115話です。さあ、いってみよう。
深夜過ぎにようやく上位職になれるレベルまで到達した翌朝、俺は紅魔の里の学校で冒険者カードを操作する魔道具で上位職になった。
俺がこの世界に来て数ヶ月頑張ってきたものが、たった一日で追いついてしまった。
正直複雑な気持ちだが、助かっているのだから何も言えない。
上位職になったとしても、ひろぽんさんが認めてくれるまではレベリングが続くので、俺はレベリングに向かおうと学校を出たのだが。
「もう、里の占い師を呼んでから決めてもよかったじゃない」
「そうですよ。気になるじゃないですか」
後ろから付いてきている二人が文句を言ってくる。
文句を言っている理由は俺がさっさと『狂戦士』を選んでしまったことだった。
「いいだろ、別に。どうせロクでもないに決まってるよ」
「でも、あんなの初めて見ましたし、選ばないにしても占うぐらいはしてもらった方がよかったと思います」
「そうよそうよ!」
学校で冒険者カードを操作する魔道具で上位職の適性を調べていると、一つだけおかしなものがあった。
以前と調べてもらった時と変わらない適性の職が並ぶ中、最後に『??』と記載されていた。
故障かと不思議がる二人を横目に俺はさっさと『狂戦士』を選択した。
それから二人はこの調子だ。
「いーや、絶対にやめた方がいい。俺はランダムなんて御免だ。俺が女神に能力をランダムに選ばせたせいで『ムードメーカー』なんて厄介なもん抱えてんだぞ」
「で、でも」
「もう終わったんだし、この話はいいだろ。それよりもさっさとレベリングに行こうぜ。ゆんゆんは上級魔法を覚えたんだろ?」
俺がそう言うと、不満そうだが頷くゆんゆん。
ゆんゆんが昨日の内に上級魔法を覚えたことで今日から協力してくれる紅魔族は数人のみ。
ねりまきちゃんやあるえちゃん、トリスターノにゾッコンのふにふらさんとどどんこさん、族長のひろぽんさんだ。
一応自警団の人達も駆けつけられるように近くにいてくれるらしいが、あまり迷惑はかけたくない。
レベルも上がってきて、簡単には上がらなくなっているだろうが、俺の身体能力はかなり向上しているだろうし、昨日より遥かにやりやすそうだ。
「はあっ!」
「『ライト・オブ・セイバー』ッ!!」
「『カースド・クリスタルプリズン』ッ!!」
俺が動けなくなったモンスターを狩るうちに、ゆんゆんが光の刃で、モンスターの群れを薙ぎ払い、あるえちゃんが生き残りのモンスターを氷漬けにする。
そして、俺はまた行動不能になったモンスターにトドメを刺しに行く。
そんな中───
「トリスターノ様、流石です!」
「い、いえ、動けなくなったモンスターを倒すぐらいは……」
「そんなことありませんよ!鮮やかな手際でした!」
「そ、そうですか?ありがとうございます……」
ふにふらさん、どどんこさんに挟まれて困り果てた苦笑を浮かべるトリスターノが俺達の後ろにいる。
なんだかトリスターノから視線を感じるが、人の恋路を邪魔するわけにはいかないので、俺はノータッチだ。
決してイケメン主人公っぷりにムカついているわけではない。
「ねえねえ、あるえ。どっちがトリスターノ様とくっ付くと思う?」
「うーん、脈無しだと思うけど、あの二人は地味だし、正直モブっぽいし、二人セットで一緒に貰われた方が色々な面で助かるんじゃないかな」
ねりまきちゃん達が恋バナに花を咲かせるかと思いきや、あるえちゃんの辛辣すぎる意見のせいで恋バナっぽさが全く無い。
「ちょっと!聞こえてるわよ、あるえ!」
「そうよ!誰がモブよ!」
「『カースド・ライトニング』ッッ!」
二人のツッコミをあるえちゃんは聞こえていないかのようにモンスターに魔法を放つ。
「ふむ……里の少子化の為にもトリスターノ君にも里に───」
「お父さん……」
族長が割と真剣にトリスターノを里に迎えようと考えているのを見て呆れるゆんゆん。
………あれ、もしかして真面目にやってるの俺だけ?
