先に言っておきますが、視点が違います。
視点が違うのが分かりにくいから◯◯視点とか◯◯sideとか書いてくれって思う人もいるかもしれませんが、絶対に嫌です。
理由は私がそう書くのが嫌だからです。
人が書く分には全く気にしませんが、自分が書くのは嫌なのです。
こんな感じで分かりやすく前置きしたところで。
147話です。さあ、いってみよう。
現在、冒険者ギルドは人で溢れていた。
緊急クエストが発令され、街の冒険者が集まってきたからだ。
「冒険者の皆さん、こちらに並んでください。緊急です、緊急なので。申し訳ありませんが速やかにお並びください」
そう言って先程から冒険者たちを並ばせるギルドの看板受付嬢のルナさん。
緊急クエストと聞いて装備を整えてやってきたのだが、緊急とか言いながらわざわざ俺達を並ばせる必要はあるのだろうか。
すると、受付の奥からはギルドの職員が総出で現れ、外からは街の公務員らしき人達がズラリと並ぶ俺達冒険者の外側に……。
まるで、なんというかバリケードのごとく俺達を逃さないかのように職員や公務員たちが囲んできた。
流石の怪しさに冒険者連中はざわつき始める。
……なんだろうこれ。
「おい、なんだかおかしくないか? 俺の第六感がさっさと逃げろと囁いているんだが」
「奇遇ねカズマさん。なんだか私も女神の勘がそう言ってるように感じるの」
アクアの言葉に俺は益々不安が増してくる。
そんな俺達に落ち着いた様子で腕を組みながら話しかけてきたのはダクネスだった。
「二人とも安心しろ。犯罪行為や非道な行いがされるわけではない」
「……お前、これが何の緊急クエストか知ってるのか?」
ダクネスは俺の問いには答えなかった。
というかこの状況で落ち着いているのも変だが、ダクネスの格好も変だ。
冒険者達は緊急クエストと聞いて皆装備を固めているのだが、ダクネスだけは普段着であった。
まさかこいつ、鎧姿では物足りないからとこのままクエストに出る気じゃないだろうな。
いや、それだとダクネスがここまで落ち着いた様子でいるのは妙だ。
危険なクエストであればあるほど、ダクネスは興奮しているはずなのに。
やがて、不安が周りへ広がっていくようにそこら中で冒険者達が小さな声で会話を始める。
ざわざわと、不穏な空気が流れているのを肌で感じていると、
「皆さんに緊急のお願いがございます。緊急クエストです」
ギルド職員の一言で、一度辺りが静まり返った。
「本日で年度末から丁度一ヶ月となりました。……そう、今日が納税の最終日になります」
続くギルド職員がにこやかに言う。
「皆さんの中に、まだ税金を納めてない方がいます」
その場にいた冒険者達は顔を引きつった。
「な、ななななんだ!? ど、どどどどどういうこった! おいアクア、これって……!」
「お、おおお、おお、落ち着いて! カズマ、落ち着いて! こんな時こそ落ち着くの! ほら、まだお姉さんが何か言うみたいよ!」
税金と聞いて逃げようとする冒険者達を、バリケードのように立ち塞がっていたギルド職員と公務員達が押し留めていた。
逃げられない冒険者たちの表情は様々であったが、だいたいの者が悲痛な叫びを上げていた。
「もちろん今まではこんな事をお願いしてきませんでした。冒険者の皆さんは貧乏ですから。ええ、ですので、今までは免除、ではなく。温情という形で見逃して参りました」
ギルド職員は淡々と続けた。
「この冒険者ギルドも皆様の血税で賄われております。そして、そのギルドから出る報酬もそうです。モンスターを退治し、街の平和を守っているからといって、本来は特別な扱いはしません。それでも温情として見逃されていたのです。ですが────」
「今年度は大変大きな収入がございましたよね?」
頬を伝う汗の感覚がやけに冷たかった。
多分他の冒険者もそうだろう。
「言うまでもありませんが、大物賞金首の賞金です。今までは温情で見逃されてきたのですから、大金が入ってきた時ぐらいはきちんと義務を果たしませんか?」
逃げようとしていた冒険者達は静まり返っていた。
こんな話は初めて聞いた。
きっと全員そうなのだろう。
今までは、冒険者というだけで税を見逃してくれるという特別扱いをしてくれていたのだ。
金が入った今、真っ当な税金を支払ってもいいだろう。
