139話です。さあ、いってみよう。
「おい、シロガネヒカル」
「あ?」
「そいつら悲しませたら、ただじゃおかないぞ」
「……」
「なんだその目は」
ヒカルが何言ってんだこいつ、みたいな顔でヒカリを見るので、不機嫌さが増すヒカリ。
「あのな、俺に似たよく分からないヤツに忠告されたら誰でもこんな顔にもなるわ」
「俺からすればお前の方が俺に似た新キャラだが」
「いや、何言ってんのお前。お前の方が完全にぽっと出の新キャラなんだけど」
「……」
「……」
黙り合い、睨み合う二人はおもむろに木刀と杖を構え始める。
「なんだやんのかこの野郎」
「弱い犬ほどよく吠えるな?」
そんな二人を見て、呆れるゆんゆん達と微笑むマーリン。
「なんで喧嘩はじめるの?」
「同じ顔同士仲良くすればいいのに」
「これのどこが同じだ。パクりキャラなだけだろうが」
「どれも間違いだ。俺の方がカッコいい」
「中二病ファッションでイキってんじゃねえよこの野郎!俺が恥ずかしいだろうが!」
「これが理解出来ない低レベルのセンス……顔も力も何もかもダメダメとはな」
「こいつ、いい加減に……」
「リーダー、ヒカリさん、ストップです。争ってどうするんですか。ほら、行きますよ」
見兼ねたトリスターノがヒカリの背中を押して、次元の穴へと進んでいく。
「おい、お前が死ぬのはどうでもいいが、そいつらは悲しませるなよ」
「俺も俺モドキはどうでもいいが、トリスターノ達は悲しませるなよ」
まだ何か言おうとするヒカリをトリスターノが無理矢理押し出し、次元の穴へ入っていく。
「では皆さん、お達者で」
「じゃあな」
「元気でね」
「バイバイ」
「ご武運を」
ヒカル達の返事にニコリと返し、マーリンと共に次元の穴へと入って行った。
「行っちゃったね」
「そうね」
「これでやっと一安心出来ますね」
「ああ、そうだな。俺の後ろの殺気全開の盗賊をどうにか出来たら、一安心だな」
「それはどうでもいいから、そろそろ帰らない?」
「俺の安全をどうでもいい扱いするな」
「ヒナギク、ひどいっ!」
雑な扱いをされたクリスが抗議すべくヒナギクへと駆け寄るも、すぐに距離を取られてしまい、また駆け寄り距離が空いてのその繰り返しとなる。
ヒカル達は最早見慣れていて、呆れたり苦笑したりと様々であったが、ゆりだけはもの珍しそうに眺めていた。
「リーダー、そろそろゆりさんのこととか詳しい事情を聞きたいところです。結局ずっと戦ったり別世界の人達と交流したりで話を聞かないままでしたから」
「そうだね。僕ももう少し詳しく聞きたいかな」
「察しは付くけど、やっぱり聞いておきたいわ」
そう言われたヒカルはゆりへ視線を送ると頷きが返ってきたので、これまでのことを説明しようとした。
「ええっと、何から話すかな……」
「いや、その必要は無いよ」
何から話そうかと悩むヒカルの隣に次元の穴が開き、そこから姿を現したマーリンがヒカルを止める。
「これから私とゆりは未来へ帰る。そして君達の記憶もいじらせてもらう。だから今回のアレコレについて知る必要は無いんだ」
「え、も、もう帰るの?」
「他のみんなはともかく、何でゆりまで驚くんだい?すぐに帰るのは他の帰っていった四人を見れば分かるはずだろう?私達はこの次元の住人じゃあない。いてはならない存在なんだ」
「そ、それは、そうなんだけど……」
「十分素敵な体験をしただろう?それに帰っても、未来の彼らにいつでも会えるじゃあないか。これ以上は私達の現在に響く可能性がある。君の為を思って言ってるんだ」
「う、うん……」
とぼとぼとマーリンの元へ歩いていくゆりを見て、ヒカルは考えるよりも先に体が前に出て、ゆりの肩を掴んでいた。
「あー……そのなんだ。夕飯ぐらいはいいんじゃないか?トリスターノのやつが準備万端だって言ってたし、そんな時間はかからないと思うんだけど」
ゆりはヒカルの言葉を聞いて目を輝かせるが、マーリンはため息を吐き、呆れた顔で言った。
