150話です。さあ、いってみよう。
「とりあえずアレだ。お前らの漫才に付き合ってたらなんだかんだで時間が過ぎちまいそうだし、ダクネス諸共ぶっ飛ばすしかねえな」
「ちょ、ちょっと待てって!」
「よし、来い!!」
「よくねえ!!」
律儀にダクネスの方を向いてツッコミを入れるカズマ。
敵対している相手から視線を外すなんて、と思わなくもないが多分舐められてるとかではない。
こいつらはいつもこんな感じだし。
だが、その隙はしっかり狙わさせてもらう。
よりカズマの死角に入り込むように身体を動かし、木刀を構えて踏み出す。
「むっ!?」
ダクネスが攻め込む俺にいち早く反応し、ノーガードで前に出てくる。
割と本気でぶっ叩こうとしてるのに、両手を広げて受け入れ体勢全開にされるのは本当にやりづらい。
一応ダクネスは女だし、ダクネスが男だったとしても無抵抗の奴をぶっ叩く趣味はない。
とはいえ、それでいつまでも何も出来ないんじゃカズマに逃げられてしまう。
俺は容赦無くダクネスの顔面に木刀を────
「おらっ、くらいやがれ!」
「っ!」
ダクネスの陰からカズマが俺に何かをぶん投げて来た。
警戒で身体が一瞬止まりそうになったが、投げ込まれたのはただの石だった。
先程の俺の真似か、だとしても投げられた石は大したスピードは出ていなかった。
避けるまでもなく、ただ木刀の軌道を少し変えるだけで脅威は無くなった。
その一瞬が、カズマの狙いだった。
「『スティール』ッ!!」
俺の木刀は空振り──いや、握っていたはずの木刀は振り下ろされる寸前から消えていた。
「ちっ」
カズマの幸運に思わず舌打ちする。
ランダムであるはずの『スティール』で的確に武器を奪えるとか、どうかしてるだろ。
カズマはしてやったりといった顔で、それにムカついた俺は左足を軸にして一回転し、ダクネスの腹部へと突き出すような蹴りをお見舞いした。
「あふんっ!」
「のわぁっ!?」
軽くふっ飛ばされた二人から地面に倒れ込むのを確認しつつ、俺は石やらレンガをそこら辺から拾った後、盗人に言った。
「木刀返せよこの野郎」
「痛……誰が返すか、このバーサーカーが! 武器無しでアクアから支援魔法をもらった俺にどうにか出来るとでも……なにそれ?」
俺がポーチから取り出した小瓶を見て、カズマは尋ねて来る。
「石とレンガと爆発するポーションだ」
「………………それを、一体どうするつもりだ?」
「お前に投げるに決まってんだろうが」
「い、いやいやいや、ここは街中なんだし、なんかあったら……」
「安心しろ。一般人のほとんどはさっきの緊急クエストのアナウンスで家の中だし、どこかの誰かさんのおかげでこの街の住人は爆発音がしても気にしない」
「そういう問題じゃねえ! 立て、ダクネス! 早く!」
「……もうララティーナ、お嬢様だから動けな──あうっ!?」
「何がお嬢様だ! お前は誰よりも体力がある鉄女だろうが! さっさと立て!」
「誰が鉄女だ! ……ちゃんと立つし、逃げるのにもちゃんと協力するから、今の鎖を引っ張って無理矢理連れて行こうとするのをもう一度頼みたい」
「お、お前はこんな時に……」
さて、最初はこの手頃な石でいいかな。
「よーし、いくぞー」
「だ、ダクネス走れ!」
「くぅっ! 私はヒカルからの猛攻とカズマの拘束プレイ、どちらを取ればっ!?」
「人聞きの悪いことを────」
石はそこら中にある、どんどん投げてやろう。
「それ、それそれそれそれ」
「言うなああああああああああっ!? このバーサーカー、マジで街中でええええええええ!?」
投げるのは石、時々レンガとポーション。
街での追いかけっこが始まった。
そして、あっさり追いかけっこは終わった。
なんというか、まあアイツらの雰囲気に当てられたというか、叫びながら逃げるカズマを見て楽しんでたというか、随分と遊びが過ぎてしまったらしい。
結局カズマは捕まえられなかったのだ。
いや、正直カズマがあそこまでするとは思わなかった。
警察署に駆け込んでどうするのかと思いきや、まさか婦人警官に『スティール』をかますなんて。
俺は呆然とカズマとダクネスが留置場にぶち込まれるのを見るだけだった。
本当、とんでもねえやつだよ。
その後、街中でボンボンやってた俺は警察で説教を受けて、というか説教されるだけで済んで解放された。
まあ、徴税官とカズマを引き渡せと口論してたし、俺を相手にしてられなかったのだろう。
もう夕方になり、俺も帰路に着くことにした。
カズマは捕まえられなかったが結構頑張ったし、それに何人かの冒険者は捕まえたことだし、今回の依頼は公式的なものじゃないから、特に何も言われない……と勝手に思ってる。
報酬は別にどうでも良かったし、カズマが必死来いて逃げ惑ってる姿を見て、十分仕返し出来た気持ちになっちまったし、俺的にはもう満足だった。
というか味方であるはずのダクネスがあんな感じだった時点でいろいろ破綻してただろ。
もうアイツはなんなんだろうね。
貴族のツラして俺に依頼してきたあの姿は別の存在だったって言われた方が納得がいく。
「……お疲れ様です、シロガネさん」
「ん、ああ、お疲れ様です」
道すがら何度か見かけた女性の徴税官と挨拶を交わす。
なんだか機嫌悪そうに見えるし、一応謝っておくか。
「すみません、カズマのやつ捕まえられなくて」
「いえ、あんな方法で逃げられては、誰も捕まえられませんよ」
機嫌が悪く見えたのは、捕まえられなかった悔しさからだろうか、俺が謝ってからは沈んだような表情を見せた。
そして鋭い視線で俺を睨んできた。
「それにしても大したものです。依頼を受けて、味方となって油断させ、自分達も税の徴収から逃れるとは」
「はい?」
え、なに、急に何だ。
逃れる?
