このすば ハード?モード   作:ひなたさん

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141話です。さあ、いってみよう。



10章 『騎士道』と『叶わぬ想い』
141話


 

 

 二人の少女が転移魔法で姿を消すのを見届けた三人が行くべき場所へと移動を開始した。

 

 それらを影に潜み観察している男がいた。

 男の横を三人が通り過ぎる。

 その内の一人が男へと視線を向けた。

 全てを見透かすように、微笑みを浮かべながら。

 男の姿は完全に隠れているにも関わらず、その気配を感知出来たのはその存在があまりにも人離れしているからだろう。

 他二人は気付くはずも無く、視線を寄越した一人もそのまま二人へと続いていった。

 

(マーリン……貴方が関与していたか)

 

 男も特に行動を起こさずに三人を見送り、思考を巡らせる。

 男は()()()()()()()()姿()()()()と三人とは別方向へと歩き出す。

 

(時間が無い……マーリンのことも含めて調査不足だが、もう動くしかない)

 

 一陣の風が吹き、全身を隠すような外套が舞い上がり広がった。

 外套の下には騎士然とした全身鎧と一本の長剣が姿を見せた。

 そして、その男には左腕が存在しなかった。

 

 

 

 ゆりとマーリンがヒカルと出会い、紅魔の里へ向かおうとする時のそんな一コマ。

 未来から来たマーリンはヴォーティガンの事件に関わった人物には記憶の処理を行なったが、この外套の男にはしなかった。

 する必要がなかったのは間違いないが、恐らく、それ以上に────

 

 

 その方が、面白いからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、今日はいいでしょマジで」

 

「でも今日は必ず行くって言ってたよね?」

 

「そうだけど、昨日の今日だぞ」

 

「それがどうしたの?」

 

「……」

 

 俺が呆れてものも言えなくなっていると、ヒナが首を傾げて『何言ってんだこいつ』みたいな目を向けてくる。

 このやり取りが何かと言うと、俺が孤児院に指導しに行くのを渋っていて、ヒナがそれを正しに来たという感じだ。

 一見すると、俺がただのダメな大人に見えなくもないのだが、それは少し待って欲しい。

 昨日は紅魔の里で魔王軍と里の奪還のための大乱戦をしてきた。

 復活のシルビアとかいう意味の分からん展開もあったりとなかなかのハードさであり、恐らくこの世界に来て一番忙しくてしんどい日であったことは間違いない。

 そんな翌日、俺はゆっくりする気満々で寝息を立てていたら、ヒナに叩き起こされて今に至るのだ。

 

 分かるよ、ヒナが言いたいことも。

 ヒナが言ってた通り、今日は孤児院に行くことを約束してた。

 とはいえ、今日は流石に行かなかったとしても許されるんじゃないか。

 今の俺に元気が有り余ったバカ共を相手に出来る気がしないんだけど。

 

「ヒカルが来るのをみんな楽しみにしてるんだから、早く準備して。それにアッシュがヒカルに相談があるんだって。なんで僕じゃなくてヒカルなんかに……」

 

「それはお前、俺が頼れる大人の男だからだろ」

 

「ヒカル、寝言は寝て言わないとダメなんだよ?」

 

「喧嘩売ってんのかこの野郎」

 

「そんなことはどうでもいいから、早くしてよ」

 

「ああもう、わかったわかった。行きゃあいいんだろ」

 

「そうだよ」

 

 ヒナはそれだけ言うと俺の部屋から出て行った。

 俺はため息を吐いた後、もそもそと準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は今日孤児院に行くけど、お前らは?」

 

 朝食後、各々の今日の予定を聞いていく。

 俺達は割とバラバラに動くこともあり、誰かしらが把握してないと面倒なことになったりする。

 具体的には家事が溜まったり、帰ってこない奴の飯を作ってしまったり。

 まあ、何にせよ情報の共有は大切だ。

 

「僕は教会。最近ギルドの方が無茶なクエストばかりだったから怪我人がまだいるみたいで呼ばれてるんだ」

 

「私は少し試したいことがありまして、適当なクエストを受けようと思います」

 

「試したいこと?」

 

「はい。スキルやいろいろと」

 

「試したいのは分かるが、お前一人か?」

 

「一人で十分ですが、一応どこかのパーティーが受けるクエストに同行しようと思っているので心配はいりませんよ」

 

 少し前にゆんゆんとスキルが被ってるとかなんとか言って落ち込んでたから、そのことで悩んでるのかと思ったが、特にそういった様子ではなく純粋に試したいことがあるみたいだ。

 トリスターノなら一人でもなんとか出来るだろうが、一応確認しておかないとな。

 最近ギルドが貼り出すクエストは……ん? 

