100話です。さあ、いってみよう。
「ドSせんせー、バイバーイ!」
「ギンもバイバーイ!」
「しっかりアンナ先生に付いて帰るんだぞ!」
『はーい!』
孤児院の子供達がアンナに連れられて帰って行くのを見送ってから、視線を下に落として話しかけた。
「ギンもお疲れさん」
「クゥーン」
警備では大活躍で何人捕まえようと疲れ知らずだったギンだが、孤児院の子供達に揉みくちゃにされるのは流石に堪えたらしい。
ギンも子供達に噛んだり吠えたりしなかったのは本当に偉かった。
ギンの性格か、それともイシカワが言い聞かせているのか、どちらにせよ有難いことだ。
「ごめんな。よしよし」
俺が屈んで撫でると、ギンはクゥクゥ鳴きながら気持ち良さそうにしていた。
そんな姿を見ると、日本の実家にいるコンちゃんを思い出す。今も元気にしてくれているといいんだけどな。
俺がコンちゃんを思い出し、少し泣きそうになっていると、元気付けようとしているのか、それとも人の顔を舐めるのが好きなのか、ギンがまた俺の頬を舐めてきた。
「今日は本当にありがとうな。そろそろイシカワの元に帰ろう」
「ワン!」
良い相棒を持ったな、イシカワ。
イシカワにギンを返してから、また少し話しをした。
イシカワとギンは祭りの期間中はアクセルに滞在するらしい。これからイシカワ達はご飯に行くのだが、ヒナもついて行くのだとか。すっかり二人とも仲良くなったみたいで何よりだ。
俺も一緒にどうかと誘われたが、俺には予定があるからと断って、二人と一匹とはそこで別れた。
目的の場所に向かう。
子供達がギンにまとわりついて大はしゃぎだったせいで、家で準備する時間もなかった。
出来ればちゃんとシャワーを浴びてから行きたかったものだ。
そんなことを考えながら歩いてたら、もう目的の場所は目前だった。
「悪い、待たせたな」
商店街の入り口に佇む三人に声をかけた。
「お疲れ様」
「いえ、時間通りですよ」
「はあーなるほどね。そういうことか」
ゆんゆん、めぐみん、カズマ。
三者三様の返事だ。
どうやら遅刻は回避出来たみたいだが、カズマは何故かやさぐれているように見える。
「はい」
ゆんゆんが近づいて来て、渡して来たのは俺の刀だった。
何故?と俺が疑問に思いながらも受け取り、お礼を言うと満足そうに頷いて来た。
「ていうか何で木刀を持ってるんだよ。とうとうアレ路線か?」
「アレ路線ってなんだよこの野郎。どこぞの神様の宗教の人間が祭りを邪魔して来るから、これで……」
「あー聞こえない聞こえない」
カズマが途中から何かを察したのか、耳を塞いで聞かないようにしていた。
聞いて来たのはお前だろうが。
カズマは俺から回れ右して、めぐみんに話しかけに行った。
若干イライラしてるように見えるが、何かあったのだろうか。
「ゆんゆん、何で刀を持って来たんだ?」
「え?木刀だと流石に危ないかな、と思って持って来たんだけど、いらなかった?」
俺は近くにいるゆんゆんに聞くと、不思議そうな顔でそう聞き返してきた。
「いや、でも今から花火大会だろ?」
「そうよ?」
「?」
「?」
俺とゆんゆんは二人で首を傾げ合った。
なんだ?
今までに無いほど、会話が噛み合ってないというか、会話が成立していないというか。
これから祭りを少し回ってから花火大会だ。
俺とゆんゆん、カズマとめぐみんで行く。
つまりはダブルデートみたいなもんだが、このダブルデートの状況のどこに刀が必要な要素があるんだ??
俺はもしかしてまだこの世界の常識がわかってないのか?
「ヒカルは花火のこと知ってるわよね?」
「そら知ってるよ」
「じゃあ刀は必要よね?」
「いや、それはいらなくね?」
「え?」
「え?」
え、こんな噛み合わないことなかったぞ。
どうしたんだ、マジで。
もしかして武器を持ってるのが正装とか?
ドレスコード?
