このすば ハード?モード   作:ひなたさん

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34話です。さあ、いってみよう。



34話

 

34

 

 

 何回目かわからないが吹っ飛ばされた。

 

 騎士王に斬りかかり、騎士王がバカでかい槍を邪魔な物を払うように横へと振るう。

 俺は避けることも出来ず、ガードして踏ん張ることも出来ずにまた間合いの外へと吹き飛ばされる。

 

 ヒナに支援魔法をもらって多少マシになったってのに、なんだよこれ。

 騎士王にとっては小型犬が戯れにきてるぐらいでしかないのだろう。

 無表情の冷たい目が変わることはない。

 

「いつまでやる気だ?」

 

「さあな!」

 

 戯れにも騎士王は飽きてらっしゃる。

 どうしたものか。

 

「…時間稼ぎはやめろ。先程言っていた能力とやらを見せてみろ」

 

 …どうすっかな。

 これで能力なんてありませんとか言ったらあっさり殺されそうだ。

 

「いいのか?後悔するぞ?」

 

 俺が。

 めっちゃ後悔しちゃうぞ?いいのか?やるぞ?

 

「その能力とやらも槍の一振りで払ってやろう」

 

 流石騎士王だ。

 付き合ってもらうぞ。俺の時間稼ぎに。

 

「行くぞ!!」

 

「来い!」

 

 剣を納刀し、ドラゴン◯ールの気を溜めるポーズを取る。

 

 

「はああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一分後

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五分後

 

 

「だあああああああああああああああ!!!」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十分後

 

 

「はあああああああああああああああ!!!」

 

 

「…まだか?」

 

「遅えよ!!」

 

「!?」

 

 無表情さが少し退屈そうになって、ようやく声をかけてきた。

 俺がツッコミを入れて驚愕の表情へと変わる。

 

「なに十分も小っ恥ずかしいことやらせんだよ!せめて五分後ぐらいで声かけろよ!」

 

「なっ!?私が何かしないと発動しない能力なのか!?」

 

「違うわ!」

 

「!?」

 

「どう考えてもおかしいだろうが!何も変化無いだろ!」

 

「ま、まさか!貴様、私を騙したのか!?」

 

「いや、今気付いたのかよ!?」

 

 ずっと驚いたような困惑したような顔をしていたが、少し怒ったような顔になり俺を睨んでくる。

 

「くっ!私を騙すとは!」

 

「何高度なやりとりがあったみたいなリアクションしてんの!?」

 

「私に嘘を付いた人間はお前が初めてだ!」

 

「んなわけあるか!」

 

「ある!今まで会ってきたお前以外の人間は私に絶対に嘘をついたことがない」

 

「…それお前が知らないだけで騙されてるんじゃないの?」

 

「そんなことがあるわけない!そんなことが…ある、わけ…ない」

 

「自信なくなってない?大丈夫?」

 

「うるさい!貴様!じゃあ能力などないというのだな!?そんな弱いくせに前に立ったのだ!死ぬ覚悟は出来ているのだろうな!?」

 

「そっちこそうるせえよ!やってやる!槍なんか捨ててかかって来い!」

 

「その意気や良し!さっさと終わらせてくれる!」

 

 俺が言った通り本当にポイっと槍を放り投げ、拳を振りかぶって走ってくる。

 

 え。

 

 そんな大振りの拳には絶対に当たらない。

 相手の思いっきり振りかぶってきた拳を潜り込むようにして避けて、自分の背中を相手に押し付けるようにして入り込み、振りかぶった腕を掴んで肩に乗せるようにして、そのまま相手の勢いを利用してぶん投げた。

 こんな綺麗に一本背負をさせてもらったのは初めてかもしれない。

 

「ぐあっ!!」

 

 投げて落とした時に相手の鎧もあって、ガシャン!と金属がぶつかる音が教会に響いた。

 鎧が重いせいで自分も倒れそうになったけど、なんとか踏ん張れた。

 

 受け身もまともに出来てない。

 騎士王の表情が苦痛に変わる。もしかしたら怪我を、相当なダメージを与えたかもしれない。

 

 

 本当に捨てて来るとは思わなかった。

 というか

 

 

 あれ?俺もしかして…

 

 騎士王に勝った?

