このすば ハード?モード   作:ひなたさん

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43話です。さあ、いってみよう。



43話

 

 ブーブーうるさい。

 昨日は忙しくて寝るのが遅かったのに、もう起きなきゃいけない。寝て起きるまで体感五秒。本当に寝たのか疑わしく思いつつも、スマホを見ると、五分ごとに設定しているアラームの最終警告時間だった。

 ため息を吐いてから、飛び起きて着替え始める。遅刻したら所長にキツめの口調でドヤされるのがだるい。朝飯なんていつも食べない。そのまま仕事へ向かった。

 

 

 某漫画の『精神と時の部屋』が何度欲しいと思ったことかわからない。デメリットの酸素が薄いとか高重量とかを考えなければ、現実では少ししか経ってないのに、俺はしっかり睡眠を取れるし、やりたいゲームもまあまあやりたい放題なのだ。

 最近の漫画やらアニメのやれチートだどうだとかそんなものはいらないから、俺は睡眠時間が欲しい。というか時間が欲しい。

 

「で?言い訳はそれだけか?」

 

「いや、所長。ギリギリセーフでした。これマジです。8時0分59秒でした!」

 

「いや、59秒過ぎてるやんけ!」

 

「すんません…」

 

 まあ、ええわと笑いながら所長が去っていく。俺が遅い時にこうやって所長がいじりにくる。周りも面白がって見てるし。

 

 

 最近はウチの会社が事業拡大で仕事量が馬鹿みたいに増えて、それ故アホみたいに残業時間が増えてる。それだけならまだいいけど、いやよくないけど、休みも少ない。

 端的に言えば、ブラックだ。とても疲れていてストレスもすんごい。生きる為に仕事してるはずなのに、仕事する為に生きてるような矛盾。そんなことを考えるとため息が止まらなかった。

 

 

 三時にようやくお昼休憩に入ることが出来て、スマホを見るとソシャゲの通知や友達からの連絡、学生時代の先輩からの電話通知などなど様々だったが、どうにもそれが懐かしく感じる。そういえば仕事も毎日毎日同じことやってるのに何故か懐かしく感じた。

 

 仕事しすぎて、自分の携帯すら懐かしく感じてしまうとか…。早めに転職を考えた方がいいのかもしれない。

 

 

 今日も今日とて日付が変わってからのご帰宅だ。

 明日はお休み。もう何もしたくない。いや、そんなわけにはいかないんだけど。

 実家暮らしではあるが、親に頼ったりとかはしていない。自分のことは全部している。

 明日は洗濯に買い出し、残業代出てるしエッチなお店に行ってからお高い肉でも食べちゃおうかななんて思いながら、倒れる様にして眠った。

 

 

 揺れる感覚に目が覚める。

 

「なんだよ、ヒナ。まだねむ」

 

「え?ヒナ?」

 

 最高に不機嫌になりながら、顔を上げたら、ウチの愛犬を抱っこした母親がいた。

 

「え?あー、ごめん。なに?」

 

 ヒナってなんだ?寝ぼけてんのか?

 

『僕の名ーーヒーークです。ヒナギーーニホンの花ーー前なんです』

 

 っ!?

 

「コンちゃん、預かってて」

 

 違和感に続いて、またもや懐かしい感覚だ。母親もコンちゃんも酷く懐かしく感じる。本当に転職を検討すべきかもしれない。

 

 コンちゃんとはウチの愛犬のこと。ポメラニアンで狐色の毛並みだったからコンちゃん。

 ちなみにコンちゃんの名付け親は俺。俺に似たのか滅茶苦茶可愛い。今では年老いてよちよち歩いたりぼーっとすることも多いが、可愛いのは変わらない。

 大喜びで受け取り、抱き枕にして寝ようとすると何故だか嫌そうに俺を振り払い、ベッドの隅で寝始めた。なんというツンデレ。

 

 やることを終えて、なんとなくぼーっとしていた。傍らで寝ていたコンちゃんを撫で始めたら、すぐに俺の手が届かないところに行って寝始めてしまった。最近はツンデレムーブが多いなコンちゃん。

 

 

 何かがおかしい。何かが足りないというか、そんな感じ。何をするにしてもそう思ってしまって集中出来ない。

 わからん。もういいや、ゲームでもやろうと思い、某ソシャゲをやっていると、とあるキャラのところで指が止まった。

 『トリスタン』という円卓の騎士の一人。別にこのゲームでそこまで好きなキャラでもないはずなのに、何故か気になるというか…。

 

『はーーまして、私トリスーーーと申しーす』

 

 っ!?

