このすば ハード?モード   作:ひなたさん

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シリアスで三人称。

131話です。さあ、いってみよう。



131話

 

 

 魔王の娘はすでに撤退した。

 本気の紅魔族を相手に拠点防衛は分が悪かったらしく、バニルミルドを破壊するという目的を達成出来ていた為、被害が大きくなる前に潔く撤退を選んだ。

 魔王の娘が撤退し、配下の魔物達も順に撤退していくはずであった。

 だが、そこでヴォーティガンが連れて来たシルビアが現れた。

 魔術師殺しの性能を宿したシルビアは猛威を振るい、形勢はあっさり逆転した。

 

 魔法を封じられた紅魔族なんて、ただの痛い人達の集まりである。

 

 その痛い人達に散々やられてきた魔王軍はここぞとばかりに反撃に出た。

 シルビアが現れた経緯、目的やその他一切知る由もなかったが、一方的に紅魔族を蹴散らす姿は下っ端の魔物からすれば夢のような光景であった。

 撤退せずに戦うことを選んだ司令塔を失った魔王軍はシルビアが追わなくなった紅魔族を執拗に狙った。

 とはいえ魔術師殺しも万能ではなく、シルビアからある程度離れることさえ出来れば魔法を使うことは出来た。

 紅魔族を追い詰めることは出来たもののテレポートで逃げられてしまったり、上級魔法で反撃されたりで結局殺すことは出来なかった。

 

 そして最後に逃げずに戦う紅魔族の少女が残った。

 その父親である族長も。

 シルビアが殺す前に少しだけその二人で鬱憤を晴らさせてもらおうとシルビアが二人を弱らせるのを待ち続けた。

 期待を募らせる魔物達はシルビアが少女に容赦なく大剣を振り下ろすのを見て、少し落胆したが父親の方だけで我慢しようと思い、成り行きを見守った。

 だが実際には振り下ろされることはなく、あまつさえ大剣は弾かれた。

 木刀を持った狂戦士と天使を連れた少女、そして頭のネジが五百本ほど外れた魔法使いがやってきたからである。

 

 そこから戦況は一気に変わる。

 ご馳走を前に舌舐めずりをしていた魔物達は一変して激戦に巻き込まれることになった。

 先程撤退していれば、巻き込まれることなく死ぬことも無かった。

 このようなドンデン返し予想出来る訳もない。

 理不尽に殺戮を為そうとし、その上を行く理不尽を叩きつけられた。

 ありふれた死がそこにあった。

 ただ、それだけのことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乱入者達により、一方的な虐殺ではなく、ただの戦場に相成った。

 

 木刀を力のままに振るい、

 

 拳の連打を叩きつけ、

 

 白銀の閃光が迸り、

 

 巨躯は戦場を駆け、

 

 舞うはそこらの魑魅魍魎。

 

 

 

 異形の怪物はそもそもこの戦に助力しに来たわけではなく、ただ恨みのままに暴れていただけであり、周りの魔物達を気にするどころか存在することにさえ気付いていない。

 突如やってきた闖入者共をさっさと殺して、復讐を果たそうと躍起になっている。

 

 異形の怪物に相対するは、木刀を持った狂戦士。

 自身の体の何十倍、何百倍の大きさの大剣を木刀だけで受け止め、弾き返し、更には懐に入り攻撃する。

 愛する人を傷付けられた怒りと天使(ヒナンド)からの支援魔法で狂戦士の怒涛の攻撃は苛烈さを増した。

 前回同じ相手にこの場で戦った時は、ダクネスを盾にしたり、ダクネスでカリバーしたりとギャグ補正全開でようやく怪物相手に戦えるレベルであったが、今は違う。

 木刀一本で何らかの映画に出てきそうな化け物を相手に凄まじい攻防を繰り広げている。

 

 狂戦士の未来の娘も守護の力と魔法を駆使し、父と同じく戦いに身を投じている。

 頭のおかしい魔法使いはすでにこの場にいない。

 紅魔族族長の足元に次元の穴を開き、安全な場所に送った後、自らも何処かへと消えてしまった。

 

 一方、狂戦士の未来の伴侶である少女は、

 

「お父さん、危ないっ!!」

 

『ヒナヒナヒナヒナヒナァ!!』

 

