120話です。さあ、いってみよう。
騎士王は未来を視ることが出来るらしい。
マーリンがざっくり説明し始めて、最初がこの話からだった。
騎士王の未来視は制御出来たりするものでもなく、ふとした瞬間に視てしまう能力なのだとか。
現在、視えている未来は二つ。
一つ目は『グレテン王国が人の手によって滅びる光景』。
視てしまった未来を回避出来たことは無いらしく、その事実が今の騎士王を追い詰めている。
しかも視えている未来は、騎士王だけでなく国全土を揺るがす問題だ。
国の王として、あらゆる手段を講じたものの視える未来は変わらなかった。
人の手によって滅びるならば、人が介入しないようにすればいい。
そう考えた彼女は国を挙げて人類側ではなく、魔王軍側に付いている。
この未来が変わらない限り、グレテン王国は人類側に敵対し続けるだろうとマーリンは言った。
「それってグレテン王国内部の人間の仕業じゃないのか?だって今も未来は変わってないんだろ?」
「まあ、その考えに行き着くよね、普通なら。でも彼女はそうは思わない。グレテン王国の人間がそんなことをするはずがないと本気で信じ切っているのさ。だから外の人間が滅びを齎らすと思い、人類側に敵対しているんだよ」
ぶっちゃけ色々忘れてしまったけど、元の世界の創作にある円卓の騎士って、内部でいざこざがあった気がするんだけどな。
「それとは別にアルトリウスはこうも考えている。魔王軍との戦争が終われば、次は人同士の争いになるとね」
「世界大戦でも始まるってのか?」
「魔王軍が倒されたから世界は平和になりました、人々はいつまでも幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。なんて物語みたいなことが本当にあると思うのかい?」
「それは、でも……」
「君は元の世界の歴史を知っているはずさ。どんな過ちが起きた?重大な過ちを犯したと知った後は平和で戦争の無い世界に変わったかい?」
「……」
言葉に詰まる。
狭い視野で見れば平和な時代になっているのかもしれないが、世界から戦争が無くなったとは言えるわけがなかった。
「意地悪な質問をしちゃったね。ただ、この世界もそうなる可能性は高い。騎士王はそれを危惧している。人類と魔王軍との戦争を長引かせ、人同士の戦争にさせなければ、グレテン王国に人の手が介入してくることは無い。そう考えて騎士王は行動を起こしたのさ」
……未来が視える能力、最初は少し羨ましいなんて思ったが、なんて厄介なものなんだろう。
変えたい未来の為に奔走しても、望んだ通りに変わる保証も無く、苦しい選択をしなければならないこともある。
どれだけの重圧だろう。
俺には想像もつかない。
「騎士王は人と魔王軍との戦争をもっと長引かせる予定だった。騎士王がより良い考えが思い付くまで、あるいは何らかの奇跡が起こることを信じて。でも、そうも言ってられなくなった。それは、ギリギリのバランスが崩れ始めたからさ」
「何人も魔王軍の幹部が討伐された上に、円卓の騎士もやられたからか?」
「そう、大正解。それで人類側が優勢になったとは言い難いけど、間違いなく痛手さ。魔王軍は少し焦っている。騎士王もこれ以上騎士を失いたくないというのに、魔王からは戦力を出すように言われて仕方無く派遣しているような状態さ。こうして今までのバランスが崩れて、時代が変わろうとしている」
「……未来は変えられないのか?」
「どうだろうね。今まではたまたま変えられなかっただけで、今回は変えられるかもしれないよ」
「そもそも何でその事を俺に話すんだよ。あれか?『面白い』からか?」
「それもある」
「あんのかよ……」
「それ以外にも期待しているから、かな」
「期待されても特に何も無いぞ」
「いいや、あるさ。いっぱいね」
にんまりと笑って、マーリンは宣う。
俺に何があるってんだよ。
何も無いがあるってか。
「君はトリスタンが戦場に行くのを黙って見過ごす奴じゃあないだろう?だったら君は騎士王と戦う運命にある。そして勝利し、騎士王が視ている未来をぶち壊すしかない。君が望む『未来』は騎士王に勝つことで得られるのさ」
