このすば ハード?モード   作:ひなたさん

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109話です。さあ、いってみよう。



109話

 

 

 以前お詫びに渡されたテレポート装置で女神エリスの部屋へとやってきた俺は、エリス様との情報交換が終わり、これからどうするかを話し合っていた。

 

「ヒナギクを説得して、『ラピ◯タ』を畳んでもらうのが一番手っ取り早いのですが……」

 

「その名前はやめろこの野郎。『ニホン』でいいだろ」

 

「ですが先程言ったように、アクセルでは『ラ◯ュタ』と呼ばれていてですね」

 

「いいから『ニホン』って呼びなさい」

 

 俺が呆れながらそう言うと、不満気な顔で頷くエリス様。

 ヒナギクが天使の力と花の力を使って、別世界を創り出した。

 その世界はアクセルの上空に存在していて、アクセルの街からは超巨大な卵型の何かが浮かんでいるように見えるらしい。

 突如発生したその存在の調査をしようにも、遥か上空にあるものをどうすることも出来ず、一か月の期間が過ぎた頃、周囲の反対を無視してめぐみんが爆裂魔法を放った。

 爆裂魔法すらも耐えるその何かは結局ただ放置されるようになり、アクアが『ラピ◯タ』と呼び始めたことで、そう呼ばれるようになったとか。

 

「まったく、とんでもねえ名前つけやがって。著作権的にも早く解決しないとだな」

 

「著作権はどうでもいいので、早くヒナギク成分を……」

 

「ざけんな、著作権の方が重要に決まってんだろうが」

 

「こっちは大真面目ですよ!約一か月のヒナギクロスに耐えたのは奇跡みたいなものですよ!?というか一緒に学校に通ってるって言いましたか!?言いましたよね!?何もしてませんよね!?手を出してませんよね!?」

 

「………ただの幼馴染だよ」

 

 お風呂やらとんでもないところを見られたところが頭をよぎり、少し間が空いてしまった。

 

「今の間は何ですか!?幼馴染って!幼馴染って最高じゃないですか!私もヒナギクと幼馴染になりたい!ヒナギクに毎朝おはようのキスで起こされてみたい!そして手を握って登校したり───」

 

 幼馴染というワードに激しく反応を示してきた女神エリスは、それはもう興奮なさっているようで、俺に唾を飛ばして熱く語り始めた。

 幼馴染はおはようのキスとか手を握って登校はしないだろ。

 

「ヒナを説得するにしても、ここまでやったからにはそう簡単には引かないだろうし、何か良い案は無いか?何を思ってここまでしたのかもわかってないんだし、最悪説得以外の方法も……」

 

「そ、そして、み、身を清めた後は当然ベッドイン!それぞれの寝室で寝ていたはずのヒナギクが枕をギュッと抱きしめながら私の元に来るわけです!そ、それを私が優しく受け入れ、そ、それで、はあ、はあ……た、たまりません!ヒナギク、ああ、そんな!ダメですダメです!し、仕方ありません!そんな風に誘ってくる悪い子にはお仕置きをしなくてはいけませんね!うへへへ───」

 

 発作が起きてしまったみたいだ。

 約一か月間のヒナ禁は余程辛かったのか、まだ発作は止まりそうにない。

 

 エリス様は置いておいて、ヒナの説得をどうするかを考えたかったのだが、記憶をいじられたせいか混乱して考えることに集中出来ない。

 ヒナが改竄した過去の記憶と、うっすら覚えている元の記憶が混在していて、俺の中学生までの記憶が本当にあった出来事なのか信じることが出来なくなる。

 高校生以降の記憶は思い出しやすいが、記憶が少し曖昧な部分が多い。

 確か『ニホン』に行く直前の記憶はヒナに願いが叶う花に、ずっと一緒にいられるように願ってほしいと言ってきた記憶……のはず。

 ヒナが何を考えて、別世界を創り出すなんて大それた事をしたのかは正確にはわからないが、なんとなくならわかる。

 ヒナもきっと俺達と居たかったんだ。

 ヒナが天界に行ってやろうとしてたことも多分『ニホン』にいればしなくて済む問題だったのかもしれないし、別世界に引きこもって逃げ切ろうとしてたのかもしれない。

 ヒナは『日本』にめちゃくちゃ憧れてたし、こんな形でも願いを叶えたかったのかもしれない。

 俺達が中学生の年齢まで戻ってるのも、記憶を変えられているのも、多分俺達と学校生活をしたかったとかそんな感じだろう。

 

