このすば ハード?モード   作:ひなたさん

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五本の花を集めてきたヒナギクは最後の最後で迷った。
本当にこんなことをしていいのか、と。
だからヒナギクは最後の選択をヒカルに委ねることにした。
花の力を使うには、心の底から叶えたいと思う願いが必要だった。
本当にヒカルがずっと一緒にいたいと望むのであれば、世界を変えてでもずっと近くにいてヒカルを守ろう、もし花の力が使えないのであれば、諦めて天界に行こうとヒナギクは決めて、ヒカルに五本の花を差し出し、願うように言った。

結果、花がヒカルの願いに反応した。
ヒカルは本当に心の底から一緒にいることを望んでくれたのだ。
ヒナギクは天使の力を解き放ち、五本の花の力を掠め取った。
五本の花の力を間近で感じ取ったショックで気絶したヒカルを抱きしめて、クリスから逃げるように空へと飛び、世界を変えようと力を行使した。
だが、流石にそれは無理があった。
ヒナギクは考えを変えて、新たな小さな世界を作り出した。
この世界の改変をするのではなく、平和な世界を創造することにしたのだ。
『全知』の才能で、触れているヒカルから日本にいた頃の記憶を知識として取り込む。
そこからヒナギクの想像や『全知』の力で得た知識で、新たな世界である『ニホン』を創り出した。
創り出したはいいが、ヒナギクは別の事に気を取られ始めた。
ヒカルの記憶と過去だ。

ヒカルの記憶に強く残っているせいか、それは鮮明に見えた。
ヒカルの努力の日々。
どうやらヒカルの少年時代は何事にも真面目に取り組む性格だったらしい。
目の前のことに集中しすぎたり、先のことを考えられなかったりすることも玉に瑕であったが、ひたむきに努力する少年だった。
それが無くなってしまったのは高校時代の努力が報われなかった時。
『結果の伴わない努力なんて何の意味がある』と自身を責めていた。
『努力すれば、きっと成し遂げられるなんて馬鹿みたいだ』という強い無力感で泣いていた。
『結果を出せないなら遊んでいた方がマシだった』と激しく後悔していた。
ヒカルは『やり直し』を望んでいた。

それならば望みを叶えよう。
ヒカルがまた同じ道を行き、結果に向かって努力するのなら背中を押して応援しよう。
別の道を行くというのなら、隣で苦楽を共にしよう。
そう考えたヒナギクは花の力を使い、自身と同じ年齢になるようにヒカルの体のみを10年ほど巻き戻した。
記憶を消してしまうのは流石に躊躇った為封印し、過去の記憶を改竄した。
ヒカルが寂しがるだろうと、ゆんゆんとトリスターノも同じような処理を行い、新しい世界へと呼び寄せた。
こうして『ぼくがかんがえたへいわなせかい』が始まったのだった。



107話

 

 

 と、とととと、とと、ToL◯VEったあああああああ!!!

 ToL◯VEってるよこれええええええええ!!

 え、ちょ、な、なん、え、ええっ!?

 何これ!?何この状況!?

 

「お、お邪魔します……」

 

 俺はヒナの方を向かないように風呂の壁に向かって心の中で叫んでいた。

 こいつマジで来たの!?

 何で間に受けてんのバカなの!?

 

「シャ、シャワーお借りします」

 

「ど、どうぞ」

 

 どうぞじゃねえよ!ツッコミ入れるところだろそこは!

 おいいいいいいい!!何入ってきてんだお前えええええ!

 だろうが!行け!男ならここでツッコまないでどうすんだ!

 

「ぉ、おぃ……」

 

「ヒカル、あの、シャンプーってどれ……?」

 

「い、ぇ、ひ、左から二番目のやつです」

 

「は、はい」

 

 ツッコミを入れられなかったのはまだいいとして、何で敬語!?あと何で向こうも敬語!?ていうか『やつ』って何!?ボトルって言えよ!なに動揺してんだよ!相手はヒナだぞ!

 そ、そうだよ、相手はあのヒナだ。容姿のせいもあるけど、主に言動のせいで未だに男に間違われることもあるし、空手の時も普通に俺と組み合って来るし、体なんか全然成長してないし、ぺったんこだし、いや別に触って確かめたわけじゃないけど服越しに見れば一目瞭然だし、そもそも成長したら何だってはな……

 

「お、お邪魔します」

 

「へ、へい」

 

 ヒナがいつの間にか体を洗い終わって、湯船に入ってきた。

 気づくのに遅れて、慌てて後ろを向きつつ変な返事をしてしまった。

 あとちょっとヒナが見えたけど、タオルとかも巻いてないっぽいぞこのバカ。

 ヒナが入ってきたことで湯船から湯が溢れ出したのを眺めて、ふと思った。

 

 

 俺が出れば良くない?