「ヒナギクさんに全員分の税金を支払わせる、なるほど理に適っていますね。全員分の手続きを済ませることが出来ますし、何よりヒナギクさんのことを知ってる人であれば必ず払うであろうと信じますから。ですが、実際はヒナギクさんには何も話さず、今日は別の仕事をさせていた……そんなところでしょうか。なかなかの策士ですね」
「??????」
「あくまでシラを切ると。まあ、いいでしょう。時間切れですからね。ですが、来年はこうはいきません。シロガネさん、貴方もサトウカズマ同様要注意人物としておきますから、覚悟しておいてください」
そう言うだけ言って、俺に背を向けて歩き去っていった。
……とりあえず、ヒナに話を聞きに行こう。
「ふぅ……」
「ふぅ、じゃねえんだよお前は」
「あうっ!? ちょっと! 何すんのさ!」
ふぅ……とか言いながら額の汗を拭ってキラキラした表情をしてるヒナに思わず後ろから軽く蹴りを入れてしまったが、多分俺は悪くない。
「何してるはこっちのセリフだ馬鹿野郎。なにやりきった顔してんだ」
「何って掃除だよ。見て分からない? 孤児院にあるものはみんなが使うんだから綺麗にしないと」
帰り道の途中に教会に寄り、教会のシスターからは孤児院にヒナが向かったと聞いて、来てみればこれだ。
「掃除はいいことだな。教会でもやたら周りを掃除し回ってシスター達にウザがられたり、セシリーを追っ払ったり、お前はすごいと思うよ」
「ウザがられてはないけど、まあね。今日はかなり頑張ったから、褒められるのも悪くないかな。でも僕は当然のことをしたまでだよ」
無い胸を張ってドヤ散らかしてるヒナにイラッとしつつも俺は冷静に続けた。
「で、お前には他にやるべきことがあったよな?」
「えっ、あ、あー、えっと……」
ぎくりと痛いところを突かれたように身を震わせた後、目を泳がせるヒナ。
……こいつ、まさか。
「忘れてたんじゃないだろうな」
「…………」
「お前な……」
「ご、ごめん」
呆れはしたが、素直に頭を下げられると特に言うことはない。
過ぎてしまったことは仕方がない。
金を払わずに済んだ、そう思えば良いことかもしれない。
払わなかった場合のデメリットも特に無かったはずだ。
なんか俺が要注意人物としてマークされたらしいけど、来年はちゃんと払えばいい。
まあ、こいつらのリーダーは俺だからな、俺が責任を負うべきだ。
「掃除は終わったのか?」
「え? うん」
「じゃあ帰るぞ。今日はお前が夕飯当番だ。早く帰り支度しろ、外で待ってるぞ」
「う、うん。分かった」
先に部屋を出ると、シスターのアンナに出会った。
「よう、邪魔したな」
「はいはい。詳しくは知らないけど、それにしても身内にはとことん甘いのね、あんた」
「別に怒ったりするほどのことじゃないからな」
そう言った後、俺はそのまま後ろ手で右手を振って別れを告げた後、孤児院を出た。
「アンナ、ごめん! 僕もう帰るね! ────ヒカル、待った!?」
俺が孤児院から出た数秒後に飛び出してきたヒナは勢いそのままに尋ねてくる。
「待ってねえよ。ほら、行くぞ」
「うん」
そうして二人で帰路に着く。
しばらくすると、思い付いたようにヒナが俺に話しかけてきた。
「そういえばヒカルはカズマのこと捕まえられたの?」
「いや、捕まえられなかったよ」
「じゃあ、僕と一緒だね」
「何が?」
「仕事してない仲間だってことだよ」
「ふざけんなこの野郎。何でそうなるんだよ」
なんだか嬉しそうに笑うヒナに至極真っ当な疑問をぶつける。
「僕も任された仕事をしてないし、ヒカルも結局目的達成してないわけでしょ? だから、一緒」
「いいや、仕事自体には行ったからお前とは違う」
「捕まえられてないのに?」
「そうだ」
「僕も教会と孤児院をピカピカにしたよ?」
「それは全く関係ないだろ」
「お互い、仕事はしてる。だけど目的達成はしなかった。共通してるよね?」
「あー、はいはい。じゃあそれでいいよ」
「だったら一緒だね。ヒカルも夕飯当番だ」
「お前……反省してるんだろうな?」
「してるよーっだ。今日は何にする?」
「そうだな、じゃあ────」
そんなこんなで今日という一日が終わった。
ちなみに、俺達の間で今日の夕飯はハンバーグに決まっていたのだが、すでに帰ったゆんゆんがシチューを作って待っていた。
次回は
多分。