 憧れの平和な世界で、憧れの学校生活。

 ヒナが望みそうなことだ。

 俺だって転生してきて、この世界の辛さを味わった今なら日本がどれだけ恵まれた世界かわかる。

 

「……」

 

 俺が色々と考えていたら、いつの間にか鎮静化したエリス様が俺をじっと見ていた。

 

「何だよこの野郎。発作が治まったんなら……」

 

「言っておきますけど、ヒナギクと会いたいが為だけに、貴方に説得をしろと言っているわけではありません」

 

 俺が考え込んでたせいか何か勘違いしているらしい。

 

「世界と世界が干渉し合って、とても不安定になっています。それにめぐみんさんの爆裂魔法を耐えたとは言いましたが、これからも耐えられるとは思えません。ヒナギクが今のヒカルさんの状態に気付かずに此処に来れているのは、爆裂魔法によるダメージのせいだと思われます。『ニホン』は平和な世界ではありますが、保ったとしても数年が限界です。世界を維持するにしてもヒナギクにはかなりの負担がかかるでしょう。それでもいいと思いますか?思いませんよね?思うわけがありませんよね?」

 

「わかったわかった!わかったから離れろ!」

 

 高速詠唱をしながら徐々に迫ってくる圧力に鬼気迫るものを感じた俺はエリス様を押し除けながら、そう言った。

 

「それにこの状態がいつまでも続くとヒナギクのことが他の神々にバレてしまいます。早急な解決が必要です」

 

 俺がどうにか出来ないかと聞いた時には勝手にトリップしてたくせに。

 だが、正常な状態のエリス様ならまだ良い話が聞けそうだ。

 

「何か策はあるのか?」

 

「ええ、一番良い案があります」

 

 意外にも即答が返って来た。

 この神様は割と有能なのかもしれない。

 

「私の名前を出しましょう。『ニホン』には私がいませんからヒナギクもそろそろ私を恋しく思って……」

 

「ねえよ」

 

「何でですか!?」

 

「何でもクソもあるか!」

 

 有能なんてことあるわけがなかった。

 結局良い案が得られるわけも無く、一度説得に『ニホン』へと戻り、解決が難しそうであれば、またテレポート装置を使って此処に戻ってくることになった。

 

「じゃあ一回戻るぞ」

 

「あ、待ってください。それはあと二回しか使えませんから、私が送ります」

 

 俺が本の栞のようなテレポート装置を握りしめて帰ろうとすると、エリス様が待ったをかけてきた。

 

「え、送るとか出来んの?」

 

「はい、私のHSLパワー全開で貴方を『ニホン』に送り届けてみせます。私の少ない力ではありますが、貴方ならあの世界に弾かれずに中に入れるでしょう」

 

「ちょっと待った。HSLパワーって何?」

 

「え?ヒナギク(H)スーパー(S)ラブ(L)パワーに決まってるじゃないですか?何言ってるんですか?」

 

「お前が何言ってんだアホ女神」

 

「ア、アホ女神って何ですか!?そろそろ天罰を落としますよ!?」

 

「今シリアスシーンなんだよ馬鹿野郎!いいから早く送ってくれ!」

 

「いつか私のことを神様だとわからせてあげますからね!それでは頼みましたよ!」

 

 エリス様がそう言った後こちらへ両手をかざすと、景色が一瞬で変わり、俺は自分の部屋にいた。

 

 ……改めて見ると、懐かしい部屋だ。

 そう思い部屋を見回していると、窓の外が白んでいるのが見えた。

 もう夜明けだ、そう思うと眠気が急激に襲って来た。

 エリス様のせいで睡眠時間が少なくなってしまった。

 

 ───ああ、学校休みたいな。

 そう思った俺は自分自身に苦笑した。

 だって、此処は偽りの世界で、偽りの学生生活をしているのだ。

 それに何より俺はこの世界を終わらせるために戻ってきたのに、学校に行きたくねえなんて思うのは馬鹿げてる。

 でも、何故だかそう思った。

 行く必要もないはずなのに。

 行っても意味なんか無いのに。

 あまり思い出したくない過去の俺の馬鹿真面目な部分が出たのか、それともこの優しい世界を気に入ってしまっているのか、もしくはヒナの記憶の改竄に頭がやられているのか。

 

