110話です。さあ、いってみよう。
退屈そうなトリスターノ。
寂しげなゆんゆん。
今日の二人を見て、目が覚めた気分だ。
優しい世界に来れて、懐かしい家族に会えて、俺もはしゃいでいたのかもしれない。
ここは本当の日本じゃないし、本当の家族ではなかったけど、会えたのは嬉しかった。
財布の中身を使い切ってからとか、日本で食えるものをたらふく食ってからとか、祖父にちゃんとお別れをしてからとか、コンちゃんを抱きしめてからとか、いろいろ考えていたけれど、全部無しだ。
今日決着をつける。
元の世界に帰るんだ。
俺はゆんゆんにこっ恥ずかしいところを見られてから、家に帰るのではなく、腹ごしらえをしてから近くの公園へと向かった。
わざわざ公園に来たのは、なんとなく説得するのに会話だけで済む気がしなかったからだ。
強情なヒナのことだから平行世界のゆんゆん達のような決着になると予想した。
あとは、創り出された世界とはいえ周りの迷惑を考えてのことだ。
まあ、一応ね。
言葉だけの説得で済めば万々歳なのだが、ヒナを上手く説得出来るような言葉が浮かんでくることも無かった。
今のゆんゆんやトリスターノのことを言って、説得されてくれればいいのだが……。
更にもう一つ不安要素があった。
俺の身体のことだ。
先程走った時によく分かったが、狂戦士のような力や体力は当然無かった。
中学生の頃まで身体が戻っていることもあって、かなり弱くなっている。
空手をやっているおかげで、筋力も体力も同年代の平均以上はあるが、所詮はそれまでだ。
ヒナを相手にするには正直なところ勝てる確信は無い。
俺は力が無くなっていても、ヒナは普通に力を使えるかもしれない……というより使えるのだろう。
平行世界の時のように、勝敗でこれからを決めることになると俺がかなり不利だ。
平行世界の時より救いがあるとしたら、テレポート装置で逃げて、やり直しが出来ることぐらいか。
コンティニューが二回出来るなんて、今までに比べて優しくて涙が出るね。
なるべく言葉での説得で済ませる。
そう思っているのだが、ヒナがそう簡単に引き下がるとは到底思えなかった。
どう勝つか、そんな事をずっと考えていた。
気温のせいか、それとも緊張のせいか、喉が乾いて仕方がない。
炭酸飲料に手を付けたいのを我慢して、スポーツドリンクを飲む。
少しでも体を万全な状態にして事に臨みたかった。
公園にある時計を見ると、すでに道場での稽古の時間は終わっているはずの時間帯だ。
そろそろヒナが来る、そんな予感があった。
俺が公園のベンチから立ち上がり、軽く準備運動をしていると、公園に入ってきた人物がいた。
大股の早歩きで、ズンズンと一直線に俺へと向かってくる。
額に汗して、憤怒の表情を浮かべている。
もちろん公園に入ってきたのはヒナだ。
「ヒカル!!こんなところで何やってるの!!」
肩で息をしているのに、耳を塞ぎたくなるほどの大声で怒鳴ってきた。
俺は軽く散歩するように公園を歩きながら、ヒナに返事をした。
「お前よく俺がここにいるって分かったな」
「そんなことどうでもいいでしょ!!先生が心配してたんだよ!!」
あの先生は武道の先生とは思えないほど優しいから、確かに心配しそうだ。
「そいつは悪いことをした。でも、どうしてもやるべきことがあったんだよ」
「へえ!?こんなところで!?それはヒカルが道場を休むのに必要なことなんだろうね!?」
俺の態度を見て、ますます機嫌を悪くしたヒナが俺に近付きながら、怒声を張り上げてくる。
「なあ、ヒナは何でこんな事をしたんだ?」
「はあ!?それは僕のセリフ……」
