124話です。さあ、いってみよう。
124話
「それでねそれでね」
「ああ」
「むぅ……なんかヒカル聞き流してない?」
「そんなことはないと思うけど、ゆんゆんが何回も話すからな」
「だって、私一人で砦にいたし、寂しかったし……」
むくれるゆんゆんの頬はほんのり朱に染まっている。
つまりは酔っ払い。
俺はそれなりに飲むけど、前回ゆんゆんが酒を飲んだのは、俺達が生活を共にし始めた時の引越し祝いのパーティー以来だ。
迷惑をかけたことで遠慮していたみたいだが、今回は久しぶりのデートということで飲んでみたくなったらしい。
テンションが上がって飲むのが止まらなくなっていたので、無理矢理打ち切って宿に連れてきた。
ゲロイン化は免れたものの、酔っ払って何度も同じ話をしてきてる。
「だってね、めぐみんがとうとう詠唱無しで爆裂魔法を撃てるようになっちゃったのよ?」
「ああ、怒らせたら大変だ」
「もう、流石にめぐみんも人に向けて撃ったりは……撃ったりはしないと……思う。多分」
「自信ないじゃん」
「だって、めぐみんだし」
そう言われてお互い見つめ合うと、同時に吹き出して笑い合う。
そんなちょっとしたことが嬉しい。
今この瞬間、どうしようもないほど幸せだ。
何度もきつい目にあって、ステータスの幸運値が少し高いとか言われていたことに疑いを持っていたけど、俺は本当に恵まれている。
「詠唱無しか。あの長ったらしいの無しで撃てるなんて、本当に極めたんだな」
「そうね。めぐみんはやっぱりすごい……じゃ、じゃなくて、流石私の終生のライバル! それぐらいじゃないと困るわ!」
わざわざ言い直さなくていいのに。
二人の関係にいちいち口は出さないつもりだけど、この素直にならない状態はいつまで続くんだろう。
もう少し二人が大人になってからかな。
にしても、そうか……めぐみんがな。
爆裂魔法を極めた、なんて周りに言ってもあまり良い顔はされないかもしれないけど、俺は素直にすごいと思うし、羨ましいとも思う。
爆裂魔法が、じゃなくて『極めた』という点が。
一口に極めたと言っても、それはどこまで行けば、どこまで到達すれば極めたと言えるのか。
もしかすると、めぐみんはまだ『極めた』と思っていないのかもしれないが、あの兵器ばりの大爆発を即座に無詠唱で撃てるのなら、それは『極めた』と言えるんじゃないかと俺個人は思う。
だから、俺は羨ましいと思う。
そこまで到達出来たことが。
手を伸ばした先で掴み取れたことが。
俺は、掴み取れなかった。
結果、掠りもしない。
今は当然だと思うけど、当時は何故かも分からなかった。
だから、すげえなって、いいなって純粋に思う。
自分でも浅ましいとは思うけど、めぐみんみたいに才能があったらなと思う。
才能があったら、俺は『極み』に到達出来たのだろうか。
「めぐみんの話すると、あまり良い顔してくれないよね」
「……えっ、ああ、いや、そうじゃなくてさ」
なんだか良くない方向に考え込んでたせいで誤解させてしまったらしい。
ゆんゆんのおかげで前向きになれたとはいえ、未だにあの失敗や挫折は引きずっているままだ。
「何で仲良く出来ないの?」
「……それ、ゆんゆんが言うか?」
「わ、私はライバルだからいいの! もう会っていきなり睨みあったりしないでよね」
「いや、そういうんじゃなくて……」
「仲良くして」
「あまり馬が合わなねえんだよなぁ……。ああ、わかったよ。努力するって」
ゆんゆんが軽く半眼で睨んでくるので、手を上げて降参を示してそう言った。
めぐみんとは会うたびに何故だか憎まれ口を叩き合う。
ある意味仲が良いと言えなくもない。
ゆんゆんを任せるには足らない男だと思ってたみたいな発言を紅魔の里でされて以来、ずっと変わらない。
俺だって、一発屋にゆんゆんのことを任せ……。
……ん?
