このファン1周年おめでとうございます!
このファンは私にとって、このすばにまた興味を持つきっかけを与えてくれたゲームですので、1周年とは大変喜ばしいことです。
このファンが無ければ、このすばの原作を読み切ることも、この作品も無かったことでしょう。
こめっこがホーストを連れて参戦しますが、これからもどうなっていくのか楽しみですね。
そんなおめでたい的なことを言っておきながら、アレなんですけど……今回とっても下ネタ注意です。
108話です。さあ、いってみよう。
ヒナとなんとなく気まずくなりつつも、いつも通りの日常を送り、数日が過ぎた。
今は二時間目の授業中だが、担当教諭の急な体調不良で自習となった。
最近夢見が悪いせいで寝不足気味だった俺は自習と言い渡された瞬間に、これ幸いとばかりに机に突っ伏し寝に入った。
ヒナからは何度か声をかけられて、ゆんゆんとトリスターノから苦笑する声が聞こえてきたが無視した。
ヒナも割と早めに諦めてくれたようで、俺はすぐに寝ることが出来た。
だが、寝不足の理由が
《うぅ……お願いしますよぅ……何で無視するんですか………このままではヒナギク成分が切れてしまいます……》
この女性の啜り泣く声が毎晩、もしくは俺が一人でいる時に聞こえてくるのが寝不足の原因だった。
頭に直接響いてくるのも最悪で気が狂いそうだったが、言ってくる内容が内容だけに、どちらかというと呆れ気味になってしまった。
聞こえてきた最初はなんとも不気味でしょうがなかったというのに、しつこいせいで流石に慣れてきた。
しかもこの声の主はヒナを知ってるみたいだし、悪い奴ではない……と思う。
ヒナギク成分とやらは全くわからないが。
《聞こえてるんですよね……?はっ!?まさかヒナギクとのハッピーエンドを迎える気ですか?それだけは許しませんよ!》
怒気を含んだ声は頭にうるさく鳴り響いた。
俺が返事をしない理由は、自分が中二病みたいで嫌だからだ。
この前トリスターノの奴に既視感や幻聴について相談したら「お年頃なんですね」みたいな発言をされたのが頭に来たので、余計返事をしたくない。
あとこの声はあまり好きじゃない、気がする。
《ああ、またヒナギクの妨害が……今晩は絶対返事をしてくださいね!》
ああ、やっと静かになる……。
………。
……。
…。
『お、やっとお眠りかい?』
声が聞こえて、目を開けると真っ暗な空間にいた。
なんとなくだが、今は夢の中にいるのだというのがわかる。
この夢の中には俺だけでなく、俺の数歩先にフードを目深に被った女性が見えた。
その女性のフードから少しだけ見える美しい銀髪と細長い耳が、夢だという予感を確信に変えた。
白いローブに身の丈ほどの杖も合わさり、アニメや漫画の世界に出てくるキャラクターだ。
『君が深く眠り込んでくれないと、流石の私も潜り込むのは難しくてね』
最近聞こえる幻聴とは違って、その女性から発せられる声はとても心地の良いものに聞こえた。
俺から話しかけることは出来なかったが、聞き入ってしまっていた。
『さあてヒカリ君、少しだけお節介に来させてもらったよ。このマーリ………やべ、名乗っちゃうところだったじゃあないの。ええっと、ちゃんと名乗るのは直接会った時がいいから……うーん』
少しの間顎に手を置き、思案顔をしていたが、何かを思い付いたように手を叩くと。
『私の名はアンブローズ。この名は覚えてくれてもいいし、覚えてくれなくてもいい。でも君はしっかり覚えちゃうんだろうなー。こんなに綺麗なお姉さんだからね』
マーリからアンブローズとは、随分と違う名になったものだ。
この女性の言う通り、確かに美しい女性なのだが、俺は返事をしなかった。
最近聞こえてくる幻聴に加えて、夢で話しかけてくる現実ではあり得ない美貌の女性というなんとも言えない中二病の加速っぷりに頭を悩ませていたからだ。
あと一応警戒心もある。
『名乗ったのに名乗り返してくれないなんて残念だよ。でも、いいさ。君のことはよーーく知っているからね。なんせずっと見ていたぐらいだし。君の人生はとても面白い。これまでも、これからも』
警戒心が強くなったと同時に、疑問が湧いた。
見ていた云々はとりあえず置いておいて、俺の人生は見られて面白いものだとは思えなかった。
恵まれた環境だとは思うが、俺の人生は平凡だと思う。
最近は良くない病に冒されているけど。
『でもこのルートは良くないなぁ。悪くないとは思うけど、良くもないよ。平凡で特別でもない、だが君は特殊だ。そんな君にこの世界は似合わない、相応しくない』
俺には何を言ってるか、全くわからない。