「俺達と一緒にいたいのはよくわかるよ。でも記憶を消したりする必要は無かったんじゃないか?」
「………」
俺の言葉でヒナの勢いは一瞬で無くなった。
表情は怒りから驚きに変わり、目を見開き、こちらへと向かってくる足は止まった。
「きっとヒナなりの考えがあって、この世界を創り出したんだろうけど、もっと他にやり方はあったんじゃないのか?俺に相談してくれてもよかっただろ」
「どうして……なんで、ヒカルが……」
「ヒナが言ってた天界に行かなくて済む方法がこれだったのか?」
「………エリス様が何かしたんだ。そうなんでしょ!?」
また怒りの表情を見せるヒナに俺は続けた。
「ヒナ、率直に言うよ。ここの世界は嫌いじゃない。だけど、俺は元の世界がいい」
「っ……」
ヒナは辛そうな、泣き出しそうな顔になった。
ヒナのそんな表情を見て、一瞬だけ俺は躊躇ってしまったけど、今更止まるわけにはいかなかった。
「トリスターノがさ、弓持ってるのにつまらなそうな顔してたんだよ。ゆんゆんが寂しそうに過ごしてるんだよ。俺達四人はそうじゃないだろ。俺達はみんなひとりぼっちだったけど、一緒になって家族になったんだ。それなのに今はバラバラで、あの二人をひとりぼっちにさせてるんだよ。こんなのおかしいだろ」
「……」
「ヒナの考えはわからないけど、俺達が今バラバラなのは絶対に間違ってる。全部元に戻して、元の世界に帰ろう」
「……」
ヒナは俯いてしまって、何を考えているかわからなかった。
黙り込んでいるのは、俺の説得に耳を傾けているからか、それとも葛藤があるからなのか。
どちらにせよ、俺は説得を続けるしかない。
ヒナならきっとわかってくれると信じて。
「ヒナ、頼む。俺は、この世界でもなくて、本当の日本でもなくて、ヒナやゆんゆん、トリスターノ達と出会えた世界に戻りたい。もっとやりたいことが残ってる気がするんだ」
「………そっか、ヒカルはそうなんだ」
ヒナはそう言って、俯いた顔を上げた。
悲しげではあるが、どことなく覚悟を決めたような顔をしていた。
俺はヒナがわかってくれたのだと安堵し──
「でも駄目だよ。ここは平和で理想的な世界なんだから。この世界なら危ない目に合わないで済むんだよ。みんな安全に過ごせるんだ。前と比べると少しバラバラだけど、みんな一緒の時間もこれから増えていくはずだよ」
「……ヒナ」
「元の日本じゃないけど、きっと大丈夫だよ。僕が絶対になんとかしてみせるから。だからヒカルもわかってよ」
「……危ない世界だろうと俺達がいれば何とかなる。こんな状態の俺達は俺達じゃない。俺達にこの世界は合わない、窮屈すぎるんだよ」
俺がそう言うと、ヒナの目が強い意志のこもったものになった。
敵意を向けられたことがわかり、俺は思わず足を止めた。
「わかってくれないんだ?」
「……ああ、これだけは譲れない」
一触即発の雰囲気に汗が噴き出す。
空気の重さに耐えかねて、自然とポケットにあるテレポート装置に手が伸びた。
「ねえ、ヒカルがここで待ってたのって僕と勝負したいからでしょ?ヒカルが勝ったら元の世界に戻るっていうルールで」
「っ……」
「説得に失敗したら平行世界の時みたいに喧嘩の勝ち負けで決めようとしてたんでしょ?それ以外に僕に勝てる方法が無かったから」
……全部バレてやがる。
そう提案しようとしてたところだ。
だがバレてたところで、今更引き返せるわけもない。
「勝負してあげてもいいよ?」
「……え?」
「ヒカルの望む条件にしてあげるよ。ヒカルは今はただの中学生だから、僕も天使の力とか魔法とか使わないで、ヒカルと同じただの中学生として戦ってあげるよ」
こんなすんなりと行くものなのか?