 

 あーもう、さっきからなんなんだ。

 意味わからん。別のゲームだ。

 別のゲームを起動して、キャラ選択をしようとして、とある女性キャラに目が止まった。

 この黒髪のキャラ、ゆんゆ…

 

 

 ……?

 

 ゆんゆってなんだ?

 

 ???

 

 どうしたんだろう、俺。そう思ってるが、何故だかまたその女性キャラクターから目が離せなかった。

 

 

『わ、私ゆんーーと申します職業はアーーーィザーーーーが魔法はまだ中ーーーしか使えませんごーーなさいでも大ーーですすぐにーー魔法だって覚えますから!!』

 

 魔法…?

 こんなこと言うようなキャラいたっけ?

 

 

 あーもう!テレビ見よう!この時間に見るような番組無いけど、とりあえず気分転換だ!

 

『お控えなすって』

 

 仁侠映画だろうか。そんなことを言って右半身を半歩前に出して中腰になって名乗りを上げている。そんなのがなんでこんな

 

 

『手前、生国と発しまするは日本の生まれ、姓はシロガネ、名はヒカリ。人呼んでヒカルと発するーーーでございます!』

 

 

 は?え、俺なに考えてんの?これ真似したくなっちゃった?厨二病か?

 

『我ら、ぼっちーー。以後、面対お見知りおきの上、よろしくお願い申し上げます!』

 

 ぼっち?なに言って

 頭が痛い。何かを思い出せそうなのに、出てこない。ムカつく。はっきりしないのが、ムカつく。

 

 こんなことしてる場合じゃない。

 

 いや、何言ってんだ?今日は休日だ。

 

『ボッチー!?ぼっちじゃないから!』

『ずっと友達らしい友達はいなかったけれど、お父さんとお母さんがいれば僕は十分だった』

『私も友達が欲しくてですね』

 

 な、んだよ。

 うるさい。黙ってくれ。

 

 

『何故なら私も貴方の友達ですから』

『だから!連れてって!僕も友達の力になりたいんだ!』

『私はヒカルのこと大事に思ってるよ』

 

 

 あったま、いってえ!

 あまりの痛さに倒れ込む。その衝撃でテレビのリモコンを落として、反応したのかチャンネルが変わる。

 

 

『このカフェはカップル割がありまして、カップルに大人気』

 

 

「何がカップル割だこのやろおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 手元にあったスマホをテレビへとぶん投げた。ざけんな!何がカップル割だ!あんなのロクなもんじゃ…って俺なんでこんなキレてんだ?

 

『と、友達割はありますか!?!』

『カレーとハンバーグとオムライスのセットはありますか!?』

『そうですね。私とシロガネさんがカップルですね』

 

 

 !!!!!

 

 

 ああ、そうだった。

 

 俺の足りないものが、大事なものがあったじゃねえか。何忘れてんだ馬鹿野郎。

 

 納得がいったというか、なんというか腹にズドンと来たようなそんな気さえする。

 

 家族が大事じゃないわけじゃない。

 そういうわけじゃない。ただ今は、向こうではあいつらがいる。

 

 

『だけど先に言っておく。俺はもう家族もいない。欲しいものも持っておきたいものも無い。

でも、大事で守りたいものが一つだけある。

お前たちだ』

 

 

 こんなこと抜かしておいて、何やってんだ。

 早く行かなきゃいけねえ。

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

 気合を入れる。

 そして

 

「コンちゃんコンちゃんコンちゃんコンちゃんコンちゃんんんんん!!!」

 

「ガウゥゥゥゥゥ」

 

 コンちゃんに抱きつき、高速頬擦りをする。これにはコンちゃんもブチ切れ低く唸ってるが今生の別れだ、許せコンちゃん。

 

「コンちゃんより先に死んでごめんなぁ!情けない兄貴分でごめんなぁ!」

 

「ガウゥゥゥゥゥ」

 

「俺またいなくなるけど、お前はいっぱい生きるんだぞ!んー」

 

 チューしようとしたら噛まれて引っ掻かれた。最後までツンデレとは流石コンちゃんだ。

 