 俺は布団の中に入り、目を瞑る。

 ヒナの説得は今夜か明日、明後日あたりにしよう。

 睡眠不足でヒナを説得出来るとは思えないし、早急な解決を求められたが期限は言われていない。

 だから少し時間がかかってしまってもいいだろう。

 だから、だから少しだけ。

 死に目に会えなかった祖父に抱きしめてもらって、老犬じゃない元気いっぱいのコンちゃんを思いっきり抱き締めてからでも、特に問題は無いだろう。

 

 

 

 

 しおらしいヒナに起こされて、いつも通り……と思うのはヒナが設定したからなんだろうが、いつも通り飯を食って登校する。

 ヒナは昨日のことを気にしているのか、俺と目が合うと顔を赤くして言葉が少ない状態だった……のだが、今日は道場の日ということで道着と防具をしっかり持たされた。

 行動力もしおらしくなって欲しいものだ。

 俺はクラスメイトに言葉少なに挨拶をして、すぐに机に突っ伏した。

 睡眠不足のせいで、とにかく眠かった。

 教師に注意されて起こされたものの、俺はすぐに寝に入った。

 ヒナにも何度か起こされたが、しおらしい態度のせいか、俺の寝不足の原因が自分にあると勘違いしているのか、強引に起こしてくることは無かった。

 そしてあっという間に放課後を迎えた。

 

「ヒカル、ぼ、僕は生徒会があるから少し遅れるけど、先に道場に行っててね!?いい!?」

 

「わかったよ」

 

 俺が返事をすると、未だに恥ずかしがっているのか顔が赤いヒナは大きな荷物を抱えて走り去っていった。

 ヒナは生徒会役員、という設定だった。

 まあ、ヒナにはお似合いだろう。

 俺が少し膨らんだカバンを手に取り、ゆんゆんの方を見ると

 

「じゃあね、シロガネ君」

 

 帰り支度を済ませたゆんゆんが微笑み、俺に手を振って来た。

 そんなゆんゆんが寂しそうに見えて、俺は考えるまでも無く、自然と頭に浮かんだことを口に出した。

 

「ゆんゆん、今日は一緒に帰らないか?」

 

「え?」

 

 随分と唐突だったと思うが、ゆんゆんが寂しそうにしてるのは嫌だった。

 更に俺は隣を向いて、話しかけた。

 

「トリスターノもどうだ?一緒に帰らないか?」

 

「おや?私までお声がかかるとは思いませんでした」

 

 大袈裟に驚くトリスターノは置いておくとして、俺はゆんゆんに確認の意味を込めて、視線を送った。

 

「え、えっと、もちろん一緒に帰るのはいいんだけど、急がなくて大丈夫?ヒナちゃんに怒られたりしない?」

 

「大丈夫だよ。ヒナがブチギレてくるのは慣れてるし」

 

「怒られる前提なんだ……」

 

 呆れた顔で俺を見てくるが、ゆんゆんは断ろうとはしていなかった。

 きっとこの世界では寂しかったのだろう。

 

「で?トリスターノは?」

 

「ヒナさんに浮気の報告が出来るように是非とも参加したいところなのですが、生憎弓の自主練をしてから帰りたいので、今回は不参加でお願いします」

 

「アホ言うな」

「わ、私そんなつもりじゃ……」

 

 ゆんゆんがトリスターノの冗談を間に受けてるのは置いといて、トリスターノの弓か。

 この世界のトリスターノの弓はどんなもんか、少し気になるところではある。

 普段は柔和な笑みを浮かべているトリスターノも弓のことになると、やたら負けん気を出してくるからな。

 

「ゆんゆん、帰る前にトリスターノの自主練見ていこうぜ」

 

「え?」

「ほう」

 

 トリスターノの目付きが変わった。

 世界が変わっても、こいつは変わらないらしい。

 これは絶対に良いところを見せなければいけませんね、と言ったトリスターノの後を俺達はついて行った。

 

 

 

 