 

 

 

「きっさ、まぁ…!」

 

 苦しげな声が下から聞こえて来る。

 

「ぐっ!まさか、体術の…達人とは…!」

 

 い、いや、別に達人とかじゃないんだけど…。

 

「なるほど…自分の、得意分野に誘導したと、いうわけか…っ!」

 

 いや、あんたが突っ込んできただけ…。

 

「私を、ここまで追い込む、人間なんて、お前が初めてだ!」

 

 苦しげに言葉を吐き出すように言った。

 

 う、うん。ありがとう。

 なんか申し訳ない気持ちになるからやめてほしい。

 

 そうだ。槍を奪って逃げよう。

 回復されてあれを振り回されたら面倒だ。

 

 槍の方へ移動し、槍を持つ。

 持つが

 

「無理だ。…貴様などでは、絶対に扱えない」

 

「その槍は、使用者を選ぶ」

 

 ピクリとも動かない。

 まるで固定されているような重さ。

 これを片手で振ってたのか?それとも使用者として選ばれてたから片手で振れたのか?

 くそっ!厄介なのを処理しておきたかったが…。

 

 騎士王が立ち上がろうとしてる。

 あっちをどうにかするしかない。

 

 仰向けからうつ伏せになり、立ち上がろうとする騎士王の右肩に左足の膝で乗る。右腕を取り自分の右足で固定しつつ手首を捻った。

 警察官とかがやる拘束術。人間ならば効き目はあるだろう。

 

 ぐっ!と苦しそうな声が聞こえてきたので、交渉に入らせてもらおうか。

 

「おい、見逃してやるから俺やトリスターノにもう関わるな。これが出来るなら解放してやる」

 

「貴様!騎士を侮辱するか!」

 

 捻る力を強くする。苦しげな声が増した。

 

「侮辱なんてしてないさ。どうだ?もう関わらないと約束すればお互いに平和に終われるぞ?」

 

「貴様になど、負けるか!」

 

 抵抗が強くなる。捻るが抵抗は変わらない。

 

「俺はお前のことを殺せたのに、見逃したんだぞ!?」

 

「私もそうだ!」

 

 くっ!そうだった!めっちゃ見逃してもらってた!

 

 凄まじい力で拘束が解けていく。

 完全に極まってたはずなのに…!

 

「ふっ、やはり貴様、技術はあるが力は弱いな?」

 

 とうとう騎士王の右腕は自由になり、立ち上がると同時に思い切り振り払って来る。

 籠手部分でガードしたが騎士王の力が強いせいか、俺の体勢が良くなかったせいか思い切り膝をつき怯んでしまい騎士王に距離を取られる。

 

「終わりだ」

 

「くそっ!」

 

 そのまま騎士王は槍の方へと走っていく。

 怯んだせいで阻止しに行くのが遅れる。

 あんな全身鎧の姿のくせに俺より全然速い。

 確実に間に合わない。

 

 槍を手に取り、こちらへと向ける。

 やられた。

 騎士王の言う通り、終わりだ。

 

 

 ああ、くそっ。ゲームオーバーだ。

 コンティニューと難易度設定変更はどこで出来るか教えてくれ。

 

 

 だけど、弱い俺にしては結構時間稼いだよな?頑張ったよな?思ったよりやれたよな?

 

 

 褒めてくれよ。今度はバカにしないでさ。

 円卓の騎士とかいうやべえ奴にここまで頑張ったんだからさ。

 きっと褒める以上に怒られるだろうな。

 エリス様に怒られるようなことするんじゃないぞ。俺が大変な目に合うんだからな。

 

 

 友達として仲間として最後のお願いなんて言われたけど、そんなの聞いてやらない。死んでも嫌だね。

 あんな泣きそうな顔で笑われても気持ち悪いだけなんだよ。これだからイケメンは。

 好き勝手した結果がどうとか言ってたけど、好き勝手することの何が悪いんだよ。

 

 

 また勝手したから多分怒られるし、泣かれるんだろうな。最近泣かしたばかりなのに。

 え?泣かないって?少しぐらい良くない?

 俺が異世界に来て出来た初めての友達。

 助けてもらってばかりで何もしてやれなかった、ごめん。ありがとう。

 あ、ついでに五対三で俺の完全勝利だから。勝ち逃げするけど、許してな。

 

 

 お前らはもうぼっちじゃないから、大丈夫だよな?せいぜい幸せになりやがれ。馬鹿野郎共。

 

 

 剣を引き抜く。

 死ぬ覚悟が決まったはずなのに。

 ヒナにニホンの話をし終わると、もっともっととねだってくるみたいに。

 まだ生きたいらしい。

 もうちょっとだけ。ほんの少しだけ。

 あいつらがまだ逃げ切れてないかもしれないからね、しょうがないね。

 よし、華麗に舞うとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 いや、マジ舞いすぎ。

 何回地面とキスするんだよ。

 キスから始まる恋愛もあるかもしれないが、恋愛通り越して結婚しそうだ。

 あーおいしくない。

 というかやっぱり結婚も恋愛も無理。

 エッチなことできないのに、そんな関係は無理。

 穴掘って入れろってか。絶対気持ちよくないし、絶対下向いたままだ。

 もしやったところで人間の尊厳とか色々なものを失いそうだし、あまりの虚しさに誰とも顔向け出来ない。というか上を向けたとしても三秒保つかわからないもんだし、終わった後に土だらけのアレを洗うとかどんな罰ゲームなの?

