このすば ハード?モード   作:ひなたさん

138 / 165
128話です。さあ、いってみよう。



128話

 

「ごめん、ヒカル、トリタンさん。私もう行くね!」

 

「ああ、気をつけてな」

 

「いってらっしゃいませ」

 

「夜には帰る予定だけど、夕飯は先に食べちゃっていいから! 行ってきまーす!」

 

 ゆんゆんが慌ただしく準備を整えた後、テレポートを唱えて姿を消した。

 行き先は紅魔の里。

 何故ゆんゆんが紅魔の里に向かったかというと、紅魔の里が魔王の娘に襲撃されて占拠されたからである。

 もちろん俺達も戦力になろうとしたのだが、今回ばかりは紅魔族の問題だとひろぽんさんに断られてしまった。

 何度か押し問答を繰り広げたが、頑なに断られ、最終的にはゆんゆんだけが参戦することになった。

 次期紅魔族の族長として譲れないとゆんゆんが言う姿は凛々しくもあり、格好良くもあった。

 ……恋人フィルターがかかってたかもしれないが、惚れ直すレベルだったのは間違いない。

 それはさておき、戦場にゆんゆん一人で行かせるのは少し心配だが、ゆんゆんなら大丈夫だという根拠のない確信がある。

 俺がランダムテレポートで飛ばされた時もゆんゆん達は『ヒカルは生きてる』という確信があったらしいし、それに似たものなのかもしれない。

 まあ、今のゆんゆんめちゃくちゃ強いしな。

 魔王の娘を単身で倒しちゃったりして。

 

「さて、あなた。今日のご予定は?」

 

「気持ち悪い声を出すな気持ち悪い呼び方をするな息を吹きかけるなよ気持ち悪い!!」

 

 トリスターノが高い声で『あなた』呼びしてくるだけでも背筋が凍る思いなのに、しなだれかかってくるもんだから、振り払いながら一息にツッコミを入れてしまった。

 

「もう、なんてこと言うんですか。この子に悪影響が出たらどうするんです?」

 

「お前、俺の拳が大人しい内にその気持ち悪い声をやめろ」

 

「これがDVですか」

 

「よーし、上等だこの野郎。歯食いしばれ」

 

「冗談ですよ。で、あの子どうします?」

 

「……どうするって」

 

 トリスターノの視線の先には、急遽用意した幼児用の席に座ってご飯をまだかまだかと待つ幼児が一名いた。

 

 まあ、ヒナなんだけど。

 

 俺と視線が合うと、きゃっきゃっと笑ってご機嫌そうだ。

 

「どうしようね……」

 

 俺とトリスターノは同時にため息をつくと、とりあえずはヒナにご飯を食べさせることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故ヒナがまた幼児になっているか。

 それは正直よくわかっていない。

 とりあえずわかっていることは、ヒナが限界まで疲労してしまうと、また幼児に戻ってしまうということ。

 一定時間経つと元に戻るということ、これぐらいだ。

 ヒナはとんでもない後遺症を抱えてしまったのだ。

 

 最近たまにヒナがエリス様の仕事の手伝いに行くのだが、朝帰ってくると玄関で幼児状態になってギャンギャン泣き始めるので、恐らくエリス様が何かしでかしてる可能性が高い。

 というかヒナが幼児化するのは、そのタイミングのみなので完全にエリス様が犯人だろう。

 

「あーむっ、おいしー! パーパ、パーパ! おいしー!」

 

「よしよし、良い子だな」

 

 きゃっきゃっと嬉しそうにご飯を頬張るヒナを褒めると、また口を大きく開け始めたので、俺はスプーンをヒナの口へと運んだ。

 

 だが、なんとなく引っかかる。

 あのヒナギク狂いのエリス様がヒナを疲労困憊にさせるほど仕事をさせるとは思えない。

 エリス様が仕事を抱え込みすぎてるとか、はたまたヒナが仕事に慣れていないだけなのか。

 一度ヒナに問い詰めたことがあったのだが、

 

「大丈夫だよ。僕は、大丈夫だから……」

 