 

 俺が通っている中学校は一部分が大幅に改変されている。

 それが今来ている場所である弓道場だ。

 確実にトリスターノの為に作られた場所だろう。

 そのせいか今いるのは俺達三人だけだ。

 そんなトリスターノの特設会場でトリスターノが弓道着に着替えて、道場に入って来た。

 いつものトリスターノなら、弓道着を見せびらかして感想を求めてきたりしそうだが、弓を持ったトリスターノは真剣そのものだ。

 ゆんゆんもトリスターノの雰囲気に当てられたのか、戦闘中のような緊張感を感じさせた。

 トリスターノが位置に立つと、足を肩幅程に開いた。

 ゆったりとした動きであり、それでいて洗練された動きだというのは素人目からでもわかる。

 トリスターノは弓に矢を番えて、頭ほどまで上げた弓矢を引き絞りながら、肩の位置まで落とし、的を見据えた数秒後に、矢は放たれた。

 矢は当然のように何十メートルも先の的のど真ん中に刺さった。

 

「すごい……」

 

 ゆんゆんが思わず呟いてしまうほどに、何もかもが完璧だった。

 トリスターノは全ての所作を終えて礼をすると、俺たちの方へと歩いてきた。

 

「どうでしたか?」

 

「すごかったよ、トリタンさん!あんなに遠くの的の真ん中に当てるなんて!」

 

「ふふ、ありがとうございます。ここで外しては格好がつきませんからね」

 

 先程の真剣な雰囲気は何処かへと行ってしまい、いつものトリスターノだ。

 ゆんゆんも弓道を初めて見たせいか、少し興奮気味だ。

 

「あの、どれぐらい遠いかとか、的に刺さってる矢とか見てきてもいい?もちろん踏み荒らしたりしないし、汚さないように細心の注意を払うわ」

 

「ええ、構いませんよ。足元に気をつけて下さいね」

 

「うん、少し見てくるね」

 

 この世界のゆんゆんとは恋人ではないにしても、あの様子を見るとなんとなく嫉妬してしまう。

 まさかトリスターノに惚れたりしないだろうな。

 ゆんゆんが離れていくのを見届けてから、トリスターノが俺を見てきた。

 まるで褒めて欲しい犬のようだ。

 

「すごかったよ」

 

「………それだけ?」

 

「おう」

 

「……そうですか。もう少し褒めて欲しかったところですが、いつも通りの貴方で安心しました。ここで思い切り褒められても、私は困りますからね」

 

「困る?俺が褒めてくるのが気持ち悪いってか?」

 

「それもありますが………いえ、何でもありません」

 

 気持ち悪いを肯定するのも腹立つが、何故だかトリスターノは口を噤んだ。

 

「なんだよ。気になる言い方しやがって」

 

「いえ、その、これを言ってしまうと……」

 

「いいから言えこの野郎」

 

「あまり怒らないで欲しいのですが」

 

「怒らねえよ」

 

 そこまで言うと、トリスターノは周りを確認してから口を開いた。

 

「困る理由は簡単です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。歩きながら呼吸しているのを褒められてるみたいなものですよ。だって()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 トリスターノは困った笑顔でそう言った。

 この天才はとんでもない事を言った。

 だが、トリスターノなら確かにそうだろう。

 

 まず誤解が無いように言っておくが、弓道がヌルゲーとかそういう訳ではない。

 少ししか俺は触れていないが、矢を的に当てるだけでも、かなりの努力が必要だ。

 最初は矢が的まで飛ばないことが多い。

 途中の地面に突き刺さったり、変な方向に飛んで行ったり、的の方まで飛んで行っても的には当たらないどころか隣の的に当たったり。

 誰もが想像出来る柔道や剣道、空手よりも、ある意味難しい武道だと言えるだろう。

 

 的に矢を当てることだけが弓道ではない。

 トリスターノは武道経験者の人間が聞いたら、あまり良く思わない発言をした。

 トリスターノはどちらも理解していて、だから先程言うのを躊躇ったのだろう。

 俺も記憶を取り戻してなかったら、きつい事を言ったかもしれない。

 

 トリスターノの弓の腕は本物だ。

 俺が投げたビンすらも射抜く。

 トリスターノは多分退屈なのだ。

 この世界は窮屈で、合わない。

 

