129話です。さあ、いってみよう。
「ちょ、ちょっと待ってよマーリン!? それ言っちゃうの!?」
「え? うん」
「い、いやいや、こういうのって普通バレないようにしたりするもんじゃないの!?」
「確かにそうだけど、今はヴォーティガンのことを終わらせるのが重要かな。どうせ彼の記憶には残らないし、隠し事してたら色々面倒くさくなりそうだし」
「…………いや、ちょっと待って。私、お父さんにキャッチされたり殴ったりして、動転して自己紹介までしちゃったりしたけど、ヴォーティガンのことを解決するのが先決なら私達二人でやればよかったんじゃないの? お父さんを巻き込む必要あった?」
「いや、彼はどうしても必要だった」
「それは、お父さんがそれほど重要な人物ってこと……?」
「そうさ。だって……」
「だって?」
「彼を巻き込んだ方が、面白いからね」
「……………………ごめん、よく聞こえなかった。もう一回言ってくれる?」
「こんな面白い事態になったのは久しぶりだから、つい過去の彼も巻き込んじゃった。後悔も反省もしてないよ」
「こ、このトンデモ魔法使い、碌でもない理由でお父さんを巻き込みやがったッ!! せめて反省はしやがれええええ!!」
『ヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナァ!!』
「はっはっはっはっ。やめたまえ、その不思議パワーで攻撃してくるのはやめたまえ」
───はっ、俺は一体何を……?
そうだ、確か変な夢を見た気がする。
なんかまたいきなりマーリンが現れて、俺の娘を連れてきたとかなんとか。
……意味分かんねえわ。
いや、所詮夢だし、意味が分からないのも仕方のないことか。
「ああもうっ! 避けるなマーリン!」
『ヒナヒナヒナヒナァ!!』
「はっはっはっ、やめたまえ。いい加減ヒナヒナするのはやめたまえ」
「……まだゆめのとちゅうかぁ」
背後霊的なヒナが目にも止まらぬ速さで拳を振っているが、マーリンは瞬間移動を何度も駆使して全てを笑いながら避けている。
もう無理だ。
こんな変な夢をこれ以上見せられたら頭がおかしくなってしまう。
目を覚ますにはどうすればいいんだ……。
「あ、ほら、君の愛しの父君が頭を抱えているよ」
「そんなわけ……えっ、お父さん!? どうしたの!?」
「夢なら、ゆんゆんと大人ゆんゆんの二人がよかった……」
「なんか欲望丸出しなんだけど!!?」
「そんなに驚かせちゃったかな。とりあえず落ち着かせようか。ヴォーティガンが近くにいる気配はないし」
「そ、そうだね。お父さん、一回落ち着いて───」
「だ、大丈夫? お父さん?」
「……あ、ああ。まあ大丈夫だけど、お父さんって呼ばれるのがなんか落ち着かないっていうか」
「うっ、ご、ごめんなさい」
「ごめんね、お父さん。混乱させて」
「お前は絶対にお父さんと呼ぶな」
マーリンのアンポンタンがお父さんをお父さん呼びしやがった。
いつか
「で、これはどういうことだ?」
「私達二人は未来からやってきた。未来で君が倒した奴が君にご執心でね。わざわざ過去の時間軸であるこの時間に来て君を殺そうとしている。だから、私達は助けに来た」
「………………」
「お、お父さん信じて! これは本当なの!」
遠くを見始めたお父さんの肩を揺さぶって声をかけると、すぐに正気に戻ってくれた。
「いや、どういうことだよ! 未来からやってきたって一体どうやって!?」
「私の魔法だけど」
「…………それ反則すぎない?」
「チートでごめんね? 異世界転生してきた主人公の君より何でも出来てごめんね?」
「おい、何煽ってきてんだこの野郎!」
ケラケラ笑うマーリンと睨み付けるお父さんを見ていると、なんだかモヤモヤする。
お父さんが私に他人行儀なのに、マーリンなんかがお父さんと仲良さげに見えるのは世の中間違ってると思う。
どうすれば信じてもらえるかな。
「ほら、それより君の娘だよ。感想は?」
「いきなり言われてもな……」
「目元なんて君にそっくりじゃないか」
「た、確かにそう言われてみれば……」
「それにアホっぽいところも」
「「誰がアホだ!」」
「う〜ん、息ピッタリ。美しき親子愛だね」
ふーん、マーリンもたまには良いこと言うね。
マーリン風に言うなら『わかってるじゃあないか』ってところかな。
「てか待ってくれ。こんな未来のこと知って大丈夫なのか? タイムパラドックスとかあるだろ?」
たいむぱらどっくすってなんだろ?