 諦め切ったような、無理矢理作ったような微笑みを浮かべながら、その話題を切ってしまうので対応に困るのだ。

 というか、どう考えても大丈夫じゃないだろ。

 次に手伝いに行くタイミングでヒナの後ろをこっそりついて行ってみるか。

 天界とかに行かれたら、その時点で帰ることになるけど。

 

「いつも通りだとヒナさんが元に戻るのは昼前ぐらいですね、パパ」

 

「誰がパパだ引っ叩くぞ」

 

 トリスターノが言う通り、ヒナが幼児から元に戻るのは昼ぐらいだ。

 俺が今ヒナのそばから離れると近所迷惑レベルで泣き出すので、つまり俺は昼まで外に出られないということ。

 

「今日のクエストは休みか」

 

「ですねぇ。昼からクエストを選んで取り掛かるとなると、いつ帰ってこられるか分かりませんし、それに今のギルドのクエストは大変なものばかりですしね」

 

「そうなんだよなぁ。割に合わないのばっかりでやってられないし」

 

 今のギルドは面倒なクエストしか貼り出されてない。

 しかもその面倒なクエストを断るに断れない状況なので、余計に性質が悪い。

 ギルド職員がこめっこを手放してくれればいいのだが、今のギルドが抱えてる面倒なクエストが無くならない限りはそれもないだろう。

 

「では、今日はどうされますか?」

 

「うーん、午後から孤児院に行くかな。最近あまり行けなかったし」

 

「なるほど。私も同行しましょう」

 

「はぁ、しょうがない。後でヒナに回復魔法をしとくように頼んでおくか」

 

「この人、容赦なさすぎでは??」

 

「トリタ、ロリコン! きゃっきゃっ!」

 

「ヒナさん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ご迷惑を、お、おかけしました」

 

「ああ、うん」

 

「元に戻れたようで何よりです」

 

 昼前にヒナは元の姿へと戻り、赤面しながら俺の部屋から出てきた。

 幼児状態のヒナに、ヒナの意識は無いのだが記憶はしっかりとあるらしく、きゃっきゃっとはしゃいでいたのを恥ずかしがっているようだ。

 

「ぼ、僕は、その、きょ、教会に行ってくるね!」

 

 自室へと戻ったヒナは少しした後、俺達にそう言うだけ言って家を飛び出して行った。

 何回か幼児になっても恥ずかしいものは恥ずかしいのだろう、俺は特に何も言わずに見送った。

 

「で、トリスターノは今日どうするんだ?」

 

「どうって、同行するに決まって……冗談です。今日は家で大人しくすることにします。家事は任せてください」

 

「別に外出するな、とは言ってないぞ」

 

「いえ、なんとなく嫌な予感がするんですよね。こういう日は大人しくしているに限ります」

 

「……お前、変なフラグ立てるなよ」

 

「すみません。気のせいならいいんですけどね。リーダーも一応気をつけてください」

 

「気をつけるって、何を?」

 

 俺が尋ねるとトリスターノは少し思案した後、イケメンスマイルwithウインクを決めて宣った。

 

「貴方を慕う女性がまた増える、なんてどうでしょう?」

 

「……はぁ」

 

 何を言ってるんだコイツは、とため息をつきながら俺は出かける準備を始めた。

 まったく、これだからイケメンは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、おサボりだ!」

 

「誰がおサボりだよこの野郎」

 

「今日ギルド来なかったじゃん! 最近毎日来てたのにさ!」

 

「今日は予定があったんだよ」

 

「そうなの? じゃ、明日は?」

 

「あ? 多分明日は行くよ」

 

「そう、じゃあ明日ね!」

 

「ああ、じゃあな」

 

 孤児院に行く道すがらクエストから帰ってきた知り合いの冒険者に会った。

 大きな怪我は無くともボロボロで、疲れ切った彼女はすぐに会話を終えて帰っていった。

 毎日クエストに参加する上位職の俺を少しはアテにしていたのか不満を言っていたが、高難易度のクエストでそこまで活躍出来るとも思えないんだよな。

 まあ、明日から頑張るけど。

 そんなことを思っていた時、

 

