このすば ハード?モード   作:ひなたさん

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105話です。さあ、いってみよう。



105話

 

 祭りの最終日の夜。

 今回の祭りの関係者が集まった宴会、つまりは打ち上げが行われていた。

 商店街の会長や役員、エリス教徒にアクシズ教徒が一つの会場に集まり、思い思いに過ごしていた。

 

「ぐへへ」

 

「あ、あの、エリ……クリスさん。そんなにくっつかれては……」

 

「よいではないかよいではないか〜」

 

「こら、クリス。お前は何で酒の席だと、そんなテンションが変わるのだ。ヒナギクが困っているだろう。離れてやれ」

 

「いいじゃん、今日ぐらいさ!ダクネスもお酒が足りないんじゃない?さあ、飲んで飲んで!」

 

 そんな様子のエリス教三銃士に、取っ組み合いを始めるカズマとアクア、二人を眺めるめぐみんに、セシリーが酔っ払ったマリスに頬擦りしていたり、ゆんゆんが俺の方をちょくちょく見ながらウィズさんやバニルさんと飲み食いしていた。

 

 俺はゆんゆんに疑われるのは面倒なので酒は飲まないで、今回世話になったエリス教の奴らと適当に飲み食いしていた。

 トリスターノは多くの女性に囲まれて、何度か視線で俺に助けを求めてきていたが、俺には何も出来そうにないのでスルーした。

 ある程度時間が経つと、周りの酒の勢いに着いていけなくなったので、俺は少し会場を抜け出すことにした。

 

 

 

 

 女神エリスが降臨した。

 その事実はあらゆる方法で周囲の街や王都などに広められた。

 その影響で今のアクセルの街は大変な賑わいだ。

 女神エリスに一目でも、という連中が押しかけてきたのだ。

 今その女神とやらは少女の黒髪に鼻先を突っ込んで匂いを肴に酒を飲んでいるよ、と言ったらどうなるんだろう。

 ……邪教徒扱いされるのがオチか。

 この街は女神エリスが降臨してきた街としてエリス教の聖地の様な扱いになるとか。

 そんな街がエリス感謝祭をやらなくなるわけがない、よって来年からエリス感謝祭が無くなるかもしれないという不安は取り除かれた。

 『幸運』の女神。

 実は最上級にやばい神様なのかもしれない。

 カズマの幸運も合わさったからなのか、それとも幸運を司る神様だからなのかは全くわからないが、どうにも都合が良いオチだ。

 

「やあ」

「よっ」

 

「……うわ、お尋ね者だ」

 

「お前もだろ」

 

 まだ祭りの熱気が冷めやらぬ街の中を歩いていると、クリスとカズマに会った。

 

「言っておくけど、俺は銀髪やら仮面やらの盗賊団じゃないから。バイトみたいなもんだから」

 

「残念でした。君にもちゃんと懸賞金がかかってるよ。いい加減認めた方がいいよ」

 

「………で、お前達は何してんの?デート?」

 

「デ、デートじゃねえし」

 

「そうだよ。デートなわけないじゃん」

 

「うぐっ!」

 

 クリスの言葉でダメージを受けるカズマ。

 そんなやり取りをしていると、二人が俺の隣に並んできた。

 そしてクリスから色々と話を聞きながら街を歩いた。

 

 この街のことやアイギスの今後のこと、それとヒナの苗字のこと等話していると、エリス様に会いたくて違う街からやってきた人達とすれ違い、照れるクリスをいじり始めたせいか、足が止まりクリスが背後からぶつかられた。

 ぶつかってきたのは小さな女の子二人。

 二人とも手に綺麗な花を持っていた。

 

「ご、ごめんなさい!」

「ごめんなさいっ!」

 

「こっちこそごめんね、急に止まっちゃって。大丈夫かな?」

 

 ぶつかった一人の女の子の手から、花が地面に落ちてしまっていた。

 クリスは慌てて拾うと、すぐにその紫色の花を少女に手渡した。

 

「ごめんね。せっかくのクリスの花を落としちゃって」

 

「クリス?」

「ひょっとしてその花の名前?」

 

「そうだよ。この花はクリス。花言葉は『諦めない心』さ」

 

 カズマの疑問にクリスは答えた。

 少女の一人が感心したような表情になり、クリスに話しかけた。

 

「ねえ、そのほっぺのキズってどうしたの?冒険者?冒険者は荒くれ者がなるってお父さんが言ってたけど、荒くれ者なのになんでお花に詳しいの?」

 

「あはは、えっと、これは魔王軍の悪い奴と戦ってついた傷だよ。それと確かに冒険者だけど、冒険者の中には荒くれ者じゃない人もいるのさ。そこのお兄ちゃんみたいにね。あ、こっちの怖いお兄さんは見た目通りの荒くれ者だから気をつけてね」

