅ…」
完封されたことが悔しいのか、ヒナは顔を赤くした。
ヒナは悪あがき気味に蹴りを放ってくるも、俺も足でブロッキングした。
ヒナはボクサースタイルが板についてしまっているのか、蹴り等の足技は苦手なおかげでブロックは簡単だった。
「ほら、手開け」
「うぐぐ…」
俺が顔の前でヒナの手を見ようとすると、ヒナは手を開いた。
俺の頭を鷲掴みにしようとする以外は特に変わったことはない。
じゃあ何を見てたんだ?
「お前なんだったんだ?」
「ふん、ヒカルなんかにはわからないよーだ」
わけわからん。
手を開いて結んで、
その手を見つめる。
その行為に一体何の意味が?
数秒悩み、俺は電流が奔ったように答えに考えついた。
「ヒナ。すまん、俺が悪かったな」
「えっ。う、うん。わかればいいんだよ」
俺が手を離しながら素直に謝ると、余程意外だったのか、驚きつつも許してくれた。
じゃあ、と嬉しそうに言いながら手を開いて待ってくるヒナの頭を撫でてあげた。
「???」
「よしよし」
困惑してるヒナを撫でてやりながら、俺はヒナを温かい目で見ていた。
手を開いて見つめる行為、ヒナの年齢を考えれば答えはすぐにわかった。
こいつ、中二病だわ。
「ね、ねえ、何でいきなり撫で始めたの?」
「大丈夫だ。俺はいつでもお前の味方だ」
「え?何言ってるか全然わからないんだけど…」
「よしよし」
「???」
年齢も年齢だが、最近は天使とかになってるから、こう舞いあがっちゃったんだろう。
きっと手に天使の力が封印されてるとか思ってるに違いない。
そんな痛いヒナでも俺は見捨てたりしないからな。
「はっ!コメディの波動を感じる!」
「クリス!お客さんいっぱいいるんだから!」
「ご、ごめんなさい!ね、ねえ!?あたしはいつまで手伝えばいいのー!?」
夕焼けで街が茜色に染まっていくのを感じながら、俺は祭りで賑わう街を眺めていた。
何度か警備としての仕事はしたが、仕事としては退屈で、祭りとしては充実した日だった。
まあ、まだ今日が終わるわけではないのだが。
というか俺にはまだやるべきことがあるのだ。
「この調子だと明日には俺はいらないんじゃないか?」
「……そうかもね」
冗談で言ったつもりだったが、間に受けたヒナは少し不機嫌、というよりは哀しげな表情で俺の言葉に頷いた。
今日はヒナと二人でいたが、今日の真の目的であるヒナとの仲直りには踏み出せていなかった。
正確には仲直りではなく、ヒナとこれからについての話し合いか。
「まあ、やると言った以上は最後までちゃんとやるがな」
「……うん。ヒカルのそういうところ好きだよ」
嬉しそうに笑うヒナから直球に好きだと言われて、少し照れてしまった俺はまた夕焼けで染まる街の方を眺めた。
人は少なくなってしまったが、今いる人達はそれぞれが楽しそうに過ごしていた。
「明日は孤児院の子達が来るから、ちゃんと見てあげてね」
「おいおい、SHINSENGUMIに子守なんて仕事があるなんて聞いてないぞ」
「誰かさんが給料を受け取らないせいで、子供達みんな多めのお小遣いを持ってくるだろうから覚悟しといてね」
「……迷惑な奴もいたもんだ」
「ふふ、本当だね」
そう言って無邪気に笑うヒナは年頃の女の子に感じた。
最近は少し大人びた印象だったから、なんとなく安心した俺はそのまま語りかけていた。
「ヒナ、どうしても天界に行くのか?」
ヒナは驚いた顔で固まったが、すぐに真剣な表情になってから頷いた。
「どうしてだ?」
「それは…僕がしたいことを、やるべきことをするためにだよ」
ヒナは困った顔になったが、それは一瞬のことで次の瞬間には堂々と俺を真っ直ぐに見据えてそう言った。
迷いの無い目だ、その目の力強さからは覚悟を感じた。
それを見て、俺は逆に悩んでしまった。
「エリス様とか、天界の関係者に無理矢理来るように言われたりとか説得されたんじゃないのか?」
「違うよ。僕が自分の意志で決めたんだ」
言葉もはっきりとしていた。
わかり切っていたことだったが、一応聞かずにはいられなかった。
俺は説得して、天界に行かないように言うはずだったが、それが間違っているような気がしてきた。
ヒナと、家族と離ればなれになるのは嫌だが、それは俺の我儘じゃないのか。
ヒナが大空へ羽ばたこうとしているのを俺が家族という言葉を使って縛っているだけじゃないのか。
そう思うと俺がただの嫌な奴に思えてきた。
「何をするかは言えないんだな?」
「うん」
ごめんなさいとも言わなかったし、申し訳なさそうな顔もしなかった。
俺が目を逸らしてしまいそうな程の強い意志のこもった目は変わらず俺を真っ直ぐ見ていた。
「ヒナ、俺に手伝えることはあるか?」
「……ないよ」
こいつが行くと言い始めた時からそんな予感はしてた。
説得なんか無理ってことはな。
「そうか」
「うん」
背中なんか押さなくても、こいつはきっと走っていくのだろう。
手も届かないような距離まで走って行ってしまうのだろう。
それでも、俺はこいつの背中を押してやりたくなった、応援したくなった。
「ヒナ、俺以外の家族にこの事を説明出来るか?ゆんゆんやトリスターノだけじゃなく、自分のご両親にも言えるか?」
「うん」
こいつが何を成し遂げたくて、何を望んでいるかはわからないが、家族として応援しよう。
それが俺のやるべきことだ。
「わかったよ。もう止めたりしない」
「うん、ありがとう」
お礼を言われるようなことは何一つ出来ていない。
お礼を言われるようなことがあるとするなら、この先のことだろう。
「天界に行って、また戻りたくなったらいつでも戻ってこい」
「……そんな中途半端なこと…」
「中途半端なんかじゃない。家族が再会することが中途半端なわけがない」
「でも…」
「エリス様だってクリスになって遊んだりしてるだろ。それと一緒みたいなもんだよ」
「それって一緒かな?」
「一緒だよ。数年後別れて、また少しして戻ってきても俺達は何も変わらないし、お前の覚悟を笑ったりなんかしない」
「……ヒカル、今すっごくくさいこと言ってるよ?」
「うるせえこの野郎。ヒナ、これからの数年間今までと変わらずに俺達らしく楽しく過ごそう」
「うん!」
家族がしてやれるのは間違った時にぶん殴ってやること、迷っている時に背中を押してやること、良いことが出来たら褒めてやること、あとはそれ以外にも疲れた時に声を掛けて頭を撫でてやったり、ひさしぶりに会った時は抱きしめてやったり、エトセトラエトセトラ…。
ヒナがやるべきことをやるのだから、俺もヒナの家族として、俺のやるべきことをやろう。
行ってこい馬鹿野郎!って言って背中をぶっ叩いてやって、戻ってきたら痛いぐらいに抱きしめてやるんだ。
そんな感じだよな、家族って。
中二病の子供を見守ってやるのも家族の仕事さ。
っていう一文を入れるか入れないかで一晩悩みました。
当然嘘ですが。
次回でオリキャラが出ますが、幕間の時に出ていたオリキャラではありません。更に言うと出番はこれっきりになると思うのであまり覚えなくても大丈夫です。
あと懐かしいキャラも出てきます。
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