このすば ハード?モード   作:ひなたさん

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説明は後書きでさせていただきます。

152話です。さあ、いってみよう。



152話

 

 

『無駄だ』

 

 

 ──鉄の塊が身体を貫く。

 

 

『何故立ち向かってきた?』

 

 

 ────血で染まる視界。

 

 

『雑兵が。身の程を知れ』

 

 

 ─────吹き飛ぶ四肢。

 

 

『わざわざ死にに来るとはな』

 

 

 ────────胴体と首が分かれる。

 

 

『…………』

 

 

 ──────────。

 

 

 

 無言で見下ろす表情は呆れるような、憐れむような、そんな顔をしていて。

 

 それは残酷なほど美しく、冷たいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

 

 身体がバネのように跳ね上がる。

 数秒後、先程の光景が夢であったことを悟った。

 いや、なんとなく分かっていた。

 最近一人で寝るといつもこの夢を見る。

 騎士王に挑み、虫を払うように殺される夢。

 それがあまりにもリアルなものだから、なかなか起きた後も現実を疑ってしまう。

 一晩に何度も何度も起きるまで繰り返される夢。

 殺されるという結果は同じなのに、殺され方は丁寧にもバリエーション豊かだった。

 俺を飽きさせないための優しさなのだとしたら恐れ入る。

 お礼に最近俺達で共同開発したCQし──

 

「随分と眠れないみたいだね」

 

「っ、びっくりさせんなよこの野郎」

 

「ふふ、お邪魔しているよ、ヒカリ君」

 

 俺に声をかけてきたのは、まるでそこにいることが当然であると言わんばかりに俺の部屋の椅子に座っているマーリンだった。

 マーリンは何もかもが現実離れしている。

 容姿も力も、思考も。

 俺の部屋に急に現れることぐらい平然としてのける。

 法や他人の事情感情などは関係ない。

 マーリンがそうしたいから、そうする。

 

「で、何の用だ?」

 

「いやあ、あまりに辛そうだったからね。退屈しのぎに来てしまったのさ」

 

 そう言って微笑むマーリン。

 そのマーリンの翡翠の瞳はどこまでも見通してきそうなほど澄んでいた。

 恐らく言った通りなのだろう。

 マーリンが嘘をつくことはない……と断言してしまうのはなんだか嫌なので、多分嘘をあまりつかない、程度にしとこう。

 

「一応聞くけど、お前がこの夢を見せてるんじゃないよな?」

 

「ん? 私が? 何故そんなことをしなくちゃあいけないんだい?」

 

 きょとんとした顔で小首を傾げる姿は子供のような無邪気ささえ感じる。

 まあ、一応聞いておいただけだ。

 マーリンは夢魔のハーフとかそんな感じだったはずだし。

 

「その夢は君自身が望んで見ているものだよ」

 

「…………」

 

 何を言ってるんだ、こいつは。

 何で殺される夢を好き好んで見なきゃいけないんだ。

 

「厳密に言うと夢じゃあない。君が見たあれらは現実にあったことだ」

 

「……意味がわからん」

 

「『夢』とは何だと思う? 人が、いや人に限った話ではなく、寝ている時に見る夢のことさ」

 

「……俺がいた世界でも詳しいことは分かってない。記憶の整理とか、願望とか、そんな感じの解釈だったはずだ」

 

「なるほどね。それもまた正しいかもしれない。まあ、今回君が見た夢はそれらには当てはまらないんだけどね」

 

「あれか、未来視っていうか予知夢みたいなことを言ってるのか?」

 

 正夢になる、とでも言いたいのだろうか。

 

「それも違う。君が見たのは平行世界の光景だよ」

 

「はあ?」

 

 あまりに突飛すぎる話にただ聞き返すばかりだった。

 俺の頭の悪さは折り紙付きだろうが、今回ばかりは頭の問題ではないはずだ。

 そんなある意味失礼な、態度の悪い俺を特に何と思うこともなく、マーリンは拍手してきた。

 