「ヒカルの世界にも花火があったのよね?」
「あったよ?」
「じゃあ武器は?」
「いらないな?」
「?」
「?」
や、やばい。
最近は勉強した気になってたけど、この世界の勉強はまだまだ足りないらしい。
ゆんゆんがまた何かを言おうとしたところで、
「街の往来で見つめ合ってイチャイチャするのはやめてほしいのですが」
めぐみんが変なことを言ってきたせいで、俺達の首傾げ合戦が終わった。
「ち、違っ!?そ、そそそそんなんじゃないから!」
「はいはい、そんなのはイチャイチャした内に入らないと」
「だ、だから違うってば!」
顔を赤くしつつも、嬉しそうにしているゆんゆんはめぐみんと話し始めてしまった。
俺はカズマに再び話しかけた。
「おい、カズマ」
「おーっと、悪いけど俺にクレームを言っても無駄だぞ。何故なら言って聞くぐらいなら、今頃苦労なんて……」
「そうじゃねえよ。めぐみんとのことだよ。どうなった?」
「え、い、いや、べべべ、別に?普通ダヨ?」
この感じは進展してないな?
いや、逆に行くところまで行ったか?
「なんだよ、素直にゲロっちまえよ。飲みながら話し合った仲だろ?」
「そ、そういうのやめろよ!そっちが年上で経験豊富な分ずるいだろ!」
「別に経験豊富ではねえよ。どこまで行った?」
「どこも行ってねえよ。この花火大会もデートだって聞いたのに、何故かヒカル達がいるから俺はさっきまで絶賛混乱中だったよ」
あらま。
俺はゆんゆんから聞いてたけどな。
「まあ、アレだよ。めぐみんも恥ずかしかったんじゃないのか?」
「それは、そうかもしれないけど……。でさ、ここからヒカルに相談したいんだけど」
「なんだ?」
「さっきめぐみんに事情を聞いた後に、花火大会が終わったら一緒に帰ろうって言われたんだ。そ、それはつまりアレなのかな?アレってことでいいのかな?」
「なきにしもあらずだが、一回落ち着け」
「無理だ俺は童貞だぞ!」
「ばか、聞こえるだろ!」
俺とカズマが恐る恐る振り返ると、楽しげに会話してる二人が見えて、安堵のため息をついた。
「ごめん、取り乱した」
「聞かれてなければオッケーだ。カズマ、落ち着いた童貞と慌てふためていてる童貞、どっちがいい?」
「落ち着いた童貞に決まってるだろ」
「そうだろ?まずは落ち着け。とりあえず流れとかは無視してベッドインしてからの話をしておく」
「ええっ、待ってくれよ!そこまでの話も重要だろ!」
「どうせそこら辺の流れを決めてても想定外のことが起きたりして、パニックになるから決めない方がいい」
「マジかよ」
「まずは落ち着く。これが一番重要だ。それから……」
「二人とも、さっきからなにをコソコソしてるんですか?早く行きますよ」
めぐみんの声で俺達二人はビクリと震えてから、慌てて女子二人の元へと戻った。
「これから先は隙を見て話す」
「ああ、わかった。なあ、これから師匠って呼んでいいか?」
「それは今夜、うまくいったらな」
「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああ!!!!!」
カズマの心からの叫びが辺りへと響き渡った。
「カズマ、期待させすぎちまったな。マジで謝るよ。これからも協力するから、落ち着いてくれよ」
「なんなんだよくそっ!!笑えよ!どうせ心の中では俺のこと笑ってるんだろ!?笑えばいいじゃねえか!くそおおおおおお!!」
「笑ってない。今回はマジで笑えないよ。作戦を立て直そう。次は綿密なやつで行こう。全面協力するしさ」
「ちくしょう……ちくしょぅ………ヒカル、これからもお願いしていい……?」
「ああ、任せろ」
「ありがとぅ……」
泣き出しそうなまでにしょげるカズマの背中を叩いて、元気付ける。
カズマに心の底から同情していた。
ゆんゆんから刀を渡された時に詳しく聞いておけばよかったな。
今更言っても仕方ないか。
さて、何があったかを説明しよう。
俺達はあの後、四人で祭りへと繰り出した。
カズマが調子に乗って、祭りのくじ引きの出店や射的の出店を狙撃スキルで荒らしまくったところまではよかった。
その間、めぐみんとゆんゆんが勝負をしに行ったりした時を見て、俺はカズマに夜のアドバイスをしていた。
不純な思いを胸に秘め、祭りを純粋に楽しんでいた時にそれは起こった。
花火大会だ。
カズマとはすでに打ち合わせをしていた。
花火が始まった時にさりげなく俺とゆんゆんはカズマとめぐみん二人とは別れて、夜の決戦に向けたムード作りをしておこうという作戦だった。
俺はカズマに目配らせをした後、ゆんゆんの手を引いて連れて行こうとしたら、逆にゆんゆんが俺の手を引いて駆け始めた。
困惑した俺がゆんゆんに事情を聞こうとしたら、隣に俺と似た状況のカズマと目が合った。
お互い手を引かれながら、話を聞くと恐るべき新事実が明らかになった。
どうやらこの世界の花火大会は純粋に見て楽しむものというわけでもないらしく、戦いの合図なのだとか。
わけがわからないって?