『座ってるだけなんて、つまらないんじゃあないのかい?』
俺の心臓がドキリと鼓動を早くした。
『退屈じゃあないのかい?武術を教える子供達のいい加減な態度を見て、失望したんじゃあないのかい?』
……確かに、俺は空手を教わる子供達の『親に通わされている』姿を見て、少しがっかりしていた。
もっと、もっとこう………『必死さ』とか『ハングリーさ』が足らないような気がしたけど、『こんなものだろう』と、自分を無理矢理納得させて適度にやって無難に終わらせた。
必死に生きて、夢中になって教わろうとする子供達を、俺は知っている気がする。
だから俺はきっと『つまらなかった』。
それがアンブローズにも、ヒナにもバレたのだろう。
『違和感を感じてるんじゃあないのかい?何かが間違っている気がするんじゃあないのかい?』
警戒心は消え去り、アンブローズの言葉を聞き入っていた。
俺が考えてることや感じていることを正確に突いてくるということは、正解でなくても『何か』を得られんじゃないかと、そんな気がした。
『失ったモノがあるんじゃあないかい?取り戻したいモノがあるんじゃあないかい?』
………。
『さあ、どうだい?こう、湧き上がってくる感情とか、思い出しそうな記憶とかあるんじゃあないかい?』
…………いや、それは特に無い。
俺がノーリアクションなせいか、アンブローズは困惑した様子だ。
『……え?まさか何も無いの?おいおい、君の世界のマンガやアニメでこんな感じの事言われると『うっ……頭が……』とか『思い……出した……っ!』とか都合良く起こるじゃあないの。頑張れよ、主人公だろ?』
何言ってるんだ、この女は。
というか、やっぱりこの女性は俺の中二病が生み出したモノみたいだ。
夢の中で答えを得ようなんて間違ってたんだ。
『はあ、もう仕方ないな。記憶の封印が厳重にされてるみたいだから、無理矢理えいえいって解除するから、今夜は早めに寝るんだよ。それから───』
「ヒカル!いい加減起きて、次の授業の準備をしなさい!」
「ふぁっ?」
夢から覚めると、ヒナが仁王立ちしていた。
それとトリスターノとゆんゆんがこちらを見ていた。
休み時間になったみたいだ。
「おはようございます。良く寝られましたか?」
「シロガネ君、おはよう。ふふ、よだれ垂れてるよ?」
ゆんゆんから言われて、恥ずかしくなった俺は制服の袖で拭こうとすると、ヒナからハンカチを投げ渡されたので、それで拭き終わるとヒナにハンカチを即座にひったくられた。
洗って返そうとか思ってたんだが、すぐにヒナの制服のポケットに仕舞われてしまったので何も言う気にならなかった。
夢での出来事や最近の幻聴、既視感。
それらを踏まえて、俺はある一つの答えに到達していた。
俺は授業を受ける気なんてあるわけもなく、片肘を付いて隣を眺めた。
そこには真剣な表情で授業を受けるゆんゆんの姿があった。
授業なんて聞かなくても、トップクラスの成績なのに真面目な態度を貫き通すゆんゆんには尊敬の念を抱かずにはいられない。
じっと見ていたせいか、ゆんゆんは俺の視線にすぐに気が付いた。
目をぱちくりさせた後、首を傾げてきた。
うーん、可愛い。
俺は何でもないと首を横に振ると、また首を傾げた後、授業を真面目に受け始めた。
そう、ゆんゆんは可愛い。
お前は唐突に何を言ってるんだと思うかもしれないが、ゆんゆんは可愛いのだ。
成績もトップ、容姿もトップ、そして───。
俺は少し下に視線を移す。
そこには素晴らしい
そう、スタイルもトップだ。
超完璧美少女。
それがゆんゆんだ。
その完璧さと異常なまでの人見知りな性格のせいで友達は少ないが、それは置いておいて。
視線を前に移すと、ゆんゆんと同じく真面目な表情で授業を受けるヒナの姿があった。
文武両道という言葉がヒナには似合っている。
学校の成績が良いのはもちろんのこと、空手の大会でも上位に入賞する。
容姿も幼馴染という贔屓目無しでも、まあ良い方だろう。
だが、しかし。
スタイルは壊滅的だ。
まな板ではないことだけは確かなのだが、まるで神様がヒナに第二次性徴を与えるのを忘れてしまったのではないか、と思ってしまうほどだ。
学校一のスタイル抜群女子と、学校一成長の希望が無い女子がこうして並んでいることに世の中の残酷さを感じずにはいられない。
だが、しかし。
俺はそんなヒナに
ゆんゆんみたいなスタイルが好みのはずなのにだ。
いや、ゆんゆんのことを変な目で見ているわけではない………ということでもないけど、それは今はどうでもいい。
ヒナを相手にエロいことを考えた。