本当に俺の望んだ通りになった。
これなら勝機は十分にある。
「ヒカルの望む条件で、ヒカルが勝ったら元の世界にみんなで戻る。その代わり僕が勝ったら……」
「この世界にいろって言うんだろ?」
「そうだね。今度はちゃんと記憶を消して、この世界で僕達と一生を過ごすのが僕の望むことかな」
『記憶を消す』という不穏な言葉と、一生を過ごすという言葉が、俺に重くのしかかった気がした。
汗が額から頬へと流れるのを感じながら、俺は重い口を開いた。
「……わかった」
「僕はヒカルに負けたら、ちゃんと言われた通りにするって誓うけど、ヒカルは僕に負けたら、記憶を消されることも、この世界で生き続けることも受け入れる?それが誓えるなら、さっきの条件で勝負するよ」
「………誓う」
「本当に?」
「本当だよ。そっちこそ後から変えるんじゃないぞ」
「うん、当たり前だよ。だって……」
ヒナはゆっくりと構える。
この世界では見なかった、いつものボクシングスタイルだ。
「ヒカルは僕に勝てないもん」
「舐めんなよこの野郎」
この自信満々なところを見るに、俺はかなり舐められているらしい。
だが、嬉しい限りだ。
また勝機が増えたのだから。
俺もボクシングスタイルに近い脇を締めた構えを取る。
ヒナが体を揺らしながら俺との距離を詰めてくるのに対し、俺はじわりじわりとつま先を少しずつ進む。
そして、ついに間合いが詰まり、俺は踏み込んだ。
踏み込んだ数秒後、俺の体が宙を舞った。
咄嗟に受け身を取ったが、地面に体が叩きつけられる痛みは思った以上のものだった。
だが、痛みなどどうでもよかった。
痛み以上の衝撃があった。
見下ろしているヒナから離れるべきなのに、そんな考えすら湧かなかった。
今起こったことは一瞬の出来事だったが、俺はすぐにわかった。
頭では理解していたが、心では理解したくなかった。
ヒナが使った技はボクシングではなく、ましてや空手でもない。
合気道の技だ。
俺が踏み込んだ勢いを利用して投げられた。
その事実を俺は認めたくなかった。
何故ヒナが合気道の技を使えるのか、わからない。
「ほら、勝てない。僕の方が技術を使うのが上手いからだよ」
「な、なん……で……」
自分自身でも驚くほどの掠れた声で疑問を口にした。
そうせずにはいられなかった。
ヒナが知らないはずの合気道の技を使っているという事実が俺を酷く動揺させた。
「『全知』の才能にはまだヒカルの知らない能力があるんだ」
『全知』はヒナが天使になった時に目覚めた才能で、確か『あらゆる知識を知る事が出来る』とかだった気がする。
それがなんだってんだ。
「『触れた』人の情報や記憶も知識として取り込めるんだ。僕はヒカルに触れて、日本にいた時の記憶を取り込んでる。あとはわかるでしょ?」
「………………ぁ?」
「僕はヒカルの武道の経験を全て『知ってる』んだ。だから使えるんだよ」
………そうか、なるほど。
よくよく考えれば、ヒナが空手を出来ること自体おかしな話だ。
この世界は一ヶ月前に出来た。
その短い期間で、俺と並べるほど空手が出来るなんて、どう考えてもおかしい。
だが、ヒナの『全知』の力があれば納得だ。
納得はした。
納得はしたが………
「てめえ……」
「ごめんね。こういうの嫌いだと思ってたから隠しておきたかったんだけど、今はそうも言ってられないからね」
痛みなんか、どうでもいい。
歯を食いしばって無理矢理立ち上がる。
どうしようもないほど湧き上がる感情を抑えて、少しでも冷静になれるよう拳を力強く握った。
「ヒカルは武道の経験のアドバンテージで勝とうとしてたけど、僕にもそれがある。ヒカルがほぼ忘れてしまった技術も僕は知ってる。そして、僕の方が……」
