前回の後書きを誤射しました。
今回の後書きに置いておくはずだったのに……。
今回のお話で前回の後書きが活きてくるお話になりますので、まあ……いっか。
119話です。さあ、いってみよう。
ヒカルがランダムテレポートで飛ばされた後、ウォルバクはアクアの魔法から逃れるためにテレポートで逃亡。
その後、砦内の作戦会議室に反攻作戦に参加した面々とジャティスが集まっていた。
作戦に失敗しただけでなく一人の仲間を失った。
その結果のせいでお通夜のような空気が会議室の中を支配していた。
カズマは場の空気に耐えきれずに、すぐ様謝罪した。
「すまん!俺達のせいで、ヒカルが……!」
『………』
カズマの謝罪に応える者はいなかった。
ただ、それは仲間を失って絶望しているからではなかった。
ゆんゆんはヒナギクやトリスターノに目配らせをすると、静かに頷いてきた。
感じていることは、考えていることは同じだというサインだ。
「あの、カズマさん。頭を上げてください」
「で、でもさ……」
「大丈夫なんです。ヒカルは生きてますから」
「……え?」
信じ切った顔で断言するゆんゆんにカズマは困惑した。
カズマの反応は至極当然であった。
どこに行くかわからない『ランダムテレポート』は空間が繋がっていれば、どこにでも飛ばされてしまう魔法だ。
それは海の底かもしれないし、地面の中かもしれないし、何百メートルも上空かもしれない。
正直に言えば、生きてる可能性は少ない。
『テレポート』よりも消費魔力は少なく、詠唱にかける時間も少ないというメリットはあるが、それ以上に不確定な要素が多い魔法。
紅魔の里の学校で二番の成績だったゆんゆんが『ランダムテレポート』のことを知らないわけがない。
だというのに、自信満々に生きていると言い切るゆんゆん。
ゆんゆんの隣にいるヒナギクとトリスターノも同じような顔で頷いているのを見て、カズマは更に困惑した。
「ええっとですね。その、感覚的なモノっていうか、説明がしづらいというか難しいんですけど、ヒカルは確実に生きています。それだけは信じてください」
ゆんゆんが困ったような顔でまた言い切った。
ゆんゆんが説明に困るのもまた当然であった。
ゆんゆん達が『ヒカルが生きている』と確信するのは、先程の説明通り感覚的なモノでしかない。
ゆんゆん達はヒカルを喪う感覚を知っている。
目の前で殺されて、絶望感と喪失感に支配されるあの感覚を知っている。
それが無かった。
シロガネヒカルの『ムードメーカー』が未だに作用している、そのことを三人はしっかりと感じ取っていた。
ヒカルと一番縁が深い三人だからこそ、自信を持って言い切れる感覚であった。
「余もそれはなんとなくわかる」
「ジャティス王子も?」
「ああ、本当になんとなく、だがな。生きているのはわかった。だが、心配ではある。そうだろう?」
「はい。それに本当はこちらに戻って来れるはずなんです」
「どういうことだ?」
「ヒカルはテレポート装置、じゃなくてテレポートのスクロールを持っているので、戻って来れるはずなんです」
「テレポートの行き先の設定は?」
「ええっと、その……作戦前に砦の部屋に設定してました、はい……」
三人は目を逸らした。
ヒカルが生きているのも、戻って来れるはずなのも事実だが、スクロールやテレポートの設定は嘘だからだ。
「では何故戻って来ない?」
「そこなんですよね。何かしらのトラブルか、面倒事に巻き込まれたか……」
ジャティスに先程言われた通り、生きていることは確信しているが、心配していないわけではなかった。
ヒカルの転移先で何かが起こっているだろうことは戻って来ないところを見るに明らかであった。
「ふむ、色々考えても仕方ないな。ゆんゆん達の言う通り、戻って来れるはずなのに戻って来ないのは何かしらが起こったに違いない。まさか命の危険があるのに戻って来ない程、余の友はバカではあるまい」
バカであった。
突然の出来事に対応し切れず、一瞬で拘束され牢屋にぶち込まれるという見事なまでのバカっぷりを発揮していた。
その時、ヒナギクに電流走る。
ヒナギクは思った。
ヒカルはおバカであった、と。
「二人とも、やっぱりまずいよ!ヒカルはもしかしたらとんでもない危機にあるかもだよ!」
「え、いきなりどうしたんですか?」
ヒナギクが二人を連れて、他の全員から後ろを向いてコソコソと焦ったように言うと、トリスターノが聞き返した。
「二人とも、落ち着いて聞いてね。ヒカルはおバカなんだよ」
「いや、深刻な顔して何でリーダーをディスり始めたんですか?」
「そうなっちゃうかもしれないけど、そうじゃなくて、本当に命の危険があるかもしれないってことだよ!僕達は生きてるなら大丈夫かもしれないっていう希望的観測が過ぎたかもしれない。ヒカルなら正直何が起こっても不思議じゃないもん」
