146話です。さあ、いってみよう。
「まったく面倒なスキルですね」
「啖呵を切った割に逃げるか、トリスタン!」
速度を上げるベティヴィアと同じくトリスターノは人がいない方へと駆けながら矢を放つ。
距離を取りながら、矢がベティヴィアへと命中し爆発するのを見届けたが、その爆炎から変わらぬスピードでトリスターノへと迫ってくる。
それを確認すると、トリスターノは矢筒に手を伸ばしながら走り出した。
「無駄だ。貴様の武器と能力では傷一つ付けられない」
「……貴方の頭みたいに全身がカチコチになると、ここまで厄介になるとは思いませんでしたよ」
先程から放たれる矢は全てベティヴィアへ命中している。
だが、それらは全て弾かれて意味をなさなかった。
ベティヴィアのラウンズスキルは硬質化。
全身が鋼と化したベティヴィアには並の攻撃ではダメージを与えられず、更には全身が凶器となっていた。
「これはどうです?」
矢筒を操作し、変更された矢を引き抜くと弓に番える。
そして矢が放たれ、飛んでいく途中で矢は二つに分かれてベティヴィアに当たることはなく、それぞれが地面へと深々と突き刺さった。
「何をしてい──っ!?」
ベティヴィアは矢を気にすることなく、そのまま突き進もうとすると、両足が何かに引っかかり転倒しそうになる。
ベティヴィアは体制を立て直しながら、一瞬視線を足元へ送ると、何に引っかかったのかを理解した。
「ワイヤー……。小細工ばかり……!」
先程放たれた矢には空気抵抗を受けて分離するだけでなく、ワイヤーが仕込まれていた。
分離したように見えた矢はワイヤーで繋がっていて、それぞれが地面に突き刺さることでワイヤーが張られて即席のワイヤートラップになっていた。
ベティヴィアには大した有効打になることはないが、十分な隙を作ることが出来た。
トリスターノは三本の矢を引き抜き、同時に番えるとそのままベティヴィアへ放つ。
ベティヴィアは意に介さず、そのまま突っ込むと三本の矢が当たり全てが爆発した。
「ええい、鬱陶しい!」
爆発に飲まれてなお無傷のベティヴィアは爆煙から抜け出し、再度トリスターノを視界に捉える。
弓に矢を番えてこちらを狙っているであろうと予想していたベティヴィアはトリスターノは弓を持っていなかった。
剣を構えていた。
だが、それだけでなく────
「聖剣モルデュール!?貴様ッ!我らが王の真似事か!!万死に値するぞ!!」
騎士王が所持する聖剣の一つである『モルデュール』だった。
魔法すら切り裂き、何物でも斬撃を防ぐことは出来ない聖剣。
もちろんトリスターノが持っているモルデュールは本物ではなく、『
模造品である以上、性能は大きく劣る。
「貴様……ッ!貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様ァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
騎士王の聖剣を真似て振るうなど、騎士王を心酔するベティヴィアには耐えられないことであった。
激昂し、硬質化された身体で強引にトリスターノへと距離を詰めて力任せに剣を振るうベティヴィア。
モルデュールを見せてベティヴィアを挑発することが計算であったが、あまりの猛攻に嫌気が差しながらもトリスターノは冷静に対処していた。
(懐かしいものです。王への不敬を一切許さない貴方が味方を斬りつけようとした時に止めていたのはいつも私でしたね)
「死ねッ!!騎士の風上にも置けない猿真似男がッ!!」
「冷静な貴方ならともかく今の貴方なら騎士でなくても勝てますよ」
ベティヴィアの剣の振りかぶりに合わせて懐へと潜り込み、斬りつけながら横へ流れるように安全圏へと抜け出す。
その一撃でモルデュールは限界を迎え、光の粒子となって霧散する。
「意を決して接近戦をしてみたのに、結果がこれだけとは悲しくなりますね」
「それが貴様だトリスタン!やはり貴様程度では──」
「それが限界ですね」
「……?」
トリスターノの視線に釣られて自身の腹部を見るベティヴィアは驚愕した。
ラウンズスキルで全身が鋼と化したベティヴィアの腹部にはしっかりと切り傷が付けられていた。
「な、に……?」
「聖剣モルデュールの力は言わずもがな。私程度が創造してもモルデュールの性能が凄すぎるおかげで、それなりの性能で創れるみたいですね。でも今はこれで十分です」
「……これがなんだと言うのだ。まさかこれを繰り返す気か?」
「それよりも良いことを思い付きました」
そう言ったトリスターノは左手にアキヌフォートを、右手にモルデュールを創り出し、矢を番えるようにモルデュールを引き絞る。
「っ!?」
「これ以上接近戦で活躍してしまうとリーダーに怒られてしまうのでね。やっぱり私は
アキヌフォートの最大威力で射出されたモルデュールは銃の弾丸よりも速い。
ベティヴィアは咄嗟に避けることが出来ないと判断して長剣で防ぐことを選ぶ。
「っ、ぁぁあああああああああああああああああああああああああッッ!!?」
叫ぶベティヴィアの腹部にはモルデュールが突き刺さっていた。
射出されたモルデュールの勢いは凄まじく、ベティヴィアの長剣を破壊し、硬質化されていたベティヴィアの身体を貫いたのだ。
「そろそろ私の魔力が保たないので、最後にしましょうか」
「……勝ったつもりか?」
「はい、ラウンズスキルを使った貴方に傷を負わせることが出来たのですから」
「っ……この程度でよくも……」
「私の全力をもって、騎士道から外れた貴方を倒します」
