前回に引き続き激戦が───
「ところでヒカル、ゆんゆんに似てるあの者はいったい誰だ?」
「悪いけど、後にしてくれ!」
『ヒナヒナヒナヒナヒナァ!!』
「ヒカル! あのヒナヒナ言ってる半透明の天使はなんだ!? いやあれは女神か!?」
「後にしろ! というか、そこら辺は前回やったんだよ!」
「説明してくれないと集中出来ん! 詳しく頼む! あと余もあの天使ほしい!」
「やかましいんだよこの野郎!」
激戦が繰り広げられていた…………。
異形の怪物との激しい攻防、参戦してきた王子からのしつこい質問攻め、魔剣の勇者の暑苦しさ、それらは苛烈を極めた。
「『エクステリオン』───ッ!!」
『ヒナヒナヒナヒナァ!!』
「『ライト・オブ・セイバー』───ッ!!」
「『セイクリッド・ライトニングブレア』ッッ!!」
「『ルーン・オブ・セイバー』───ッ!!」
「この野郎おおおおお───ッ!!」
『無駄よ、無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!』
ベルゼルグ王国の最高戦力や実力者達の必殺技が飛び交うも、シルビアに大したダメージを与えることは出来ずにいた。
超耐久に加えて再生能力も持っていて、更にはただの身動き一つ一つが攻撃になり得る巨体。
この怪物にたった六人で渡り合い、そして押し返すことも出来るのが逆に異常ではあるのだが、状況が全く変わらないことにヒカルは次第に焦りを覚え始めていた。
(決定打が足りない───そして)
そう、普通に戦えてはいるのだ。
だがしかしシルビアを倒すにはまだ何手も足りない。
普通の爆裂魔法なら耐えられることが出来てしまうほどの防御力をどうにか出来る何かが必要であった。
(俺だけ必殺技みたいなのが無い──ッ!!)
そしてヒカルだけ更に別の意味で焦っていた。
それもそのはず、周りはスキル名やら何やらを叫んで斬撃を飛ばしたり光るビームを飛ばしているのに、一人だけが地味に木刀を振っている状況なのだ。
(俺もか◯はめ波みたいなのが撃てれば……ッ!)
かめ◯め波とか若干世界観が壊れそうなのでやめてほしいところである。
出来もしない必殺技のことで焦っていると戦闘中のミツルギが声をかけてきた。
「くっ! シロガネ、どうする!? このままでは……!」
「くそっ、ああ、ゆりと親子かめは◯波さえ撃てれば勝ってたかもしれないのに!」
「そうだな……えっ、なんてっ!?」
「いや、すまん。なんでもない」
親子か◯はめ波良いよね。
でも今はそんなことどうでもいいのである。
(ああもう、これだけ戦えるようになってるならもう少し木刀に何か必殺技撃てるような魔法を付けてくれてもよかったんじゃねえか!?)
木刀を見てそんなことを考えるヒカル。
その様子を見たミツルギの視線は木刀に向いた。
「あれ、なんだかその木刀何処かで見たことがあるような……?」
「っ、え!? そうなの!? 俺は武器が壊れちゃってたまたま紅魔の里にあった木刀を使ってるんだけど!?」
「え、そうなのかい? 他にまともな武器は?」
「いや、もう全然無い!! あいつが暴れ回ったせいでコレしか無かったんだよあいつマジ許せねえよこの野郎!!」
「え、あ、うん。そうなんだ」
ちょっと引いたミツルギの視線は木刀から離れる。
滝汗をかいたヒカルはなんとかなったと安堵し、胸を撫で下ろした。
(あ、危ねえええええええ!! 王城でドンチャン騒ぎしてた時にミツルギいたんだったあああああああ!!)
神器回収のために王城に潜入した時は黒装束で顔や体を隠していたが、使っている木刀は同じである。
ヒカルはなんだか嫌な予感がして、アイリスの方を見る。
彼女もあの夜に王城にいた一人であり、近くで戦ったりするどころか声も聞かれていたりする。
にっこり。
アイリスと視線が合うと意味深な微笑みが返ってきた。
(え、バレてる?? え、いや、そんな、え? 違うよね? このにっこりは『私まだまだ戦えます』的なアレだよね!?)