 

 自室の部屋の扉を飛び出す。

 何故か飛び出た先には両親と祖母がいた。

 三人は俺を見て、優しく微笑んでいる。

 そんな優しさが辛くて、嬉しかった。

 

「おれ、俺…」

 

 何から言っていいか、わからない。

 でも、言わなきゃいけないことがいっぱいある。

 

「世話になったのに、先に死んでごめんなさい」

 

 これが現実じゃなくても、言わなければならない。

 

「親孝行出来なくて、ごめんなさい」

 

 無駄だとしても、言わなければならない。

 

「良いところ見せられなくて、ごめんなさい」

 

 最後なのに、俺はこんなにもカッコ悪い。

 

「それでも、俺行かなきゃいけないんだ」

 

「俺、あっちで、さ。すごい大事な、ものが、出来たんだ」

 

 鼻をすすりながら、声は震えて、前が見えない。

 

「守りたいんだ。一緒に、いたいんだよ。だから、」

 

 三人の姿を目に焼き付けたいのに。

 

「今までお世話になりました!!この御恩は一生忘れません!!」

 

 床に額を擦り付けて、頭を下げた。

 

「光」

 

 最後まで情けない姿でも三人は俺に微笑んでくれる。母親から声がかけられる。

 

「「「いってらっしゃい」」」

 

「!!」

 

 歯を食いしばって、流れるものは我慢が出来なくて、嗚咽が止まらない。

 それでもこれだけは死んでも言わなきゃいけない。

 

「いっでぎまず」

 

 なんとか絞り出した返事の後、俺は走って、玄関を開けて、その先の光へと飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒカルが倒れる。

 何度も呼びかけるが、反応は無く目を閉じて動かない。呼吸はしているが、それ以外は何もわからない。

 

「ワン!」

 

「え?」

 

 何故かヒカルの傍らにナトリの入り口で待機していたはずの銀色の犬がいた。

 

「ねえ、ヒカルは!?」

 

 ヒナちゃんがリフレクトで防御しながら、私に問いかける。

 

「目を覚まさない!」

 

「無駄だヨ。もう俺が引き込んだかラ」

 

 デモゴーゴンの顔が醜く歪み、笑う。

 

 

「さあて、痛ぶってあげるヨ!『インフェルノ』!!」

 

 これから私が指揮を取る。そういう作戦だ。

 私が懐からスクロールを取り出そうとした時

 

「ワオーーーーーーーン!!!」

 

 銀の犬が遠吠えのように高らかに鳴いた。

 すると、炎がパッと消え失せた。まるで最初から無かったかのように。

 

 え?

 

 スクロールは発動していない。

 何が起こった?

 

「てめえ!クソ犬!!今度こそ殺してやるヨ!」

 

 デモゴーゴンの顔は先程とは打って変わって、激怒している。前回の討伐で余程痛い目にでもあったのだろうか。すぐに銀の犬へとナイフをぶん投げるが、トリタンさんの矢がそれを阻止した。

 相変わらずの弓の腕だが、急所へと放った矢は躱されている。弓の攻撃にナイフを返しながら、距離を取り、ニヤリと不気味に笑う

 

「そうカ、じゃあこういうのはどうダ?」

 

 デモゴーゴンの前に二人の人間が立ち塞がる。その顔には生気が無く、目には意志がない。無理矢理動かされているのがわかった。

 銀の犬が何度も何度も吠えている。その二人へ呼びかけるように。

 きっとその二人はデモゴーゴンを追い詰めたパーティーのメンバーだろう。

 私に寄りかかり眠っていたヒカルが立ち上がる。ヒカルも他の二人と同じく、その顔は無表情で、目は意志が感じられないものだった。

 まさか、ヒカルも操られて…!?

 ヒカル相手にどう戦

 

「今は寝てなさいっ!」

 

 ドスっ!