トリスターノの右手にはモルデュールよりも大きな魔力が集まり、形を作っていく。
剣ではなく、巨大な槍がトリスターノの右手に握られる。
「ロンゴミニアド……ッ!!貴様、どこまで馬鹿に……ッ!!」
「それだけ私が本気だということです。覚悟はいいですか」
ロンゴミニアドはまた光となり、元のロンゴミニアドとは思えないほどに小さな光の矢となる。
ただの魔力の矢ではなく、莫大な魔力が集束された光の矢である。
ロンゴミニアドだけでは魔力が足らず、最初に創り出した騎士甲冑も魔力となって光の矢へと吸い込まれていく。
「貴様はもはや生かしておけん!!その罪──」
「光輝の矢『ロンゴミニアド』────ッ!!」
ベティヴィアの言葉を掻き消して、ロンゴミニアドは射出される。
アキヌフォートの最大威力で飛ばされた魔力が集束された矢は一瞬でベティヴィアへと到達し、
「──────」
全てを光と轟音が飲み込んだ。
「が、ァ……っ、ぐ……」
「……流石ラウンズスキルですね。まさかまだ起き上がれるとは」
硬質化は解かれ、全身から血を流しながら折れた剣を支えに起き上がり、更には立ちあがろうとするベティヴィア。
だが血を吐き、立ち上がることは出来ずに膝を付いた。
円卓の騎士であったとしても、ここまでの一撃を受けて立ち上がれる者はそういない。
トリスターノは素直に尊敬と畏怖の念を覚える。
「一つ聞きたいことがあるのです」
「……」
「貴方は騎士王の命令を受けて、私を連れ戻しに来たのですか?」
「……」
「命令ではなく、貴方の意志でここまで来たのですね?」
「……」
「自らや円卓の騎士を騎士王の駒だと言った貴方が何故命令でもない行動を?」
「……」
「矛盾してますよね。駒の貴方が勝手に動いてるのですから」
「っ……」
「騎士王の側を離れてまで、命令を受けてもいない貴方はここまで来た。どうしてそこまで?」
トリスターノのラウンズスキル『騎士道』が限界を迎えて、創り出したものが霧散していく。
ベティヴィアはうめき声を上げながら、トリスターノの問いに答えるべく重い首を上げてトリスターノと視線を重ねた。
「貴様が、いれ、ば……国も、王も守れると、思った……からだ」
「……」
「他の騎士では、戦うばかりで、大したことは出来ない。騎士王を守れたとしても、守り、きれない……。だが、貴様なら……あらゆる面で、騎士王の力になれる」
「ベティヴィア……」
「今のグレテンは、歴史上類を見ないほど、追い込まれている。我らが、王に……負担が増えていく、ばかり……」
「……」
「貴様の俯瞰的な視点……戦場で味方をフォローし、守る弓が、騎士王の側にあれば、きっと、全てが変わる、はずだ」
「ベティヴィア、私のことをそこまで……」
「……トリスタン。先程までは済まなかった。感情に任せて、失礼な事を言った。謝罪でも何でもしよう。だから、私とグレテン王国に戻ってきてくれ」
頭を下げて懇願するベティヴィア。
トリスターノはベティヴィアの姿と思いもしなかった信頼に罪悪感を覚え、苦虫を噛み潰したように顔を歪め、同じように頭を下げた。
「……ベティヴィア、申し訳ありません。それでも私はグレテンには戻れません」
「……どうしても、か?」
「はい……ですが、私は──」
「では、仕方ないな──ッ!」
折れた剣を振りかぶるベティヴィア。
トリスターノは剣から身を守るように急所を守りながら、後ろへと跳ぶ。
距離が開き、当たるはずのない剣はそのまま振るわれた。
ベティヴィアの手から離れて、トリスターノとは全く別の方向へと飛んでいく。
「なっ!?」
トリスターノは視線で剣を追うと、その方向には──
「狙いはずっと一つだった。貴様が力を使い果たし、油断するこの瞬間を待っていた」
シロガネヒカルがいた。
ベティヴィアの凄まじい膂力で投げられた剣は驚き固まるシロガネヒカルへと真っ直ぐに飛んでいく。
弓を構えようとするも、弓矢は壊されてスキルも解けてしまったトリスターノは何も出来ずにその光景を眺めることしか出来なかった。
動けないヒカルを庇うようにヒナギクが身体を前に出して守ろうとする。
それらが一瞬の出来事であり、剣は無慈悲にも──
「『カースド・ライトニング』」
雷光はシロガネヒカルの目の前の剣を消し飛ばし、勢いはそれだけに止まらず街の外壁をぶち抜いた。
その魔法を見た者全員が魔法が飛んできた方向へと視線を向けて、
「────ねえ、今何をしたの?」
誰も動くことも、声を上げることも出来なくなった。
その空間を恐怖で支配するほどの殺気が魔法を放った存在から溢れ出していた。
「貴方が誰であれ、剣を投げた相手が誰なのかその身に刻んであげる」
瞳を紅く光らせて、周りの空気と大地に電流を迸らせながら歩み寄ってくる姿は少女のものとは思えず、まるで魔王でも現れたかのようであった。
「覚悟は、いい?」
「ぁ、っ──」
ベティヴィアが声を絞り出そうとした瞬間、少女の手から現れた光の刃がベティヴィアを切り裂いた。
投稿してない間にまたデイリーランキングに入れていたみたいで、感謝感激です。
だいぶ人を選ぶ作品ですが、ここまで多くの人に読んでもらえる機会をいただけるのは光栄なことです。
本当にありがとうございます。
だいぶ前から後書きで言っていた章名を変えました。
また後から変える可能性もあるダメダメ作者ですが、なるべく無いようにしていきたいと思います。
章名の『騎士道』はこれにて終わりで、次からは原作と絡んだりします。
二次創作なのに、原作と絡むってもうわかんねえな……。