54話です。さあ、いってみよう。
目が覚めると、見知らぬ天井だった。
これ何度目だ。
ここはゆんゆん宅の部屋だ。
俺はいつ戻ってきたんだっけ。
…頭が痛い。久しぶりの二日酔いだ。昨日は飲み過ぎた。
紅魔族の女の子二人、確かねりまきちゃんとあるえちゃんと飲んでたと思うんだけど、二人に上手く乗せられてガンガン飲んじゃったから、あまり覚えてない。
えっと、いつまでも帰らないからヒナとかが迎えに来たんだっけ。
なんかそんな気がする。迷惑かけたかもしれないし、後で謝ろう。
準備を済ませて、リビングへと向かうことにした。
リビングに着くと、族長以外の全員が揃っていた。話を聞くと族長は今日仕事でいないらしい。
挨拶をして、朝ごはんの準備を手伝い始めると、ヒナとゆんゆんに睨まれる。
これは確実に迷惑をかけたな。後で謝ろう。
「…えっと、大丈夫ですか?」
「ん?何がだ?」
トリスターノが恐る恐る聞いてくる。
どうしたんだ。
「いえ、その昨日は大変みたいだったので」
「あー…やっぱり俺なんか迷惑かけたか?」
「え?」
「紅魔族の二人と楽しく飲んでたところまでは覚えてるんだけど、そこから先は覚えてなくてさ。何かやった?」
「あー…なるほど」
「なんだよ、その反応。もしかしてあの睨んでる二人に吐きかけたとかか?」
「それより酷いというか…」
「おいおい、マジか。昨日ゆんゆんに謝ったばっかりなんだけどなぁ…」
俺が覚えてないことをトリスターノが伝えに行ってくれた。お前イケメンだな。
ただそれでも許してくれるわけではないので、朝食後に先に謝ってから話を聞いたが
「なあ…マジで言ってる?」
「…何で僕達が嘘つかなきゃいけないの?」
確かに。
こいつらが嘘付いても何の得もない。
「マジか…」
流石に頭を抱えた。
年下に手出そうとした自分のバカさ加減に。
後ですぐにあるえちゃん達に謝りに行こう。
冗談抜きに肉塊ルートになる。
いや、それよりも
「ゆんゆん、ヒナ、そのマジでごめん。迷惑かけた。もう酒は飲まないよ」
謝って済む問題じゃないが、まずは謝らないといけない。
意外にもヒナには二言三言ぐらい言われたが、あっさり許してくれた。
ゆんゆんには口酸っぱく怒られて、自分が同行する時以外は女性と飲むなとか誰かと飲みに行く場合も自分に伝えることとかいろいろと約束して、やっと許してくれた。
それを見ていたゆんゆんのお母さんのりんりんさんが俺の肩にポンと手を置き
「紅魔族を怒らせると怖いわよ?」
とニッコリしながら言われたのがめちゃくちゃ怖かった。りんりんさんが苦手だったということもあり、怖さは倍増だ。
何故苦手かというと、大人ゆんゆんにめちゃくちゃ似てるから。近くに立たれるだけで心臓が早くなるし、なるべく話しかけないようにもしていた。
まさかこんな形で話しかけられることになるとは、恥ずかしいわ、怖いわで変な汗が噴き出た。
もう絶対紅魔族相手に下手なことはしない。
心の中で固く誓った。
その後あるえちゃん達に謝りに行こうとしたところ、その二人がゆんゆん宅まで来て「飲ませすぎたのは自分達だから、おにーさんをあまり怒らないであげて」と逆に謝りに来た。
「本当にごめんね。次もまたサービスするから、今度はゆんゆんやお仲間さん達連れてきてね」
「ああ、そうするよ。こっちもごめんな」
「ううん。おにーさん面白い人だから好きだし、絶対来てね。じゃあ、またね」
そのまま手を振って、元気に去っていくねりまきちゃんを見送った。
好きか、まったくまた乗せるようなことを…そう考えていたら、あるえちゃんが抱き付くぐらい近くに来ていて、耳元に顔を寄せて
「今度はちゃんと話の続きを聞かせてよ」
そう囁くように言ってから離れて、微笑んだ後クールに去っていった。
……なるほど。酔ってる俺が手を出そうとしたのもわかる。雰囲気的には年上の女性だし、これは俺悪くないのでは?
