32話です。さあ、いってみよう。
くさい大戦が起こった翌朝。
全員で朝食をとり、情報収集の為ギルドへと向かった。
ギルドに着いたがあまり良い雰囲気とは言えない感じだ。職員さんはあまり綺麗な人はいないし、冒険者もガラが悪いやつばかりだ。
そう考えるとアクセルは相当良い街なんだな。
手の空いている女性職員さんに話しかけると塩対応だったが、トリスターノがアクセルから来たゴースト討伐に来た者です、と伝えるとそれはもう丁寧に説明してくれた。
…別にいいけどね。別に。全然気にしてないよ。俺が悪いよね、最初にアクセルから来たってちゃんと言えばよかったねうん。
ゆんゆんとヒナにぽんぽんと背中を叩かれて慰められたが、全然慰めになってないからねそれ。傷口に塩塗りたくってるから。
ゴーストはルーシーズゴーストと呼ばれていることがわかった。それ以外に新しい情報は無かった。
教会近くで起こる失踪事件もゴーストが関わってるかどうかもわかっていない。調査しようにも不気味がって誰も行っていないみたいで、これもまた新しい情報はなかった。
だが今も犠牲者は出てるようだ。
ヒナの方を見たが平然としている。
一週間前は落ち込んだり悩んだり突然ブチ切れたりと情緒不安定だったが、あの日の夜に教会で祈りを捧げていると、声が聞こえてきて悩みを払ってくれたという。
エリス様は本当に過保護だ。
そのおかげでヒナにはもう迷いは無い。
続いてこの町周辺のモンスターの情報が載っているガイドブックを貰った。もちろんトリスターノに手渡しで一人分だ。裏表紙に値段が書いてあったが見なかったことにしよう。
教会への経路やどう行けば安全かなどの情報も忘れずに聞き出した。
トリスターノがお礼を言って職員と別れた。
部屋に戻ってモンスターの情報の共有をしつつ作戦会議をすることにした。
「よし、みんな頭に叩き込んだか?」
全員でガイドブックを読んで、会議が終わったのでみんなに声をかける。
みんなから大丈夫だという返事が返ってきたので、一応ヒナに確認することにした。
「ヒナ、行けるな?」
「大丈夫だよ。心配いらない。傀儡と復讐を司る女神なんて聞いたし、エリス様にも」
「え?傀儡と復讐?」
ゆんゆんが反応してきた。なんだ?知ってるのか?
「ゆんゆんさん、何か知ってるんですか?」
「い、いや、なな何も知らないよ!?」
いや、それで知らないは無理があるだろ。
「なんだよ、明らかに何か知ってるだろ」
「うっ…」
「ゆんゆん、どうしたの?話せないこと?」
「えっと、話せないことっていうか、言いづらいことっていうか」
はっきりしないな。
「はよ話せ」
「その、紅魔の里にはね」
ゆんゆんがようやく話し出す。
紅魔の里には『名もなき女神が封印された土地』というものがあって、その封印されている女神とやらが傀儡と復讐を司る女神だという。
約二年前に紅魔の里で邪神の僕とやらが大勢で攻めてきた時にめぐみんが自分やめぐみんの妹を守る為に爆裂魔法を放った。その爆裂した場所が『名もなき女神が封印された土地』で、そこに封印されていた傀儡と復讐の女神が解放されて逃げていってしまったと。
「「「……」」」
俺達はなんとも言えなくて黙る。
「だ、だからね?封印から解放されて約二年も経ってるから多分もう新しい信者が出来てるから女神様が消えることは…ないと、思います」
そういう問題じゃない。
だが女神が消えないというのは確かに遠慮する必要が無くなったと言えば無くなったのだが。
紅魔族…本当におかしな種族だ…。
「あー…まあこれで浄化してやれるな?」
「う、うん。そうだね…」
今日の会議は今までに無いほど、微妙な空気で終わった。
準備も既に終わっているので今日討伐に行くことになった。
今回の討伐のクエストの主力、というかクエスト達成できるのがヒナだ。なのでヒナには力を温存してもらわないといけない。
いけないのだが…。
「わあああああああああ!!!きもい!ゆんゆんさん!ゆんゆんさん!ヘルプ!」
「無理無理無理無理!!私もう無理!私もう紅魔の里に帰るーーー!!」
ゆんゆんが帰るとか言うんだなとか考える間もなく逃げ出す。
トリスターノが俺に迫ったやつを綺麗に頭を狙撃して倒した。