 

「そういや昨日紅魔の里を取り返せたから、めぐみんの妹は帰ったのか?」

 

「ええ、帰ったわ。だから無茶なクエストを押し付けられたりはしないし、そういうクエストはほとんど消化されたと思うから、余程変なクエストを受けない限りは大丈夫だと思うわ」

 

「そういうことです。それに試すのはカエル等の弱いモンスターにするつもりですからご安心ください」

 

「そうか、わかった。でも一応ルナさんあたりは警戒しとけよ。何押し付けてくるかわからないからな」

 

「ふふ、了解です」

 

 トリスターノが微笑みとともに返事を返してきた後、まだ今日の予定を話していないゆんゆんへと視線が集まった。

 

「今日は特に用事も無いし、家でゆっくりするわ。家事と、あとはみんなのお昼ご飯のお弁当でも作ろうと思うけど、欲しい人は?」

 

「欲しい」

 

「僕は三人前でお願いします」

 

 こいつは何で誇らしげに胸を張ってるんだろう。

 ドヤ散らかしてるヒナとは対照的にトリスターノが控えめな態度でゆんゆんへと頼んだ。

 

「私も一応いいでしょうか?」

 

「うん。そしたらこの後すぐ作ってギルドに持っていくわ」

 

「ありがとうございます、助かります」

 

 ゆんゆんがニコリと返し、ヒナの方へと向き話しかけた。

 

「で、ヒナちゃんは三人前?」

 

「うん、ご飯は命のエネルギーだからね」

 

「じゃあ三段の重箱に作って持っていくね」

 

「わーい」

 

 ゆんゆんは冗談のつもりで言ったのかもしれないが、ヒナは普通に喜んでる。

 

「え、えっと、じゃあ本当に重箱で作って行くから、もし食べきれなかったら教会の方達と食べてね」

 

「え? うん」

 

 食べ切る気満々だったヒナは不思議そうな顔で頷いた。

 困ったような顔で笑うゆんゆんはヒナから視線を外し、俺の方へ向いてくる。

 

「ヒカルは何人前?」

 

「こいつと一緒にするなよ。でもまあ二人前ぐらいで」

 

「うん、わかったわ」

 

 ゆんゆんから微笑みが返ってきて、今日の朝の会議が終わり、俺達はそれぞれ準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ〜あ」

 

 盛大に欠伸をかましつつ、俺はダラダラと孤児院へ向かっていた。

 街の外れにある孤児院に向かうにはそれなりに歩く必要がある。

 少し面倒くさくはあるけど、寝起きにはちょうどいいぐらいだ。

 

「すぐ壊れないといいんだけどな」

 

 大きめのバッグに入ったブツを見て、なんとなく呟いてしまった。

 わざわざ声に出てきたのは、なんとなく自信がないからだろう。

 バッグに入っているのは武道で使う防具やそれらに類する道具だ。

 

 ……自作の。

 

 ヒナの『全知』の知識に頼ったりして、空いてる時間に少しずつ作ってみたが、見た目からしても正直に言って不恰好だ。

 三人も手伝ってくれようとしたけど、なんとなく自分でやりたかったから俺一人で作ってみたのだが、頼るべきだったと後から後悔した。

 今回試してみてダメそうなら、頼ってみよう。

 頼るといえば、アレでなにかと器用なアクアに依頼してみるのもいいかもしれない。

 もしかしたら現代日本で売ってるようなとんでもなく出来の良いものが出てくる可能性もある。

 ただ、素直にそんなのを引き受けるとは思えないので、良さげな酒や金で釣らないといけないけど。

 

「で、俺に何か用か?」

 

 道のど真ん中に立ち塞がるように居座り、こちらを真っ直ぐに見詰める男に話しかけた。

 別に道が狭いわけでもないので、普段であれば横を通り過ぎてしまったのだろうが、男の視線と剣呑な雰囲気がそうはさせなかった。

 全身が外套で隠れていて、見えるのは足元と顔のみ。

 何をしてくるかわからない、というのも俺から話しかけた要因の一つだ。

 

「ああ、貴殿に用がある」

 

「そうか、俺には無いんだ。悪いけど、退いてくれる?」

 

「そうはいかない」

 

「はぁ、孤児院に行こうとするとトラブルに巻き込まれる呪いにでもかかってんのかこれ」

 

