123話です。さあ、いってみよう。
敵国の魔法使いが片手に杖を、もう片手に純白の鞘に収まった剣を持って、堂々と俺の隣に立っていた。
「マーリン!!!」
ヒナの怒号から、ほぼこの場にいる全員が戦闘態勢に入る。
俺は武器が無いので、なんとなく身構えるだけだが。
「いやあ、君の物語にあまり干渉したくないと言っておきながら、もう会いにきちゃった」
「何の用だよ。ここ敵国の中枢なんだけど。あと、さっきはもっと優しくテレポート出来ただろ」
「落とした方が面白いかなって」
こいつ、とことん俺で楽しむ気だな。
「で、何しに来た?」
「ああ、この剣あげるよ」
「は? ……ちょ、おい!」
剣を投げ渡してくるので、慌ててキャッチするとケラケラと笑うマーリン。
「どうだい、その剣? これから苦労する君に頑張ってほしくてさ。プレゼントしに来ちゃった。気に入ってくれると嬉しいな」
人をからかったりはするマーリンだが、なんとも厄介なことに悪意とかを感じない。
無邪気な笑みを見るに、普通にこの剣を俺に渡しにきたんだろう。
俺が警戒したところでマーリン相手に何か出来る気もしないので、投げ渡された剣がどんなものか確認することにした。
「なんというか、綺麗な剣だな」
純白の鞘から剣を抜き取ると、片刃の肉厚剣が姿を現した。
あまり剣に詳しいわけじゃないけど、ナイトソードってやつだろうか。
それに金色の鍔に何らかの文字が掘られ、宝石のようなものが埋め込まれていることから、確実に高価なものだということも分かる。
「うん。今まで放置されてきただけで使われたことは無いからね」
「なんだよ、観賞用か?」
「ううん、違うよ。今までの所有者が使う気にならなかっただけさ」
だから綺麗なのか。
まあ、持ってた奴が使うのを躊躇う気持ちもわかる。
どこかの貴族が屋敷で飾ってあってもおかしくない、そんな印象だ。
………………いや、待て。
「おい、これ盗んだんじゃないだろうな?」
「いやいや、盗んだんじゃあないよ」
だ、だよな。
流石にマーリンとはいえ、盗んだものを───
「勝手に持ってきただけさ」
「同じだろうが!」
俺が突き返そうとした時には、マーリンは距離を離していた。
「君の反応も悪くなかったし、
「おい、ふざけんなこの野───」
「バイバイ、またね」
俺が言っている途中にマーリンは別れの言葉を吐くと、足元に現れた円形の空間に落ちていった。
俺は最後の抵抗に円形の空間に剣を入れてやろうとしたが、俺が駆け寄る前にすぐにその円形の空間は閉じていき、消えてなくなった。
「ふざけんなよ、あいつ。盗品を俺に押し付けてきやがった…………って、トリスターノ? どうした?」
「い、いえ……なんでもありません」
トリスターノの顔がこれ以上ないくらいに引き攣っていたので声を掛けたのだが、明らかに何かある様子だ。
「これを知ってるのか?」
「……あー、その…………説明が必要だと思いますが、それは後ほどで」
トリスターノが気まずそうな顔で向けた視線の先はアイリスやその護衛の騎士達がいた。
トリスターノが知っていて、アイリス達の前で説明が憚られるものといえば、確実に。
グレテン王国のものだろこれ。
くそ、すぐに返せばよかった。
そんな後悔が押し寄せて、頭を抱えていると、ヒナが俺に近付いてきた。
めちゃくちゃ不機嫌な顔で。
「随分と仲良しなんだね?」
「は?」
「デレデレして、剣なんか貰っちゃってさ」
「どこがデレデレしてたんだよこの野郎。終始困惑してただろうが」
「とりあえず、ゆんゆんには浮気してたって報告するから」
「はあ!?」
「ふん!」
一方的にそっぽを向いて、肩を怒らせて俺から離れていくヒナに唖然としていると、俺の肩に手が置かれた。
振り返ると、笑顔でサムズアップしているバカがいた。
「ふむ、何はともあれ、ヒナギクのことは余に任せておけ。万事解決してみせよう」
「誰がロリコン色ボケ王子に任せるか」
「これ高く売れそうだし、どこかで売ってそのお金で良い剣を買おうよ」
「ま、待ってください。それは困りますので……本当に……」
マーリンが持ってきたものが本気で気に入らないらしい。
マーリンが来たせいで騒ぎになっていたが、すぐにそれは収まり、その後は食事をしたり親睦を深めたりした。
そして解散した後、トリスターノから剣のことを聞くべく寝る前にトリスターノを部屋に呼ぶと、ついでとばかりにヒナもやってきた。
「王都では僕のおじいちゃんが鍛冶屋をやってるらしいから、そこで買おうよ」
「お前、話聞けよ。とりあえずグレテン王国のものだってのは、なんとなく分かったけど、結局何なんだ?」
「えー、そうですね。どこから話したものですか」
「そんな話が長くなるのか?」
「色々理由があって置き物扱いされていましたが、騎士王が所持していた剣の一つですからね」
…………騎士王のか。