「─────ぁぁぁぁああああああ!!!」

 

「親方! 空から女の子が!」

 

「あ?」

 

 突然頭上から聞こえてきた声に、俺は反射的に上を向き、目を見開いた。

 何かが落ちてくる。

 咄嗟に避けようとしたが、落ちてきているのが人間だと気付き、慌ててキャッチしようと踏ん張った。

 

「っしょっと!」

 

 筋力が上がってて助かった。

 危なげなく落ちてきた人間、少女をお姫様抱っこのようにキャッチすることに成功した。

 

「いやあ、ナイスキャッチ」

 

「……またか」

 

 当然のように隣に立つマーリンに俺は嘆息した。

 この魔法使い、俺にはなるべく関わらないようにするとかなんとか言ってなかったっけ。

 

「あ、あれ……?」

 

「無事……か?」

 

 落ちてきた少女から声が聞こえ、安否を確かめる為に声をかけて、紅い瞳と目が合った。

 

「ゆんゆ……んじゃ、ないよ、な?」

 

「ぁ、ぁ───」

 

 少女は口をパクパクさせて答えない。

 俺の発言通り、めちゃくちゃゆんゆんに似てるのだ。

 違う点をあげるとしたら、目付きが鋭く、髪がヒナ以上に短い、ボーイッシュな髪型だ。

 だが、それ以外はほとんど似てる。

 まるで姉妹だ。

 今の体勢が恥ずかしいのか、どんどん赤面しているところも、初期の頃のゆんゆんにそっくりだ。

 

「ああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 少女の悲鳴が響き渡り、

 

『ヒナァ!!』

 

 その悲鳴の中で短く鋭い気合いの入った声が聞こえて、

 

「あがぁっ!?」

 

 俺は殴り飛ばされた。

 拳が見えたわけではなく、感覚的にそうだと感じた。

 伊達に殴る蹴るを専門とした武道をやっていない。

 ただ不可解だったのは、誰が俺を殴ったか。

 少女が殴ったにしては強すぎる。

 抱き抱えられた状態で人を殴ったところで、飛ばされたりはしないだろう。

 ならば、マーリンなのかと問われると確認するまでもなくあり得ない。

 マーリンがいた方向からの拳ではなかったし、そもそもマーリンが原始的な攻撃手段を使うとは思えない。

 

「いった」

 

 俺は起き上がりながら、殴られた頬を擦り、誰が俺を殴ったのかを確認するべく前へと視線を向けた。

 

「あわ、あわわわわわ……」

 

「わーお」

 

 尻餅をついた狼狽える少女と少し驚いた表情のマーリン。

 それと、

 

『ヒ、ヒナ……ヒナヒナ……』

 

 少女の後ろでビクビクしている天使がいた。

 その天使は半透明で、どちらかと言えば背後霊のようなものに見える。

 何故天使だと断言してしまったかは二つ理由がある。

 二対四翼の純白の羽を持つ少女という外見であり、天使の輪っかみたいなのが天使の頭上にあったからだ。

 それに何より、姿形が完全にヒナであった。

 サングラスをかけているが、間違いなくヒナだ。

 というか先程からヒナヒナ言ってるのはなんなんだ。

 

「…………あれ、なに?」

 

 今ここにいる二人に問いかけると、少女は気まずそうに目を逸らした。

 背後霊天使(ヒナ)はその少女に吸い込まれるようにして消えた後、誰も発言しないのを確認したようにマーリンは頷き、得意顔で胸を叩いた。

 

「説明しようじゃあないか」

 

「なるべく詳しくな」

 

 正直訳がわからない。

 ヒナがグラサンかけてヒナヒナ言いながら背後霊やってる状態を見て、すぐに状況を把握出来る奴がいたら此処に来てくれ。

 一発引っ叩いて病院に連れて行ってやるから。

 

「あれは『ヒナンド』だよ」

 

「『ヒナンド』」

 