その事実こそが、鍵であり、答えであった。
幻聴はあまり好きではないが、女性の声であった。
夢に出てきたのも、現実ではあり得ないほど美しい女性であった。
体育の時間に胸を弾ませるゆんゆんを目で追って変なことを考えてしまった。
ヒナと一緒に風呂に入って、すんごいことをするところだった。
俺が到達した一つの答えとは、つまり。
俺はおそらく『欲求不満』なのだろう。
きっとガス抜きが足らない。
俺は今日帰ってから、するべきことが決まった。
「───じゃあ白銀。この問題を答えてみろ」
「わかりません」
「よーし、分かるまで立ってなさい」
………俺は授業の問題の答えには辿り着けなかった。
男には自分磨きの時間が必要だ。
その時間だけは、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。
独りで静かで豊かで……。
そんな思いを胸に、視覚から得る情報と、自らの頭で想像したものを掛け合わせて、創造する。
そして未来に向けて磨き上げるのだ。
其処に至るは数多の研鑽。
築きに築いた塵紙塚。
白濁を以って業を断つ。
自ら鎮めるは己の刃。
剣の鼓動、此処にあり───!
無限の精製。
───────無双すべき勝利の剣。
「ヒカル、自習で寝てたんだし、少しは寝る前にべんきょ、う……」
「っ……ぐっ……あ、あー……え、えっと……」
男の子が欲望を吐き出している時って、とってもIQが低くなるらしいんだ。
だから、隠したりするよりも、吐き出す方や言い訳する方を何故か優先したわけで……。
状況を説明すると、見られてはいけないところを全て見られたわけで……手の上下とか、ティッシュ押さえて吐き出してるところとか、快感で情けない顔をしてるであろうところとか……他にも多分まだありそう。
俺が冷静になれて行動が出来たのは、俺が欲望を放出し終わって数秒経って、ヒナが耳まで真っ赤にして視線をあらゆる場所へ行ったり来たりしてる時だった。
俺はいそいそと後ろを向いて後処理を始めながら、後ろを振り向きながら言った。
「あ、あの、ちょ、ちょっと部屋の外で待っててもらってもいいですか……?」
「は、はぃ」
ヒナは熱に浮かされたように、真っ赤な顔でフラフラと部屋を出ると、後ろ手に扉を閉めた。
や、や、やらかした………。
飯食って風呂入り終わると、俺の家の人間はほとんど俺の部屋に来ないから、油断してた。
唯一ヒナは来てもおかしくなかったけど、来るみたいなことも言ってなかったし、連絡も来てないし、早く自分磨きがしたかったし。
深夜まで我慢が出来れば苦労はしないし、俺は寝不足気味だから睡眠時間は削りたくなかった。
ヒナが来ることを予想出来たとしても、俺の部屋には鍵は無いし、対策のしようも無い。
というかマジで何で来たんだよ、勉強なんかするわけないだろ。
ヒナが来たタイミングも最悪だった。
『ア◯ロ行きまーす!』で例えるなら、『ま』のあたりだからね。
その部分まで来てると、アム◯はもう行ってるというかイッてるからね。
そんなアホなことを考えつつ、後処理を進めていく。
くそ、消臭スプレーを部屋中に吹き付けてるけど、中身をぶち撒けた方が早いんじゃないか?
「はあ……」
思わずため息が漏れた。
消臭出来たところで、ヒナにとんでもないものを見せてしまったことは変えられない。
冷静に考えて、ヒナをこの部屋に迎え入れるのはマズくない?
それに、何て言おうか。
もう素直にナニをしてましたと言うしかないんじゃないか。
というかそもそも俺自身は何も悪いことしてないんだし、これでヒナも年頃の男の部屋に入る前には、ちゃんとノックをするという常識が身につくだろうし、結果的に良い話に落ち着いたりとか………しないねはい。
ああもう、まずは手を洗おう。
扉を開けると、当然ヒナがいた。
ヒナは俺と目が合うと、顔を耳まで赤くしてあたふたしていた。
「あ、あの、その、ぼ、僕その……」
「悪い。色々話すことはあるけど、まずは手を洗ってくる」
「は、はい!ど、どうぞ!」
素早く道を開けるヒナ。
大人しくて乙女な反応をされると、またヒナに反応してしまうんじゃないかと思ったが、ガス抜き後の俺に死角は無かった。
胸を大きくして出直してきてほしい。
……冗談はともかくとして、あの状態のヒナに何と話を切り出したものかと頭を悩ませながら手を洗っていると、後ろから足音がしてきた。
「あ、あの……」
洗面台の鏡から覗き見ると、後ろにはヒナがチラッと映っていた。
目が合うと、すぐに目を逸らして口を開いた。
「き、今日はもう帰ります」
はい?