 

 やかましい、二人でくすくす笑ってるんじゃない。

 子供の前だから、何も言わないけど。

 二人の子供から少し怯えた視線を受けたので、俺は顔を逸らした。

 

「花に詳しいのは、その花が好きだからだよ。他に知ってるのは何種類かしかないかな」

 

 そう言って、クリスは身を屈めると二人の少女と目を合わせて、花の匂いを嗅いだ。

 

「他には何を知ってるの?」

 

「うーんとね、デイジーって花かな。とっても可愛らしい花で、花言葉は花の色で変わるんだけど、『平和』と『希望』なんだよ」

 

「「へえー!」」

 

 二人の少女が興味津々に聞いていた。

 クリスにもそういう趣味があったとは知らなかった。

 

「あのね、このクリスのお花はエリス様にお供えするんだ。お姉ちゃんとお小遣いを合わせて、二人で買ったの」

 

「うん、エリス様もこのお花が好きなんだって」

 

「よくエリス様の好みなんて知ってるね。でもエリス様は君達みたいな小さな子に大事なお小遣いを使ってまでお供え物をされると、嬉しいとは思うけどきっと困っちゃうと思うな。だから、今回きりの方がエリス様も喜ぶよ」

 

 クリスは困ったように笑いながら、二人の少女を優しく撫でた。

 先程宴会にいたこいつと同一人物とは思えない言動だが、まあ、今更か。

 

「そうなんだ……。でもね、エリス様にどうしてもお礼が言いたかったんだ」

 

「お礼?」

 

「うん、お礼なの。お母さんがね、みんなが平和に暮らせるのはエリス様がいろんな力を授けてくれるからだって」

 

「あと、みんなが知らないところでエリス様が頑張ってるからだって。だからエリス様にお礼を言って、頑張ってって応援するの」

 

「そ、そっか。でもこれからはお供えなんてしなくても、その気持ちだけで十分だと思うよ。君達の方こそ応援してくれて、ありがとうって」

 

 救われたような、感動して泣き出しそうな表情でクリスは恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「お花は妹の分があるから、これあげるね。冒険者さん、いつも街を守ってくれてありがとう!」

「ありがとう!」

 

 そう言って、クリスに花を渡して笑顔を見せる二人の少女。

 

「あ、あはは、ま、参ったなぁ。こ、こっちこそありがとうね!」

 

 花を貰ったクリスは少し赤くし、目に少し涙を浮かべつつも、なんとか少女達に笑みを返していた。

 その笑みを見て満足そうに笑った少女達は駆け始めて。

 

「じゃあお兄ちゃん、バイバーイ!」

「バイバーイ!」

 

「あれっ!?ちょ、ちょっと待って!あたしはお姉ちゃんだよー!?」

 

 と、今度は違う意味で涙目になっていた。

 

「もしかしてクリスって……」

 

「うん、この花から取ったんだ」

 

 クリスはまた花の匂いを嗅ぎながら、そう答えた。

 

「なんだ、一文字変えただけじゃないのか」

 

「そんな安直なわけないでしょ」

 

 呆れた顔を見せるクリスは、やがて何かを思い出した顔になり、俺達に聞いてきた。

 

「二人は女神エリスが祭りのささやかなお返しで五本の花を用意する話を知ってる?」

 

 俺は教会で聞いたことがあった気がするが、詳しくは知らないので、カズマと同じように首を横に振った。

 

「そっか。女神エリスが用意した五本の花の一本一本には願いを叶える力がこめられてるんだ。一応ちゃんと実在してるよ。子供達の為に用意した花なんだけど、大人でもその力を使うことは出来るんだ」

 

 願い、か。

 今は特に無いな。

 いや、ヒナがもう少し食費に金を出しますように、とかいいかもしれない。

 

「おっと、カズマ君の為に先に言っておくけど、見つけたとしても邪な願いは自動で弾かれるようになってるよ。その花は純粋な気持ちで心の底から願うことなら大体のことが叶うんだ」

 

「べ、別にわざわざ探したりしねえよ!」

 

 俺はカズマが一瞬いやらしい顔をしたのを見逃さなかったぞ。

 俺はなんとなく興味が出てきた。

 

「それで?今年の祭りでその花を見つけた幸運な奴はどんな願いを叶えたんだ?」

 

 俺がそう聞くと、クリスは困った顔になって、答えてきた。

 

「あー……実は、まだわかってないんだよね。最近神器の回収だったり祭りの手伝いだったりで忙しかったし」

 

 この祭りの期間中クリスはずっと活動していたし、それもそうか。

 

「今年の祭りは大変だったけど、でも楽しかったな」

 