「ふざけんなこの野郎おおおおおおお!!!」
我慢が出来ずに叫び、地を蹴った。
怒りに身を任せて、俺はヒナへと拳を振った。
「『努力を踏みにじる行為』がヒカルの一番嫌いなことだもんね。こんなことされたら当然怒るよね」
ヒナは足を軽く動かすだけで体の軸をずらして、俺の拳を簡単に避けた。
「でも怒って殴ってくるなんて一番駄目だよ」
隙だらけの俺にヒナは俺の体を弄ぶように、ぶん投げた。
俺はヒナに投げ飛ばされ、頭から地面に落ちて───
「ヒカル、ごめんね……でも、僕の勝ちだよ」
力無く倒れるヒカルにそう呟いたヒナギクは勝ち誇った顔をしているわけもなく、ただ虚しげな顔をしていた。
ヒカルにとって武道の技術は努力して得るものなのだろうが、それを触れただけで体得したというのだから、ヒカルには屈辱以外の何物でもないだろう。
屈辱と怒りで我を忘れたヒカルを倒すことは簡単であった。
虚しい勝利ではあるが、勝ちは勝ち。
ヒナギクはそう考えて、無理矢理気持ちを切り替えてから、ヒカルに回復魔法をかけた。
「……今度こそ、大丈夫」
自分に言い聞かせるように呟いたヒナギクは、ヒカルの記憶を操作すべくヒカルの頭に手を伸ばしたその時。
「テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ」
そんな女性の声が聞こえて、声を発したであろう人物が公園にズカズカと入ってきたせいで、ヒナギクはヒカルに手を伸ばすのをやめた。
ヒナギクはこの女性を知らない。
ヒナギクが管理しているこの世界で、知らない人間がいるのは確実に異常事態であった。
「……」
公園に入ってきたのは見目麗しい女性であった。
雪のような銀色の髪に、宝石のような翡翠の瞳、純白のローブ越しからでもわかるスタイルの良さから魅力的な女性と言ってもいいのだが、ヒナギクは別の部分を注視していた。
細長の耳に、その女性以上の長さの杖は確実に元の世界の人物だということがわかるのだが、何故この世界に入って来れたのかはわからなかった。
そして何よりも不思議だったのが、警戒心よりも嫌悪感の方が強かったことだ。
邪魔されたこともそうだが、その女性を視界に入れるだけで、強い不快感を抱いていた。
「マーリン。なんだ、その喋り方は」
「っ!」
ヒナギクは驚きの声を抑えて、銀色の女性の後ろから現れる人物に視線を向けると、悲鳴を上げそうになった。
現れたのは、また同じく見目麗しい女性だった。
腰まで届く金髪に、透き通るような碧眼。
この世界には似合わない全身鎧に身を包み、光り輝く巨大な槍を手にした彼女の名を、ヒナギクは知っていた。
騎士王、アルトリウス。
グレテン王国の王である。
「いやいや、ちょっと言ってみたくてね。ところで、どうだい?此処が今日のストレス発散の場所だよ」
「ぁ……ぇ……?」
騎士王を相手にヒナギクは酷く狼狽し、何も出来なくなった。
ヒナギクにとって、騎士王はトラウマであった。
最悪の過去が思い出される。
無力な自分が仲間を連れて、本当に守りたいと思った人物を置いて逃げる、あの時のことを。
「見たこともない土地だが、いいのか?貴様、私を碌でもない事に巻き込んでいるんじゃないのか?」
「酷い言い草じゃあないの。ストレスを抱えた君を助けたい一心で案内したのさ」
「……ふん、まあいい。遠慮なくやらせてもらうぞ」
「どうぞ、王の御心のままに。暴れるも良し、一撃で全ても壊すも良し、好きにしてくれ」
「私は忙しい。最大の一撃で終わりにしよう」
「ぇ……」
掠れた声は誰にも届かない。