「生意気め」

 

 俺がそう言って、困ったような顔をしているトリスターノを小突いてやると、何故だか嬉しそうに微笑んできた。

 気持ち悪い奴め。

 これだからイケメンは。

 

 

 

 

 トリスターノとは別れて、ゆんゆんと一緒に下校していると、ゆんゆんがそわそわしていた。

 

「どうした?」

 

「あ、あのね?私もトリタンさんと話し込んじゃったし、私が何か言える立場じゃないとは思ってるんだけど、本当に時間大丈夫?あ、誤解しないでね?一緒に帰るのが嫌とかそういうのじゃなくて、ヒナちゃんがすっごく怒るんじゃないかなって。私のことは気にしないで先に帰っても大丈夫よ?」

 

 なるほど、そういうことか。

 それにしても、今のゆんゆんを見てると、会ったばかりの頃を思い出すな。

 

「大丈夫だって、安心しろよ。何かあったら、ゆんゆんのせいだって言うから」

 

「そうね、それなら安し……え、今なんて……」

 

「それに少し遅れたり、たまに行けなかったりするぐらいしょうがないだろ。学生は学業が本分な訳だしさ」

 

「え、シロガネ君って勉強全然してな……」

 

「お、クレープ屋だ」

 

「明らかに話を逸らしたよね!?」

 

「勉強で疲れた体に糖分を入れておかないと疲れちまうし、一緒に行ってみないか?」

 

「ね、ねえ、シロガネ君って今日ずっと寝てたよね……?」

 

「行きたくないのか?」

 

「え、いや、そうじゃなくて……」

 

「何?」

 

「だって時間が……」

 

 とか言いつつ、クレープ屋をチラチラ見てるゆんゆん。

 こういう時のゆんゆんは()()()()()のがいい。

 

「空手前に腹に何か入れときたいんだけど、流石にこういう店に男一人で行くのは恥ずかしいし、ゆんゆんが一緒だったら助かるんだけどなぁ……」

 

「そ、そうよね!シロガネ君もお腹が空いてたら頑張れないし、多少遅れても仕方ないわよね!行きましょう!」

 

 うーん、チョロ可愛い。

 

 

 

 

 

 

 

「奢ってもらうなんて……本当に良かったの?」

 

「無理矢理誘ったしな」

 

 だいたいこの世界の小遣いなんて、もう数日しか使わないだろうし、まだ財布に余裕はあったし。

 

「無理矢理なんて、そんな。でも、ありがとう。美味しかったね」

 

「そうだな」

 

 その後も軽い雑談をしていると、すぐにゆんゆんとは分かれる道まで来た。

 俺は軽い気持ちでじゃあと言って、別れの挨拶をして、そのまま帰ろうとしたのだが、しばらくしても後ろから視線を感じた。

 振り返ると、先程別れた道でゆんゆんが俺のことを見ていて、視線が合うとあたふたした後恥ずかしそうに手を振ってきた。

 

「ゆんゆん、どうした?」

 

 流石に気になってしまって戻って声を掛けると、ゆんゆんは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「ご、ごめん。なんだかその、見送りたくて……迷惑だった?」

 

「迷惑ではないけど、ずっと見られてると気になるよ」

 

「そ、そうだよね……ごめんね」

 

「何かあったか?」

 

 そう尋ねると、ゆんゆんは迷った顔をしていたが、胸に手を当てて告白するように口を開いた。

 

「最近ね、私変なの」

 

 胸に手を当ててる姿を見て、俺はすぐに察した。

 

「ゆんゆん。それはな、第二次性徴ってやつで……」

 

「違うから!そういう『変』じゃないから!」

 

 胸を庇うように腕で隠して身を引きながらツッコミをするゆんゆん。

 しまった、違ったか。

 

「も、もう……ヒカルってばいつもこうなんだから…………あれ?」

 

 顔を赤くして俺を軽く睨んできていたが、数秒後呆けた顔になった。

 俺もすぐに違和感を感じた。

 

「あ、え、えっと、その、ごめん!いきなり名前で呼んで!し、しかも呼び捨てなんて……」

 

「いいよ、それぐらい」

 

「で、でも……」

 