「そう『ヒナンド』さ」

 

 …………。

 

「いや、『ヒナンド』っていうかスタン……」

 

「『ヒナンド』だよ!」

 

「『ヒナンド』ってなんだ!! どう考えてもスタ……」

 

「何度も言わせるんじゃあない! 今のは『ヒナンド』なんだ! 分かったならス◯ンドと言うのはやめるんだ!」

 

「お前が言ってんだろうが! お前もスタ◯ドだって思ってんだろ!!」

 

「思ってないもん! 私だってぶっちゃけ意味わかんないもん! 私悪くないもん!」

 

「急に駄々っ子みてえになりやがった!」

 

 マーリンが出てくるだけでもアレなのに、新キャラとヒナンドのセットも出てきて、もう意味分かんねえよ。

 こんなことならトリスターノを連れてくればよかった。

 あいつもいればツッコミの負担が減ったのに。

 

「あ、あの!」

 

 俺がこの状況を理解出来ずに、いや理解を拒否して頭を悩ませていると、少女が挙手して声をかけてきた。

 

「先程は助けていただき、ありがとうございました。自分、自己紹介いいすか?」

 

「……ああ、うん。いいんじゃない?」

 

「ありがとうございます。では……」

 

 少女はすーはーすーはーと深呼吸を何度か繰り返した後、カッと目を見開いてマントを派手に広げながらポーズを取った。

 

「我が名はゆりりん! 紅魔族随一のヒナンド使いにして、かの英雄譚を超える者──ッ!!」

 

 ゆんゆんに似てると思ったけど、割とゆんゆんより紅魔族だったわ。

 というか里で見たことないな。

 もちろん里の全員と面識がある訳じゃないけど、ゆんゆんに似てるってだけですぐに知り合ってそうなものだ。

 

「そして君の娘さ」

 

 

「────────は?」

 

 ついて来れない状況ながらも頑張ってきたというのに、マーリンの今回の発言で、俺はついに思考が停止した。

 




ギルドに何故めぐみんの妹である『こめっこ』がいるかについては、このすば11巻を読めばわかります。
本編に説明を入れても良かったのですが、無駄に長くなりそうなので、やめました。
かったるいし(本音)


ヒナギクがまた幼児になってしまった理由はこのお話が終わってから分かります。
とりあえず今言えることは、エリス様が犯人で確定です(ネタバレ)


ゆり本人の説明は次回あたりに。
スタ……ヒナンドの説明はここで。

ヒナンド
未来のヒナギクがゆりを大層可愛がっており、
「この子は僕が守ってあげなくちゃ!」と割と強めの守護の加護をゆりにかけた結果、その力をゆりが好き勝手使うようになった。
守護の加護だけでなく、ゆりが一人で遊んでいる時もヒナギクが下界に降りて遊び相手になってあげるなど数多くの接触をした結果、ゆりにも『神聖』が芽生えた。
誰かさんとやってることが同じである。
歴史は繰り返された。

ちなみにヒナンドのヒナギクは守護の力が形になったもので、ヒナギク本人ではない。
何故ゆりが好き勝手に力を使えるのか、何故ヒナンドの形がヒナギクの姿になるのかは、ゆり本人やヒナギクにもわかっていない。
ヒナンドの得意技は拳の高速連打を叩きつける『ヒナヒナラッシュ』
パワー型のスタ……ヒナンドなのだが、回復魔法も支援魔法もこなす超万能タイプ。

ヒカルの前でのみサングラスを掛けている。
ヒナギク本人では無いが、ヒナギクのコピー的なものであり、コピーなせいか感情も何故か受け継がれている。
感情が受け継がれていて、尚且つヒナギク本人のような感情の制御が出来ない守護の力なのでヒカルを見たり、ヒカルにジロジロ見られたりされると恥ずかしがってしまい十分の一のパワーも出せなくなるので、なるべくヒカルを見ないようにする為のサングラスである。
端的に言えば、サングラスが無い状態でヒカルを前にすると、ただの『好きな人を前にした思春期女子』になるということ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。