お父さんがそんな難しそうな言葉知ってるとは思わなかった。
「ああ、大丈夫だよ。ほら、君が平行世界から帰ってきた時に記憶が消えただろう? 私達が元の時間に帰れば同じことが起きるよ」
「そ、そんな都合が良いのか?」
「うん、多分だけど」
「…………」
「そんなに見詰めるなよ、照れるじゃあないか。安心したまえ、何かあれば私が君の記憶を消すから」
「全然安心出来ない……」
記憶を消す?
うん?
それは、つまり…………。
「えっ、ちょっと待って!? お父さんが私のこと忘れるってこと!?」
「そうだよ」
「はあ!? なんでさ!」
「落ち着きたまえよ、ファザコンくん」
「ファザコンじゃないし! 家族愛だし!」
「君がこの時間軸に来た目的はなんだい?」
「ヴォーティガンをぶっ飛ばす為でしょ」
「間違ってはいない。というか何でこんな脳筋になっちゃったかな……君のせいだよヒカリ君」
俺にどうしろってんだよ……と呟くお父さんを横目にマーリンは私の方を見て語り出した。
「私達の真の目的は『過去を変えさせないこと』だよ。ヴォーティガンが何かやらかす前に、もしくは何か起こしたとしても阻止する」
「つまり、ぶっ飛ばすんだよね?」
「……時間の流れは絶対的でなければならないって話はしたよね? 過去、現在、未来と順に一方通行で流れなければならない。それをめちゃくちゃにして私達は過去にいる。私達ですら過去を変えてしまう可能性があるってこと。だから全て終わったら記憶が消されなきゃいけないんだ」
「……」
「これは君のためでもあり、ヒカリ君の為でもある。先程ヒカリ君からタイムパラドックスって言葉を聞いただろう。未来を知ってしまった過去の人物の行動が変わってしまい別の結果を産むかもしれない。未来からすればそれは決定的なズレであり、大きな矛盾だ。その矛盾が起きてしまうことをタイムパラドックスというんだ。今記憶が残ったままにすれば君が生まれなくなる可能性も……」
「今すぐお父さんの記憶を消そう! ヒナヒナすればなんとかなる!?」
「えっ」
「はいはい、ステイステイ。今すぐ消さなくてよろしい。それに最悪私が何とかするから。説明を続けるよ? 私達はタイムパラドックスを起こす側ではなく、防ぐ側にある。だからするべきことを見極めなきゃいけない。わかるね?」
「うん、わかった」
「ふぅ、説明が大変な子達を二人も抱えると苦労するね」
む、なんかマーリンに子供扱いされてる。
そもそもマーリンが事前に説明してくれれば、そんな手間かからなかったでしょ。
お父さんに二人で冷静に事情を伝えて協力してもらえば、お父さんだってそこまで混乱しなかった……ってあれ?
「つまり、お父さんを無理矢理巻き込んだマーリンが悪いんじゃ……」
疑いの目をマーリンに向けると、マーリンは肩をすくめて、
「さあ、そろそろヴォーティガンの情報収集といこうか。時間は待ってはくれないよ」
などと抜かした。
「やっぱりそうじゃん! マーリンが悪いんじゃん!」
「待ちたまえ。ヴォーティガンが悪いのであって、私は悪くない。ヴォーティガンから守るのなら手元に置いておくのが一番じゃあないか。それに君だって若き父君に会いたかったんだろう?」
「そ、それは否定しないけど、だったら何であんな混乱するような空から落とす真似をしたわけ!? マーリンなら着地ぐらい何とか出来るよね!? 『親方、空から女の子が!』とか言ってたよね!?」
「……一度でいいから言ってみたかったんだよねぇ」
「ぶっ飛ばすぞマーリン────ッ!!」
なんかまた戦い始めてしまったし、落ち着くためにも情報を整理しよう。
あのマーリンは未来から来たマーリンで、連れている女の子は俺の娘であるゆりりん。
恐らく、というか絶対俺とゆんゆんの子供だ。
未来の二人が今の時間軸に来たのは同じく未来から俺に復讐しようとする奴を止めに来たことが目的。
マーリンが面白半分で俺を巻き込んで混乱させたことは置いておいて、二人が俺を守るために来てくれたのは事実だろう。
正直『ヒナンド』とか意味分からないことだらけだけど、問題が起こる前に戦力が来てくれたのはありがたい。
この二人の実力は恐らく相当なものだが、トリスターノも呼んだ方がいいだろうか。
タイムパラドックスとか考えるなら、今の少数で動く方がいいんだろうけど、判断がつかないな…………ん? タイムパラドックス?
