「では、くれぐれもよろしくお願いしますね」
「……はい、わかりました。今日はありがとうございました。失礼します」
今は深夜を過ぎている。
これ以上話しかけられないようすぐに教会を出た。寝不足と過労で疲労困憊のはずのエリス様だが、ヒナギクトークは全く止まることは無かった。ストレスでおかしくなってると思いたいけど、多分アレが普通なんだろう。
まるで朝会の校長先生だ。何回意識が飛びかけたかわからない。
明日は悪魔討伐のクエストがあるってのに。
翌朝。ギルドは朝とは思えない程騒々しかった。プリーストが足りないだの、ポーションを作れる魔法使いを募集だの。
今日は上位悪魔討伐クエストの日。冒険者たちは準備に追われ、慌ただしい。
この討伐クエストはかなり大規模で参加グループは総勢十組。それぞれのグループに六から十人が所属されている。百人はいないにしろ、何十人と言う規模になっている。
人数や人員配置の関係で俺とトリスターノは同じグループだが、ゆんゆんとは違うグループになったが、ゆんゆんはめぐみんと同じグループらしい。
装備は少ないが、一応確認していた。最初の頃は片手剣とサバイバルナイフだけのクソ雑魚装備だったが、今や胸当てに籠手、脛当てと最低限の装備を揃えられていた。
俺はほぼ初心者扱いで荷物持ちだが、参加する以上準備を怠るわけにはいかない。
荷物持ちでも『居るだけで』いいのだ。何かあれば剣を抜いて戦うし。
準備をしながらトリスターノと雑談しているとヒナギクがやってくる。
「行くのは止めないけど、何かあったらすぐ逃げるんだよ?」
開幕早々使えない発言である。俺だって傷付くんだぞ。
「本当は止めたいんだけど、どうせ聞かないでしょ?」
「お前はなんだ?お母さんですか、この野郎。どうせ荷物持ちだよ、早く準備してなさい、しっしっ」
む、と少し不機嫌そうにしたが、すぐに心配する顔に戻る。何かを喋ろうとして誰かが遮ってきた。
「君がアークプリーストか?というかシロガネの知り合いかい?」
「そうですよ。貴方が魔剣の勇者さんですか?」
そういえば言うのを忘れていた。ミツルギの本来の目的はアークプリーストを仲間にすることだったな。
この二人は今回の討伐の同じグループになったみたいだ。
二人はお互い自己紹介し、ミツルギが自分のパーティーへ勧誘し始めるが、何故か俺の方を見た後にこの街でやりたいことがあるから、と断っていた。
ミツルギもすぐには折れないみたいで今回の討伐が終わったら、また話をさせて欲しいと言って去っていった。
今回ミツルギのグループが一番先頭の主力部隊となっている。
魔剣の勇者のパーティーにアークプリーストのヒナギク、その他にも高レベルの冒険者が集っている。そのグループとは他にもう一組の名の売れているパーティーも入ってるとかで勝利は堅いとされている。
出来れば何事も無く無事に終わるといいのだが。
ヒナギクがやたらと俺を心配しているが、危険な位置にいるのはヒナギクだろう。自分の心配をしてくれ。
その後ヒナギクも準備があるからと去っていった。
「貴方は愛されてますねえ。羨ましいです」
トリスターノが何か言っているが、どう考えても雑魚がいつ死ぬか冷や冷やしてるだけだろう。
「お前も昨日複数人に愛されてたじゃないか。イケメンのくせに何を言ってるんだ」
「あの、もしかして良からぬ勘違いをしてるんじゃ……」
「いやいや、別に何も勘違いなんてしてないぞ。せいぜい頑張ってハーレムを作ってくれ」
「ちょ、ちょっと待ってください!あの子はお世話になっている馬小屋の主人の娘さんで」
「親公認かよ。よかったじゃないか。愛があれば歳の差なんて、というやつか。これだからイケメンは」
「違います!……あ!もしかして昨日ゆんゆんさんと二人で変な反応だったのはもしかして」
「変な勘違いはやめろ。ほら、ゆんゆんも気ぃ使ってくれてるんだから、遠慮することは無いぞ」
「ちょ、本当に待ってくださいよ!暇だったから遊んであげてただけです。邪な気持ちは一切ありません。なんなら嘘発見の魔道具を使ってくださっても構いません」
え、そんなのあるの。怖。ファンタジーの闇だわ。
「つまりはアレか、トリスターノ。アレは遊びだと?」
「……あの、絶対変な意味で言ってますよね?」
「遊びか。最低だな!」
「誓って変な趣味はありません!」
別に変な趣味なんて言ってないんだが。
この世界の顔面の偏差値は異様に高いからな。どんな愛があってもおかしくないと思う。
「今更お前に変な設定が加わってもいいが警察のお世話にはなるんじゃないぞ」
「全然信じてないじゃないですか!」
「よし、出発の時間だ!」
「誤魔化さないでください!」
「ほら、よく言うだろ。レディの求めに真摯に応じるのが変態紳士の……」
「変態って言いましたか!?本当に違いますから!」
冒険者の大軍がぞろぞろと森に行列を作っている。
早く悪魔を倒して森へ入れるようにしたいという気持ちも大きいが、今回の討伐クエストは参加するだけで報酬が出ることから多くの冒険者が参加することになった。
参加するだけお得なのだ、荷物持ちでもなんでもやってやる。
俺とトリスターノが所属するグループは前から三番目の団体にいる。ゆんゆん達紅魔二人は一番後ろにいるみたいだ。
「モンスターが出たぞ!」
先頭グループから警告の声が飛ぶ。全員が警戒し臨戦態勢となる。
どこからともなく現れた大量のモンスター。
今の森は本当に異常だ。これほど大軍の冒険者が対応に追われる程のモンスターが出るなんて聞いたことがない。
後方から悲鳴が聞こえたが、ゆんゆん達は大丈夫だろうか。
突然前方から轟音が聞こえる。
前方のグループの冒険者がいきなり逃げ惑う。
「おい、やばいぞ!魔剣の勇者が傷を負って、アークプリーストがやられた!」
……ヒナギクが?ミツルギも?ウソだろ?