俺もだ。
詳しく説明するぞ、ついて来てくれ。
夜になると、祭りのかがり火の光に釣られて森や平原から虫モンスターが寄ってきて、街の上空を飛んだ虫モンスターはどこを襲おうかと旋回し出す。
そこで奴らのど真ん中に爆発魔法や炸裂魔法を打ち出す。
そう、これがこの世界の花火大会だ。
そして、その花火を合図に街の冒険者達は倒しきれなかった虫モンスターの相手をする。
だから、ゆんゆんは俺の刀をわざわざ持ってきてくれたわけだ。
あとは爆裂狂いの魔法使いが何をしたかは説明しなくてもわかるだろうが、一応ダイジェストで説明しよう。
俺とゆんゆんが斬って撃って虫を次々と落としていると、めぐみんが街中で爆裂魔法を唱え始めたので、警察に取り押さえられて連行されていった。
はい、説明終わり。
カズマの夜の計画は白紙になった。
こんなに荒れるのはそういうことだ。
ついでにゆんゆんがめぐみんを引き取りに行ったので、俺の方のデートも終わった。
俺の方は別にいいが、流石にカズマが可哀想だ。
俺達は街の防衛戦が終わると、もう祭りの気分ではなくなっていた。
俺達二人は帰路に着いたのだが、とある人物と出会い、急遽ある事が決まった。
「なあ、ヒカル。俺は暴れたい気分だ」
「そうだな。もうあの貴族の屋敷をぶっ壊して鎧を持ってこうぜ」
「ねえ、やめてよ!?忍び込むんだってば!暴れる前提で話を進めないでよ!」
荒んだ俺達はクリスの提案に乗ることにした。
一度は失敗した神器の回収だ。
まずは準備の為に俺達は一旦解散することになった。
エリス感謝祭。
女神エリスに捧げるための祭り。
多くの人間の祈りと感謝を受けた女神エリスはささやかなお返しとして、祭りが行われている地域ごとに五本の花を咲かせるという。
女神エリスが咲かせた花を見つけた者は、願いが叶うと言われている。
エリス教徒であれば、誰でも知ってるような御伽噺。
アクセルの街、沢山の花が並び咲く広場に一人の少女が何かを感じ取ったように一つの花の前で立ち止まった。
直径五センチ程度の小さな白い花。
その花は何の変哲も無い花に見える。
ありふれたような、どこにでもあるような花。
ただ、この世界には存在しないはずの花。
その花の名は、デイジー。
別名、ヒナギク。
少女はその花に手を伸ばした。
花の方ではなく、この作品のキャラであるヒナギクの名前が決まったのは11話で名乗るセリフを書いている時でした。
ネーミングセンスが無いので、あれこれ悩んでそのキャラの設定を見直して、日本の花の名前にしよう、なんてロマンチストみたいな考えに行き当たりました。
花言葉で調べると、そのキャラのイメージにぴったりだったのが『ヒナギク』でした。
ヒナギクは花の色によって花言葉が異なりますが、どれも彼女にぴったりのものです。気になる方は調べてみてください。
今までは少し原作寄りの流れでしたが、最後の方にオリジナル要素をぶっ込んでみました。
この章はエリス感謝祭の流れをやって終わろうかと思っていましたが、色々浮かんできたのでやめました。
高評価、お気に入り、感想ありがとうございます。
おかげさまでデイリーランキングに入れました。
またランキングに入れるよう精進していきたいと思います。