『邪魔よ消えなさいっ!!』

 

「負けるもんかこの野郎おおおおおおおお!!」

 

『ヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナァ!!!』

 

 

 

 

「あの子の後ろから出てくるヒナちゃんはいったい何っ!?」

 

 

 

 

 ───絶賛混乱中であった。

 

 

「あれは『ヒナンド』だ!」

 

「『ヒナンド』っ!?」

 

 混乱中の少女、ゆんゆんはヒカルからの言葉通りに聞き返す。

 名称だけではあのヒナヒナ言ってる何かを理解出来るわけが無い。

 ちなみにそんなやりとりをしている間もしっかりとヒカル達はシルビアと戦闘中である。

 

「ああ!」

 

「う、うん?」

 

「ああ!」

 

「…………え、ええ!? 説明終わりっ!?」

 

「もう教えることは何もない!」

 

「免許皆伝っ!? いや、そんな訳ないでしょ!? まだ聞きたいことがいっぱいあるんだから! 何であの子の後ろから出たり消えたりするの!? 何でヒナヒナ言ってるの!? あのサングラスはなんなの!?」

 

「ゆんゆん……」

 

「え、な、なに……?」

 

 ヒカルは柔らかく微笑み、ゆんゆんの名を呼ぶ。

 先程まで鬼気迫る顔で木刀を振っていたとは思えない優しい声にゆんゆんの問い詰める勢いが削がれる。

 

「考えるな、感じるんだ」

 

「ヒカル、もしかして何も分かってないのっ!?」

 

「逆に考えるんだ。あれは『ヒナンド』でいいやって」

 

「現実逃避してるだけよね!?」

 

 結局ヒナンドについて何も分からなかったゆんゆんは次の謎の存在へ視線を移す。

 天使と一緒に戦う少女を指差し、ヒカルに尋ねる。

 

「あのヒナちゃんと一緒に戦ってるあの子は誰!? あんな子見たことないんだけど!?」

 

 紅魔族、しかも同い年ぐらいの見た目でありながら見たことがない少女。

 里の外で育ったなど特別な場合を考えるといてもおかしくはないが、これに『ヒカルが連れて来た』という要素を加えると、ゆんゆんも色々と疑問が噴き出してくる。

 

「あの子はゆり。その、俺達の娘だ」

 

「ゆり…………えっ、今なんて言ったの!?」

 

「ゆりだ」

 

「そっちじゃない!!」

 

 混乱するゆんゆん。

 ちなみに今もシルビアと戦闘中である。

 

「俺とゆんゆんの娘だ。あー、その、お、俺達の愛の結晶というか……」

 

「なに恥ずかしがりながら説明してるの!?」

 

「ほら、ゆんゆんに似て綺麗で可愛くて、それに健やかに育ってくれて、俺も嬉しくて……」

 

「急に親バカになった!? ってそんな訳ないでしょ!? 確かに目元とかヒカルに似てるけど、まだ、う、産んでないもん! ヒ、ヒカルがまだダメだって言うから、その、アレだって……」

 

『イチャイチャしてんじゃないわよォ!!!』

 

「危ない!!」

「きゃあっ!?」

「お母さんっ!!」

 

 恋と愛と復讐を渇望するシルビアの目の前の光景は十二分に逆鱗に触れるものだった。

 ゆんゆんがフリーズしてる時に最大以上の力で振われる大剣は避け切れるものではなく、即座に二人がフォローに入ることでなんとか避けることに成功する。

 

「大丈夫、お母さん?」

 

「うん、ありがとう……じゃなくて! わ、私はまだ認めてないんだから! ヒナンドとかいうのはまだスルー出来るけど、産んでもない娘はスルー出来ないわ!」

 

「ゆんゆん、ゆりは未来から来たんだ」

 

「また意味のわからないことを言い出した!」

 

「聞いてくれ。未来から俺達を殺そうとしに来た奴がいて、そいつから俺達を守るためにゆりとマーリンが来たんだ。実際今目の前にいるシルビアは未来から俺達を殺しに来た奴が連れて来たから、ここにいる。倒したはずのあいつがいるのはおかしいだろ?」

 

「…………う、うぅ、そう言われるとなんだか説得力があるような……」

 