「確かにトリスターノが戦うなら、俺も戦うとは言ったけど、わざわざ俺自身が騎士王に勝たなくても……」
「私は君なら可能性があると思っているよ」
「何でだよ」
「実績があるじゃあないか。君の死によって狂ってしまった世界の未来を変えただろう?これは君が思ってる以上に凄いことなんだぜ?たった一人だ、強力な力やチート能力を持っているわけでもないたった一人の君が狂った世界を、あるべき方向へ修正したのさ」
「あれは、その……」
「謙遜はいらない。手段も関係無い。結果が全てさ。『未来を変えた』という結果がね。君には十分に可能性があるんだよ」
可能性、ね。
正直言って、騎士王と戦ったらそこら辺の雑兵と同じく振り払われるように殺されそうな気がする。
「いいかい?君は
「何を言ってるのかよくわからないし、そんな特別扱いされても……」
「ああ、君は平凡だとも。ただ君の中のモノは特別さ。
……………予言めいた事を。
「どこまで、何を知ってるんだ?」
「それなりに何でも、かな。ただ未来はちょっとしか知らないよ。不確実なものだからね。私は完璧に近い存在ではあるけれど、完璧じゃあないのさ」
「はぁ……」
ため息が出た。
もう訳が分からない。
でも、訳が分からない状況にも慣れてきたのか、俺はそこまで動揺していなかった。
内面も少しは強くなれたのかもしれない。
「さて、二つ目の未来の話だけど」
「ああ、うん。どうぞ」
いや、これ諦めの境地にいるだけだ。
マーリンが俺をここから出してくれなかったら、未来どころの話じゃないし、ただ聞き入れるしかないだけだわ。
「ぶっちゃけよく分からないや」
「は?」
「まあ、聞いてくれればわかるよ」
二つ目の未来は『シロガネヒカルと銀髪の少年が三人の魔王と対峙する光景』だそうだ。
マーリンが投げやりになるのも分からなくもない。
騎士王は三人の魔王への何らかの対策になるんじゃないか考えて、俺をこれまで殺さずにいたらしい。
先程、俺に血の繋がった者がいないかと尋ねてきたのは、騎士王が視た未来の俺が俺とは限らないと考えたからだそうだ。
「三人の魔王とか意味わかんないよね。歴代の魔王を復活させて世界滅亡パーティーでもするんじゃあないかな」
「待てこの野郎!今まで散々色々ぶっ込んできたり、予言めいたこと言っておいて、いきなりテキトーに話すんじゃねえよ!」
あはは、ウケるーみたいな感じで話し始めるマーリンに、諦めの境地にいた俺も流石に声を荒げた。
すると、マーリンは拗ねたような顔になり。
「だって、分からないんだもん。まあ、君と銀髪の誰かさんがなんとかしてくれるよ」
「誰かさんって完全にクリスだろ!絶対無理じゃん!そもそも人数で負けてるじゃねえか!というか、向こうは戦艦3隻で、こっちは歩兵2人みたいなバランスが一番おかしい!」
「意外と冷静に戦況分析出来てて草」
ケラケラ笑ってくる顔を引っ叩いてやりたいが、今は牢屋の中だし、引っ叩くことが出来たとしてもここを出ることが出来なくなりそうなので諦めた。
「まあ、安心したまえよ。二つ目の未来のことを考えるのは騎士王を倒した後にすればいい。きっとそれぐらい後の話さ」
「……」
「そんな胡散くせーみたいな顔で見ないでくれよ。大丈夫さ、君はまず騎士王を倒す方法を考えればいい」
「そっちも同じくらいの難易度だと思うんだけど」
「倒せなかったら、君の望む未来は無い。ただそれだけの話さ」
最悪の場所に飛ばされたと思えば、最悪の未来を突き付けられた。
トリスターノが戦うなら俺も戦うとは言ったが、騎士王や円卓の騎士と真正面からやり合うのは考えていない、というか考えないようにしていた。
この国が負ければ、平和な日常は無くなる。
それは至極当然で、だから俺は力になりたいと思って、同行すると言った。
それなのに、なんだか俺が解決しなきゃいけないみたいな話になってきている。
一戦力になりたいとは言ったが、特攻隊長になりたいなんて一言も言ってない。
何がどうして、こうなった?