騎士王は槍を高く掲げると、周りの魔力が騎士王に集まりだす。
「ロンゴミニアド、最大起動」
騎士王とその槍から感じる魔力は、ヒナギクが今まで感じたことがないほど強大であるのに、まだ収束を続けていく。
「ゃ……ゃ、め……」
ヒナギクは恐怖で震えて、まともに喋ることすら出来なくなっていた。
魔力の収束が終わったのか、虹色に輝き出す槍を見てヒナギクは確信した。
この世界が壊されてしまう、と。
なんとかしなければならないと何か行動を起こそうとした時には既に何もかもが遅かった。
右手に持った槍を腰だめに持ち、右半身を引いて構え、そして───
「ロンゴミニアド、最大解放」
引いた右半身を前に出し、突き出された槍からは超高圧縮の魔力が放たれた。
それは地を引き剥がし、家々を消し飛ばし、進行方向上の全てのものを粉砕して、最後にこの世界に大穴を開けた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」
この世界を管理しているヒナギクは、世界が受けたダメージを負う。
胸を貫かれたような痛みがヒナギクを襲い、地面へと倒れた。
「いやあ、流石騎士王。でも、本当に一撃でいいのかい?」
「ああ、すっきりしたから十分だ。早く私をキャメロットに戻せ。仕事の続きだ」
「つれないねえ。はい、どーぞ」
苦しみもがくヒナギクなど気にならないように二人の会話は進み、マーリンが出した円形の空間に騎士王は姿を消していった。
世界に大穴が開いて、維持が出来なくなった世界が崩れていく中、マーリンはヒナギクへと近付いた。
「な、なん、で……っ!」
「何で?君がしたことをやっただけじゃあないか」
近付いてきたマーリンを地べたから睨み、苦しみながらもヒナギクが問うと、マーリンは当然のことをしたとばかりに返事をした。
「他の三人の意思とは関係無く記憶を変えて、世界を変えて、関係性を変えて……そんなの世界を壊しているようなものだろ?君が三人にやったことと騎士王がやったことは変わらないわけさ」
「そ、そんな……!」
「おいおい、そんなことよりも三人の心配はしないのかい?この世界はもう終わりだ、壊れてしまう。早く三人を助けないと大変なことになっちゃうんじゃあないのかな?」
「っ!!」
歯を食いしばり、すぐに立ち上がるヒナギクは近くに横たわるヒカルを抱き上げた。
「そうそう、それでいいんだよ。あ、そうだ。君次第では三人を助けるのを協力してあげても……」
ヒナギクはマーリンのことなど見えていないように、自身の翼を広げて飛び上がり、ゆんゆんとトリスターノの元へと向かった。
「……無視なんて酷いじゃあないの。まあ、目標は達成したからいいけどね。次に君達に会えるのを楽しみにしているよ」
そう言ってマーリンは、突如として発生した円形の空間へと消えていった。
「はあ……はあ……はあ……ぐっ……」
なんとか二人を回収したヒナギクは崩れる世界から逃げるように飛び出した。
痛みに耐えながら三人を抱えて飛ぶのは、かなりの負担がかかっているのか、意識が朦朧としだした。
「まだ、だ、め……みんなを、無事に……」
騎士王の一撃が深刻なダメージを与えていた。
飛ぶのがやっとのヒナギクは三人を抱きかかえて飛び、少しずつ落ちていく。
ヒナギクの意識は落ちていないまでも、どこを飛んでいるのかわかっていなかった。
「ごめん……ごめん、みんな……。僕、こんなつもりじゃ、なかったんだ……」
ヒナギクの口から出た言葉は、誰にも聞こない。
ヒカルの拒否は当然で、先程の女性に言われたこともなんとなくヒナギクは理解していた。
三人に最低なことをしたと、ヒナギクは後悔した。