 

 あーもう最悪だよ。

 

「何をぶつぶつ言っている?それとも諦めたか?」

 

 地面とよろしくやってる俺に槍を突きつけて来る。

 なんだよ、今味わえる最大限の幸せを噛み締めてるのに邪魔しないでほしい。

 

 握っているアレ、じゃない剣に力を入れる。

 いや、アレも剣みたいなもんだけど。

 立て。いや、アレの話じゃなくて。

 

 ああもうすぐ死ぬと分かっているせいか、変なことばかり考える。

 

 立て。死ぬまで頑張るしかないだろ。

 諦めても何もならない。試合終了どころか人生が終了する。

 漫画とかで良くやってる剣を杖代わりにして立ち上がる。まさかこれをやる日が来ようとは。こんなの絶対やらないと思ってた。

 藁にもすがるって言うし、生きたいなら思い付くこと何でもやるんだろう。

 

「…何故そこまでする?貴様はあいつの何なのだ?」

 

「言っただろうが。友達だって」

 

「ともだち」

 

「俺は弱いし、特に何もしてやれない」

 

「…」

 

「それでも力になってやりたいんだよ」

 

「強敵を倒す力もない。何かを考え出す知力もない。守ってやれる防御力もない。困ってる奴に駆けつけてやる素早さもない。何かを手繰り寄せる幸運もない」

 

「…」

 

「それでも何とかしてやりたいんだよ」

 

「ともだちとやらのせいで貴様が死ぬとしてもか?」

 

「何もしない方がもっと辛いんだよ。死ぬよりもきっと」

 

「この先ずっと友達を見捨てたことを考えて生きていくことになる。多分忘れたとしてもずっと後悔は残る」

 

「俺にとって大事なものを投げ出してまで生きたい世界じゃないんだよここは」

 

 槍の一振りでまた吹き飛ばされ、地面を転がった。

 ガードなんて出来るわけもなく、剣も手から離れた。

 

 やっぱり俺には地面しかいないのかもしれない。

 地面と式を挙げるから、少しだけ待ってくれないかな。待ってくれないか、うん。

 

 ああ、くそ痛え…。

 セカンドチャンス貰ったってのに、また大したこと出来ないのはもうそういう運命なのかね。

 本当に両親には申し訳なさしかない。

 恩を返すとか、してやりたいこといっぱいあったはずなのに、死んでこんな世界に来て結局また死ぬとか。

 しかもまた他殺じゃねえかよ。どうなってんの?俺なんかした?

 

 俺は本当に馬鹿野郎だ。よくもまあ人に馬鹿野郎とか言えたもんだ。てめえには地面がお似合いだ。いや地面に失礼か。

 

「死んだ方がいいとは恐れ入った」

 

 地面に転がる俺に話しかけながら近付いてくる。

 

「なんだよ…。お前にはそういう相手いないのかよ?」

 

「…」

 

「いないのか」

 

 こいつもぼっちだったか。

 王だからぼっちなのか、それともぼっちだから王なのか。

 あの絵本はある意味あって良いものなのかもしれない。教育に役に立つのか、というのはさておいて。

 

 王としてもちろん死ぬわけにはいかない。

 それは理解している。軽率な行動は出来ないだろう。

 それでも大事な人がいるのと、いないのではそれは大きな差があるだろう。

 

 俺のすぐそばに来て騎士王は槍を振りかぶる。

 

「おい、俺の友達に手出してみろ。死んでも殺すからな」

 

「死んだら終わりだろう。何を言っている?」

 

「いや、俺は神様二人と知り合いでね。俺の友達に手出したら何してでもお前を殺してやる」

 

「…また嘘か」

 

「いいや?女神エリスと、あとついでに女神アクアと知り合いだよ俺は」

 

「…」

 

 そのまま騎士王は

 

 槍を振り下ろした。

 





 G A M E O V E R

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