このすば ハード?モード   作:ひなたさん

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144話です。さあ、いってみよう。



144話

 

 一方その頃。

 

「思った以上に時間かかっちゃった……! トリタンさんまだいるかな」

 

 ゆんゆんがトリスターノの弁当を引っ提げてギルドへと訪れていた。

 慌ただしく扉を通ると辺りを見回し、トリスターノの姿が無いかを確認した。

 だが、トリスターノがいないことを知るとゆんゆんは大きくため息をついた。

 

「どうしよう……いえ、悩んでる場合じゃないわね」

 

 ゆんゆんはすぐに気持ちを切り替えると、トリスターノがどんなクエストに向かったかを聞いて、その後を追って弁当を直接届けることにした。

 

「ゆんゆんさん、おはようございます。何かお探しですか?」

 

「あ、ルナさん。おはようございます。……いえその、何でもありません」

 

 このギルドの看板受付嬢のルナが挨拶をしてきたので、ゆんゆんは伏し目がちに挨拶を返した。

 

「ゆんゆんさん、どうされました?」

 

「え、いえ本当に何でもないんです。実は私急いでるのでまた今度……」

 

「えっと、私避けられてません?」

 

「そ、そそそそんなことないでしゅ、よ……?」

 

「あの、無理に隠そうとするより隠す気ゼロの反応の方が傷付かないんですが……」

 

「す、すみません! 違うんですっ! 今日はちょっといろいろあってクエストは受けられないんですごめんなさい!」

 

 ゆんゆんが早口で頭を下げると、別の誰かにトリスターノのことを聞こうと歩み出した。

 ゆんゆんがルナを避ける理由は面倒なクエストを押しつけられる可能性があったからである。

 ヒカル達のパーティーメンバーがギルドに訪れた際にわざわざルナの方から話しかけてくる時は大抵がそのパターンであった。

 今朝の情報共有の場では、力試しのために簡単なクエストを受けると言っていたトリスターノにヒカルが変なクエストを押し付けられないように気をつけろと言っていたのは、ゆんゆんの記憶にも新しい。

 だからゆんゆんも礼を失する行為であると分かっていたのだが、ルナのことは出来る限り避けて、トリスターノの元へと向かおうとしていた。

 

「い、いえ、クエストではなくて。純粋にゆんゆんさんのことが気になっただけです」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「はい」

 

「本当に……?」

 

「警戒しすぎじゃないですか!?」

 

 ゆんゆんは思い出した。

 ある日ギルドに訪れた時のこと、ルナが話しかけて来て長々と世間話をした末に、ついでとばかりにクエストの依頼書を渡してきたことを。

 しかも明らかに難易度と報酬が見合ってないもので、あのヒナギクでさえ「流石にこれはちょっと……」と苦言を呈するほどであった。

 

「ご、ごめんなさい。実はトリタンさんにお弁当を届けなきゃいけなくて……トリタンさんがどんなクエストに向かったか教えていただけませんか?」

 

「トリスターノさま……あ、いえ、トリスターノさんですね」

 

(さま……)

 

 ここにもトリスターノのイケメンスマイルに心を盗まれてしまった人が……とゆんゆんが少し呆れていると、

 

「トリスターノさんはクエストに行ってませんよ?」

 

「はい?」

 

 予想外の答えが返ってきて、ゆんゆんは首を傾げた。

 

「最初はダストさん達のパーティーに同行する話だったんですが、先程シスターの方がやってきまして……」

 

「ヒナちゃんですか?」

 

「いえ、ヒナギクさんではなく、エリス教会の正式なシスターで、名前はアンナさんという方です。ギルドに響き渡るぐらいの大声で自己紹介をしてらしたので、聞き耳を立てずとも聞こえてきました」

 

「アンナさんが??」

 

 ゆんゆんもアンナのことはもちろん知っていた。

 ヒカルやヒナギクの都合上、ゆんゆんもアンナとは何度も話す機会があり、それなりに親密ではあったのだが、ゆんゆん自身は友達と言っていいのか分からなかった為、知人以上の仲の良い人といった感覚である。