「お、お母さん…………そうだ、まずは! 我が名はゆりりん! 紅魔族随一のヒナンド使いにして、かの英雄譚を超える者──ッ!」

 

「急に自己紹介してきた!? え、え? ほ、ほんとなの……? 本当に未来の私達の子供なの……?」

 

「ほ、本当です! 突然来てびっくりさせちゃってごめんなさい! でも信じて欲しいです!」

 

「本当に、私達の子供……。そ、そうなんだ……え、えっと冷たくしてごめんね? うぅ、どうしよう、私……」

 

 

「とりあえず戦えばいいんじゃあないかな」

 

 

「え?」

「あ、マーリン」

 

 未来から来た娘に対して邪険にしてしまった後悔で頭を抱えるゆんゆんの背後に今までいなかったはずのマーリンが現れた。

 

「どこ行ってたんだ? 手伝う気になったのか?」

 

「あー……悪いんだけど、戦うのは出来ないんだ。その代わりに助っ人を連れて来たよ」

 

「助っ人?」

 

「うん、強力な助っ人さ」

 

 そう言ったマーリンの背後には二つの次元の穴が開かれる。

 一方からは二人の男女、もう一方からは一人の男が出て来た。

 

「ふむ、これは予想以上の事態かもしれない。アイリス、行けるか?」

 

「はい、兄様っ!」

 

「魔王軍幹部を討伐する栄誉を与えてくれたことに感謝する。このミツルギ、魔王軍幹部の討伐に、ジャティス王子とアイリス王女の護衛も確実に果たしてみせよう!」

 

 お揃いの金髪碧眼の兄弟、そしてこの国の王子と王女、ジャティスとアイリス。

 魔剣を構える美少年、この国の魔剣の勇者と呼ばれるミツルギ。

 

「どうだい? 説得とかに時間かかったけど、最高の戦力だろう?」

 

 このベルゼルグ王国の最高戦力を本当に連れて来たマーリンに苦笑いするしかない三人。

 シルビアからの攻撃を避けて、距離を取る全員は各々武器を構える。

 

「えっと、もう来てもらったけど、本当に一緒に戦ってもらっていいのか?」

 

「水臭いことを言うな。余とそなたの仲だ」

 

「はい、任せてください!」

 

「ボクももちろん大丈夫さ。後で色々と聞きたいことはあるけどね」

 

 金髪碧眼の兄妹は微笑んで頷き、ミツルギも王族の二人とヒカルが親しげなところを見て気になっている様子であったが快諾してきた。

 

「ミツルギくん、二人の護衛は私が引き受けよう。二人は全力で私が守るから、君は思いっきり戦ってくるといい」

 

「え、いいんですか?」

 

「もちろんだとも。その代わり他のみんなは自分で自分の身を守ってくれたまえ。二人の護衛に集中したいからね」

 

 それぞれが頷き、シルビアが巨体を揺らしながら突込んでくるのを見据える。

 

「行くぞ、お前ら!!」

 

 急遽結成されたシルビア討伐メンバー六人+マーリンはヒカルの掛け声により、戦闘に入った。

 

 だが、ここにいるほぼ全員は気付いていない。

 すでにこの時間軸のマーリンがネタバレを食いたくないあまりにヴォーティガンの妨害をやめて、ヴォーティガンが自由になっていて、すでにこの時間どころか違う次元に行っているということに。

 ヴォーティガンの復讐の計画は次の段階へと移っていた。

 




感想で割と反応が来ている『エクスカリバー』について少しだけ説明。
ぶっちゃけ本編には出ないと思います。
何故かと言うとヒカルがエクスカリバーを手にするのは騎士王を倒した後になるからです。
このすば原作で言う魔王を倒した後、って感じです。
だから出るとしたら本編終了後の後日談ですね。
そこら辺の話も今のところ書きたいとは思っていますが、未定です。
未来の話なので。

エクスカリバーはもちろん強力な武器で、鞘も所持者に血を流させないという守護が付いているのですが、不老不死とかはありません。
普通に歳を取って死にます。

万能なものではない、とマーリンが言っていたように、強力ではあるもののなんとでも出来てしまう聖剣です。
これ以上は、ネタバレになるかもなので、今回はこの辺で。
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