 

 

 何でこんな簡単な事に気付かなかったのか、自分でもわからない。

 こいつが入って来るなら、俺が出ればよかった話じゃねえか。

 何でわざわざ待ってたんだ??

 

「あ、あー、え、えっと、アレだわ。そろそろ先に出るわ」

 

「え、も、もう?」

 

「もうってなんだよ……」

 

 こいつは何を言ってるんだ。まるで一緒に入ってたいみたいな言い方しやがって、と呆れて少しヒナの方を振り向いた。

 俺はそれから少しの間動けなかった。

 呆れて物が言えなくなったわけでもなければ、ヒナと目が合って気まずくなったわけでもない。

 後ろを振り向くと、そこには当然ヒナがいた。

 いつも、毎日会っているヒナだ。

 でもいつも通りの姿ではなかった。

 それも当然だ、風呂の中なのだから。

 俺が動けなくなった理由はそんなんじゃない。

 

 少し見えた肌は白くて、綺麗だった。

 髪が濡れて、上がった体温のせいか頬は朱に染まって、ほんの少し色っぽい。

 体を抱くようにして隠しているせいで、大事な部分は見えないが、胸は少し膨らみがあるように見えて、女性らしさを感じた。

 

 ヒナって、こんなに可愛かったのか。

 

「うぅ……そ、そんなにじっと見ないでよぅ……」

 

「……え?あ、ご、ごめん!」

 

 ヒナが恥ずかしがってモジモジして言ってきて、俺は漸く正気に戻った。

 何秒見続けたかすらわからないが、ヒナのことをジロジロ見てしまった。

 気まずくて、しょうがない。

 早く出るべきだ。

 だが、今湯船から出ることは出来なかった。

 

 

 俺は立っていたのだ。

 

 

 湯船の中で座っている状態ではあるんだけど、立っている。

 いや、立っているっていうか、高く建っているというか、勃ってるんだけど、そんな当て字のことなんか置いといて。

 俺はこの状況をどうにかしたいと焦りつつ、俺自身に驚いていた。

 ヒナに反応した……?

 ヒナは確かに異性ではあるが、どちらかと言うと幼馴染を超えて妹とかそういう家族に対する感情を抱いているはずなのに、俺の聖槍は臨戦体勢になっていた。

 

『へへ、準備万端でさぁ、マスター!』

いや、マスターってなに?いいよ、準備しなくて。お願いだから鎮まって。後で入念に磨いてあげるから!

『何言うんですかぃ?後で自分で磨くより、後ろのお嬢ちゃんに頼んだ方が良いに決まってるじゃないですかぃ』

ふざけんなよこの野郎!ヒナにそんなこと頼んでみろ!大声で怒られて、いろんなところに話が行くに決まってんだろうが!

『いいや、絶対大丈夫すよ。一緒にお風呂に入るってことはマスターのことを少なからず良く思っているはずですから。行けますって、マスター自身といつも鍛えてきた槍を信じてくだせぇ』

いつも鍛えてきた、とか言うのやめてくんない!?な、何日かに一回ぐらいだからね!勘違いしないでよね!

『自分にツンデレなんてアホなことやってないで、早く行きやしょうよ。大人の階段上りましょうや』

い、いやいやいやいや!相手はヒナだから!絶対無理だから!

『じゃあ直接変なことをするんじゃなくて、洗いっこしやしょうよ』

は?何言ってんの?

『ここは風呂場なんですから、体を洗うのは普通のことでさぁ。だから『洗って』もらうんですよ。ゴシゴシとね』

な、なにを……

『まずはお互いに背中を洗い合うんです。で、お互いに流し終わったら『前』もするんですよ』

そ、それは、流石に……

『じゃあヤラないんですかぃ?本当に?』

や、やらないに決まってるじゃん。何言ってくれてるんですかこの野郎。

『でも、絶対気持ちいいだろうなぁ』

ふぁっ!?

『あのお嬢ちゃんが磨いてくれたら、すんごく気持ちいいだろうなぁ』

うぐぐぐ……

『こんな機会もう無いだろうなぁ。せっかくのチャンスなのになぁ』

あ、あるもん!またチャンスあるもん!

『こんなところでヘタれるマスターにチャンスなんてあるわけないじゃないですかぃ。はあーあ、ほんまつっかえ!』

………いいや、ヘタれてるわけじゃない。

『はあ?ヘタれてるじゃないですかぃ?据え膳食わぬはーってやつ知らないんですかぃ?』

お前は俺達の夢を忘れたのか?