俺が呆然としてる中、前方の冒険者のほとんどが逃げる。冒険者がいなくなり、前の光景が見えるようになる。
ヒナギクは力尽きたかのように倒れ、傷を負っている状態でなんとか悪魔と対峙するミツルギの姿が見える。ミツルギのパーティーの女性二人もいたが完全に怯えてしまっていて動けないでいる。
「ヒナギクッ!!」
考えるよりも身体が動く。荷物を放り投げヒナギクの元へと走る。
「トリスターノ!」
荷物を持って行ってくれ、とお願いしようとしたが
「援護します!行ってください!」
すでに弓を構え、前方を睨んでいるトリスターノの姿に気持ちが押される。
「すまない、僕がいながら。その子をお願いしてもいいか!?」
ミツルギがなんとか悪魔と戦いながら俺に声をかけてくる。
あの悪魔は森であったデカブツだった。
ヒナギクは頭から血を流し、力無く倒れている。意識は当然無い。
くそっ、お前、俺のこと心配してたくせに何やってんだこのバカ!
乱暴だがそんなことを気にしてる場合じゃない、肩に抱えて全力で走り出す。
「ミツルギ、すまん!」
「僕は気にしなくていい!行ってくれ!」
俺はまたミツルギのイケメンぶりに助けられた。
俺は教会にヒナギクを預けた後ギルドに来ていた。
今回の討伐は惨敗。ヒナギクとミツルギは重傷を負い、十数名が軽い怪我を負った。
次の討伐に行きたくても主力は倒れ、他の冒険者達は魔王軍幹部クラスの力を持つ悪魔にビビっていた。
無理もない。結局俺達は駆け出しの街の冒険者でしかない。俺もただ荷物を持って、ヒナギクを持って帰ってきただけだ。何も言えない。
ゆんゆんが心配して声を掛けてくれているが何も返せずにいた。
悪いことは連続して起こるものだ。
なんでも魔王軍幹部の一人が大軍を率いて魔王城を出たらしい。その影響で他の街からの応援は見込めず、駆け出しの街にいる冒険者でなんとかするしか無いと。
終わってる。悪魔がこの街に攻め込んで来たら終わりだ。一応ミツルギもかなりの接戦をしたらしく片翼を切り落としたぐらいの傷を負わせたらしい。
その影響でこの街に攻め込んで来るようなことはない、と思いたい。
俺もミツルギみたいにあんな悪魔と戦えるような能力を貰っておけばな。今日で倒せたかもしれないのに。
ギルドがアークプリーストがどうとか騒いでいたが、ゆんゆんとトリスターノに一人になりたいと伝え、一人でギルドを出た。
結局俺は馬小屋でただただ無駄な時間を過ごした。夜になり俺はヒナギクが心配で教会を訪れていた。
大丈夫だろうか。なんとかなっていればいいんだが。気持ちは重いがどうしても確認したい一心で俺は教会の扉を開けた。
「シッシッ!ほら!見てください!もう回復しました!元気です!」
「いや、ちょ聞いてください!外傷は治せましたけど、中が治しきれてないんですってば!安静にしてくださいお願いします!」
そこには元気にステップを踏みながらシャドーボクシングをするヒナギクとなんとか止めようとする数人のプリーストの姿が。
ふっ、そうか。元気になったか。よかった。
「なんて言うとでも思ったか、このバカちんがあああああ!!!」
「おげろっ!!」
俺は全力で走って助走をつけた全身全霊のドロップキックを喰らわせた。
「いや、何してくれてんですかああああああああ!!!」
プリーストにブチ切れられたがそんなことはどうでもいい、このバカを止めるのが重要だ。
「てめえ、無駄に元気になりやがって!!もう回復魔法なんかかけないでベッドに縛り付けてやる!!」
気絶したヒナギクの胸倉を引っ掴んでぐわんぐわん振り乱す俺を全力で止めようとするプリースト。
「ほんとに!本当に絶対安静にしてないといけないですから!!」
「じゃあ引っ叩いてでも止めろよ!何してんだよ!」
「だ、だって『まずはこのステップを見てください!ほら、元気でしょう!?次はこのウィービングをですね……!』とか言いながら動き始めるから!」