 クリスは花を優しく手で包み込んで、宝物のように抱きしめる。

 目を瞑り、想いを馳せるように少し黙り込んだ後、俺達を見て微笑んだ。

 

「二人とも、本当に色々とありがとう」

 

 日々の努力が報われた盗賊の皮を被った変態女神は、俺からすれば『らしくない』態度で、俺達に礼を言ってきた。

 俺は適当に返事をして、カズマは少し顔を赤くして、また俺達は宴会に戻っていった。

 

 やっぱり、なんとなく憎めねえんだよな。

 あの神様。

 

 

 

 

 そう、俺はこんな日常が続くと思ってた。

 たまーに変なイベントが起こりつつも、仲間達や友人達とバカをやる日々が。

 ゆんゆんとは恋人としても前に進んで。

 トリスターノとは親友として日々おちょくったり煽られたりして。

 ヒナとは兄妹のようにバカをやったり、怒られたりして。

 クリスにはアホな疑いをかけられて。

 カズマとは女のことで助言したり、愚痴ったりして。

 

 そんな何でもない日常が俺は大好きで。

 何も無い俺にはあいつらがいれば何でもよくて。

 願い事なんてそれくらいだ。

 きっと花なんか見つけても、誰かにあげてただろう。

 

 でも、こんな日常はもう数年しか続かない。

 俺もヒナの想いを優先して、無理矢理納得したけれど、もし。

 もしも、花に願って、まだ数年後も一緒にいられるのだとしたら、俺はきっと願う。

 

 俺の大切な家族と一緒にいられますように。

 

 だから、これから起こることをどうこう言う気は無い。

 少しだけ、望んだ未来が違った。

 一緒だと思ってたけど、違ったんだ。

 望んだ未来と内に秘めた想いは違った。

 今回のことでそんな当然のことを、やっと俺は知ったんだ。

 

 

 

 

 打ち上げも終わって、全員で家に帰った。

 俺はベッドに入っても、暑かったせいか寝られなくて、外に出た。

 外に出て、空を見上げると星がはっきりと見えるほどに綺麗な夜空だった。

 星が見えるということは、もしかするとこの星がある宇宙のどこかに地球があるのかもしれない、なんて益体もないことを考えて散歩に出た。

 少し歩くと、

 

「どこに行くの?」

 

 そんな声が聞こえて、振り返るとヒナがいた。

 柔らかく微笑んで、まるで誰かさんのようだ。

 

「寝られないから散歩」

 

「ヒカルって、じっとしてられないの?」

 

「お前にだけは言われたくない」

 

 そう言って俺が先に進むと、ヒナが小走りで俺の隣に並んで一緒に歩き始めた。

 ああ、こいつが天界に行くって言い出したのもこんな夜空が綺麗な日だったな。

 

「で、今夜はどんな爆弾を投下しに来たんだ?」

 

「爆弾って何さ」

 

「天界に行くって突然言い出したり、シロガネの姓を名乗ったり、あとは父親がとんでもない人物だったり、天使になって世界を超えてきたけど実は帰ってこれるかわからなかったとか、あと他にも何かあったか?」

 

「………」

 

「顔を逸らすな」

 

 まったく、とんでもないことばっかり言ってきやがって。

 俺の仲間はみんなそうだ。

 俺が普通すぎるのと、あいつらが濃すぎるせいで、俺は『剣を振ってる人』とか言われるんだ。

 そんなことを思いながら歩いていると、ヒナが急に立ち止まった。

 俺が振り返ると、暗くて少し分かりづらかったが、ヒナは少し迷うような表情を見せた。

 

「なんだよ。やっぱり何かあるのか」

 

「………何かあったら、だめ?」

 

 少しむっとした表情を見せたが、上目遣いでそんなことを言ってきた。

 

「だめじゃないけど、出来るだけ俺がなんとか出来るレベルにしてくれると嬉しいんだけど」

 

「出来るよ」

 

 ヒナがそう言って、何かを懐から取り出した。

 ヒナが取り出したのは五本の花だ。

 赤、白、ピンク、紫、白。

 五センチ程度の花が四本に、それよりも少し大きめの紫の花。

 四本の花も見覚えがあるような気がするが、紫の花は先程見たものだ。

 

「四本はわからないけど、それはクリスの花か?」

 

「え、何で知ってるの?」

 

「クリス、って紛らわしいな。エリス様に聞いた」

 

 目をぱちくりしていたヒナだったが、俺の答えを聞いてから不機嫌そうな顔になった。

 

「ねえ、ヒカルはエリス様のこと、どう思ってるの?」

 

「はあ?なんだいきなり?」

 

「答えてよ」

 

「どうって言われても変……変な神様?」

 

「なにそれ?」

 

 ヒナは俺の答えをあまりお気に召さないらしく、不機嫌なままだ。

 

「クリスはアホな友達って感じがするけど、エリス様の方はよくわからないな」

 

「……神様相手にヒカルは………まあ、いいや。じゃあ質問を変えるよ。女性としてどう思ってる?」

 

「ない」

 

「え?ない?」

 

 俺の即答にヒナはきょとんとして聞き返して来た。

 

「女性として見たことが無い」

 

「あんなに綺麗で、完璧な女性の姿なのに?」

 

 完璧……?そうか?