『っ!?そ、それは今は関係の無い話でしょうよ!』

いいや、ある。俺達の夢はヒナでは成し遂げられない。

『で、ですが、それは!』

俺はお前を大きな胸で挟んでもらう夢を諦めたりしない!!絶対に!だから俺は一時の感情に身を任せたりなんてしない!

『な、なにいいいいいいいいい!?今ある希望を見捨てでも、来るかわからない未来に夢見るというのか!?』

そうだ!夢は終わらねえ!希望は未来の俺達に託すぜ!だから鎮まれこの野郎おおおおおおおおおおお!!

『こ、こ、この大馬鹿野郎があああああああああああああああああ!!!』

 

 

「あ、あの、先に出ます」

 

「ふぇ?」

 

 俺はヒナの返事を聞かずに股間を押さえて、ヒナに背中以外を見せないようにして、いそいそと風呂場を出た。

 俺はもう一人の自分に勝ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 深夜。

 俺は寝ていたはずだが、頭の中に響く声が聞こえてきたせいで、寝てるのか起きてるのか微妙な状態だった。

 いや、これはまだ夢の中なのかもしれない。

 

《やっと、ヒナギクの警戒が緩みました!ヒカルさん、聞こえますか!?》

 

(うるさいぞ、何時だと思ってるんだ)

 

 俺は不機嫌に答えた。

 安眠を邪魔されたのだから、当然だろう。

 

《お、お願いします!深夜かもしれませんが、今は一大事です!この状況をどうにか出来るのはヒカルさんしかいません!》

 

(やかましい。良い子は寝る時間なんだよ馬鹿野郎)

 

 不機嫌さは増すばかり。

 聞こえてくる声は確実に女性のものなんだけど、なんとなく絶望的に自分とは相性が悪い気がする。

 

《よ、良い子って……。とにかく!ヒカルさんにしか出来ないことなんです!ヒナギクを説得して元の世界に……って、もうヒナギクに勘付かれてしまいました!とにかくお願いしますよ!》

 

(好き放題騒ぎやがって。これだから……)

 

 ん?俺はなんて言おうとしたんだっけ。

 まあ、いいや。

 やっと寝られる………。

 

 ………。

 ……。

 …。

 

 

 

 ヒナギクがヒカルの部屋にそっと入り、足音を立てぬようにゆっくりとヒカルへと近付いた。

 ヒカルはすぅすぅと寝息を立てていた。

 

「よかった。ちゃんと寝てるね」

 

 ヒナギクは安堵のため息をついた後、呟いた。

 女神エリスの介入に肝を冷やしたが、ヒカルは朝起こす事にも苦労するのだから、夜に話しかけても起きるわけがない。

 そう思っていたヒナギクだったが、やはり心配で来てしまった。

 

「僕が寝始めたタイミングを狙うなんてね。でも、当然か」

 

 ヒカルの枕元に屈み、頭を撫でると、ヒカルの表情が柔らかくなったような気がした。

 そんな反応がヒナギクは堪らなく嬉しかった。

 ヒナギクは撫でてもらうばかりだったが、撫でる側にもなりたかった。

 

「僕が絶対、絶対に守るからね」

 

 そう呟いたヒナギクは帰ろうとして、部屋を出るところで立ち止まった。

 自分が寝てしまえば、また女神エリスがヒカルへとコンタクトを取るかもしれない。

 恐らく女神エリスは神聖を感知し、それを辿って話しかけて来ている。

 だからヒナギクが離れたタイミングを狙ってきたのだ。

 それならば、ずっと近くにいればいいだけのことだとヒナギクは考えて、布団の中へと潜り込んだ。

 ヒカルを守る為なのだから仕方ない。

 起きるのはヒカルの方が遅いし、バレることもないだろう。

 ヒナギクがそんなことを考えていると、ヒカルは愛犬のコンちゃんが来たのかと勘違いしたのか、布団の中に入ってきたヒナギクをぎゅっと抱きしめてきた。

 

「んっ」

 

 少し息苦しくて声が漏れた。

 だが幸せな温もりであった。

 ヒナギクの鼓動は高まりを見せたが、やがて段々と落ち着いていき、寝息を立て始めた。

 

 