「是非私もご馳走になりたいところだけど、ダメなんだ。この次元に長居すればするほど、リスクも手間も増える。あと、ゆりはこれから未来に帰った後に自宅に帰って、未来の母親にご飯を作ってもらうんだから、ゆりの心配はいらないよ」
マーリンは呼んでないけどね、とクリスを片手で押さえながら不機嫌に言うヒナギクに一瞬視線が集まったが、すぐにマーリンへと戻った。
「でも……」
「申し訳ないけど、諦めてほしい。ゆり、別れの挨拶だ。なるべく早めにね」
「……うん、わかった」
「ゆり……」
観念したようにゆりはマーリンの隣へと歩いて行き、ヒカル達の方へ振り返る。
ゆりは悲しいというより、落ち込んでいた。
『紅伝説』に自身が登場するという夢、それどころか妄想レベルのものが現実となった。
だが、それもここで終わりになってしまう。
マーリンの言う通り、彼らには未来に帰った後にも会える。
今生の別れというわけではないのだが、『紅伝説』の冒険をしている彼らに会うことが出来るのは今回が最初で最後なのだ。
「ヒナさんには先程話したのですが、実はヴォーティガンを逃がしてしまったのは私で、私がさっさと倒していればこんなことにはならなかったんです。突然来て、事情もほとんど話せないまま戦わせることになって、本当にごめんなさい。でも皆さんを巻き込んだのと事情を話せないのはマーリンのアンポンタンのせいです、ごめんなさいっ!」
「なんで私への罵倒を入れたのかな?」
「何も言わずに協力してくれて、信用出来るはずないのに味方になってくれて、本当にありがとうございました!マーリンのことも絶対信用出来ないヤツなのに、味方側に入れてくれて、ありがとうございました!マーリンがイキりぼっちにならなかったのは皆さんのおかげですっ!」
「もしかして罵倒を入れないと会話出来ないんじゃあないだろうね」
「もっともっと謝りたいし、お礼も言いたいことたくさんあるんですけど、マーリンのアホで馬鹿野郎のせいです、ごめんなさい」
「はあ、はいはい」
「それで、あの、皆さんには最後にお願いがあってですね」
「まだあるのかい?」
ゆりはモジモジと照れながら、腰にあるポーチから本を取り出した。
その本は全体的に高級感のある黒と赤の装飾で分厚いハードカバーの小説であった。
タイトルは『紅伝説』第一巻。
「え、えへ、こ、これにサインくださいっ!未来では何故か断られちゃったから、今の皆さんにしか頼めなくて……。こ、ここの背表紙の裏のあるえさんのサインの周りにお願いします!あ、お父さんは出来ればニホン語ってやつで書いてほしくて、それから──」
「はい、時間切れ」
「トリタああああああああーーーーっ!!!マーリンのアホおおおおぉぉぉぉぉぉ────」
本と同じくペンをポーチから取り出しながらヒカル達の元へ歩いていく途中で足元に次元の穴を開けられて、落ちていくゆり。
それをなんだか複雑そうな顔で見送るヒカル達。
「申し訳ないね。このままだとずっと続きそうだから、強制的に──」
「あ、諦めるもんかああああああああ!!!」
『ヒ、ヒナ……ッ!ヒナァ……ッ!!』
マーリンがヒカル達へと挨拶を済ませようとしていたが、落ちたはずのゆりが戻ってきた。
六枚の羽を忙しなく動かして懸命にゆりを抱えて浮かぶヒナンドは明らかに無理をしていて今にも落ちそうな様子であった。
「マジか、君」
「お、お父さんっ!早くっ!サインをっ!!」
「なんでそこまで必死なんだお前は」
「いいから!」
「ったく、わかったよ」
呆れた顔でヒカルは本とペンを受け取り、さらさらと漢字で名前を書いてゆりへ手渡した。
その瞬間、
「や、やったああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────」
『ヒ、ヒナッ!?ヒナァァァァァァァ!?』