 ゆんゆんはそれなりにアンナと関係性が構築されているのだが、トリスターノはそうとは思えなかった。

 教会にはヒカルやヒナギクに急用が無い限りは行くことも無く、孤児院に至ってはヒカルに近付くことを禁止されているので、トリスターノとアンナにそこまで関係があるようには思えなかった。

 だから、ゆんゆんはアンナが来たことでトリスターノがクエストに行くことを中断したのを強く疑問に感じていた。

 

「はい、他の話はあまり聞こえてきませんでしたが、ヒカルさんが孤児院の方で喧嘩してるとかでトリスターノさんが血相を変えてギルドを出て行きました」

 

「???」

 

 ゆんゆんは疑問で溢れ返った。

 ヒカルが喧嘩をするのは特段珍しいことでもなく、それをわざわざクエストに行くのを中断してまでトリスターノが止めに行くのもまたおかしな話であった。

 トリスターノではなくヒナギクが喧嘩を止めに行った、と言われたならなんとも思わない。

 そんな疑問だらけであったが、ゆんゆんは今の話から違和感を二つ感じていた。

 一つ目はトリスターノが孤児院に近付くことをヒカルに禁止にされていて、普段はトリスターノも律儀にその通りにしているのに、孤児院にトリスターノが向かった、ということ。

 二つ目はヒカルが孤児院の子供達の近くで喧嘩をするとはあまり思えなかったこと。

 あのヒカルといえど流石に場所は選ぶはずで、子供達を無理に怯えさせるような真似はしない。

 ゆんゆんはここで首を傾げていても仕方ないと判断し、自身も孤児院に行けば分かることだと考え行動することにした。

 

「えっと、分かりました。私も向かってみようと思います。教えていただいてありがとうございました」

 

「いえいえ、そんな。後でこのクエストに……」

 

「では急いでるので!!」

 

「冗談ですよゆんゆんさん!?」

 

 脱兎の如く逃げ出すゆんゆんの背中に慌ててルナは声を掛けるが、あまりにもギルドを出るのが早かったので聞こえているか微妙なところであった。

 ギルドを飛び出したゆんゆんは孤児院で何が起きているかを疑問に思いつつも、何はともあれなるべく早めに弁当を届けようと早足で孤児院に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーダーとヒナさんは下がっていてください。私一人で彼を倒します」

 

「あ? お前何言って……」

 

「あ、危ないよ、トリタン!」

 

 トリスターノがベティヴィアと一騎討ちをすると言い出したのでヒカル達は止めようとしたのだが、トリスターノは首を横に振った。

 

「この事態を招いたのは私です。私が解決するべき問題ですから……いえ、リーダーの嫌いな言い方をしてしまいましたね。でも、これだけは私が解決したいのです」

 

 弓を構えてベティヴィアを睨みながら言うトリスターノを見るに何を言っても無駄だと感じたヒカルはまだトリスターノを止めようとするヒナを引っ張って後ろへ下がる。

 

「ちょっと、ヒカル本気!?」

 

「ああ、あのバカはなんだかんだで頑固だからな。手出し無用とか恥ずかしいこと言っちゃう前に安全なところ行こうぜ」

 

「確かに手出し無用ですが、そんなに恥ずかしくありません。リーダーのくさい言葉よりマシです」

 

「はいはい、頑張れよ。俺はもう疲れたからマジで手出さないからな」

 

「ええ、ごゆっくり」

 

 もうっ、とプンプン怒るヒナはヒカルの手を振り払うとヒカルと同じく戦闘に巻き込まれない様に歩き始めた。

 すると、ベティヴィアの激昂する声がヒカル達にも聞こえてきた。

 

「私が円卓の中で実力が下だからと舐めているのかッ!! この間合いで貴様が勝てるわけがないだろう! それにその見窄らしい装備はなんだ!?」

 

「装備ですか? マーリンに取られてしまったのですよ。ですが、まあ前の騎士の格好よりも動きやすくて良いものですよ、これはこれでね」

 

