このすば ハード?モード   作:ひなたさん

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126話です。さあ、いってみよう。



126話

 

「勝負方法は───『腕相撲』だ」

 

「…………」

 

 はあ? 何言ってんだこいつ、と顔で語るカズマ。

 呆れてものも言えないのか、わざわざ口にしてこなかったが、何も言ってこないのなら俺はゴリ押そうと続けて言った。

 

「カズマ、お前は俺を『ぶっ飛ばす』んだったよな? それだけの力があるんだから俺と腕相撲ぐらい出来るだろ? 簡単だし、何より周りに迷惑をかけない。俺達は周りに噂されるような冒険者なんだし、俺達の個人的な争いもなるべく小さな規模にするべきだ、違うか?」

 

 公平な勝負にしようと思っていたが、そもそもの話、先に俺のことを好き勝手言って煽ってきたのは向こうなんだから、その必要はないと考えが変わった。

 それに俺の言い分的にはちゃんと公平なんだし。

 まあ冗談はさておき、こんな勝負にカズマが乗ってくるわけがない。

 少し謝って反省してくれれば、俺も───

 

「いいぜ、やってやろうじゃねえか」

 

 は? 

 

「カズマ、正気かお前?」

 

「ああ、腕相撲だよな?」

 

 ……自分の耳を先に疑ったが、カズマの頭の方がおかしかったらしい。

 どうやら引く気はないようだ。

 

「腕相撲であってるよ。で、せっかく勝負するんだし、何か賭けるか?」

 

「ああ、もちろん。負けたら、しっかり謝罪してもらうぞ」

 

「ああ、いいよ。ついでに今日の飲み食いの奢りも追加な」

 

「いいね。そうしよう」

 

 なんだ、カズマのやつ妙に自信があるように見えるな。

 俺に腕相撲で負けるのは当然だから開き直ってるとか? 

 まあ、ここまで来たらやるだけか。

 

「よし、じゃあさっさとやろうか」

 

 俺が机に肘を置くと、カズマは立ち上がった。

 

「まあ、落ち着けよ。この勝負を少しでも公正なものにするために審判がいた方がいい」

 

「あ? 審判? 別にいいけど」

 

 そう言って俺が適当にそこら辺のやつに審判を頼もうとしたら、カズマが手で制してきた。

 

「ダストに頼もうぜ。顔馴染みにやってもらった方がいいだろ? 俺が呼んでくるよ」

 

 そう言ってカズマは新人の冒険者に絡むダストの元へと向かっていった。

 誰が審判でも構わない。

 どう考えても腕相撲で負けるわけがない。

 

 カズマがダストに色々と説明しているところを少し離れた机から見ていると、俺も少し冷静になってきた。

 なんだか少し悪いことをしたかな、なんて思うぐらいには。

 

 狂戦士の適性を持つやつは変わり者。

 俺が変わり者かどうかは置いておくとして、それが世間一般の常識らしい。

 実際今日みたいに狂戦士であることをネタにからかわられたりすることはよくあることで、それはすでに慣れているし、いちいち気にしたりしない。

 だが、舐められるのは別問題だ。

 ゆんゆん、ヒナ、トリスターノ。

 俺はこの三人をまとめる者として舐められるわけにはいかない。

 多少の反撃はしておかないと、勘違いしたバカが現れるからな。

 

「悪い悪い、待たせたな」

 

「俺が目を離してるうちに、なんだか面白いことになってるじゃねえか」

 

 やっと二人が戻ってきた。

 遅いぞ、と返すと二人は笑いながら誤魔化しつつ、準備に入った。

 カズマが俺の対面に座り、ダストが俺達二人の横へと陣取る。

 カズマは机に肘をつき、腕相撲の体勢を取ると口を開いた。

 

「ヒカル、後悔するなよ?」

 

「お前さ…………ああ、もういいや。さっさとやろう」

 

 俺は軽く呆れながら、カズマと同様に腕相撲の体勢を取る。

 お互いに手を握り合い、いつでも始められる状態になり、俺達が握り合った手をダストが軽く上から手を添えた。

 

「俺の『よーい、始め!』の掛け声と同時に手を離すから、その時点で勝負の開始だ。……準備はいいか、お前ら?」

 

 当然とばかりに俺達が頷くと、ダストも頷き返してきた後、大きく息を吸った。

 

 

 

「よぉーーーーーーーーーーーーーーーー……」

 

 

 

「「…………」」

 

 なげえよ。

 ダストのなかなか終わらない掛け声に思わずそう呟いた。

 面白がってるのかもしれないが、さっさとしてくれ。

 早くしろとダストに文句を言ってやろうとダストの方を向くと、とある一点に目が行った。

 先程俺達と飲んでる時には、ダストのズボンのポケットは不恰好に盛り上がっていなかった。

 それに何か、紙幣のようなものが何枚かポケットから飛び出している。

 あれは───

 

 

 

 

 例の店の半額チケット。

 

 

 

 

「っっ!!?」

 

 急に体の力が抜けて、体勢を崩す。

 慌てて自身の身に異変がないことを確認すると、数瞬遅れてこの感覚が何かを思い出した。

 何かが無くなっていくような感覚、急激な疲労感。

 『ドレインタッチ』だ。

 

「て、めぇ……っ!」

 

「……」

 

 カズマを睨みつけると無言でニヤリと笑い返してくる。

 随分と自信があるみたいだと思ってたが、そういうことか。

 俺が先程『ドレインタッチ』に過剰に反応したのを見て、俺の弱点だとバレたわけだ。

 ならもうケリをつけよう。

 そう思い、腕に力を入れたところでダストが上から押さえてくる。

 

