153話です。さあ、いってみよう。
「ついにこの時が来たわ……!」
夕刻、俺が家に帰ってきた時に最初に聞こえてきたのはゆんゆんのそんなセリフだった。
何だろうと思い、居間へ向かうと闘志を燃やすゆんゆんと手紙を読むヒナとトリスターノの姿があった。
「ただいま」
「あ、おかえり」
「おかえりなさい」
ゆんゆんは夕空を眺めて闘志をメラメラと燃やしているせいか俺に気付いてないらしい。
とりあえず俺は事情を知ってそうな二人に話を聞くことにした。
「で、どうした?」
「紅魔の里からの手紙だよ。とっても読みづらいけど」
「ヒナさんの言う通り、文章が少々難解ですが、次期族長を決めるための試練が行われるそうです」
次期族長……そうか。
ゆんゆんのあの気合いの入りようにも納得がいく。
ずっと目標にしてたもんな。
「あと、ヒカルは必ず、僕達もなるべく来てほしいって書いてある」
「そうか。何が出来るか分からないけど、元々行くつもりはあったからな。二人はどうする?」
「聞くまでもないでしょ」
「行くに決まってます」
愚問だとばかりに頷く二人につい笑みが溢れた。
試練が何をするかは全く分からないが、この四人ならきっとなんとか出来そうだ。
「次期族長に! 私はなる!!」
麦わら帽子を被った海賊のような宣言をする気合いばっちりのゆんゆんの瞳は夕陽に負けないぐらいに輝いていた。
…………それはそれとして、いい加減俺に気付いてくれないかな。
手紙が届いた翌日。
鈍った身体を慣らすべく、軽い運動のため適当なクエストを受けた。
先日ダクネスのいとこであるシルフィーナが病に倒れて、孤児院でそれなりにシルフィーナと接触していた俺とヒナも感染して倒れる……なんてこともあり、少し心配だったのだが特に問題はなかった。
むしろ数日間家から出られなかったヒナは元気が有り余っているらしく、モンスターを全滅させる勢いで突っ込んでいくので、トリスターノは援護するのが大変そうだった。
他にはこれといった苦労もなく、昼過ぎぐらいにはアクセルに帰って来ることができた。
クエストの完了報告や使った武器の手入れなどを済ませた頃には夕飯の準備をする時間となった。
「あ、そういえばめぐみんに試練のこと伝えなくちゃ」
急にゆんゆんがそんなことを呟いた。
「族長の座をかけて勝負でもするのか?」
「えっ、そ、それはまあめぐみんがどうしても勝負がしたいっていうならしてあげてもいいけど、それだと私が族長になってからじゃないと勝負出来ないわね」
ゆんゆんの返答の意図が分からず、微妙な顔をしたであろう俺の顔を察してか、すぐにゆんゆんから補足の説明がきた。
「めぐみんは試練を受けられないもの。だから勝負をするなら私が試練を終えた後になるわ」
「めぐみんが試練を受けられない理由はいくらでも思い付くけど、具体的には?」
「い、いくらでもって……。上級魔法とテレポートが使えることが最低条件よ」
じゃあ無理だな。
あいつスキルポイント全振りだし。
「じゃあ、別に知らせてやらなくてもいいんじゃないか?」
悪い言い方をすれば、試練を受ける資格すらないめぐみんにわざわざ試練があることを教える必要はないんじゃないかと思ったのだが。
「それはそうなんだけど、めぐみんのことだからどうせ後から難癖付けてくるに決まってるわ! だから先にちゃんと言っておかないと!」
言われてすぐにそんな光景が目に浮かぶ。
めぐみんへの理解がありすぎるゆんゆんに苦笑してしまう。
そんなこんなで俺とゆんゆんはカズマ宅に向かうことにした。
カズマの屋敷に着いた。
来る途中に血相を変えて爆走するダクネスが俺達の前を通り過ぎて行った、なんてことがあったのでカズマ達に何かあって不在にしている可能性も考えていたのだが、
「よお、邪魔するぜ」
「お、お邪魔します」
「ん? おお、ヒカルとゆんゆんじゃないか。どうしたんだ?」
「ゆんゆんがめぐみんに話があってな。俺はそのついでだ」
ノックして入り込んだ屋敷の中は特に変わった様子もなく、ダクネス以外のメンバーがいた。
あの爆走ダクネスは気になるが、ダクネス個人の問題だったのかもしれない。
こいつらも気にしてるような雰囲気は無いので特に聞く必要も無さそうだ。
「今日は何の用ですか、ゆんゆん? 私は見ての通り暇じゃないのですが」
「ちょむすけと遊んでるようにしか見えないんだけど……。これよ、紅魔の里からの手紙」
ゆんゆんから手渡された手紙を訝しげな表情で広げるめぐみんの両隣をカズマとアクアが挟み込み、三人で手紙を読み始めた。
「どれどれ、『我が偉大なる同胞達よ。時は来たれり。今こそは、鍛え上げ、研ぎ澄まされた力を解放する時。ついては我と思わん者よ、この手紙が届いてから────』」