俺達だって、この街の住人なのだ。
そんな中、ある冒険者が尋ねた。
「えっと、税金ってどれぐらい取られるんすか?」
「収入が一千万以上の方は、今年度までに得た収入の半額が税き……」
その場の冒険者全てが顔色を変えてなりふり構わず逃げ出した。
「カズマ、逃げるわよ! 遠くに逃げるの! この世界の税金は単純よ! 毎年、秋の収穫の最初の月に税金を払うの。毎年、それまでに得た収入から税金が算出されて、その額を秋の最初の月の終わりまでに払わなきゃいけないのよ!」
「分かりやすいな! 今日がそれってことか! でも逃げてどうすんだよ! 今日中に払わなかったところで……」
「税金は免除よ! 最終日の、それも役所の営業時間が過ぎたら、それまでの税は免除されるわ!」
「はぁ!? いや、普通だったら遡って払えとか……」
「何言ってるのよ! この世界の法律なんて貴族が作るのよ! 自分達の都合の良いように作るに決まってるじゃない! 貴族や大金持ちはこの時期みーんな旅行に行って、月が変わったら帰ってくるの!」
無法すぎる……。
いや、俺たちがいた世界でさえ汚職がどうとかあったんだ、この世界だってそうか。
「なんて最低な連中なんだ貴族ってやつは……! 俺達だって同じことしてやる!」
「ま、待て……! その、中にはあまり声に出せないような貴族もいるが、善良な貴族だってちゃんといるんだ……。一緒にしないでくれ……」
憤る俺とアクアに困ったように言ってきたのはダクネスだった。
というか、ダクネスは逃げないのだろうか。
お前だって高額を納税しないといけない貴族なのに逃げないのか、と言おうとして俺はダクネスが何かを持っていることに気が付いた。
「お前なにそれ?」
「これか? これはこうするものだ」
職員や公務員を怪我をさせてしまうと流石にまずいのか、冒険者連中は逃げ惑う。
そんな中、ダクネスは鎖付きの鉄製の枷……つまりは手錠を自身の右手に嵌めた。
「え、おまえこの状況で何やってんの……?」
ドン引きながら尋ねても、ダクネスはどこ吹く風であった。
ダクネスが変態なのは今に始まったことではないので、俺はさっさとここから逃げてしまおうとしたところで……
ガチャッ。
………………。
「お前マジで何やってんの?」
ダクネスは何をトチ狂ったのか、自分の右手に嵌めた手錠の反対側を、俺の左手首に嵌めていた。
こいつは、たまにアクアと同等のことをやらかす困ったちゃんだから困る。
そんなダクネスは俺に爽やかで綺麗な笑顔を浮かべると、
「税金は市民の義務だ。さあ、行こう! この街一番の高額所得冒険者よ」
「はっ、放せ! この……っ! お前ってやつはこのぉ……っ!」
「はははは、そんなこと言うなカズマ。私達の仲じゃないか。ほら、アクアも一緒に行くぞ!」
「い、いやあああああ────!!! ダクネスお願い! 見逃して! 今回だけは見逃して! カズマさ──ん! なんとかして──ー!!」
阿鼻叫喚のギルド。
手錠で繋がれた俺の手とは反対の手でアクアの腕をガシリと握るダクネスに悲鳴を上げながら振り払おうと抵抗するが、全く放してくれる様子はない。
俺はすかさずアクアに叫んだ。
「アクア、支援魔法だ! あれで強化してコイツごと連れてっちまおう! 二人がかりならダクネスを抱えていける!」
「むっ……」
ダクネスは俺の叫びを聞いて、掴んでいたアクアの腕を放した。
「アクア、お前は見逃してやろう。だが見逃す代わりに支援魔法はかけないでくれ」
「なっ、なんて卑怯な……! おいアクア、これは分断工作だ! 聞くな!」
「……」
俺の言葉に無言で後ずさるアクア。
「……ご、ごめんねカズマ。一人でも私より遅い人がいれば、私の逃げ切れる確率が増えると思うの……。それにこの街で二番目に納税額の多い冒険者は多分私だし……」
なんでこんな時だけ知恵が回るんだ、コイツは。
「……よし、分かった。俺が今からお前一人なら確実に逃げ切れる方法を教えてやる。それで納得したら支援魔法をかけてくれ」
「……わ、分かったわ」
おそるおそる近付くアクアに俺がそっと耳打ちすると……。
「カズマ! お互い無事で帰ることを祈ってるわ!」
そう言いながら支援魔法を俺にかけると、自身にも支援魔法を使い、包囲網を掻い潜ってギルドの外へと駆けて行った。