「ーーーーっと! まだ勝負は始まってないぞ。俺が開始の掛け声をしてからだ」

 

「ざけんなこの野郎! じゃあ、さっさと始めやがれ!」

 

「おいおい、落ち着けよ。勝負事で熱くなるのは分かるけど、焦りすぎだろ」

 

「そうじゃねえよ! いいから、さっさと……っ!?」

 

 ダストと話してるうちに、どんどん体に力が入らなくなってくる。

 ダストにも睨みをきかせると、ダストの表情もカズマと同様にニヤリとした嘲笑うかのような笑みを浮かべているのが見えた。

 それに、先程のダストのポケットから見えた半額チケットと中身は不明だが不恰好に盛り上がったポケット。

 俺はここにきて、ようやく気が付いた。

 

「てめえら、グルか!」

 

「何のことだよ。変な言いがかりはやめろ」

 

 くそ、賄賂とかどんだけ汚い手使ってくるんだよ。

 こいつらのことを見くびってた。

 

「なんだおい、逃げるのか?」

 

「てめえら、いい加減にしろ! こんなのやってられるか!」

 

「いい加減にするのはヒカルだろ。お前が落ち着かないと始められないじゃねえか」

 

「さっさと始めねえからだよこの野郎! 時間稼いでんじゃねえよ!」

 

 これまでのやり取りの内に身体の魔力がほとんど吸い取られてしまったのか、二人に握られた手を振り払うことすら出来なくなっている。

 ああもう、そっちがその気なら俺も容赦しない。

 

「手を離すならそれでもいいけど、その場合は俺の勝ぎゃああああああああああっ!?」

 

「え、ちょ、どうしたカズマ!?」

 

 俺はこのまま徹底抗戦することにした。

 何をしているかと問われれば、別になにかおかしなことをしているわけじゃない。

 ただ、思いっきり手に力を入れているだけだ。

 カズマの手を握り潰すぐらいに。

 そのおかげで痛みに気を取られたか『ドレインタッチ』が止まった。

 俺はこのまま更に手に力を入れて、先程のあいつらのように笑ってやった

 

「カズマ、ダスト。さっさと始めないなら、それはそれでいい。ただし、勝負が始まる前に手が使い物にならなくなるだろうがな! おいこの野郎、手を離すなよ! お前から手を離したら俺の勝…………ッ!!」

 

「ヒカル、おいどうした? 急に威勢が無くなったじゃないか。手を離そうとしたのはお前だぐおおおおおおおっ!?」

 

 俺のセリフの途中で『ドレインタッチ』が再開されて、またイキり始めたカズマへお返しとばかりにさらに握りこむ。

 メキメキ、バキバキと音が聞こえる、ような気がするぐらいに力を入れた。

 

 魔力を吸い取られきって机に這うようにして腕相撲の体勢でい続ける俺、痛みに悶えながらも意地を張り続けるカズマ、困惑するダスト、という妙な図が出来上がった。

 俺の魔力体力どちらも尽きるか、カズマの手が潰れるか、そんな勝負へと成り果てた。

 これは本当に腕相撲なのか、そんな疑問を浮かべる余裕は今の俺には無かった。

 

「こ、このっ、バーサーカー! 魔力を吸い切って身体は全く動かないはずなのに、どんだけ体力あんだよ!!」

 

「うるせえこの野郎!! 腕相撲なんかに賄賂だスキルだ、使いやがって! その手、ミンチにしてやるよ!!」

 

「さっさと大人しくなりやがれえええええええええええええええ!!」

 

「潰れろこの野郎おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

「あー……これいつ始まればいいんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………悪かったな、カズマ」

 

「い、いってえええええええ!! 俺の手が見たことない形にいいいいいい!」

 

 結局負けた。

 カズマの手は潰したものの、最後の最後で俺の体力が尽きてしまい、腕相撲に負けたのだった。

 いや、これ腕相撲じゃなくね。

 勝負の前にどれだけ相手の戦力を削ぐか、みたいな感じだったわ。

 …………やばい、流石に意識が朦朧としてきた。

 随分と吸われてしまったらしい。

 机から起き上がることも出来そうにない。

 

「カズマ……おいカズマ」

 

「なんだよ!? 今は勝負とかそれどころじゃないんだよ! よくもやって」

 

「聞けよ、カズマ。悪かった。謝る約束だったろ」

 

「え、ああ、うん。そうだけど」

 

 毒気を抜かれたような顔をするカズマの手を見て、俺は続ける。

 

「あと、早く帰ってアクアに治してもらえ。多分アクアとかじゃないと治せないだろ、それ。約束通り今日は俺が払っとくから」

 

「あ、ああ、そうする。じゃあ先行くぞ」

 

「おう、じゃあな」

 

 そこまで言って、カズマがギルドを出て行くのが見えた後、俺の意識が途切れた。

 

 その後、いつまで経っても帰ってこない俺を心配した三人が俺を迎えに来て、ヒナとゆんゆんに説教をされた。

 ギルドで公開説教をされた後、会計を済ませようと財布の中を見たら、中身が丸ごと無くなっていることに気が付いた。

 ほぼ犯人が誰かわかっているものの確証は無く、というか今はそれどころではなく、犯人がどうとかは重要ではないのだ。

 俺は気まずい気持ちになりながらも事情を説明して三人からお金を借りようとしたら、またヒナにガミガミと説教された。

 説教シーズンⅡを終えて、会計を済ませようとするとカズマと俺の分どころか、ダストやその他の冒険者の会計も加わっていることを知り、俺は恐る恐る後ろを振り向いた。

 

 そこには般若の顔をしたヒナが立っていた。

 

 説明シーズンⅢが始まったことは言うまでもないだろう。

 




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