 昨日もそうだし、今日も意味の分からん茶髪のロン毛に絡まれている。

 面倒な事件はしばらく起きないと思っていたし、起きないで欲しいとも思っていたが、そうもいかないらしい。

 というかトリスターノよりデカイなアイツ。

 二メートル近くあるかもしれない。

 

「あんた誰? 知らん人に絡まれてもスルーしろってウチのボクシング狂いに言われてるんだけど」

 

「そうか、それはそうだ。失礼、礼を欠いた」

 

 目礼をするように軽く頭を下げてくる男になんだか調子が狂った俺はどうしたものかと密かにため息をついた。

 男は佇まいを直し、名乗る。

 

「私の名はベティヴィア」

 

「っ────」

 

 数メートル先にいたはずの男の声が目の前にいるぐらい近くから聞こえ、俺は咄嗟にバッグから木刀を引き抜く。

 引き抜かれた木刀からはまるで壁に打ち込まれたかのように重い衝撃を感じさせる。

 いや、それどころではなく俺はその衝撃に耐えきれず吹き飛ばされた。

 

「この程度は応戦するか。それともまぐれか」

 

「てめえ、なにすんだこの野郎!!」

 

 荷物を庇いながら体勢を立て直す。

 ベティヴィアと名乗った男は外套を脱ぎ捨てるとこちらへと迫り、長剣を振るおうとしていた。

 荷物を放り投げ、全力で応戦するべく木刀をベティヴィアの剣に合わせて振った。

 凄まじい衝撃でぶつかり合う木刀と剣は先程とは違い、どちらかが力負けすることはなく拮抗した。

 鍔迫り合いの形で睨み合うと、ベティヴィアは口を開いた。

 

「ベティヴィアの名を聞いたことは?」

 

「なんだ有名人気取りか! こちとら世間を知らないことに関しちゃ自信があんだよこの野郎!!」

 

 木刀を振り抜きながら、お互い弾かれるように離れると構え直す。

 それでようやくベティヴィアの全身を見ることができた。

 全身鎧を身にまとい、長剣を構える無駄にイケメンで無駄にデカイ男。

 誰かさんとキャラが被っているように見えて、その誰かさんとは唯一被りそうもない要素がベティヴィアにはあった。

 いや、あるというよりは、無い。

 ベティヴィアの左腕が無かった。

 肩から先が存在しなかった。

 

 この男、片手で狂戦士の俺と打ち合うのか。

 それにあのガタイで間合いを一瞬で詰めてくる瞬発力。

 ──嫌な予感しかしない。

 昨日と同じか、それ以上の。

 それと、あのベティヴィアとかいうやつのことを見てると、ある二人の男の顔を思い出す。

 殺し合った騎士の顔を。

 だが、そいつらとこのベティヴィアが関係しているわけがない。

 このアクセルの街でそんなやつに会うわけがない、いや会っていいはずがない。

 

「トリスタンから聞いているかと思ったが、違ったか」

 

「────」

 

 トリスタンとこいつは言った。

 トリスターノのことを、そう呼ぶやつは──

 

「その反応は……どうやら知っているようだな。では改めて」

 

 ベティヴィアは溜めるように、ゆっくり口を開いた。

 

 

「円卓の騎士、ベティヴィア」

 

 

 くそ、何でこんなところにいやがる。

 しかも連日でこんな奴らと……いや、何言ってんだ俺は。

 あまりの事態とトラブル続きでおかしくなったか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 それに近い実力のやつと戦ったが……ってそんなことはどうでもいい。

 この状況はマジでまずい。

 

「円卓の騎士さまがこんな街に何しに来やがった?」

 

 冷や汗が頬を伝うのを感じながら、俺は冷静を装いつつ尋ねた。

 昨日より状況が悪い。

 今の俺はマジで木刀一本しかない。

 ガキ共を相手にするだけの日に、わざわざ冒険者の装備なんて持って来るはずがない。

 こんな状態で、いや万全でもキツい相手が喧嘩を売ってきてるんだ、目的は知っておく必要がある。

 ……あれだけスルーしておいて、今更知ろうとするのは情けないけど。

 

「トリスタンを連れ戻しに来た」

 

「……へぇー、あいつをね」

 

「驚かないのか。それともトリスタンのことなどどうでもいいのか」

 

 俺の返事を聞いて不快感を表すようにベティヴィアの眉に皺が寄った。

 いや、たしかに淡白な反応をしてしまったのかもしれないが、俺としては疑問だらけだ。

 