ヒカルがまた冷や汗をかいていると、シルビアが迫ってきていることに気付き、すぐに回避する。
偶然にも一ヶ所にまた全員が集まる形になり、ふりだしに戻ったような気持ちになる。
(と、とりあえず今は出来もしないことやバレてるバレてないかはどうでもいい! 倒すことに集中しろ! 決定打だ、あいつにダメージを与えられる超火力……)
「ジャティス、円卓の騎士サフィアを倒した時の技を使えるか?」
「『セイクリッド・エクスプロード』か? もちろん使える」
「私も使えます!」
「え、アイリスも?」
「王家に伝わる必殺剣ですから」
「そうだ、それにアイリスはこの必殺剣でドラゴンを一撃で倒し、今では『ドラゴンスレイヤー』と……」
「兄様っ! 今はそんなことどうでもいいですから! ですが、ヒカル様。このスキルを使うには少々時間がかかります」
「サフィアと戦った時は十秒でしたっけ?」
「ゆんゆん、よく覚えているな。だが、アレを相手するにはもう少し欲しいところだ」
「そう、ですね。私もそう思います。周囲から魔力を集めるので、二人でやるとどうしても魔力を取り合っちゃうので数分はかかると思います」
あの暴れん坊を数分抑えなければならないことに顔が引き攣るヒカルはミツルギの方を見ると、すぐに頷いてきた。
「やろう。ボク達四人で時間を稼ぐしかない」
「そうね、倒すにはそれしかないわ」
「一か八かの賭け……うん、やろう! 私も全力全開で頑張ります!」
シルビアを見据えて杖を構えるゆんゆん、キツい状況にも関わらず目を輝かせるゆり、二人の姿を見て覚悟が決まるヒカル。
「マーリン、二人の守りは任せていいんだな?」
「ああ、いいとも。君達の最高の戦いを見せてくれ」
「よし、野郎ども、今度こそ終わらせるぞ!」
決死の時間稼ぎが始まる───。
地面を砕きながら弾丸のように疾走するヒカル。
それに続くミツルギ、ゆり、ゆんゆん。
三人を置いて、一瞬で間合いに入るヒカルを叩き潰すように大剣を振るうシルビア。
ガンッ!! ガンッッ!!!
潰す感触はなく、それどころか弾き返される大剣を更に振るう。
(何なの、この男……ッ!?)
シルビアから見ればヒカルが持っている武器などただの木の枝であるが、折れる気配が全く無い。
それを全身全霊で振るう男の勢いは止まらず、逆に押されている始末。
男の雰囲気が先程とガラリと変わった。
確実に仕留めようと射殺すような視線を向けてくる。
木刀一本で圧倒するような得体の知れない男にシルビアは戦慄した。
『なん……ッ!! 何なのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお────ッッ!!!』
強くなったはずだ。
魔王軍幹部二人の力が合わさり、ほぼ無敵の力を得たはずだ。
紅魔族なんてゴミ同然に扱える、ただの人間なんてそれこそゴミ以下だ。
負けることはないはずだ。
完全に無力化出来ないまでも、魔法の類は威力が弱まり効くことはない。
物理攻撃だって、当たったところで再生能力がある。
それなのに、恐怖する。
木刀で今のアタシと戦える人間が、この世界のどこにいるっていうの───ッ!?
恐怖に呑まれたシルビアはその男に釘付けになった。
偶然にもヒカルの圧力は今の作戦にこれ以上ないほど有効であった。
『こ、の……化け物───ッッ!!』
「化け物に言われたかねえんだよ!!」
大剣に加えて、触手による攻撃が入る。
だが、遅れてやってきたミツルギがそれをさせない。
魔剣の一撃は全てを両断する。
シルビアはミツルギを知っていた。
魔王軍でも指名手配するほど有名な魔剣の勇者。
魔剣グラムは何でも斬り裂く神器であることは周知の事実であり、その危険度はシルビアの注意を更に引き付けた。
(くっ、こんなところでミツルギも相手にしなきゃいけないなんて!)
「『ライトニング・ストライク』──ッ!!」
「『カースド・クリスタルプリズン』──ッ!!」
遠方から援護してくる紅魔族二人。
シルビアにダメージはほぼ無いが、気を逸らすことは十分に出来ている。
シルビアが歯噛みしているのが、その証拠であった。
『くぅぅぅあああああああッ!!』
前衛のヒカル。
中衛のミツルギ。
後衛の紅魔族。
力任せに大剣を振っても、それはヒカルが弾き返す。
触手による攻撃はミツルギが斬り落とす。
大剣を下からかち上げるように振り、岩石を飛ばしても、ミツルギと紅魔族の二人によって破壊される。
先程ヒカル達が感じていた焦りを今度はシルビアが感じていた。
勝てない、そう感じたその時、
シルビアの身にゾクリと悪寒が走った。
凄まじい魔力を感じたのだ。
あの意味の分からない砲身から胸を貫かれる前の、紅魔族の爆裂魔法のような、恐ろしいほどの魔力。
シルビアは応戦しつつ、状況を確かめる。
当然、木刀の男でもない。
ミツルギも違う。
紅魔族二人……も違う。
ならば何処か。
更に後方、二人の剣士の周りに黄金の魔力が可視化できるほどに集まっていた。
(なんですってッ!?)
してやられたと今更気付いた。
怒りや復讐に囚われ、更には恐怖に呑まれたシルビアはこの男達がただの時間稼ぎであると気付くことが出来なかった。
だがここにきてシルビアは冷静に見極めた。
(まだ、まだあの魔力量なら倒されることはない! ならば先に!)