歓喜の声を上げるゆりは途中でヒナンドが抱えきれなくなり、落ちていく。
ヒナンドは慌てて、落ちていくゆりの元へと飛んで行った。
そんな様子をなんとも言えない表情で見ていたヒカル達。
それを横目で見ていたマーリンは開いた次元の穴へと足を踏み入れた。
「こんな別れでごめんね。記憶も良い感じにいじるから、あとは頑張ってくれたまえ。明るい未来で待ってるぜ」
マーリンはパチンと指を鳴らし、その後自身も穴へと落ちていった。
指を鳴らした音を聞いたヒカル達はほぼ全員に記憶の処理が行われ、あるべき日常へと帰っていった。
一人、記憶の処理がされなかった人物がいた。
その人物はそっと今いる場所から距離を取って、自身の状況を確かめていた。
「特に異常は無し……まさか、あそこまでめちゃくちゃだなんて……あれがマーリン……」
「そう、私がマーリン」
「うわあっ!!?」
急に背後から聞こえた声に飛び上がるほど驚き、慌てて振り向きながら距離を取った。
未来に帰ったはずのマーリンが恭しく頭を下げて礼をしていた。
「お初にお目にかかる、銀髪盗賊団首領クリス殿、いやそれとも、女神エリスとお呼びすれば?」
「…………どちらでも構いません。そんなことはどうでもいいです。何故ここに?」
一瞬で気配もなく背後を取られた上に正体までバレていることで更に警戒心を上げながらクリスはマーリンへと尋ねた。
「ゆりを送り届けた後にまた戻ってきたのさ。記憶の処理が正常に行われているかの確認。それと、是非貴方とも話してみたかった」
「……」
「そう警戒しないでほしい、と言うのは無理な話かな」
「無理ですね」
「そうか、ならば話をさっさと済ませようじゃあないか。正直悩んでいてね、貴方への記憶の処理をどうするかを」
「何故しないのです?」
「記憶の処理をしてしまうのが一番ではあるのだけど、流石に神を相手にそんなことはしたくなくてね」
「信仰心があったとは驚きました」
「いやいや、単純に面倒事は避けたいだけさ。天界連中にバレたら何をしてくるか分からないじゃあないか。あの有名な『破壊神』まで出て来たら私も本気を出して、どうにかこうにかしなくてはいけなくなるわけだし」
(天界のことまで知られている……?それに創造神様の過去の名まで知っているなんて……)
エリスは今まで感じたことのない未知に恐怖していた。
恐らく、エリスという存在が生み出されて以来、一番の恐怖を感じていた。
全身から噴き出る汗が気持ち悪くて、どうにかなってしまいそうなのを必死で耐えて前を睨んでいた。
「でも彼は今、創造神の席にいるんだったね。いやはや破壊と創造は表裏一体とはよく言ったものだ。以前の常識を破壊して、今の世を創った。なるほど、たしかに創造神の座に誰よりもふさわしい。それに彼は
「……?」
「おや?まさか知らない?話し過ぎてしまったかな。それにどう考えても脱線だし」
「ええ、本題をお願いします」
「そうしよう。私は出来れば
「……はい」
「大変素直で結構。そうなると、記憶はいじらないという話で終わらせたいのだが、そうもいかない」
「未来のこと、今回のことを誰かに教えたり伝えたりしない。そう約束すればいいのですか?」
「それは大前提だ。ちゃんと約束してほしい。誰にも教えてはならない。ヒカリ君にも君の最愛の天使にもね」
「……分かりました。幸運の女神エリスの名にかけて、約束しましょう」
自身のことも知られていることに嫌悪感が表情に出たが、エリスは自身の名にかけて約束を誓った。
神としてその誓いは絶対である。
名前に傷が付けば、信仰はなくなる。
神にとって信仰は存在するためのエネルギーや力と同義であるからだ。
「そこまで言ってくれるなら多少は安心出来る。いちいち監視とかしたくないからね」
「それで、先程大前提と言っていたということは、まだ何かあるのですか?」
「ああ、そうだとも。これも重要だ」
「何でしょう?」
「ヒカリ君のことをしっかり見守ってほしい」