「いや、そうじゃなくてさ。あんたはトリスターノのやつを連れ戻しにきたんだよな? じゃあ何で俺の方に来てバチバチにバトルフェイズ入ってるわけ? まあ、俺がトリスターノのやつと同じイケメンで──」

 

「それはない」

 

「おい、なに即答してんだ」

 

「貴殿の顔などどうでもいい。確かにトリスタンの方に行くべきだが……ここに来るまで情報を集めていて、信じられない話ばかり聞いたのだ」

 

「もうなんなのマジ──でっ!?」

 

 ベティヴィアの話を聞けるものだと思っていた俺は急に戦闘を再開するベティヴィアに驚きつつも応戦する。

 円卓の騎士を名乗るだけあって、めちゃくちゃ強い。

 片腕しかない騎士に押されるばかりだ。

 それに、まだ本気ではない。

 俺は俺で自身の状況が最悪にも関わらず、周りへの影響を考えて戦っていた。

 住宅街を抜けて孤児院も見えてきた。

 あともう少しで街の外へ出られる。

 

「卑劣な男かと思ったが、存外違ったか」

 

「急に剣を振ってくるやつがなんだって!?」

 

「街の外に出ようと考えているのだろうが、そうはさせない。逃げられては面倒だからな」

 

「てめえ、この──っ!」

 

「だから、そうだな。もう少し本気を出すとしよう」

 

 鍔迫り合いをしあうベティヴィアの剣の上から何かが飛んできた。

 視界の外からのせいで、何かは全く分からなかった。

 俺は火事場の馬鹿力でベティヴィアを押し返しつつ、身を捻るようにして無理矢理回避し、弾かれるように後方へと下がった。

 

「っ、なん、だよそれ……」

 

 剣の上からの攻撃の正体が分かったが、俺はそう呟くしかなかった。

 あまりにも現実離れしていた。

 攻撃の正体は短剣であった。

 だが、片腕しかないベティヴィアの手には長剣が握られている。

 では、その短剣はどこから来たのか。

 

 

 ベティヴィアの()()()()()()()()()()()()()()()()()、その一本が短剣を握っていた。

 

 

 俺の胸に赤い一線が刻まれているのを確認して、戦慄する。

 ベティヴィアは俺を冷たい視線で見てくる。

 

「戦う相手を前に、他に注意を向けてばかりだったが今のを避けるか。隻腕の男と舐められているのだと思ったが、どうやら違ったらしい」

 

 やばい、人間相手なら多少は戦えると思ったが、こんなの実力的にも見た目的にもバケモノじゃねえか。

 確実に俺では負ける、いや、殺される。

 

「唐突だが足りないものを補強するには、どうすればいいと思う?」

 

 機械仕掛けの腕が俺の胸を貫こうとした恐ろしいほど黒く暗い短剣をもてあそぶ。

 刃先まで黒く、黒曜石のような質感を感じさせるその短剣からは妖しい輝きのようなものを放っていた。

 

「それは、このように増やすことだ。存在しないのであれば造ればいい。補強や補うのではなく、さらにその先を目指してね」

 

「……いや、そうはならんだろ」

 

 あまりにもぶっ飛んだ答えに俺はそう呟いていた。

 





後書き長めです。
このすばの最近のアレコレとか自身の近況とかなので飛ばしたい方は多分飛ばしてOKです。


三嶋くろね先生のこのすば画集第二弾『Blessing』発売おめでとうございます。
早速購入しましたが、大変素晴らしいものでした。
ゆんゆんのイラストが思ったより多かったり、知らないイラストもあったり、抱き枕カバーのエッッッッッッッなイラストもあったりとマジで最高でした。


それと、このファンの小説化もおめでとうございます。
どこら辺がお話として出るかわかりませんが、是非とも読んでみたいところ。
まあ、私はほぼこのファン引退状態ですけどね。ゆんゆんが実装されるたびに戻ってガチャしに行ってるだけなんですけど。


暁なつめ先生が書く新しいこのすばはもう少し待って、ってTwitterの編集者さんが言ってたけど、あとどれぐらいなんだろう。
というかアニメの続報は……?
このすばもまだまだ終わらない、ってことや多分。


さて、私ごとですがヒスイなる場所でメタルギアをしたりデュエルをしたり全身タイツ男を観るために映画館に通ったりでなかなか忙しい日々を過ごしております。
もう無限に時間と金持ってかれすぎて、書けねえ。
ゲームの進化が凄すぎるのがいけないんだ。
小説を書くのも進化しないかな。
脳内で考えてる物語を文章化してくれたりするアプリとか。

ベティヴィアの説明とかはまた次回とかそこら辺で。
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