「だから君は騎士王を倒す手段や可能性を考えるあまり夢で別世界の自分自身を覗き見てるというわけさ。おめでとう、君は私と同じことをしてのけた。コントロールは出来てないけど、もしかしたら私の魔法を使える可能性があるのかもしれないね」

 

「待て待て、そんなことがあるのか?」

 

「あるとも。夢にはそれだけの可能性がある。だからこそ君達の世界でも夢のことを解明出来ない。夢を解明するには科学だけでは足りない、それどころか平行世界についても解き明かし、それらを観測する以上の技術がなければならない。それが私には出来る。夢を通して、あらゆる可能性の力を引き出すことで、私の魔法は使えるようになるわけさ」

 

 夢にうなされて困っていただけだと思ったら、とんでもなく壮大な話をされてしまった。

 マーリンの魔法が使える可能性があるってのも、正直気になるところだ。

 

「普通の人なら数ある可能性の中の夢を選び続けるのは不可能さ。選択し、可能性を探し続けた君は間違いなく才能があるよ。普通の人より一歩ぐらいは先に進んでるね」

 

 一歩かよ。

 いや、まあそんなところだとは思った。

 そもそも魔力を感じ取ることさえ俺には難しいのだから無理だろう。

 …………そろそろ寝よう。

 また嫌な夢を見るかもしれないが、寝ないよりはマシだろう。

 

「おや、私の魔法が気にならないのかい?」

 

「出来るかもわからないし、習得するのに何年かかるかも分からないしな。それなら今出来ることをする。つまり睡眠だ」

 

 そう言って俺は布団を被った。

 

「ふふ、そう言ってくれて嬉しいよ」

 

 というか夢を選んで見ることが出来るなら、もっとハッピーなのが見たいね。

 ゆんゆんさんと大人ゆんゆんさんに挟まれる夢とか。

 

「元より私の魔法を教える気なんて、さらさら無かったからね」

 

「…………」

 

 その発言に少しイラッときた俺は布団の中からマーリンを睨んだ。

 

 ────それをほんの少し、後悔した。

 

「君は確かに特殊な存在であるけれど、特別な力を得るなんてつまらなすぎるだろう? 君には、今の君のまま騎士王に勝ってほしいんだ。特別で強い力を持っている人間が勝つなんて当然の駄作は見たくない」

 

 三日月のように歪みきった笑みを見た。

 翡翠の瞳は美しいままだが、その奥には名状し難い狂気が渦巻いていた。

 

「可能性をいくら探しても無駄なんだ。だって君が騎士王に勝つのは不可能なんだから。何をやっても勝てっこない。君が勝つ可能性はあり得ない」

 

 上気した頬が赤く染まり、恍惚とした表情が浮かび上がる。

 浮世絵離れした美女のあられもない姿だというのに、俺は全くマーリンから女性らしさを感じなかった。

 

「だからこそ! だからこそ、そんな君が騎士王を倒すのさ! 最高じゃあないか! 数多の可能性をひっくり返して、あらゆる想像を超えていく! ああ、なんて待ち遠しい! 早く見たい! こんな退屈な世界から、私を解き放ってくれ!」

 

 興奮しきったマーリンの声は次第に大きく、熱を増していく。

 だが、部屋の外から人がやってくる気配は無かった。

 不法侵入はしてくるが、騒音に関しては気を使うのか、こいつは。

 そんなツッコミが頭に浮かんで、俺は冷静になることが出来た。

 

「で、本当にお前は何しにきたんだ?」

 

「──ん、ああ、そうだった」

 

 ずっと疑問だったことを尋ねると、マーリンは思いの外すぐにいつもの調子に戻った。

 

「夢でお困りみたいだから、私の出番みたいなものだろう? まあ、君が少し前に通っていた喫茶店ほど良いサービスは……」

 

「おい、その話はやめろ」

 

「通ってたのは事実じゃあないか。まあ、いいさ。そんな態度を取るなら代金をいただくとしよう」

 

「は? いや、別にいい……」

 

「ほんの少し精気をもらうね。本当はいらないんだけど、ちょっと興味もあるんだ」

 

「だから、やらなくて……」

 

「おやすみ。良い夢を」

 

 ──────────。

 

 ────────。

 