なにか、忘れてるような……?
「お父さん……? 大丈夫、ですか?」
「え、ああ、大丈夫だ」
いつの間にか戦い終わっていたのか、ゆりりんが軽く肩で息をしながら俺を心配していた。
この、なんだろう。
何か重要なことが……。
「あの、お父さんって呼ぶの迷惑、ですか?」
「えっ」
先程から何かが引っかかってたせいか、ゆりりんが不安そうに尋ねてくる。
不安そうに上目遣いなのが、ゆんゆんの仕草にそっくりで、なんだか微笑ましい。
「悪い、いろいろ俺なりに考えてただけだ。迷惑なんて思ってないよ」
「ほ、本当? 無理してない、ですか?」
「嘘ついてどうするんだよ。あと、無理に敬語使わなくていい。普段通りにしてくれ」
俺がそう言うと、ゆりりんは表情を輝かせる。
お父さんと呼ばれても、不思議と違和感がない。
なんとなくではあるが、しっくりくる。
「う、うん! あのね、私さっきゆりりんって名乗ったけど、出来ればゆりって呼んで! お父さんはいつもそう呼ぶから! 白銀ゆりとゆりりん、お父さんとお母さんが里の中でも外でも困らないようにって付けてくれたんだ!」
そうか、うん、すごく良い名前だ。
きっとゆんゆんが気を利かせたのだろう。
ゆんゆんが名乗りを上げる時に随分と恥ずかしそうにしていたし。
それにしても、ゆんゆんの血を継いでるせいかスタイル抜群だ。
変な男が寄らないか、未来の俺もさぞや気を揉んでいることだ……ろ、う。
……未来の、俺?
「ゆり! 聞きたいことがある!」
「ひゃっ、ひゃいっ!?」
ゆりの肩を掴んで迫るようにして尋ねてしまったが、今はあれこれ気にしていられない。
「今ゆりはいくつだ!?」
「じゅ、十六歳!」
十六歳か、なるほど少し発育が良すぎる気がするがそんな見た目だ。
そこら辺はどうでもいい。
次が重要だ。
「お、俺はまだ、生きてるか?」
「……な、何言ってるのお父さん!? 生きてるに決まってるじゃん!」
「マジか……?」
「当たり前でしょ!」
俺は、十年後も生きてる……?
じゃあ、十年後で俺が死んだと聞かされた未来はなんだったんだ。
未来が変わったのか。
俺が未来でも生きていることが知れたのは、素直にめちゃくちゃ嬉しい。
でも、俺が死ななかったせいで何かとんでもないことが別で起きてるんじゃないかと不安になる。
「ヒカリ君」
俺が思案しているとマーリンに呼びかけられる。
マーリンは真剣な表情で話し始めた。
「君が何を考えているかは正確には分からないし、答えを教えることは出来ない。だけどヒントのようなものは与えられる」
「ヒント?」
「ある意味ネタバレかな。まあ、いいや。先程過去、現在、未来の順で時間は流れていると話したね? でも、それは大極的な視点だ。未来の私達からすれば、君は過去のヒカリ君だ。でも君からすれば、私達は可能性の一つにすぎないんだ」
「現在の俺からすれば、未来はまだ決まってないってことか?」
「そう、私達はここに来てしまったけど、君の未来は確定したわけではなく、数あるどれかのものでしかない。君の未来は無限の可能性があるのさ」
ぬか喜びだったか。
いや、でも生きている可能性があって、更には全てを解決している可能性もあるってことか。
「君のために多くを語ってあげたいけど、過去を変えたくないから、ほんの少しのネタバレ程度におさめようと思う」
マーリンは胸元まで手を上げて、拳を強く握り込み、
「私達の未来では君は努力の末、最高の未来を手に入れた」
不敵な笑みでそう言った。
マーリンはきっと嘘を言っていない。
いや、マーリンは俺に嘘を言ったことがないと思う。
だから、これは本当のことだ。
俺が頑張れば、何もかもを解決した未来が待ってる。
「どうだい、ネタバレを食らった感想は?」
「ああ、俄然やる気が湧いてきた」
「いいね、その目。君のその目が好きなんだ」
「がるるるるるる!」
俺がどんな目かを聞こうとしたら、ゆりが俺達の間に割り込んできた。
ヒナンドも出てきて、二人で俺を守るようにマーリンを威嚇していた。
「まったくファザコンも困ったものだ」