無罪の可能性を感じ始めたところに後ろから視線を感じて振り返ると、ゆんゆんとヒナが朝の状態に戻っていた。
…あるえちゃん、俺のこと本当は嫌いだろ。
あるえちゃんの置き土産で大変な目にあってから、今日はゆんゆんに紅魔の里を案内してもらった後、魔道具でも買い揃えようという話になった。
ゆんゆんがウキウキした調子で俺達より先行して里を案内してくれる。
昔日本人らしき人物が置いて行った猫耳スク水美少女のフィギュアが御神体として置かれている神社。
数年前に観光客寄せで作った聖剣が刺さった岩。選ばれし者のみが抜ける聖剣、などではなく、抜いたものには強大な力が備わるなんて嘯いて、一万人目の人間が引けば抜けるように魔法がかかっているらしい。ちなみに挑戦するにはお金を払わなきゃいけないらしく、まだまだ抜けることはないだろうとのこと。
斧やコインを供物として差し出すと、金銀を司る女神を召喚出来るという言い伝えがある泉。有名なおとぎ話に似ているが、また日本から転生して来た人間が関わっているのだろうか。
そして今紹介されているのが、地下へと続くようなダンジョンの入り口。
「ここは『世界を滅ぼしかねない兵器』が封印されている地下施設。向こうに見える謎施設と同じでいつからあるのかもわからないの。謎施設に関しては用途も目的も分かってないわ」
ゆんゆんも説明しつつ、微妙な顔をしている。
指差す方向には先程言っていた巨大な建造物の謎施設とやらが見える。見た目はコンクリートの建物みたいだ。
「謎ばっかりじゃねえか」
「よくそのままにしてるね…」
「だって、中を見てもわからないのよ…。里のみんなも面白がって残したいみたいだし」
この里はなんなんだ。
でも頭の良い紅魔族が見ても分からんと言ってる以上、余程難解なものが置いているに違いない。
そんなことを思っていると、ヒナが不敵な笑みを浮かべていた。
「名探偵ヒナギクの出番だね!」
「なにこれ」
「迷探偵の出番だったな」
地下への階段を下りると、広間になっていて、正面の壁全体が開くような巨大な扉になっているように見える。
幾何学模様とかが壁一面に描かれていて、いかにも厳重な封印がされいる扉です、と言わんばかりだ。
着いた時からずっとヒナがくっついているところがこの壁の封印を解く謎掛けらしい。
それは扉の横についていて、アルファベットと数字、ゲームの十字キーの様なものが並んだ、暗証番号を入れるタッチパネルが置いてあった。
タッチパネルの上には、この世界で見ないはずの文字で『小並コマンド』と書かれていた。
「おい、これ」
「はい。これは古代文字ですね。まずはこれの解読からしなければならないみたいですね」
トリスターノがさも俺の言いたいことをわかっているみたいな顔して、先に言ってきたけど、そうじゃない。
古代文字?いや、別に古代文字なんかじゃなくて、これはただの日本語だ。
『小並コマンド』は日本の有名なゲームメーカーの小並の有名なコマンドだ。
ゲームは好きだが、そこまで詳しくない俺でも知っている様な有名なコマンド。
それが何故こんなところに…?