 ここはヒカルのやり直しの世界でもあるが、()()()()()()()()()()()()でもある。

 ヒナギクはとっくに自身の感情が何かを知っていた。

 だが、その時には手遅れであった。

 諦めて応援しようとも思っていた。

 願いを叶える花を見つけるまでは。

 ヒナギクは元々大の負けず嫌いである。

 父親の教えは『簡単に諦めるな』だ。

 向こうの世界では恋敵に遅れを取ったが、それは相手が有利な状況だったからだと考えたヒナギクは、この世界では自分が()()()()()()()有利な世界にした。

 この世界では、きっと……

 

 

 ああ、この素晴らしい世界に祝福を。

 

 

 

 

 

 

 

 グレテン王国、キャメロット城の来賓室。

 肩まで届く煌めく銀色の髪に宝石のような翡翠の瞳、細長の耳の女性がソファーの肘掛けにもたれかかり、退屈な表情を浮かべていた。

 

「あっちゃー、神様が呼びかけてもダメとはねー。これは大変なことになっちゃったな」

 

 その女性はある一点を眺めながらそう呟いた。

 女性が眺めているのは数メートルほど広がる奇妙な円形の空間であった。

 円形の空間は本来そこから先に見えるはずの来賓室の光景は見えず、別の空間が映し出されていた。

 その円形の空間からはノイズやモヤが広がっているものの、一人の少年が一人の少女を抱きしめて寝ているのが辛うじて見えた。

 

「ニホンの世界も悪くないとは思うけど、ちょっとつまらないかなー。彼には暴れたりもがいたりする姿の方が似合ってるしさ」

 

 女性が手を払うと、円形の空間は消えた。

 

「トリスタンのやつ、記憶弄られてすっかり順応しちゃってるなー。ゆんゆんちゃんもダメそうだし、あの神も使えないしなー。これは詰んじゃってるよねー」

 

 ウンウン唸りながら、女性は独り言を続ける。

 

「うーん、私か?私が行けば解決なんだろうけど、私はただのファンだしなぁー。確かに出番はあるんだけど、まだ先だったはずなんだけどなー」

 

 女性は十秒ほど悩むと、覚悟を決めたように立ち上がった。

 

「ファンが物語に出るのはアレだけど、好きなものを応援するのもファンの仕事だ!私がやろうじゃあないの!」

 

 無理矢理覚悟を決めた、みたいな感じで言っているが、女性の瞳はキラキラと輝いていた。

 そんな気合いの入った一言に反応したように、来賓室の扉が開いた。

 現れたのは、腰まで届く光るような金髪に碧眼の全身鎧の女性だった。

 

「やはり貴様か、マーリン」

 

「おや、アルトリウス。どうしたんだい?」

 

「どうしたもこうしたもない。来賓室を使うなといつも言っているだろう」

 

「少しくらい、いいじゃあないか」

 

 国の王に注意されたというのに、全く気にしていないマーリンはニコニコした笑顔で続けて言った。

 

「そうだ、アルトリウス。この国の王よ、少しだけお暇をいただくよ」

 

「………貴様はいつも暇だろう」

 

「なんて酷いことを言うんだ、君は」

 

 呆れ果てた顔で言うアルトリウスに、明らかな嘘泣きで悲しがるマーリン。

 だが、事実であった。

 この国に仕える魔法使いであるマーリンは毎日どう暇を潰すかを考えるのが日課であった。

 仕事を与えても面倒くさがるか、一瞬で終わらせてしまうのだ。

 

「はあ、まあいい。貴様が何をしようと勝手だが、一応こちら側に何かあっては困るから聞いておこう。何をするつもりだ?」

 

「そんな心配しないでくれたまえよ。これでもグレテン王国に仕える者として迷惑になるようなことはしないさ」

 

「貴様みたいなロクデナシがよくも言えたものだ」

 

「いやあ、今日のアルトリウスは絶好調だね」

 

「言え。何をするつもりだ」

 

「なあに、ちょっとお気に入りの彼が困ってるから助けてあげるだけさ」

 

 マーリンのそんな言葉を聞いて、アルトリウスはドン引きした。

 

「貴様なんかに気に入られるなんて、なんて不幸なことだ……」

 

「そんなに言われちゃうと傷付いちゃうじゃあないの。まあ、これは君にも関係あるし、ちょろっと解決を見届けてくるよ」

 

「……なに?私に?貴様、どういう……」

 

「じゃあね」

 

「なっ!?待て!」

 

 アルトリウスの制止の声を聞かずに、マーリンの足元に円形の穴が広がると、そのまま落下していき、マーリンがいなくなると同時にその穴は閉じた。

 





序盤ふざけたせいで、まだニホン初日……。
話が動かなかったので、次の章に出るはずのキャラまでフライングする始末。
この章はあと数話続きます。
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