「それは、そうだけど……」
ゆんゆんもトリスターノも否定しきれずにいた。
ヒカルの事を誰よりも知っているからこそ、それは否定出来ない。
「だから、僕少しだけ行ってくるよ!」
そう言うヒナギクは首から下げているロザリオに手を伸ばし、
「ちょ、ダメですって!」
「そうよ!それは止められてるでしょ!?」
引きちぎろうとするのを二人は全力で止めた。
ヒナギクが首から下げているロザリオは天使の力を封印するものだ。
ヒナギクであれば、いくらでもその封印を破ることは出来るが、当然それは止められていた。
「でも、僕の今の力なら一晩で世界は三周出来ると思うし、じっくり回れば見つけられるはずだよ!」
「そういう問題じゃないですから!ほら、離してください!」
「それを外したらエリス様に本気で怒られるって言ってたじゃない!」
「エリス様なんかどうでもいいよ!」
「その発言はまずいですよ!」
「───では、それで頼む。三人もそれで……って、そなた達は何をしているのだ?」
揉み合う三人は、すでに後ろで固まりつつある話を一切聞いていなかった。
「え、あ、その、何でもありません!ほら、ヒナちゃん一回離しなさい!」
「……むぅ」
渋々ロザリオから手を離すヒナギクを見て安心すると、その様子を見ていたジャティスはため息をついた。
「そなた達が話を聞いていなかったみたいだから、もう一度最初から話そう」
申し訳なさそうにする三人を横目にジャティスは話し始めた。
「ララティーナ、それにカズマ殿にこの砦の指揮権を預ける。作戦は失敗したが、今回は爆裂魔法を撃たれてはいない。ヒカルも生きているとわかった以上、作戦は有効であった。このまま砦の事を任せたい」
呼ばれた二人は顔を引き攣らせながらも頷いた。
「余は一度城に戻り、今回のことを父上に報告する。最悪砦を放棄することも考えられていたが、その必要はなくなったとな。……ララティーナ、そんな顔をするな。カズマ殿の作戦は見事だった。余や騎士団、それにミツルギ殿達冒険者、誰一人思い付かなかった作戦が有効打を与えた。それが事実だ」
ダクネスが顔面蒼白になりながらも頷く。
この国の王子に、現在最も重要となる戦局の指揮を任されたのだから無理はない。
「余は、いや、我々は盗賊スキルや爆裂魔法をかなり下に見ていた。盗賊スキルに関しては、余がその時に不在だったとはいえ、城が一度賊にしてやられている時点でもう少し考えるべきであった。今回のことはかなり参考になった。礼を言う」
カズマがフッとキメ顔のようなものを作ったその時。
だが、とジャティスがカズマを真っ直ぐに見据え、続けた。
「アイリスのことは、また余と話し合う必要がありそうだ。是非とも語り合いたいことがたくさんある。よいな?」
「も、ももも、もちろんです!」
ジャティスの物言わせぬ眼力に、カズマもダクネスと同じように顔面を更に蒼白になりながら、何度も頷き返事をした。
以前ジャティスとアイリスの関係は確かに悪かった。
あまり兄らしいことが出来ていなかったのも事実、カズマ達が今まで偉業を成し遂げてきたのも事実。
とはいえ兄として、王子として見過ごせぬものもある。
アイリスにお兄様と呼ばれていた男に、今まで言いたかった事を言えたジャティスは満足そうに頷いた。
「余が城に戻り、報告を済ませた後、各方面にヒカルの捜索依頼を出すことにする。余が出来るのはこれくらいだ。構わぬか?」
「え、ええ。お願いします」
「助かります」
「そこで三人はどうする?砦に残ってもらえると嬉しいが、ヒカルの捜索の報告が一番に伝わるのは王城だ。余と一緒に来るか?」
「え……?」
「そなた達も余の友だ。城に滞在することも許可しよう」
思ってもない提案だった。
だが、すぐには判断出来ずにいると、ヒナギクがロザリオに手をかけたので二人で阻止しつつ、ゆんゆんが答えた。
「あ、あの、少しだけ時間を頂けますか?」
「……そうだな。一時間ほど時間を与えよう。その時までに答えを出してくれ」
「わかりました。ありがとうございます、ジャティス王子」
「礼には及ばない。では皆の者、頼んだぞ。本日は解散だ」
ジャティスの号令により、三人以外の全員が会議室を後にし、ヒナギクが飛び出して行きそうなのを止めつつ、なんとか一時間以内に答えを出して、ジャティスに報告したのだった。
もうウォルバク戦の方の描写はほぼ無いと思います。
え?どうしても気になる?
『この素晴らしい世界に祝福を!9 紅の宿命』を読むと分かりますよ。
一応オリキャラがいるとはいえ、ウォルバクと決着をつけるべきなのは彼女一人しか有り得ませんからね。