「うぅー…」
迷探偵が唸っているが、解けるはずもない。
「そんな簡単に解かれたら私達の立場がないでしょ?まだ案内するところはあるし、次に行こう?」
ゆんゆんがそう言って、ヒナを説得してそのまま二人を連れて階段を上って行った。
俺はついて行くフリをして、すぐに戻ってコマンドを打ち込んだ。
すると、ゴンゴンと機械的な音を立てて、巨大な重い扉が開いた。
やっぱり開いたか。ただ中身を調べようとかは思っていない。
ちょっとした好奇心。なんとなく確認してみたくなっただけだ。
世界を滅ぼしかねない兵器、なんて一生ここで眠っていてほしい。
俺がもう一度コマンドを打ち込むと、また機械的な音を立てて扉は閉まっていった。
急いで階段を上ると、三人が待っていた。
「何してたの?」
「さっきいじってたのヒナばっかりだっただろ?俺も少し見てみたくなったんだよ」
「どうせ開かなかったでしょ?僕が開けられないんだから、当然だよ」
開いたわ。この迷探偵め。
でもなんか面倒そうだし、話を合わせておこう。
「はいはい、開かなかったよ。待たせて悪かった。次行こう」
「うん。次はここの説明した時に紹介した謎施設の方に行くわ」
コンクリート製に見えるその巨大な建物には看板が付いていた。
『ノイズ開発局』
先程と同じように日本語で書かれている。
なんかの研究所だろうか。
というかノイズと言えば、確か
「また古代文字ですね」
「なあ、ノイズってデストロイヤーを作って滅んだ国だよな?」
「ええ、そうですが、何故ノイズの話が出てくるんです?」
「いや、なんとなく」
「はあ…?」
「みんな聞いて。一応危険なトラップは無いけど、まだトラップ自体は残ってるの。気をつけて入ってね」
ゆんゆんが俺達を見回し、真剣な顔で言ってくる。
「任せてください。私、こんなこともあろうかと罠発見スキルを取ってあります」
「里の中だってのに、なんで罠に怯えて探索するんだか…」
施設の前に行くと、ゆんゆんが止まるように手で合図してくる。
「最初のトラップよ。これはあまり危険じゃないけど、気をつけること。ここの扉は前に立つと扉が突然開くんだけど、親切なふりをして油断しているところを扉が閉まって挟んでくるから気をつけて」
見ると、普通のガラス製自動ドアに見える。
ここの研究所はどうやらノイズと日本人が大きく関わっているらしい。
そうか。地球の便利な設備も異世界人からしたら、トラップに見えるのか。
最初にゆんゆんが扉の前に立ち、開いたところをスッと素早く入って、お手本を見せてくる。
次にヒナが緊張した面持ちで扉の前に立ち、ゆんゆんに続いた。
自動ドアでそんな顔するの、やめてくれ。笑いが堪えられなくなる。
トリスターノも少し表情が固くなっているのを見たら、流石に限界になって、三人に背を向けて声を抑えて笑った。
俺は普通に異世界に来る前のコンビニに入る気分で入ったら、ゆんゆんにめちゃくちゃ怒られた。
『この先はクリーンルームです。防塵服に着替えてください』
俺達が入って行くと、そんなアナウンスが聞こえた。
「みんな、聞いた?これはね、この先に入るならボウジンフクという装備を手に入れないといけないという警告なのよ。それでこの先の小部屋に入ると、物凄い風が吹くの。昔はこの風が出てるところから毒が出ていたという推測がされていて」
多分エアーシャワーだろう。塵とか埃とかを中に持ち込まないようにするための。クリーンルームとか防塵服とか言ってるし。
ゆんゆんがクソ真面目に話してるのを聞き流し、周りをみていると、またゆんゆんに注意された。
「ここの風は私が食い止めるわ!先に行って!」
「ゆんゆん!ごめん!」
「ゆんゆんさん!すみません!」
やめろ、その必死な感じ。
ただ風が送り込まれてるだけだろ。
やばい、マジでここの施設は危険だ。
俺の腹筋を殺しに来てる。
というかこいつらのリアクションが良すぎるのが、また腹筋にダメージを与えてくる。
「ゆ、ゆんゆん、ぷふっ、ご、ふふ、ごめんな」
頑張って風を食い止めてるゆんゆんに謝りながら小部屋を通り抜ける。
「ゆんゆん!早く!」
「ゆんゆんさん!」
「ゆんゆん、ふふ、大丈夫か!」
もうここのノリに合わせよう。
ゆんゆんが俺が入ったと同時にすぐに走って小部屋を通り抜けてくる。
二人が頻りにゆんゆんを心配している光景に大笑いしそうになったが、みんなから見えないように自分のケツを抓って必死に耐えた。
クリーンルームを見渡すと、そこはベルトコンベアーがあって、何か機械が多く並んでいる。
「アレは多くの被害を出した危険なトラップよ。この上に乗った人や物を捕食するの。今は討伐されてるけど、油断しないでね」
まあ、巻き込まれ事故は危ないしね。
なんかを組み立てる機械だと思うんだけど、違うのかな。
そう思って近付くと、ゆんゆんにまたまた注意された。どうやら今日の俺から警戒心を感じないとか。
だって警戒も何も無いし…。
謝ってから、ふと見ると、また日本語が書かれているのが見えた。
『ゲームガール製造レーン』
そう書かれていた。
まさかゲーム作ってたんじゃないよな?