「じゃ、邪魔してごめんなさい。これからはノックをするようにするし、夜にいきなり来るのも控えるようにします。く、詳しい話は明日とかに話そうね。ぼ、僕今は、その、ヒ、ヒカルと顔を合わせられそうになくて……」
すごい早口で捲し立ててきた。
でも、ヒナの言ってることはもっともだ。
俺は賢者だけど、ヒナはどう考えても冷静じゃないし。
「わかった。おやすみ」
「う、うん。おやすみ。また明日ね!」
ヒナは顔を赤くしたまま去っていった。
俺は手を洗い終わった後、部屋に戻り賢者ではなくなってくると、マジでヒナにとんでもないところを見られたことに頭を抱えた。
もうどうにでもなれ、明日は明日の風が吹く。
そう考えた俺は布団を頭から被り、目を閉じた。
俺は気が付くと、真っ暗な空間に……
『おやすみ、おはようそしてどーん!』
「は?」
状況を確認する前に、昼間の夢に現れた女性が意味のわからないことを言って、杖から出てきた『変なもの』を俺に飛ばしてきた。
『変なもの』とは何かを無理矢理表現するのであれば、漫画のギザギザした大声のフキダシみたいなものだろうか。
それが俺に伸びてきて直撃し───
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
バカっぽい見た目のものとは裏腹に、その『変なもの』は直撃すると同時に俺の体を包み込んだ。
その『変なもの』は凄まじい電流のようなものみたいで、俺の全身を針で刺すように痛ぶった。
『大丈夫!きっと大丈夫!ここは夢の中だから死ぬことは無いし、気絶することもないよ!………もしかしたら精神的に死ぬかもしれないけど、そこは私がなんとかしようじゃあないの!がんばれがんばれ、主人公!』
「ふざけんじゃねえこの野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺はただ叫ぶことしか出来ず、それから何秒、何分、何時間経ったかわからないが、その痛みは無くなり、俺は倒れ伏した。
『どう?何か思い出した?』
アンブローズが屈んで俺の顔を覗き込んでそう聞いてきた。
未だフードを深く被っているが、俺が倒れてることとアンブローズが覗き込んできたことで、アンブローズの顔が少しだけ見えた。
翡翠色の瞳は宝石のように綺麗で、見ていると惹き込まれてしまいそうだったが、今は痛みでそれどころではなかった。
「て、てめえ……なに、しやが、る」
『あれー?まだ思い出さない?もうちょっとビリビリしとく?』
「ざけ…………っ?」
何を思い出せというのか、そんなようなことを聞こうとした時、俺は痛みによるショックのせいか徐々に今までの記憶を思い出した。
思い出して、混乱した。
この状況はなんだ?
何がどうなってる?
何故日本にいて、中坊なんかやってる?
ゆんゆん達がいるのも全く意味がわからない。
そもそもこのアンブローズって誰だ?
何故俺に記憶を思い出すようにアプローチをかけてきた?
『お?その様子は思い出したと見ていいのかな?いやーショック療法って大事だね。安静な治療とか君にはちょっと似合わないし』
こいつ、マジで何なんだ?
俺は記憶を思い出したが、こんな奴知らないぞ。
俺は痛みによる恐怖とアンブローズの得体の知れなさに警戒心を最大まで上げた。
……上げたところで、今は這いつくばることしかできないが。
『さて、記憶を思い出させてあげたことだし、帰ってもいいんだけど、流石にそれは可哀想か。状況説明ぐらいはしてあげようか?』
俺は警戒していたものの、今の状況が謎すぎることと少しでも情報が欲しい一心で、頷こうとしたその時。
《ヒカルさん!今日はいい加減返事の一つでも送ってもらいますよ!》
記憶の無い俺を悩ませていた声。
変態女神ことエリス様の声が響き渡った。
《深夜まで待ったかいもあって、ヒナギクがぐっすり眠っている今がチャンスなんです!返事をください!まさか本気でヒナギクとハッピーエンドする気ですか!?》
やかましい声に俺の顔が引き攣っているのを感じていると、アンブローズも呆れた顔をしていた。
どうやらこのアンブローズもエリス様の声が聞こえているらしい。
《それなら私にも考えがありますよ!これはあまり使いたくない手ですが、創造神様に協力を要請します!創造神様は遥か昔『破壊神』と呼ばれた方で───》
『じゃあ女神様に後はお任せしようかな。私は観客に戻るとしよう』
エリス様の声を無視して、アンブローズが立ち上がりながらそう言った。
こいつは一体……?