「何を教えたのか知らないが、街には徴税官がかなりの数いるから、そう簡単には行かないぞ。それに……いや、それはいいか」
「なんだよその気になる言い方。というか随分と余裕だな。支援魔法をかけてもらった以上力負けすることは無いし、ドレインタッチで気絶させてお前を無理矢理運んでいくことだって出来るんだぞ」
「私も馬鹿ではない。今回の計画は緻密に練られたものだ。計画を立てた段階でお前が逃げるであろうことも予想していた。そうすでに対策はしてある。お前に逃げられないように、私はこの日のために……」
「この日のために……!? お、お前まさかこの為だけに太ったのか!? 俺が持っていけないように!? しかもお前腹筋が割れてるの気にしてた……あぶぁっ!?」
最後まで言い終わる前に引っ叩かれた。
「そんなわけあるか! 重りだ! 服の下にたくさん仕込んであるのだ! これでお前は私を連れて逃げる事は出来なくなった!」
ダクネスがシャツをめくると、そこには何かの金属のような小さな塊が大量に取り付けられていた。
……こ、こいつはとんでもない馬鹿だ。
というか、そんな状態でよくここまで歩いてきた上に、普段通りいられるな……。
しかし、やばい。本当にやばい……!
あちらこちらで絶望感が漂う声や悲鳴が聞こえ、見知った冒険者達も捕まっていた。
酒場の席には納税を終えた冒険者達がグッタリと座り込んでいた。
まずい、俺ももう少しであそこの一員になってしまう……!
「……ダクネス、説得は」
「何も通らないぞ、カズマ。ダスティネス家は何者にも屈しないし、どのような不正にも応じない。いい加減観念して……」
「『スティール』」
俺の手には先程ダクネスに大量に付いていた重りの一つがあった。
それを適当に投げ捨てると、ダクネスが。
「……おいカズマ、お前のスティールは高確率で下着を剥ぐ。こんな人が大量にいる前で馬鹿なことは……」
「『スティール』」
またハズレだ。
ダクネスの黒タイツをポケットにしまい込む俺を見て、ダクネスは小さな声で。
「……………………ほ、本気か?」
「俺はやる時はやる男だ。重りも服も全部取っちまえば、お前ごと運べるだろ」
「…………」
「……『スティー」
「これはこれは高額所得冒険者のサトウカズマさんではありませんか。どうぞこちらに……ってああっ!? 逃げた! 引き留め役のダスティネス卿まで!?」
俺はダクネスを引き連れて、職員達の包囲網をくぐり抜け、外に出る。
その途中で、ダクネスは小さく呟いた。
「これで終わったと思うなよ。まだ手はある」
「そういう分かりやすい負けフラグはいいんだよ! ……って、なんだ!?」
ギルドの外に出ると、そこには地獄が広がっていた。
俺達より早く逃げ出したはずの冒険者達が倒れていて、その倒れた冒険者を徴税官らしき人物たちがギルドへと連れていく。
そんな異様な光景の中心で立つ男がいた。
この街ではかなり有名な冒険者の一人。
腰には木刀を差して、この世界では珍しい黒髪を風に揺らして佇んでいる。
「カーズーマーくーん」
その男の黒い瞳と目が合うと、
「あーそーぼー」
凶悪な笑みを浮かべ────シロガネヒカルがゆっくりとこちらへと歩み寄ってきた。
あいつ、こんな時に何やってんだ────ッ!?
こんな一話分になると思わなかった。
ここのやり取り結構長かったんですね……。
言わずもがな今回は原作12巻の内容です。
数ヶ月前にここの内容を書きたくて何度も読み返していたのですが、こんなことになるとは。
というかベティヴィアやら何やら書いてたせいで、数ヶ月前に読んだのも意味ないぐらい忘れて、また読み直すハメになったんですが、それはまあ置いといて。
本当は前半にヒカルが出てくるまで、後半に何でヒカルがギルドの外で暴れているかを書こうと思ってたんですが。
次回のお話は今回の後半で書くはずだった内容になります。
それと余裕があれば、カズマ(とダクネス)vsヒカルもやったりやらなかったり。
それとまたデイリーランキングに入れました!
本当にありがたいです。
これからも頑張っていきたいと思います。
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