バカなのか?このアークプリースト。死にたいんじゃなかろうな。
「もう回復魔法かけなくていいから手足ふん縛ってベッドに括り付けとけよ。このバカはそれくらいで丁度いいのがわかったろ?」
「いや、あんたのせいで傷開いてるんですけど!白目剥いてるんですけど!」
「テキトーに治してくれ。あと変なこと言わないよう口に何か詰めて縛っておけ。あとついでに鼻にも入れとけ」
「それ死んじゃいますから!ついでのせいで呼吸できませんから!」
「安心しろよ。絶対安静なのにボクシングするぐらい根性あるんだ。少し鼻と口塞がれたぐらいで死なねえよ」
「いや、んなわけないでしょ!」
プリースト達が回復してる間に縄を持ってきて縛ろうと近付いた瞬間暴れだすヒナギク。
「ちょ、てめ、何抵抗してんだ!」
「悪魔は殺さなきゃいけないの!悪魔なんかに倒されたとあったら僕はエリス様に顔向けできない!回復するまではちゃんと待つから行かせてよ!」
「ボロボロのくせに何言ってんだこのバカ!抵抗するな!みんな手伝ってくれ!」
プリーストも手伝おうとしてるが、猛獣のように暴れるせいで誰も近寄れない。
「お願いだよ!多分悪魔も相当弱ってるだろうし、不意打ちされなきゃ次は勝てるから!」
「多分で行かせられるか!このポンコツ!」
「ポンコツ!?ヒカルこそ弱いくせに僕を止められると思わないでよ!僕が本気出せば……」
「エリス様にお前のこと頼まれてんだよ!安静にしてろ!」
聞いた瞬間、先程までの抵抗が嘘みたいになくなる。プリースト達も固まって、信じられないような顔でこちらを見ている。
「う、嘘言わないでよ。僕を止めたいからってエリス様の名前を出しても無駄だから!」
「嘘じゃねーよ!お前が小さい頃に会った話とかアホみたいに聞かされたんだよこっちは!別に聞きたくもねえのによ!」
「え……」
「エリス様にヒナギクのことはお願いします。何かあったらすごい天罰落としますって言われてんだ、安静にしてろ!」
「た、確かに小さい頃に会ったけど、そんな天罰落とすとかエリス様が言うわけないでしょ!!バカなの!?」
「バカはお前だよ!ヒナギクは私の可愛い子だって言ってたんだよ!小さい頃から教会に来て祈りを捧げる純粋で可愛い信徒だってな!」
「……」
「わかったら、回復してもらってクソして寝ろ!」
「……わかった。でも後で色々聞かせてね」
「安静にしてたら考えてやるよ。この後バカしたらエリス様にチクってやるからな」
ヒナギクはプリーストに連れられて大人しくベッドに向かっていったようだ。
「まったく……エリス様の御前でドロップキックをするなんて貴方ぐらいでしょうね」
この教会のそこそこな立場にいるプリーストのアンナが責めるような視線で話しかけてくる。
「なんだ?じゃあエリス教徒はエリス様の御前でシャドーボクシングするのか?エリス教はボクシングが必須なの?」
「ち、違います!あれは、その、そう。エリス様へ捧げる舞みたいなものです」
「嘘こいてんじゃねーよ!なんで神様の前でシャドーボクシングすんだよ!世の教会がみんなボクサーだらけになるだろうが!」
「……エリス様の御前ですよ。大声は控えてください」
「今更何言ってんの??言い返せなくなっちゃったかな?」
「ところで先程エリス様に会ったとかどうこうとか言ってましたが」
「それが?」
「その、どんな感じだったかとかどうやったら会えるとか、教えてくれてもいいですよ?」
美人なアンナがウインクしながら上目遣いをしてるが、俺にそんなの効かない。
「シャドーボクシングしてればわかるんじゃねーの?」
「なわけないでしょ!!」
エリス様の御前ですよ、大声は控えてください。
評価になんか色も付きはじめました。
読んでくださり、更には評価までありがとうございます。
もう少しで一区切りしますので、是非お付き合いくださいませ。