「ゆんゆんには名前で呼ばれた方が、なんだかしっくり来るしさ」

 

 俺がそう言うと、ゆんゆんが驚いた顔で見てきた。

 

「私も、そう思ってたの。今までそんなこと無かったのに……」

 

 ゆんゆんもこの世界で違和感を感じているのか。

 

「他には何かあるか?力になりたいし、聞くよ」

 

「えっと、あとは、なんだか物足りなく感じたりとか、すごく寂しく感じる時があって……」

 

 ヒナに引き摺り回されるせいで、ゆんゆんと一緒の時間が少なかったからかもしれない。

 元の世界では四人でいることの方が多くて、一人でいる時間の方が稀だったせいだろう。

 

「じゃあ明日も一緒に帰ろう。トリスターノのアホも誘ってな」

 

「……」

 

 俺の提案が意外だったのか、それとも俺がグイグイ行き過ぎたせいか、返事が無かった。

 焦った俺は少しだけ早口で続けた。

 

「トリスターノは明日も弓引いてるかもしれないけどな。また見てから帰ろう。あ、トリスターノの良いところばかり見せるのもなんだか癪だし、今度は俺やヒナの空手も見に来るのはどうだ?」

 

「いいの?」

 

「当たり前だ。でも、今日は来たらダメだぞ」

 

「どうして?」

 

「ヒナが怒りん坊になってうるさいからな」

 

「……ふふ、あはは」

 

 ゆんゆんを笑わせられたのが嬉しくて、俺も笑ってしまった。

 この約束を果たすことは出来ないだろうけど、寂しがっているゆんゆんをどうにか安心させてあげたかった。

 

「また今度、ヒカルのかっこいいところ見に行くね?」

 

「ああ、また今度な。この際だから、他にも何か悩みとかあったら言ってくれ」

 

「えっと、他には……ヒカルのことを目で追っちゃったりとか」

 

「俺?」

 

「そう、ヒカ、ル、の……こ、と………」

 

 俺も思わず聞き返してしまったけど、ゆんゆんが本人に打ち明けちゃいけない事を言ってしまったのに気付き始めたせいか、どんどん顔が赤くなっていく。

 

「あ、こ、これは……その、ち、違うの!」

 

「何が?」

 

「え、えっと……あっ、あの」

 

 ゆんゆんの顔が耳まで赤くなって、手も落ち着きなく動いている。

 そんな様子が可愛くて、意地悪をしたくなってまた聞き返してしまった。

 

「こ、こんなこと言うつもりじゃなくて……!ああ、どうしよう……!?」

 

 パニックになったゆんゆんは後退りながら、そんなことを言った。

 俺はその様子を見て、ゆんゆんに告白された時のことを思い出した。

 告白して、しばらくすると恥ずかしくなって逃げ出すように走り出していた。

 俺も走れるように少しだけ身構える。

 

「へ、変なこと言ってごめんなさい……!」

 

 そう言って後ろを向いて走り出そうとするのを俺は手を掴んで止めた。

 すると、手を掴まれるのが予想外だったのか、ゆんゆんは割とすぐに止まってくれた。

 

「ゆんゆん、走って帰ると危ないし、代わりに俺が走って帰るから」

 

「え……?」

 

「気を付けて帰れよ。それと、また明日な」

 

 呆気に取られてるゆんゆんの手を離して、俺は家へと走り出した。

 アクセルの街や紅魔の里なら、ゆんゆんがパニックになりながら走っても人にぶつかるぐらいで済みそうだが、この世界には自転車も車もバイクもあって大事故に繋がりそうで怖かった。

 だから代わりに俺が走ることにした。

 

「ヒカルー!」

 

 ある程度離れたら、遠くからゆんゆんの声が聞こえて、走りながら振り向いた。

 

「また明日ねー!」

 

 そう言って、幸せそうに微笑むゆんゆんを見て安心した俺は───

 

 

 ゆんゆんの笑顔に見惚れて、後ろを振り向きながら走っていたせいで盛大にすっ転んだ。

 





次回で七章もラストです。


最近はモチベーションが死んでたので、投稿が遅れてしまいましたが、ちゃんと投稿は続けます。
次の8章を含めて最低三章は続きますから。
出来れば四章にしたいですけど、そこら辺は書きながら考えていきます。
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