「……洗脳されているとはいえ容赦しないぞ」

 

「ベティヴィア、貴方はたまにおかしなことを言いますね。だから私と同じく騎士内で浮いていたのですよ?」

 

「一体何を言っているのか、分からないな。時間稼ぎか?」

 

「そんなことは必要ありません。騎士王のことを尊敬することを悪く言うつもりはありませんが、貴方の場合は行き過ぎている。騎士王のことを誰彼構わず熱く語り出したりすれば避けられるのは当然のことです」

 

「……そんな、トリスタン……まさかそんな……」

 

 ある程度距離を取ったヒカルは壁を背に腰を下ろして、トリスターノ達を眺めた。

 トリスターノは相変わらず油断無く弓を構えていたが、ベティヴィアは額に手を当て、失望を露わにした。

 

「洗脳されているとはいえ騎士王の素晴らしさを忘れるなど不敬罪に当たるぞ、トリスタンッ!」

 

「当たりませんよ……はぁ……」

 

 疲れたようにため息をつくトリスターノ。

 そんな彼を見て、ベティヴィアは更に怒りに火が付く。

 

「力付くで思い出させてやる。洗脳が解け、かの騎士王の完璧な姿を思い出せば、今の自身の愚かさを嫌というほど思い知るだろう。私であれば喉を掻っ切るだろうが、それは許さない。今の貴様は生きるに値しない愚か者だが、一応は必要とされているのだ。死ぬのなら騎士王の役に立ってから死ね。騎士王のために全てを捧げ、国のため王のために死ね。円卓の騎士に無意味な死は許されない。洗脳されていようがなんだろうがな」

 

 表情の無くなったベティヴィアから出て来る言葉にため息だけじゃなく、頭を抱えたくなったトリスターノはなんとか耐えて言葉を続けた。

 

「騎士王至上主義もいい加減にしてください。『円卓の騎士』の意味を忘れましたか?」

 

「国や自身の役割から逃げ出した者がよく言えたものだ」

 

「答えてください。『円卓の騎士』のその意味を」

 

「王の近くにいることを許された精鋭の騎士達のことだろう。答えるまでもない」

 

 答えを聞いてトリスターノはまたため息が出そうになった。

 ベティヴィアから出てくる答えは予想が付いていた。

 答えが大きく間違っていることも。

 

「いいえ、違います。円卓の騎士はそんなものではない。近衛騎士団とは違うんです」

 

「分かりやすく言っただけだ。騎士王に実力を認められた騎士達、それが円卓の騎士だ」

 

「……それは第一条件です。円卓の騎士とは円卓を囲む騎士達、その円卓を囲むものは騎士王を含め全ての者が対等であるからこそ、『円卓の騎士』と呼ばれたのです」

 

「……」

 

「今の円卓の騎士は崩壊している。騎士王一人が全てを決め、独裁しているからです。結果グレテンは変わってしまった。円卓の意味は無くなり、国を守るために存在するはずの騎士達が敵を殺すための戦争の駒に成り下がった。しかも敵であるはずの魔王軍側の駒に。私はそんなところでは戦えない」

 

「だから国を抜け出したと?」

 

「はい」

 

「子供だな、トリスタン」

 

「……なに?」

 

 ベティヴィアから返ってきたのは嘲笑だった。

 トリスターノの持論ではあったが、円卓の騎士を誇りに思っているからこそ、国の未来を考えているからこその行動であり言葉であったが、それらを一蹴され嘲笑されれば、温厚なトリスターノといえど怒りを露わにする。

 

「どこまで失望させる気だ、トリスタン。あの建前を本気で信じている者がいたとはな」

 

「建前……?」

 

「そう、建前だ。全ての者が対等であるだなんて、そんなわけが無いだろう。認めた騎士達の意見を多少は汲み取ってやろうという、騎士王の慈悲に他ならない。よもや本気で信じているとは……他にもトリスタンのような騎士がいないだろうな」

 

「…………」

 