俺達が今相手にしているモンスターは『冬牛夏草』
冬牛夏草は、生き物の頭に寄生して脳を侵食し、他生物を襲わせてその死体に卵を植えるというエグいモンスター。牧場などのその場からあまり動けない様な生き物に寄生することが多い。セミ等を苗床にするキノコの冬虫夏草と同じ名前がつけられた。強さは寄生した生き物の強さに左右されるから、そこまで強力なモンスターでは無いのだが。
「『ファイアーボール』ッッ!『ファイアーボール』ッッ!」
半狂乱でゆんゆんが魔法をぶっ放す。
凄まじい爆風だが、なんとか吹っ飛ばされずに済んだ。
植物的な名前だがやはりモンスター。
俺達は頭に猿ほどの大きさのエイリアンみたいな凶悪な寄生生物を生やした馬や牛に襲われている。
「ね、ねえ?僕もやっぱり参加しようか?支援魔法ぐらいなら多分大丈夫だよ…?」
『ギチギチゲタゲタゲッゲッゲッゲッ!』
「うるせえ!ゆんゆんさんとトリスターノに任せろ!」
「ええっ!?ヒカルも頑張ってよお!『ライトニング』ッ!」
ガイドブックはみんなで読んだ。読んで知識を得ていたが、見た目が文章で思い浮かべたもの以上にグロテスクで気持ち悪かった。
襲ってきてる数も多く、恐らく十以上いる。
「これだけいるということはクエストで出ている可能性もあります、ね!報酬が増えます、よ!」
狙撃しながらトリスターノが話しかけてくる。そんなんでテンション上がると思ってんのか!?
「トリスターノ!お前に報酬全部やるから倒してくれ!」
「いえいえ!いらないのでリーダーにお譲りします!」
「じゃあ金だけ、貰う、ぞ!」
ゆんゆんに近づいてきた一体の頭を寄生生物ごと斬り落とす。ひいっ!とゆんゆんがビビってるが気にしてられない。
「理不尽ですよ!」
『はあ……はあ……はあ……』
三人でなんとか倒し切れた。
ヒナは馬とか牛が倒れているのをじーっと見た後
「今日は焼肉とかどう?」
「「絶対に嫌だ!」」
「絶対に嫌です!」
ヒナの問いかけに俺達三人は息ぴったりに否定した。
「二時方向、敵感知に一体!」
トリスターノが声を上げ、全員警戒態勢になる。
「上です!」
上?
上を見ると、何かが飛んできた。
俺を目掛けて滑空し、飲み込もうとするのをなんとか咄嗟にしゃがんで回避した。
飛んで行った方向へ向き直ると、姿がよく見えた。
あの初心者冒険者御用達のジャイアントトードが一回り程小さくなり、翼が生えたような生物が飛んでまたこちらへ旋回していた。
「なんだあれ!?」
思わず声に出す。
「す、すごい!『ウイングトード』!初めて見た!」
ヒナが興奮したようにして声を出す。
他二人も驚いてるような顔だ。
「あんなのガイドブックに無かったぞ!なんだあれ!?」
「あれはジャイアントトードの変異種だよ!希少でなかなか見られない個体だよ!」
「なんでそんなのがいるんだ!?」
「知らないよ!とりあえず討伐しよう!あの個体のお肉は普通のジャイアントトードよりも身が引き締まってて臭いも全く無くてすごく美味しいんだよ!ギルドの買取も結構な額になるかも!」
目をキラキラさせてヒナは翼の生えたカエルを指差している。
「ゆんゆん!落とせるか!?」
「うん!任せて!」
向かってきたところをファイアーボールであっさりと打ち落とした。
「経験値も結構貰えたはずだよ!どう!?」
ヒナはさっきから飯のことばかり考えてないせいかテンションが高い。
「あ、本当だ。レベルが上がってる」
ゆんゆんが冒険者カードを確認していた。
マジか。あのカエルが随分と出世したもんだ…。
「じゅるり…」
「おい」
ヒナは涎が垂れそうになるのを我慢していた。
「僕、一度は食べてみたかったんだ」
「とりあえず後にしてくれ」
「うん。ここにいるってことは近くに住処でもあるのかな?別の個体もいたら大発見だよ」
「俺達のクエストはカエルの住処探しじゃないからな?」
「わかってるよ!でもこれは本当にすごいことだよ?」
一応他二人を見て確認すると、二人も頷いてきたのでヒナのリアクションに間違いはないのだろう。だがこれは後だ
「ほら、行くぞ」
あの後、ファイアーボールでボンボンしてたせいか二度ほどモンスターの襲撃を受けたが、なんとか教会に着いた。