「……はい?」
どんな難題を言われるのかと覚悟していたエリスは予想外の言葉に思わず聞き返した。
「ヒナギクちゃんが天界に行った後、二人で彼を守るんだろう?それはしっかりやってほしい。貴方が出来る範囲で、最大限に」
「本当に、どこまで知っているのですか?」
「今の私ならともかく、この私は未来から来ているからね。それなりに知っているさ。それで、約束はしてくれるのかな?」
「はあ……分かりました。それも約束しましょう」
「スムーズで助かるよ。彼はいろいろと引き寄せてしまうからね。大変だろうけど、よろしくお願いするよ」
「そもそもヒナギクと話が進んでいたことなので、貴方に言われなくてもそうします」
「先程ダガーを握って追いかけ回していたのは誰だったかな?」
「それとこれは話が別です」
「なるほど、話が別か。よく分かんないけど、まあ、いいや。話が済んだことだし、私はそろそろ……」
「一つ質問があります」
女神エリスもさっさと終わらせたい気持ちがあったが、先程の約束のやり取りから懸念が生まれてしまった。
それを問いたださなければ、これから先きっと安心は出来ない。
それほどのことであった。
「ん、何かな?」
「貴方が興味あるのは『シロガネヒカル』ですか?それとも『ムードメーカー』ですか?」
「『ムードメーカー』に興味はないよ。彼の一つの重要な要素だとは思うけどね。というかヒカリ君は『ムードメーカー』の半分も力を出せてないじゃあないか。それで『ムードメーカー』に興味が出る相手なんているわけないだろう。アレに興味を示すのは真に『ムードメーカー』を理解出来て制御出来る者だけだ。私はどちらも出来るだろうが、その上で興味は無いよ。だって、私は『ムードメーカー』のことをシロガネヒカルのおまけぐらいにしか思ってないからね」
「……お、おまけ、ですか」
エリスはなんとかそれだけ聞き返す。
『ムードメーカー』つまりは神の能力をマーリンが欲しがっているとなると、対立は避けられなかった。
だが、マーリンが執心しているのは能力ではなく、その『容れ物』であった。
マーリンのことはほぼ分かっていないエリスだが、マーリンが嘘をついていないことは分かった。
それだけ温度差があった。
『シロガネヒカル』を話す時と『ムードメーカー』を話す時で。
「そうさ。私は彼の物語が好きだ。彼の物語の一つの彩りになってくれる『ムードメーカー』は彼が持っていなければ意味がない。どれだけぶっ飛んだ神の能力だとしても、一つの要素にしか感じない。だから、おまけさ」
呆然とするエリスにマーリンは背を向けて、自身が開いた次元の穴へと歩を進め、肩越しにエリスに視線を送った。
「彼のこと、頼んだよ。なにせ君達が危険視するような能力を背負わされた上、世界にまで命を狙われるんだからね」
「え、それは……」
「では、さらばだ幸運の女神」
エリスが聞き返してもマーリンは次元の穴へと入り込み、一瞬で姿を消してしまった。
緊張が解けて、へたり込むエリスは汗を拭いながら呟く。
「地獄の悪魔や邪神以上に厄介な存在が出てくるなんて……あんなのどうやって報告すればいいんだか」
とんでもない存在が自身が管理する世界にいつの間にかいることについて嘆くも、誰の耳にも届かず、ましてや解決してくれるような都合の良い存在もいなかった。
せいぜいお気に入りにされてる彼に頑張ってもらおうと丸投げしつつ、クリスは汗を流せる場所へと向かうことにした。
ヒナンドは天使の形をしているのですが、本物の天使やヒナギクみたいに人を抱えて飛んだりが出来ません。
羽はほぼ飾り、もしくは盾です。
ですが、ゆりがサインが欲し過ぎて無理矢理力を引き出して飛んでましたが、普通に途中で落ちました。
次回でこの章は終わり。今回は本当。
少し前に先に書き上げてしまった、と言っていた話が次回のものになります。
いやあ、ここまで来るのに長かったなぁ……。