「ファザコンじゃないし! 家族愛だし!」
こんなに必死になってくれる娘がいるんだ。
俺はマジで頑張らないといけないな。
「おにーさん!!」
「ヒカルさん!!」
遠くから呼ぶ声が聞こえて、振り返るとアクセルにいないはずの二人がこちらへと走ってきていた。
あるえちゃんとねりまきちゃんだ。
「二人とも、どうした?」
「大変なんだよ! 里が、ゆんゆんが!」
「な、何があったんだよ!? ゆんゆんがどうした!?」
「わ、私達を逃すために、ゆんゆんが戦ってくれてて、それで、私達は応援を呼びに……」
ねりまきちゃんは気が動転してるのか、いまいち把握がし辛い。
もどかしくなったところで、あるえちゃんが割って入ってきた。
「ねりまき、ストップ。私が話す。事は急を要する。ヒカルさんも冷静に聞いてほしい」
「……ああ」
あるえちゃんも一呼吸入れて、話し始めた。
「里は今魔王軍の占領下にあって、その奪還の為の戦いが行われている、それは知ってるね?」
「もちろんだ」
「私達ももちろん戦っていた。私達は数こそ負けているものの火力は私達に分があるみたいでどんどん押していた。数日以内に勝てる見込みすらあった。だが、そこで……」
『……』
俺達は黙って、あるえちゃんの次の言葉を待つ。
だが、次に出てきたのは出てくるはずのない名前だった。
「魔王軍幹部のシルビアが現れたんだ」
◯ヒナらせる
天使(物理)で相手をわからせること。
◯白銀ゆり(ゆりりん)
ゆんゆんにアホの子要素を足してファザコンにした感じの女の子。
現在16歳。
まだ冒険に出始めたばかりだが、実力は人間の中ではトップクラス(マーリンや騎士王などの人外クラスは含まれない)
生まれからして彼女は特別で、二柱の神と一人の天使から祝福を受けて生まれた。
本来であればヒカルの血が入ったことで、アークウィザードとしての才能は普通程度まで落ちぶれるはずであったが、祝福とムードメーカーの最大限の恩恵を受けている為、ゆりの才能はゆんゆんやめぐみん達と引けを取らない。
ヒカルの武道も当然教え込まれていて、ゆんゆんから魔法を教わり、ヒナギクからあらゆる知識を教えられ、トリスターノのおかげで弓もほんの少しだけ扱えるようになった。
更にマーリンの英才教育も受けている。
マーリンの別次元の穴を手のひらサイズであれば開くことが出来る(ほとんどアイテム収納か『紅伝説』の布教でしか使われない)
ちなみにマーリンをやたら小馬鹿にするのは夢の中で別次元の魔法を半ば無理矢理教えられたり、ファザコンをからかわれたりしたことを根に持っているから。
隙のない最強な人間に感じるが剣の才能は無く、仕込み刀の杖を持っていても格好付けの時にしか役に立ったことはない。
そもそも近付いてきた相手にはヒナヒナするし、ヒナンドを突破されたとしても人間相手であれば武道で無力化する。ついでに紅魔族の十八番の魔法もある。
ヒナンドを使う時はゆり自身の力や集中力を使う為、魔法を使いながらヒナヒナするのは難しい(出来なくはないが、相当の消耗をする)
ヒナンドも自由に動くことも多少出来るが、ゆりの精神力を使う為、勝手なことはほとんどしない。
基本的にゆりの指示を守り、ゆりを守ることを最優先にしている、
例外はヒカルを前にした時や目の敵にしている悪魔を前にした時。
こめっこが呼び出したホーストとヒナンドが相対した時はホーストを滅しようとヒナンドが躍起になり、ゆりの制御を離れてギリギリ限界バトルを巻き起こし、『紅魔の里の天魔の乱』と呼ばれる大騒動に発展したが、それはまた別のおはなし。
マーリンがゆりをわざわざ面倒を見たりするのはヒカルの娘でありマーリンのお気に入りであることも関係していますが、未来と現在のマーリンでは少しだけ考え方が変わっているからです。
傍観者で居続けるのではなく、登場キャラクターの一人であることを認めて、今を楽しもうとしています。
とはいえ遊びすぎるのはバランスを崩すことになるので、ゆりをからかったり、ヒカルと面白そうな別次元に遊びに行ったりする(強制連行)程度です。