『あ、そうだ。女神様の言う通りヒナギクちゃんはぐっすり寝ているみたいだし、直接女神様に会いに行ったらどう?』
何を言ってるんだ?
そんな表情で俺が考えていることがわかったのか、アンブローズはまたも呆れた表情になった。
『君ね、まさかとは思うけど、女神様に渡されたものをすっかり忘れてしまっているんじゃあないだろうね?』
渡されたもの……?
『うっわ、本当に忘れてるよ。あんな便利なもの中々無いのに。でもパラメデスに殺された時とかも使ってなかったし、そんな気はしてたけどね』
忘れてる?便利?
『はあ、しょうがないな。君の体をこのまま動かせるようにしてあげたから、求めるものに手を伸ばしなよ。いいかい?余計なことは考えなくていい。女神様の元に行きたいって思いながら手を伸ばすんだ。そうすれば自然と手が向かうものさ』
わからない。
わからないが、今はそんなことを言ってる場合じゃないみたいだ。
手を伸ばす、手を、伸ばせ。
『そうそう、やれば出来るじゃあな……おいおい、それはさっき君が夢中になってしごいてたモノじゃあないの』
ええっ!?俺ナニを持ってんの!?
『君ね、若くなったからってそういうことばっかりしていいと思ったら大間違いだよ。もういいよ、片手はソレを握ってていいから、もう片方の手をちゃんと伸ばしなよ。そう、ウエストポーチの奥底にある……それだ。それに向かって念じるんだ。あとはちゃんとやるんだよ』
この手にある本の栞のようなサイズの、紙のようで紙のような手触りでは無いこれは……。
俺はそれに向かって『エリス様の元に向かいたい』と念じた。
「ヒナギクの為にも私はやって……え?」
「んあ?」
気が付くと、あの真っ暗な空間にいた。
数メートル先の椅子に座った女神エリスと目が合った。
「え、どうし、ってきゃあああああああああああああああ!!ど、どこに手を突っ込んでるんですか!?」
「へ?え?」
「さ、最低です!私には興味がないみたいなことを言っておきながら、実は私を狙っていたんですね!」
そんなあり得ないことを言われて、自分の状況を確認すると、右手に
俺はズボンに突っ込んだ手を引き抜いて
「ち、ちがっ!こ、これは何かの間違いで」
「な、何をどうしたらそうなるんですか!ケダモノです!そ、その汚らわしい手で近寄らないでください!悪魔祓いの魔法を掛けますよ!?」
「誰が悪魔だこの野郎!け、汚らわしくなんかないわっ!これは違う!マジで違う!絶対に違う!!」
俺はエリス様に説明やら言い訳やら喧嘩やらを一時間ほどして、ようやく本題に入ることが出来た。
───奥の手はねえのかってえ?
阿呆が。
すいませんでした。
現在の状況について、説明します。
……いえ、誤魔化そうとかしてませんマジで。
エリス様はヒナギクの妨害のせいでヒナギクが創り出した世界に干渉がほぼ出来ない状況ですが、なんとか力を振り絞ってヒカルに話しかけています。
世界の中やヒカルの現在の状況がわかりませんし、ヒカルがエリス様の声を無視しているので、情報無しの状態が数日続いています。
ヒカルは『体だけ』が約10年ほど巻き戻ってるので、その当時の真面目だった頃の精神性ではなく、大人のヒカルの記憶は無くとも精神性はそのままになってます。
記憶も封印されて、更に改竄されて、尚且つ少し前の自分とはかなりの差があることから、ヒカルはかなり混乱しています。
なので、変な答えに行き着いたり、早い時間からガス抜きに精を出したり、ヒナに目撃されたり、とんでもないモノローグとかを出してしまうのは仕方のないことだったんですね。
若くて真面目なヒカルではなく、若くて欲望に素直なヒカルなので、こうなってしまったのはある意味必然と言えるでしょう。
結論としましては、ヒカルが悪いってことですね。
ヒナに見せつけるプレイングとか、ゆんゆんの体をじっくり見るとか本当最低だと思います。
あ、このファン1周年おめでとうございます。
マーリ……アンブローズについては、次回か次々回あたりの後書きに説明が入ると思います、多分。
それとこの章も次回かその次で終わりです。