まだあの二人の剣士の技が完成していないことを見抜いたのだ。
そして、ここにいる男達は時間稼ぎであり、自身を倒す術を持ち合わせていないということにも。
『はっ、邪魔よ退きなさい!!!』
ヒカルに大剣を振り下ろすと受け止められるので、そのまま全体重を乗せて乗り越える。
「くそっ、バレた!!」
男の焦った声で確信する。
この男達は無視していい。
消すのはあの金髪碧眼の二人だ。
猛然と駆け出すシルビア。
今まで戦ってきた四人には目も暮れず、目標に向かって、ただ一直線に。
だが、それは悪手であった。
「ミツルギさん、左側の足をお願いします!」
「えっ、ああ! 任された!!」
シルビアの進行方向からわざと左右に分かれたミツルギとゆんゆん、ゆり。
「ゆり、合わせて!」
「うん、お母さん!」
ゆんゆんとゆりは瞳を紅く輝かせ、杖を構える。
ミツルギも魔力を集中させ、魔剣グラムを構えた。
そして、シルビアが通り過ぎるその時、
「『ライト・オブ・セイバー』───ッ!!」
「『ライト・オブ・セイバー』───ッ!!」
「『ルーン・オブ・セイバー』───ッ!!」
一閃。
シルビアのデッドリーポイズンスライムとデュラハンで構成された獣のような四足が全て両断される。
『ぐあああああああああああああああッ!?』
支えを失ったシルビアは慣性に従い、地面を削り滑るように前に出る。
再生能力は間に合わない、そう感じたシルビアは最後の抵抗に大剣をぶん投げる。
「っ!?」
アイリスはそのことに気付き、恐怖で身を固めるが、
「大丈夫さ、私がいるからね」
マーリンが手を軽く翳す。
それだけで高速で飛来する大剣はピタリと止まり、そして進行方向を変えてシルビアの元へと飛んでいった。
『がっ、え……?』
「ああ、すまない。返してあげようと思ったんだけど、キャッチ出来なかったみたいだね」
大剣は四足の獣の体にブスリと突き刺さっていた。
それを呆然とした顔で見るシルビア。
そして、魔力の収束は完了する。
黄金の光を纏った剣を二人は上段に構え、シルビアへと振り下ろす。
「『セイクリッド・エクスプロード』───ッッ!!!」
「『セイクリッド・エクスプロード』───ッッ!!!」
振り下ろされた剣から放たれた黄金の光の奔流はシルビアを飲み込み、獣の姿はかき消されていった。
「はっ、あ、アァァ……」
シルビアはまだ死んでいたかった。
目を覚ますと、空を見上げていた。
何が起こっていたのかを確認しようと上体を起こすと、シルビアの身体は『魔術師殺し』を取り込む前の人間の姿に戻っていた。
そして、
「よっこい、しょっと!」
「………………は……?」
ズシンと音を上げて、先程までシルビアが振っていた大剣を持ち上げて肩に背負う男がいた。
その男は、シルビアをその目で捉えて離さない。
シルビアは次の瞬間何が起こるのかを一瞬で理解した。
「あ、ああ……あああああああああああああああああああああああああッッ!!!」
『ヒナヒナヒナヒナァ!!』
「『ライト・オブ・セイバー』───ッ!」
グロウキメラの触手を使って阻止しようとしたが、逆に邪魔された。
最後、本当に最後。
そう感じたシルビアが最後に考えたのは、
───果たせなかった復讐であった。
湧き上がる憤怒。
その湧き上がる力に身を任せる。
シルビアから溢れ出すスライムはまたもや獣の形を取ろうとした。
「シロガネヒカル、お前を殺す者だ、ってセリフがやっと叶うとは、なッ!!」
大剣がヒカルの馬鹿力と重量のままに振われ、形を成そうとしていた復讐の力とシルビア本体を丸ごと押し潰した。
多くの感想と高評価ありがとうございます。
皆様のお陰でデイリーランキングに入れました。
また入れるように頑張って書いていきたいと思います。
前回と違って前半ギャグ、後半シリアスになりました。
戦闘描写もメンツ揃ってるし、さらっと終わらせようと思っていたんですけど、なんだかノリで書いちゃいました。
戦闘内容ももう少しヒナヒナする予定だったんですけど、全員が活躍する方を優先して、ヒナヒナするのは元凶を倒すときにやることしました。
ヒカル強すぎない??って思った方いるかと思いますが、マーリンも同じくそう思っていて未来に帰る時にちゃっかり木刀の強化を弱体化させます。ナーフですね。
ヒカルが今回強いのはそれなりにレベルが上がっていることや魔道具で筋力値がさらに上がっていること、支援魔法がヒナンドとマーリンの木刀からで二重に掛かっていること、ムードメーカーの弱体化が無くなっていることなど様々な要因があります。
後半の時間稼ぎは数分間だけの全力闘争なので、あれが長続きした場合すぐにバテて負けます。
数分間だけだからヒカル単体でシルビアを押し返すことが出来た、というわけです。