俺はこのモノローグ中もちゃんと頑張って倒してるからねマジで。
昨日みたいな深夜までレベリングをする気はない。
魔法で眠らされるのを嫌がったヒナは大人しくりんりんさんと留守番をしているのだが、今朝見送る時の寂しそうな、心配しているような顔を見てからは早めに帰ってやりたくてしょうがない。
「じゃあ、おにーさんはどう思う?トリスターノ様はどちらを選ぶと思う?」
「ふぅ……まあ、そうだな」
ねりまきちゃんがナチュラルにトリスターノを様付けしてるのも気になるが、それは置いておこう。
まあ、トリスターノなら………。
「もっと年齢が低くないとダメだろ。二人は多分無理だな」
『えっ』
「ちょっと何言ってくれてるんですか!?リーダーの冗談ですからね!?皆さん!?なんで距離を取るんですか!?ちょっとリーダー!!」
「なに拗ねてるんだお前は」
「それだけのことをしたからです。というかゆんゆんさんも何でフォローしてくれないんですか?」
「えっ」
話を振られたゆんゆんは目を泳がせ。
「その、私もトリタンさんは割と普通の人なのかなって思ってたけど、イズーさんの話を聞いてから……」
「その話はやめましょう」
「そんな真顔になることか?」
「イズーのことは触れないでください。ましてや年齢の話は絶対にしないでください。誤解が生まれるので」
そんな剣呑な雰囲気出されても、誤解扱いにはならないだろ。
イズーというのは、トリスターノがパラメデスと取り合った女性であり、トリスターノの元婚約者だ。
確か年齢はじゅ───
「モノローグでも触れないでください」
「おい、お前も俺のモノローグに触れるんじゃねえよこの野郎」
そんな会話を繰り広げて家に帰ってきた。
なんだかんだで元のレベルに近付いてきているから、レベリングを終わらせてもいいかもしれないが、ひろぽんさんが認めてくれるかで明日か明後日もレベリングをすることになるだろう。
と、思っていたのだが。
「今日色々と見させてもらったが、もう合格ラインだろう。ヒナギク君が元に戻っていれば、ここら辺のモンスターを一人で倒すテストでもしてもらおうかと思っていたがな」
「……ええっと、随分とあっさりですね」
「私と戦った頃とはもう変わらないぐらいだろう?王都などの激戦区に行くわけでもなし、これで十分だと判断した」
「わかりました。ありがとうございます」
「ん?何故お礼を言われたのか、わからんな」
随分と世話になってしまった。
惚けられて素直に礼を受け取ってくれないとしても礼だけは確実に言いたい。
情けないことに、今は礼ぐらいしか言えないのだ。
「本当に、ありがとうございました」
「……ふむ、まあ、どういたしまして」
素っ気ないふりをする族長の横で、俺はいつか必ず恩を返そうと心に誓った。
翌日、改めてお世話になった人達に挨拶した後、俺達はアクセルの街に向かった。
数日かかったが、特に問題も無く帰って来ることが出来た。
色々あったが、俺達は元に近い状態に戻れた。
解決出来てないこともあるが、少しずつなんとかしていくしかないだろう。
問題続きであった日々がようやく落ち着いた。
しばらくヒナの面倒も見なければならないし、問題が起こることもないだろう。
なんて思っていた。
数日後、エリス様からヒナのことや天界のことについて聞かされることになる。
ベルゼルグ王国軍と魔王軍の戦争の最前線には魔王軍幹部が参戦し、更に激化する。
グレテン王国の未来と俺達の未来。
望む未来を手に入れたければ立ち向かえと、グレテン王国専属の魔法使いは嗤う。
俺達の何かが呼び寄せているのか、それともただ巻き込まれているのかはわからない。
どちらにせよ、俺達のハードな冒険は、まだ終わりそうにない。