 ああ、でも胸が大きかったら俺も少しドギマギしてたかもしれないな。

 

「ないなぁ」

 

「……」

 

 ヒナは疑いの視線を向けてくる。

 さっきから何だよ、変な質問ばっかり。

 ああ、もしかして。

 

「お前あれだろ。エリス様の心に決めた人のこと聞きたいのか?」

 

「そうじゃないけど、そのヒカルの言い方だと知ってるってこと?」

 

 やっぱりそうか。

 まあ、気になるだろうな。

 俺としては言ってしまってもいい気もするけど、ヒナは混乱するだろうし、なんだかんだで世話になってる奴の秘密をバラすのもあまり良くない気がする。

 

「知ってるけど、流石に言えないな」

 

「それは、僕の知ってる……ああもう!それってヒカルなんじゃないの!?」

 

「はあああ?」

 

 要領を得ない質問になるのが嫌だったのか、ヤケクソ気味に聞いてくるヒナ。

 その的外れ具合には流石の俺もこんな返ししか出来なかった。

 

「な、何さ?だ、だって冗談言い合うぐらい仲良いじゃん!何故かわからないけど、信頼し合ってるようにも見えるし!」

 

「だからってアレはない。俺が好かれることも、俺がアレを好きになることも絶対にない。これに関しては信用しろ、疑っても何の意味も無いぞ」

 

「ア、アレって……そこまで言い切るんだ……」

 

「それだけの自信がある。というかお前そんなことを聞く為にわざわざ着いてきたのか?」

 

「ち、違うけど、気になったから」

 

 俺がここまで言ってようやく信用したらしい。

 いつかこいつも真実を知る時が来る。

 というか、ヒナが天界に行くことに関して反対したい理由の一つがコレだったからな。

 送り出してやることを決めた以上、今となってはヒナ自身がなんとかするのを信じてやることぐらいしか出来ないが。

 

「で?本題は?エリス様の願いの叶う花の話か?」

 

「知ってるの?」

 

「一応な。それで?五本全部見つけて来ちゃって困ってるのか?孤児院のガキどもにでも渡せばいいんじゃねえの?」

 

「最初は、僕もそう思ってたんだけど……」

 

 ヒナは少し伏し目がちに、口を噤んだ。

 未だ迷っているようなそんな雰囲気だ。

 ヒナはもしかしたら自分のために使いたいのかもしれない。

 使えばいいじゃないか、その方がエリス様も喜ぶだろうに。

 でもエリス様が子供のために用意したものだっていうのを気にしてるのかもしれない。

 それなら後押ししてやるか。

 

「願い事があるなら使っちまえよ。見つけたのはお前だろ?」

 

「そ、うなんだけど、えーっと、その、はい」

 

 そう言って五本の花を俺に向けてくる。

 なに?と視線で問いかけると、花を向けたままヒナは恥ずかしがるように俺から目を逸らして口を開いた。

 

「僕が数年後に天界に行くって言ったけど、この花に願えば、行かなくて済むかもしれないんだ」

 

 おお、それなら……

 

「だ、だから僕とどうしても離れたくないってヒカルが思うなら、願うならこ、この花に願ってよ」

 

 上目遣いで、縋るようにそう言ってきた。

 俺に選択肢を委ねるのか、それとも俺に願って欲しいのか……いや、そんなことはどうでもいいか。

 俺の答えは決まってる。

 

「ヒナとずっと一緒にいたいよ」

 

 俺がそう言うと、ヒナは救われたように涙を流し、幸せそうに微笑んだ。

 五本の花が僅かに光り始めると同時に、ヒナは花を持ってない方の手で自分の胸にあるネックレスを引きちぎった。

 そのネックレスはエリス様がヒナの天使の力を封じ込める為に渡したものだ。

 それをヒナがいとも容易く引きちぎったことに俺が驚いていると、

 

「ま、待って!!だめえええええええ!!!」

 

 遠くからクリスが必死な様子でこちらに走って来ていた。

 俺は訳も分からず、そんなクリスを呆然と見ていると、五本の花はヒナが見えなくなるほどに輝いて、目を覆った。

 

「ヒカル、ありがとう。ずっと一緒だよ」

 

 真っ白な中、そんな声が聞こえた。

 そして俺はいつの間にか意識を失っていた。

 

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