 唖然とするトリスターノに構わずベティヴィアは続ける。

 

「それに、その建前が本当だったとして、王が国の全てを決めるのは当然のことだろう? 何を言っているのだ、貴様は。まさか貴様が国を動かせるとでも思っていたのか。面白いぞ、トリスタン。()()()()()がここまで冗談が上手かったとは思わなかった」

 

「ベティヴィア……!」

 

「あと騎士が駒に成り下がった、だったか。駒に決まっているだろう。我々は騎士王の駒だ。敵も味方も騎士王が決め、騎士王が定めた敵を切り伏せるのが我々円卓の騎士だ」

 

「違う……! 騎士は、円卓の騎士は、駒なんかじゃない! そんなものじゃない!!」

 

 激情に駆られたトリスターノは矢を射る。

 射出された矢が戦いのゴングとなり、ベティヴィアも即座に戦闘に切り替えると前へ踏み出す。

 一つの矢からはじまり、次々と飛来する矢をものともせず、機械仕掛けの腕で払うと一瞬で距離を詰めたベティヴィアはトリスターノへと剣を振るう。

 

「っ……!」

 

「遠距離からの狙撃ならまだしも、このたった数メートルしかない間合いでよくも弓兵が一人で戦うなどと言えたな」

 

 間一髪で避けるトリスターノは後退しつつ更に弓を引くが、虫でも振り払うかのようにベティヴィアの四本の腕が邪魔をして届くことはない。

 また距離を詰めてくるベティヴィアに弓だけでは対抗出来ないと感じたトリスターノは手を前に翳した。

 

「『クリエイト・ウォーター』! 『フリーズ』!」

 

「……初級魔法か。随分と堕ちたものだ」

 

 足場を凍らせる作戦に出たが、ベティヴィアは長剣を地面に叩きつけ、氷を地面ごと砕くことでトリスターノの目論みを阻止した。

 だが、その少しの隙がトリスターノには必要だった。

 氷の矢を番えたトリスターノは突き進んでくるベティヴィアの少し手前の地面へと射る。

 

「どこを狙って……ぐっ!?」

 

 見慣れない氷の矢は警戒されるが、当たらないことが分かれば、対処の必要性は無くなる。

 そんな油断を誘った一撃であったが、ベティヴィアは狙い通りもろに爆発に巻き込まれた。

 怯んだ隙を狙ってトリスターノは更に爆発するポーションを仕込んだ氷の矢を作成し、次々と矢を飛ばす。

 

「まったく、梃子摺らせる」

 

 爆発を食らったはずのベティヴィアはほぼ無傷であった。

 通常の矢は剣と機械の腕が振り払い、氷の矢は機械仕掛けの腕が掴み、投げ返す。

 

「っ!」

 

 今度は逆にトリスターノが氷の矢の対処に追われることになる。

 投げ返す精度があまり良くないのは救いであったが、近くで爆発されてはトリスターノも弓を構えてばかりではいられなくなった。

 その隙は円卓の騎士を相手にはあまりに大きな隙であった。

 瞬時に接近したベティヴィアはトリスターノには当たらないように長剣で弓を切り落とした。

 

「終わりだ、トリスタン」

 

 少しの抵抗も許さないとばかりに長剣をトリスターノに構えて、動けなくなったトリスターノの矢筒から機械仕掛けの腕が矢を引き抜き投げ捨てられ、腰に差してあった刀を模した短刀すらも奪い取られる。

 

「先程の世迷言は洗脳されていた、ということで聞き流してやる。さあ、今あの男から解放してやろう!」

 

 ベティヴィアは峰打ちのように刃のない側面で長剣をトリスターノに振るう。

 そして────

 





ゆんゆんはハテナマークを浮かべて首を傾げてるだけで可愛いと思うの。
そんなことはさておき、
休みの日を睡眠に持ってかれて、焦って書いてる感じなので、ベティヴィアの設定とかはまた次回に。

先週にデイリーランキングに入れました。
ありがとうございます。
またランキングに入れるような作品作りをしていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします。
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