「次期族長を決める試練をするから、希望者は一月以内に里に集まれってよ」
「もっと早くに言ってくれよ……」
疲れた様子で言うカズマ。
俺も読んでみたけど、面倒な言い回しが多いからな。
読み終わったのかめぐみんが勢いよく立ち上がり、拳をグッと握りしめて言った。
「なるほど、これを持ってきたということは、この私も次期族長の候補ということですね? いいでしょう、準備を始めますよゆんゆん! 我こそが紅魔族一に相応しいことを証明してみせましょう!」
「えっと、次期族長の試練を受けたいなら、最低限上級魔法とテレポートが使えないとダメよ。それに、準備も何も私ならテレポートすれば一瞬だし」
ゆんゆんがきっぱりと言い放つと、めぐみんは拳の力を抜いて、冷静に尋ねた。
「……では何故私にこの手紙を?」
「だって、一応教えておかないと、めぐみんのことだから難癖付けて来るに決まってるし……って、いたっ!? ちょ、ちょっと! 試練を受けられないのは自分のせいでしょ!? やつあたりしないでよ!」
わちゃわちゃし始めた紅魔女子二人を横目に、カズマが俺に話しかけてきた。
「ところでヒカル。うちに最高級のステーキがあるんだが、食っていかないか?」
「あ? なんだ急に」
「いやいや、前にヒカルに悪いことしちまったこともあるし、なんだかんだお世話になってるから、そのお礼にな」
「…………」
怪しすぎる。
カズマが金に余裕があるのは分かってるが、いくらなんでもおかしい。
「よし、先に言っておく。俺はただ純粋にヒカルにご馳走をしたいだけなんだ。それで俺がヒカルに対して何かを求めたりしない。本当だ、誓うよ」
「嘘くせー」
「マジだって」
明らかに怪しいのだが、ここまで言って何かあるようなら、俺も大人しくしないであろうことはカズマも分かるだろうし……。
「じゃあいただくよ」
「よしきた、俺の料理スキルが火を吹くぜ」
そう言って台所に向かっていくカズマ。
まったく……今、魔王軍に一番の大打撃を与えてるパーティーのリーダーのスキルじゃないだろ。
「不味い」
「頑張ったんだけどなー」
不味いし、硬いし、あとちょっと臭い。
「これのどこが最高級なんだよ」
「最高級なのは間違いないぞ。何せドラゴンの肉だからな」
「はあ?」
これが?
料理スキルを使っても、こんなに不味いのに、これがドラゴンの肉……?
「ドラゴンは最強のモンスターだからな。筋肉に覆われて脂肪なんてほぼ無いし、肉食獣の肉は臭い」
「お前、なんでこんなの……」
「話は最後まで聞け。豊富な経験値を得られて、ステータスが上昇するから高いんだ」
高価な理由はわかったけど。
「お前強さなんて求めてないだろ。高いだけの肉なんて買う意味ねえよな?」
「…………まあ、単純に興味をそそられてな」
なんか間があったな。
俺に味見させて様子見したかったってところか。
とりあえずステータスが上がるのは魅力的だし、残さず食べることにしよう。
「ドラゴン肉のことを買ってから知ったカズマが誰かに押し付けたくてしょうがなかったところにアンタが来ただけよ」
先程まであまり喋らなかったアクアが全てを簡潔に教えてくれた。
「おっま、アクア! 何バラしてんだよ!?」
「だって口止めされてないし、何より本当のことじゃない」
やっぱり裏があったか。
ただの不味くて硬くて臭い肉だったら、容赦なく残して帰るんだが、一応俺に得があるから追及は無しにしておこう。
「……手紙で一つ気になる点があるんですが」
「あんだよ」
いつの間にか落ち着いた様子のめぐみんが硬い肉に苦戦する俺に尋ねてきた。
ゆんゆんはちなみに頬を膨らませて、そっぽを向いている。
「ヒカルは試練に確実に出るように、と書かれていますが、何故ですか?」
「そりゃあお前、ゆんゆんの仲間だし、それに結婚もするしな」
「「「は?」」」
「ん?」
カズマ達が間抜けな顔でこちらを見てくる。
あれ、もしかして……。
「言ってなかったっけ?」
「言ってねえよ!」
「聞いてませんよ!」
「初耳なんですけど!?」
そんな三者三様のツッコミが来た。
そういや、誰にも言ってなかったか。
ゆんゆんも言ってなかったのかと思い、ゆんゆんの方を見てみると耳まで真っ赤になっていた。
「ゆんゆんが無事に族長になったら、そのまま里で式も挙げるから来てくれ」
「「「はあああああああああ!!!???」」」
カズマ達三人の絶叫が屋敷内に響き渡った。
爆焔のアニメが放送されましたね。
一話も見てませんけど。
GW中には見ます、多分。
見て創作意欲が湧いたりすれば、またこの連休中に投稿があるかもですね。
原作のあまり美味しくないステーキを食べて嫌われてるんだと勘違いして泣くゆんゆんルートは回避出来ました。
まあ、これはこれで可愛いんですけどね。