 ──────。

 

 

 

 身体が鉛のように重い、という表現はありきたりではあるもののなんとなく想像しづらいかもしれない。

 だが、今はまさにその状態だった。

 熱があるかと思ったが、特にそうでもないらしく、苦労しながらもリビングに出る。

 朝の挨拶を交わしたあと、ヒナからは「マーリン臭い」と軽蔑の目を向けられた。

 朝食を終えると体調はマシになってきたが、午前中は英気を養うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレテン王国、キャメロット城のとある一室。

 その部屋の高級感溢れるソファーを我が物顔で占領する絶世の美女がいた。

 

「はいはい、絶世の美女マーリンさんですよー」

 

 そう、マーリンである。

 ソファーに寝そべり、寛ぐ彼女の姿はそれだけで絵画のようであった。

 彼女の目の前に幾つもの本が開き、別の空間に繋がる穴が無かれば、だが。

 

「この世界の本はこれでお終い。相っっ変わらずつまんなかったけど、これで暇つぶしの手段が一つ無くなっちゃったな」

 

 マーリンの前に浮かぶ本が最後までページを開ききると、閉じて本棚に吸い込まれるように収まっていった。

 

『悪い、今日は家で大人しくしとくわ。その分、家事は任せてくれ』

 

 そんな声が開かれた空間から聞こえて、マーリンはクスリと笑った。

 

「ふふ、ごめんね。手加減というか、どれぐらい精気を吸っていいのか分からなかったからさ。少しやりすぎちゃったかも」

 

 マーリンは夢魔でもあるのだが、精気を吸ったことが無かった。

 吸う必要もなく、興味も無かった。

 ただ、それだけのことである。

 

「君に残された時間はあまりにも少ないよ、ヒカリ君」

 

 笑みが深くなり、視線は熱を帯びていた。

 愛おしげに見つめる彼の姿は、自室のベッドでダルそうに座っていた。

 期待が膨らむ。

 想像を超える何かが、きっと待っている。

 このつまらない世界で、ありきたりで予想通りのことしか起きない最悪の現実から救ってくれるはずだ。

 

「ふふ、ふふふふ、あ、あれ? なんだかおかしいなぁ」

 

 いつも通りの自分ではない、とマーリンはすぐに気付いた。

 マーリンの頬は紅潮していた。

 気分はなんだか爽やかで、視線が少し落ち着かない。

 

「ん〜? もしかして、これって……酔ってる?」

 

 今まで興味すらなかった精気を吸った。

 それが何故だかアルコール摂取に似たようなことになっていた。

 

「え、まじ? この私が?」

 

 ほんの少しの間、困惑した様子のマーリンであったが、特に問題も無いので「まあ、いっか」と呟いた後、別の空間へと視線を移した。

 

「あ、いいこと思い付いた」

 

 視線の先にはシロガネヒカルがいた。

 この世界の本は読み終わってしまったが、彼が元いた世界の本は触れたことがない。

 だから、ささっと手に入れてしまえばいいのだが。

 

「ちょっと向こうに行ってみようか。それで彼に本だけでなく、暇をつぶせそうなものを見繕ってもらおう」

 

 ちょうど彼はゆっくりしているらしいし、少し連れ出すくらい問題無いだろう。

 そう判断して、マーリンはヒカルの部屋へと向かうべく、足を踏み出した。

 





これで次にマーリンが出るのは最終章の中盤以降になる……はずです。
もう出てくるなよ……便利すぎるんだお前は。

マーリンの魔法を使える可能性があると言われたヒカル君ですが、ほぼ不可能に近いです。
まあ、五万回ぐらい死んで生き返ってを繰り返して、生と死の世界を反復横跳びしたら魔法を使えるようになるかもしれないです。
そこら辺はマーリン√で語られるかもしれないですね(書きませんけど)

酔った勢いで日本に連れて行かれる話が後々役に立ったり、立たなかったり。
連れて行かれた話は語るべき時が来たら。

次回から本格的に原作13巻の内容に入ります。
13巻の内容的に多分ヒナギクが頑張ることになるでしょう。
それでは、良いお年を。
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