これ、めぐみんと仲悪いのゆんゆんのせいなんじゃ……。
「ねえ、ヒカル」
「ん?」
「あのね? そろそろ、ね?」
握っていた手の指を絡めて、別の手で俺の太ももを触ってくる。
隣から見える表情は切なげで、熱の籠った視線を受けると俺も
ゆんゆんの綺麗な紅い瞳に、俺は弱い。
どれだけ同じ時間を過ごそうと、何度体を重ねても。
だけど、少し心配だった。
「でも、ゆんゆん大丈夫か?」
「何が?」
「無理してない?」
「全然してないよ? 何で?」
「ほら、前に少し痛がって、んっ……」
説明しようとしたら、ゆんゆんの唇に塞がれる。
顔を離そうとしても、握っていた手を離して、肩に手を回して逃げ道を無くしてくる。
口内に無理矢理舌が侵入してきて、絡まってくる。
いやらしい水音と、激しい息遣い。
ゆんゆんの匂いと、アルコールの味。
ムクムクと沸き上がってくる感情と、ガリガリと削られていく理性。
心配していたことなど忘れて、俺は若くなった身体の衝動に身を任せて───。
わあ、おそとあかるい。
窓から入ってくる日差しから、すぐに目を逸らすと布団を頭から被った。
布団の中にはゆんゆんが俺の腕を枕にして、すぅすぅと静かに眠っていた。
見た感じ特に問題無さそうだったけど、すごい激しくしてしまった。
俺達の体が巻き戻ったことで、俺は若い体、いや前も若かったけど、なんというか色々と持て余す若い体になった。
ゆんゆんの体も巻き戻って、それをある程度元に戻すことは出来たのだが、完全には戻せなかった。
何が言いたいかというと、ゆんゆんの体は俺と体を重ねる前の状態に戻っていたわけで。
二度目の貫通式。
血とゆんゆんの痛みに耐える顔。
それが興奮したか、興奮しないかで言えば、興奮したわけで、って何を言ってるんだ俺は。
慣れていないゆんゆんの体に、元気な俺の体。
どう考えても無理をさせてしまっているから、心配だった、はずなのに。
「ん……ヒカル……?」
「おはよう。まだ寝てても大丈夫だぞ」
「おはよ。ううん、起きるわ」
寝たまま軽く体を伸ばすゆんゆん。
杞憂で済んだとはいえ、もう少し抑えめでするとか色々あったというのに、まったく。
「……ヒカルって、その、まだしたかったりする?」
「……これは生理現象です」
「お尻に当たったから気になって」
「気にしないでください。握らないでください。その子は昨日すごい頑張ったので、とても疲れています」
「ふふ、そうなんだ?」
「ゆんゆん? 何でそんなに目が光ってるの? 落ち着いて、お願い」
「最近攻められてばかりだし、やっと反撃出来るわ。覚悟してね?」
「違うんです、ゆんゆんさん。夜は男が頑張らなきゃいけないっていうか、前まで負けばかりだったのがおかしかったっていうか」
「そうじゃなくて、私がダメって言っても弱いところばっかりいじめて来たわよね? だからそのお礼をしてあげようと思って」
「大丈夫です。ほら、その子にお礼がしたいなら休息をあげよう? だって、今日もデートだし」
「うん。そうだね」
「やめて、ゆんゆんさん。撫でないで。その子はそっとしておいてあげて」
「まだ宿を出るまで時間があるから、いっぱいこの子にお礼が出来るわ、遠慮しないで?」
「その子は少しやんちゃなだけで、根は良い子なんです、許してあげてくださいお願いします」
「ふふっ、ヒカル何言ってるの? マッサージして、思いっきり撫でてあげて、柔らかく包み込んであげるだけよ?」
「ゆんゆんの気持ちはすごい嬉しいけど、時には見守ってあげることも必要なの。温かい目で何もしないことも時には優しさになることもあるんだってこれマジだからねヒカルうそつかない」
「うんうん」
「わ、わかってくれた?」
「うん」
「そ、それはよかっ」
「ヒカル、紅魔族がやられたままでいると思う?」
「…………た、たまにはいいんじゃな」
「反撃開始っ!」
「いやああああああああああああ!! お、お助け! 待って待って待って待って! ゆんゆんさん、待って! 今のその子にゆんゆんさんのスペシャルマッサージはあああああっ、む、無理無理無理無理無っ────」
「ヒカル、どうしたの? これからデートなのに、元気無いよ?」
「ひどいよぅ、ずっとお礼されてたのに……」
「何言ってるの? お礼したんだから元気いっぱいでしょう?」
「いや、体力気力全部持ってかれたわ。常人なら夕方ぐらいまで寝込むコースだわ」
「ふふ、ごめんってば。ほら、行こ?」
そんな満面の笑みで謝ることある?
許しを乞うなら、もっと申し訳なさそうな顔をしてほしい。
まったくもう。
そんな幸せそうな顔をされたら、許すしかなくなるじゃないか。
ゆんゆんが握る手に導かれ、俺達は歩き出す。
体はめちゃくちゃ重たいけれど、気分は軽やかだ。
随分ときついデートになりそうだけど、男としてやってやろうじゃねえかこの野郎。
「最初はどこ行く?」
「腹減って死にそうです……」
「もうお昼だもんね。おすすめのカフェがあるんだけど、どう?」
「いや、どっちかって言うとガッツリ食べたいんですけど」
「そう言うと思ってたわ。実はそのカフェの料理の量や大きさが普通のお店とは比べ物にならないぐらい……」
「よし行こう。すぐ行こう」
「ふふっ、はーい」
前回また後書きに書き忘れた。
最近はまとめきれていないのに、投稿しようとするせいで、やらかしが多いですね。
ヒナギクがエリス様と天界からヒカルを守ることで、ヒカルが十年以内に死ぬ未来はほぼ無くなりました。
確定ではないのは、ヒカルが特定の条件を満たしていないから。
条件を満たしたとしても、まだその先の幾つかの困難が残っているから。
ヒナギクとエリス様が天界から守る程度では守りきれないほどの強い困難。
それをヒカルやその仲間達が乗り越えなければならないのです。
世界を変えた責任を。