 

「おぐっ!」

 

 ヒナちゃんの容赦ないボディーブローがヒカルの無防備な腹筋に突き刺さるように打ち込まれて、体がくの字に折れた。

 

「ええええええええっ!?」

 

「ナッ!?てめえ、そいつ仲間だロッ!?」

 

 その容赦無さと迷いの無さに敵と同じリアクションをしてしまった。

 

「ヒカルなら大丈夫。ヒカルからきっと自分の意志で立ち上がるよ!」

 

「いや、すごい良い事言ってる風味だけど、えげつないぐらい鳩尾に拳ぶち込んでたよ!?自分の意志で立ち上がるのが困難なぐらいに!」

 

「てめえ、それでも人間カ!?仲間なら大事にしろヨ!?」

 

「大丈夫!ヒカルならきっと!」

 

「その全幅の信頼は何っ!?ヒカルさっきから倒れてピクピクしてるよ!?白目剥いてるよ!?」

 

 ヒナちゃんはチラッとヒカルを見た後に、目を泳がせてデモゴーゴンへと向き合う。

 

「よくもヒカルを…ッ!」

 

「「ええええええええええッ!?」」

 

 デモゴーゴンとシンクロしてしまった。

 

「『バインド』ッ!」

 

 そんな漫才モドキをしている間にクリスさんがデモゴーゴンの近くへと接近し、拘束スキルを放つが、操られている二人にしか当たらない。

 返しのナイフは弓のサポートで叩き落とし、まるで同時に放ったかのような次の矢はデモゴーゴンの左のふくらはぎ部分を貫いた。

 

 今だっ!

 

「『ライトオブセイバー』ッ!!」

 

 体勢を崩したデモゴーゴンに上級魔法を叩き付ける。確実に当てた。

 

「『バインド』」

 

 油断無く近付き、倒れたデモゴーゴンを拘束したクリスさんに合流した。

 

「皆を解放してもらうよ」

 

「……俺を殺せば、それは叶うヨ」

 

 デモゴーゴンが吐き捨てようにして言った。

 

「私達のリーダーをよくも…」

 

 トリタンさんが睨み付けるように言ってるけど、くの字で倒れてるのはヒナちゃんのせいなんだけど…。

 

「この程度で僕達の光は消せやしない」

 

 すごいツッコミたいけど、ヒナちゃんすごい良いこと言ってるよ。でも、そうよね。私達の光は

 

「いや、消しにかかったのお前ジャン…」

 

 やめて!私、頑張って耐えてたのに、言わないでっ!

 

「指輪よ、僕に力を」

 

 ヒナちゃんの右手の中指にはめられた指輪が輝き出す。どこからか集まってくる光がヒナちゃんの右手に集まっていく。

 

 なんかすごい誤魔化そうとしてる感があるけど、ヒカルも心配だから早く決着をつけよう。

 

「オイ、アイツ動かなくなったけど、大丈夫カ?やっぱりてめえらの光消えたんじゃ」

 

「ゴッドブロおおおおおおおお!!!!」

 

 ヒナちゃんの全力の光を込めた一撃は無防備なデモゴーゴンの顔へ潰さんばかりに叩き込まれて、屋敷の床ごとぶち抜いた。

 

 その後デモゴーゴンは黒い煙のように霧散し、姿が無くなった。

 ヒナちゃんが冒険者カードを取り出し、確認するとデモゴーゴン討伐の文字が書いてあった。

 全員で確認してからすぐにヒカルの元へと向かう。皆ヒカルの名前を呼びかけ、心配していた。私が抱き起こし、仰向けにすると、ヒカルは表情は悲しげで泣いていた。

 

『!?』

 

 全員がそのヒカルの涙に固まる。

 そして当然、皆ヒナちゃんに視線を向けていた。

 

「ヒナギク、確かに余裕無かったと思うけど、もう少し加減した方がよかったと思うよ」

 

 うっ、とわかりやすく反応するヒナちゃん。

 

「とりあえず起きたら謝ろう?ヒカルも多分わかってくれるから」

 

 ヒナちゃんが小さくなり、ごめんなさいと小声で謝った後、ヒカルが微かに呻めき、目を開いた。

 

 ヒカルは最初ぼーっと私達の顔を見た後、状況を理解したのか、嬉しそうに微笑んだ。

 

「…ただいま」

 

 そう言われたなら、私達が言う言葉は決まっている。

 

「「「「おかえりなさい!」」」」

 




シロガネ君の家族の話はいつかやろうと思ってたのに、43話って…おせえよ…。
真面目な戦闘描写に耐えきれなくなったので、いろいろと考えてたものぶん投げて勢いで書きました。本当はデモゴーゴンは第二ラウンドがあったのにそれも無くしました。

自信が無いとこうも迷走するもんですかね。
次回で三章終了です。
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