マジか、マーリンの奴本当に碌でもないな。
「じゃあ今頃向こうは大騒ぎか?」
「……多分それはありません。騎士王はこれが無くなったことも気づいてないでしょうし、無くなったことに気付いたとしてもそこまで気にしないはずです」
「なんで? 一応すごい剣だよね、これ? 特別な力はそこまで感じないけど、普通じゃないことは確かだよ?」
ヒナが鞘から剣を引き抜き、刀身を眺めながらトリスターノに尋ねた。
ヒナの口ぶりからして、ヒナはその剣から何かを感じ取っているみたいだ。
「ええ、まあ……というか今、その剣を抜いたのってヒナさんですか?」
「え? そうだけど?」
「…………そ、そうですか」
ギョッとした顔で尋ねるトリスターノ。
だが、なんでもないように答えるヒナに、トリスターノはなんだか諦めきった顔をしていた。
「その剣、何かあるのか? 曰く付きとか?」
「いえ、そうではありません。
「なんだよそれ」
「どういうこと?」
「今までその剣を引き抜けたのは騎士王のみでしたから」
それなのに何故俺達が引き抜けたのだろう。
いや、それよりも。
騎士王のみが引き抜けた剣というのに、少しだけ心当たりがある。
あるけど、今それが手元にあるのだとしたら、とんでもないものをマーリンが置いていったことになる。
だから、俺は信じたくない気持ちでトリスターノを見ると、トリスターノは頷き答えた。
「その剣は『選定の剣』とも呼ばれ、騎士王アルトリウスがグレテンの王としての証である聖剣。その名を『カリバーン』と言います」
唖然としていると、甲高い音が響き渡った。
ヒナが思わず剣を、『カリバーン』を落としてしまったせいで起きた音だった。
ヒナが慌てて剣を拾うのを横目に見ながら、俺は考えた。
正直言って予想が外れた。
でも、完全に外れたわけでもない……と思う。
というのも、俺が円卓の騎士関連の知識ソースは、大学時代にやっていたゲームから得ていたものだ。
ぶっちゃけると、その知識はほんの些細なものでしかない。
最初の予想は『エクスカリバー』なんじゃないかと思っていた。
だけど、トリスターノは『カリバーン』だと言う。
この二つの剣の違いが、俺には分からなかった。
「ね、ねえ? 待って待って、尚更意味がわからないよ。騎士王が大事にするべき聖剣だよね? それがどうして気にもしないなんて言うの?」
「騎士王がそれ以上に凄まじい武器を持っているからです。その『カリバーン』は強力な力を持たず、ただ折れず刃こぼれしないというだけのもの。王の証のような物ですが、騎士王にとっては実力が全てで、物で証明する気はありません。実際『カリバーン』はキャメロットの宝物庫に置かれていましたからね」
「そ、それにしたって……。というか、『エクスカリバー』は!? 僕の『全知』の知識では日本、というかヒカル達がいた世界の『カリバーン』と『エクスカリバー』は同じものって説があったけど、グレテンでは違うってこと!?」
おお、なんかヒナが俺の代わりに良いことを聞いてくれた。
というか『全知』ってそんなことまで分かるのか。
ヒナが勢いよく聞くのに対し、トリスターノは少し黙り込んでから口を開いた。
「別物、だと思います」
なんだか曖昧な答えだ。
ヒナも返ってきた答えに首を傾げていると、トリスターノは続けて言った。
「『エクスカリバー』は私も知っています。ニホンの知識のおかげである程度は、になりますけどね。ですが、ニホンの知識を得るまでは『エクスカリバー』なんて聞いたこともありませんでした」
「『エクスカリバー』を知らない?」
俺が思わず尋ねると、トリスターノは至極真面目な顔ではいと答えた。
円卓の騎士がこの世界にいるのは、まあわかる。
というか無理矢理納得している。
では何故、一番有名であるはずの『エクスカリバー』が存在しないのか。
セットみたいなものだろう。
この世界はなんなんだ、テキトーか。
「いずれにせよ『エクスカリバー』がどんな聖剣かは想像がつきませんが、騎士王に一つ武器が増えたところで特に何も変わらないと思います。他にも『ロンゴミニアド』や『マルミアドワーズ』『モルデュール』などの強力な武器を既に持っていますからね」
そんな武器満載な騎士王に勝てって言ってきたのかマーリンは。
じゃあもっと強い武器を持ってきてくれてもいいだろ。
マーリンのことだから『カリバーン』にしたのは、わざとなんだろうけど。
「ふーん……『カリバーン』か。折れない、刃こぼれしないっていうのは便利だと思うけど、それにしてはなんだか力を感じるような……」
ヒナがなんかぶつぶつ言ってるけど、とりあえず『カリバーン』は有り難く使わせてもらうとしよう。
砦の心配は無いとは言われたけど、一応明日時間がある時にゆんゆんの様子を確認しに行くことにしよう。
初めて多機能フォームってやつを使ってみたので、どこかおかしくなってるかもしれません。