「悩んでいるね」
「随分と他人事だな?」
関係ないみたいな面をしているマーリン。
国専属の魔法使いじゃなかったのか。
「他人事だよ。私は戦争には加担しない。私が参加してしまえば、それはただの虐殺だからね」
「……」
軽い感じで言ってのけるマーリン。
口ぶりからして冗談では無さそうではあるが、冗談であってほしいというのが本音だ。
「強い存在が勝つ。弱肉強食さ、当然の摂理だ。だからこそ、つまらない。騎士王が勝った、ガウェインが倒した、ランスロットが戦果を上げた。もう飽き飽きだよ。さっき言った通り、強い奴が勝つのは当たり前じゃあないか。才能に恵まれて、聖剣に力を与えられて、それで勝たない方がおかしいじゃあないか。それなのに、それがまるで凄いことのように、英雄譚のように語られる。心底つまらないね」
首を振って、吐き捨てるように言ってきた。
本当に飽き飽きしているのが伝わってくる。
「チート?最強?勝って当たり前の奴が有象無象の敵を倒す姿のどこが面白いんだよ。ウケるよ、つまらなすぎて。退屈でつまらなかったよ、本当にね。でも、君達が現れた」
マーリンが真っ直ぐに俺を見てくる。
マーリンの翡翠の瞳は綺麗で吸い込まれてしまいそうな程だったが、その奥はどこまでも深いように感じた。
「やっと、面白いものを見つけた。君以外にも面白い存在はいたが、それ以上だ。何の才能も無い君が、散々仲間に助けられて病人の方がマシと言われた君が、騎士王を地に這いつくばらせた時は最高だった。あの時君に惚れたのさ。あの時ほど興奮したことはない。私が求めている
牢屋の鉄格子を握り込み、頬を紅潮させて興奮した様子で捲し立ててくる。
牢屋の中で助かった、そう思ってしまうような圧が今のマーリンにはあった。
「君の面白さを邪魔したくない。だから私はなるべく手助けなんかはしたくない。君の物語を汚したくないんだ。大丈夫、君ならきっと出来る。もっと面白い展開を見せてくれ」
恍惚とした表情を浮かべるマーリンにドン引きしていると、視界が急にブレて落下する感覚に襲われた。
突然のことに受け身など取れるわけもなく、ケツから着地した俺は痛みにケツをさすりながら立ち上がると、頭に衝撃が走って背中から倒れた。
「いってえなこの野郎……」
寝転がった状態から見ると、上には不思議な丸い空間があり、そこにはキャメロットの牢屋のような光景からマーリンがニコニコしながら軽く手を振っているのが見えた。
俺がマーリンに対してどう反応しようか悩んでいる内に丸い空間は閉じていってしまい、最後には何も無かったかのように消滅した。
「あれって『テレポート』とかじゃないよな。詠唱とかしてなかったし」
そんなことを呟きながら、周りを見ると先程何故頭に衝撃があったのかが分かった。
あの丸い空間から俺の没収された持ち物も俺と同じくして落としたらしく、刀や色々な持ち物が散乱していた。
俺がそれらを身につけて、周りを見始めていると、なんだか見覚えがあるような場所のように感じる。
だが、はっきりと場所が分からず、次は後ろを確認しようとして振り返ると、少し遠いところにいる人物と目が合った。
柱の物陰から、こちらを見てくる碧眼の瞳、それと長く伸ばしている金色の髪がひょっこり出ていて、身長も小さいことから少女だということがわかる。
というか、なんとなく見覚えがあるような気がする。
顔も半分くらいしか見えていないから気のせいかもしれないが。
俺は怪しくないことをアピールする為にも、手を軽く上げて話しかけようとしたその時。
「貴様、何者だっ!!」
いきなり横から怒鳴り声が聞こえてきて、手を軽く上げたままフリーズした。
それからゆっくりと声が聞こえてきた方を向くと、白を基調としたスーツのようなデザインの騎士然とした女性が腰の剣に手を掛けてこちらを睨んでいた。
俺は冷や汗が止まらず、多分引きつった顔をしていたと思う。
この人は確実に見覚えがある。
「レイン!アイリス様を守れ!衛兵ー!衛兵ーー!!賊の侵入だーー!!」
魔法使いの女性が先程目が合った少女へと駆け寄り、俺から守るように立つと、続々と鎧の音を響かせながら槍やら盾やらを持った兵士たちが十人ほどやってきた。
なるほど。
ここはあれだ、俺が、というか俺達が前にドンパチやらかしたベルゼルグ王国の王城だ。
先程目が合ったのは、第一王女のアイリス。
俺を睨んでる女性は確か、ミツルギ達と俺達を待ち構えていた王女様の護衛だ。
冷や汗を垂らしながら、俺はなんとか口を開いた。
「あの、これはなんていうか……」
「ひっ捕らえろ!!!」
俺は最悪のデジャヴを感じながら、衛兵達が押し寄せてくるのを前に、心の中で叫んだ。
マ、マーリンンンンンあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
次回のお話は時系列が前に戻るかもしれません。
まだ書いてないので、わかりませんが。