最初は本当にみんなと一緒にいたかっただけだった。
それが、どんどん欲が出てしまった。
泣く資格もないと感じているはずなのに、涙が頬を伝った。
意識が途切れ途切れになりながら、地面が迫るのが見えたヒナギクは羽根で全員を包み込み、自身の力を振り絞って落下に備えた。
「おや?あれは一体?」
「なんだろうね、今の」
「世界の終焉の予兆か、はたまた魔王軍の陰謀か。どうあれ……」
「あれを目撃したのは私たち二人。まだうら若き娘とて、紅魔族として確認に行かなければならないだろうね」
「覚醒の時は近い……っ!行こう、ねりまき!」
「了解だよ、あるえ!」
後書き長めです。
設定とほんの少しトリスターノの最初のお話がありますので、良ければ最後までお付き合いください。
第七章終了。
次回から8章に入ります。
8章は原作の内容にも触れていく、かも。
マーリン
グレテン王国に仕える魔法使い。
人と夢魔の子であり、エルフの血も入っていることから数百年生きている。
夢魔の能力を使うことも出来、人の夢の中を見たり入ったりすることが出来る。その夢を通して、あらゆる世界の可能性や違う世界から来た人間の世界などを観測することが出来る。
暇を持て余したマーリンはその能力を使いすぎて、あらゆる世界への観測や自由に行き来することが出来、他の世界の自身や縁のある人から力を取り入れる力を持っている為、実質最強格の存在。
最強と言っても、誰かと戦う行為は好きではないので、誰とも戦闘はしないがモットー。
そんな最強さんは娯楽に飢えていた。
退屈すぎる毎日と、周りの騎士達の英雄譚はもう飽きていた。
娯楽が欲しい……!と、切実に願う彼女であったが、夢に入り込んでも曖昧だったり、途中で終わってしまったり、違う世界を観たところで今が変わるわけでは無いので虚しくなるだけであった。
そんな退屈な日々を送っていた彼女はもう何処かへ旅にでも出てしまおうかと考えていたが、転機が訪れた。
とある男の夢に入り込むと、グレテン王国からの脱走を企てる者がいた。
トリスタンである。
円卓の騎士のナンバー4である彼なのだが、マイペースだったり、周りとの温度差のせいで円卓の騎士内でも浮いている存在だったが、国の……というより騎士王の方針に耐えられなくなった彼はグレテン王国から去ろうとしていたのを面白いと思った彼女はトリスタンに話しかけることにした。
他の騎士にバレたら追われて大変な目に合うかもしれないなー、私も口が滑らないといいけどー。
という脅しに早々に屈したトリスタンは彼女の要求を受け入れることにした。
だが、トリスタンにとって悪くないことであった。
彼女が要求してきたのはトリスタンを通して面白いものが見たい、というもので、もし約束してくれるなら脱走を手伝っても良いとさえ言った。
もちろんトリスタンは約束すると答えたが、彼女はそんな口約束を信じるような性格はしていなかった。
今の彼女は何よりも面白さ優先であった。
円卓の騎士のナンバー4である彼が何処かへ行ったとしても、今の円卓の騎士の英雄譚とそこまで結果は変わらないだろうと思った彼女はトリスタンの装備を全て取り上げて安物を与えてから『レベルドレイン』を行い、全てのスキルを失くし、『アーチャー』から『冒険者』に職を勝手に変えて、レベル1の弓の名手をベルゼルグ王国のアクセルの街へとポイ捨てした。
それだと少し可哀想かな、と思った彼女はあみだくじで決めたスキル『死の宣告』を一つだけ教え込んでバイバイした。
ちなみにヒナギクが強い嫌悪感を抱いたのは、マーリンが夢魔のハーフだということを感じ取っていたからである。
決してスタイルの良さに嫉妬したからではない。