本当に長い間人が来ていないのだろう。原型は保っているが、かなりボロボロの教会だ。
予想以上に大変な道のりだった。
少しレベルが上がっていたから調子に乗っていたのか、それともアクセル周辺が生温いのか、皆怪我はしてないが、疲労している。
ゆんゆんに関しては魔力が切れかかっているせいで元気が無い。
ゴースト討伐後は少し教会で休んでいくか。
帰りにヒナが支援魔法を使ってくれれば、もう少し役に立てる。飛んでるやつは無理だけど。
帰りはゆんゆんを休ませてやろう。トリスターノは頑張れ。
トリスターノに確認すると、教会の中に敵感知に一つ反応があると。
三人を見て確認する。頷いて行けることをサインしてくる。
俺が先頭で扉を押して開けると、木製の扉がギギギと悲鳴を上げるような音がして開く。
中は薄暗く埃臭い。中もボロボロだ。
祭壇には体の半分が薄く透けた、二十代半ばの女性が跪き祈りを捧げていた。
その女性はゆっくりと立ち上がり、こちらへとゆっくりと振り向いた。
『なんでしょうか?』
女性が口を開いた。
俺が返事を返そうとしたら、ヒナがぐんぐんと前に進んでいく。
「お話があります」
『エリス教団は信者が多くて羨ましいですねえ!ウチみたいなところは毎日が戦いみたいなものですよ!争いを嫌う?それは持ってるものしか言わない言葉で、持たざる者は戦い続けるしか無いんですよ!』
「言わせておけば好き放題!僕達だって!」
どうしてこうなったかはよくわからん。
割と途中までお互い冷静に話し合ってたはずなのに…。
俺達三人は苦笑いしかできない。
任せた手前、俺も口を挟める立場じゃないんだが喧嘩なんてしないでくれよ。
とりあえずこのルーシーズゴーストは失踪事件とは全く関係ないらしい。
ルーシーズゴーストはそんなことが起きていることすら知らなかったそうだ。
そうなると討伐するのは…。
「やってやりますよこの野郎!僕の浄化魔法で綺麗に浄化ーーーッッ!?」
『!?』
俺以外の全員が左の方を見て、何かに驚いて固まっている。
「なんだ?どうした?」
「す、すごい魔力が」
「ま、まずい!この魔力反応は…!」
ゆんゆんとトリスターノが何か言ってる。
敵が来てるのか?
「一度撤退しましょう!!危険です!!」
トリスターノがいつになく慌てている。
そんなやばい奴が来てるのか。
「む、無理だよ…こんなの間に合わない…」
ゆんゆんが何か言っている。
な、なんだよ、俺にもわかるように
「来ます!!」
トリスターノが叫ぶと同時に教会の天井を突き破り、ルーシーズゴースト目掛けて落ちてきた。
その衝撃でヒナがゆんゆんを巻き込んで扉近くへと吹き飛んだ。
まるで隕石が落ちてきたかのような威力とスピード。俺とトリスターノが吹き飛ばなかったのは偶然だろう。
何が起きたか理解が及ばず、ヒナとゆんゆんが無事か確認することも出来ずに立ち尽くす。
隣から唾を飲み込むような音が聞こえた。トリスターノが見たこともないぐらいに焦っている。
埃や土煙が巻き上がっていたものが晴れていく。最初に見えたのは金。次に見えたのが銀。
はっきりと見えた。落ちてきたのは人間だった。
金髪、全身銀の鎧に身を包み、巨大な光り輝く槍を持っていた。
金髪のその人間はこちらを睨み付けてくる。
トリスターノと同じ碧い眼をしていた。
よく見るとその人間は二十代程の女性だった。
腰まで届く程の長さの金髪が光を放っているように見えるほど綺麗だ。
俺達を睨み付けているかと思えば、違う。トリスターノ一人を睨み付けていた。そして、やっと口を開いた。
「トリスタン、貴様こんなところで何をしている?」
へ?
「…お久しぶりです、王よ」
絞り出すようにして返事を出すトリスターノ。
とりすたん?
ルーシーズゴーストは原作から少し変えて登場させていただきました。
カズマ達の活躍を奪うのもよくないかなと思ったんですけど、多分ルーシーズゴーストの話は大丈夫かなと判断しました。
ウイングトードはオリジナルです。キャベツも飛ばし、カエルも飛ぶでしょ多分。
モンスターに困ったらとりあえず翼生やして出しとけば、いけますね。
次回からシリアス時々ギャグです。二、三話ほど。