たまたまゲームっていう名前がついてるだけで、何かの兵器とかの部品とかなんだよな?
設備の奥を見ると、小さな箱のような物を見つけた。近付いて見てみると、それはガチャポンだった。
「ヒカル、それは恐らく危険度は低いものだけど、気をつけてね。正直何なのか全く分かってないのよ」
危険な要素は一ミリもない。
中身は入っていないが、元いた世界でよく見たガチャポンだった。
『期間限定、紅魔族改造権入り』?
そんなことが書いてあった。
『一等、試作プレイスゲーション。二等、ゲームガールSP。三等、紅魔族改造権』
……どういうことだってばよ。
改造権ってなに?わけがわからん。
まさか紅魔族の人達を改造して、兵器化でもしていたとか?
ゆんゆんの際どいところのバーコードはこれの名残とか?
…わからん。
正直あまりわかりたくないのもあるが、情報が足らない。ゆんゆん達に先に行くからついて来るように言われて、俺は考えるのをやめた。
その後も探索は続いて、ゆんゆん達のナイスリアクションを見て楽しんだ。
昼食を『デッドリーポイズン』という飲食店として考えられないような名前を付けられた喫茶店で食べた後、今日の里の案内はこれくらいにして、買い物をすることになった。
正直助かる。これ以上変な日本のものが出て来て、ゆんゆん達の必死なリアクションを見せられるのはしんどい。
それで俺達は魔道具が売っているお店に向かっていたのだが。
「敵感知に反応があります」
トリスターノの一言で、買い物どころではなくなった。
一応謎施設の罠があるとかで、装備は最低限持って来ている。
周りの紅魔族に敵がいることを伝えてから、俺達は走って向かっていた。
トリスターノが先導していると、ゆんゆんがめぐみんの家の方だ、と呟いているのが聞こえた。
俺達がめぐみんの家に着くと、魔王軍の軍勢とダクネスが睨み合っていた。
「ダクネスさん!大丈夫ですか!?」
ヒナがすぐにグローブを嵌めて、ダクネスの隣へ並び、いつものボクサースタイルで構えた。
「なっ!?もう来てしまったのか!?」
「えっ」
「あ、い、いや、すまない。何でもない」
お願いだから、ヒナの前ではしっかりしていてくれよ、ダクネス。
「ダクネスさん、里とめぐみんの家を守ってくれて、ありがとうございます!ここからは私達も加勢します!」
ゆんゆんがそう言って、杖を構える。
「えっ、ああ、うん」
悲しそうな顔をするんじゃない。
俺達が構えたところで、多くのモンスターの集団から、綺麗な女性が前に出てくる。
胸元が大きく開いた派手なドレスを着た長身の女性。右耳にはピアスとなかなか着飾った女性だ。
悪くない。むしろ良い。
「なるほどね。攻撃も当てないで、私達に攻撃されるだけだったのは、大したことは無いと思わせて、仲間が来る時間を稼いでいたというわけね」
いえ、ただのドMです。
「ここまでアタシ達の部下の攻撃を受けて、傷一つ付いてないところを見ると、かなり高レベルのクルセイダーみたいね。攻撃を当てない演技までして、アタシ達をここで足止めするなんて、やってくれるじゃないの」
いえ、ただのドMです。
「あ、ああ。…そちらこそ私の思惑を一瞬で理解するとは、流石魔王軍幹部といったところか」
ダクネスが目を泳がせながら、なんとか堂々と言い放った。
え、この女性が魔王軍幹部?
色々と聞き出そうとしたところ、カズマ達が紅魔族を引き連れてやって来た。
カズマが魔王軍幹部やデストロイヤーを倒したことを言い放ち、それをなんだかんだ信じてしまった魔王軍幹部の『シルビア』。
カズマはシルビアに名前を聞かれて、何を思ったのか『ミツルギキョウヤ』と名乗り、それを信じ込んだシルビア達は、紅魔族の魔法の追撃を受けながら逃げて行った。
こんなんでいいのか、この世界は。
しばらく真面目な話が続きます。多分。