66話です。さあ、いってみよう。
「……はい?」
「非常に残念ですが、殺すのは諦めます。楽にしてくれて結構ですよ。にしても一つの世界に二人も『神聖』持ちが現れるなんて…」
「あの、さっきから何言ってんですか?」
真面目に困惑状態な俺はエリス様が言ってることが理解できなかった。
「あれ?『神聖』について貴方に説明したはずですよ。具体的に言うと15話で」
「おい、やめろ」
世界のルールを壊しにかかるな。
あんた、神様だろうが。
「それが貴方に微弱にも宿り始めてるんですよ。これは私の仕事が増えることになりそうです。どうしてくれるんですか?」
「それってあれですよね?神様とかの存在が持ってるはずのものですよね?あとヒナギクが持ってて」
「そうですよ。普通貴方みたいな人間が持てるものでは無いのですが」
「軽くバカにしてくるのやめてくれません?ていうか何でそんなことになってるんですか?俺が神様とかになれるわけないと思うんですけど」
「それは私もその通りだと思いますが、そうですねえ…。理由をあげるなら、私達に関わりすぎたのかもしれませんね」
「…それは全部エリス様のせいなんじゃ」
「私やアクア先輩、ヒナギクにギン、そしてあの指輪の力に触れたのがよくなかったのでしょうね。貴方が神聖なものに関わりすぎて、貴方の存在が神聖なものに引っ張られたのでしょう。つまり私のせいではありません」
「え、ギン?指輪?引っ張られた??」
説明しているつもりなのかもしれないが、全然わからない。
というか何であの犬が出て来るんだ
「説明が面倒ですけど、ギンというナトリにいたあの白い犬、あれはとある転生者の特典で大神と呼ばれる神獣です」
「は?」
「普通なら大神を従えている転生者や世話になった人間の言うことしか聞かないはずなんですけど、貴方が『神聖』を持っているのを感じ取って自分の仲間だと思ったのでしょう。だから、あの大神が貴方の言うことを聞いたんですね」
「クリスだって、あの時いましたよね?」
「クリスは人間の体ですから。限定解除とかはありますが、ほとんどただの人間です」
「…指輪は?」
「あの時アクア先輩が説明してた通りの指輪です。あれは魔法やスキルというこの世界の力ではなく、それとは一段階上の神の力を行使できる指輪です。それを貴方がヒナギクと力を使ったのが一番よくありませんでしたね。ヒナギクと貴方の『神聖』二つを合わせて使ったおかげであの指輪はかなりの力を発揮したのですが、貴方はとうとうこちら側へ来てしまいました。ところであの時ヒナギクと恋人繋ぎしてましたよね?手首斬り落としていいですか?」
「良いわけないでしょう。…俺が神様とか無理だと思うんで辞退したいんですけど」
「辞退ですか?無理ですよ?『神聖』を持つ資格があるだけならともかく、すでに貴方は『神聖』を持っていますからね。死後に天界で働くのは義務です」
義務とまで言われた。
ヒナギクみたいな神様に選ばれたわけでもなく、良い子ちゃんでもない俺がアクアやエリス様と同じような存在に……うわ、なんかすごい嫌になってきた。
「そんな不安そうな顔しないでください。天界では私が先輩としてヒナギクと貴方の面倒は見ますよ」
自信満々に胸を張ってそんなことを宣うエリス様に俺は不安が増した。
嫌な予感しかしない。
「出来ればエリス様とは違う神様の下で働きたいんですけど」
それを聞いたエリス様は少し固まり、にこやかに話し始める。
「……ツンデレも度が過ぎると嫌われますよ?私は『上司になってほしい神様ランキング』のいつも上位に名前が載る程の人気があるんですよ?謝ってください。人気の私に謝ってください」
「それはエリス様の本性を知らないからです。少女が性癖の神様だって知られたら一瞬でそのランキングから名前が無くなるはずです」
「性癖ではありません。ヒナギク一人が好きなだけです。謝ってください。怒りますよ?」
「ヒナギクの胸だなんだを性的な目で見てるくせに何を言ってるんですか。絶対に嫌です。他の神様のところか、もしくは天界で仕事はしたくありません」
「……そこまで言いますか。わかりましたよ、私をここまで怒らせるのは貴方ぐらいです」
「嫌な予感しかしませんし…」
「絶っっ対に私の元で働いてもらいます。ヒナギクと一緒に貴方を毎日こき使ってあげます」
うわ、なんてこと思い付くんだ。
「どうせ貴方のことですから、神にはなれずに、せいぜいが上位天使止まりでしょう。上司の私には絶対に逆らえません。それで私が神様を引退したら、私とヒナギクの家のお手伝い、いいえ家のこと全てをやってもらいます。」
「はあ!?何でそんなことまで!?」
「私を怒らせるからこうなるのです。給料面は期待してくれていいですよ。天使という安月給からしたら、それなりのお金を出してあげます。私は人気で有能な女神ですからね。お金にはかなり余裕があるのです。その分馬車馬の如く働いてもらいますけどね」
目の前が真っ暗になりそうな程の絶望感。
殺されそうになって、これからは関わりたくない一心だったというのに、まさか死んだ後までこの神様にこき使われるだなんて…。
死んだ後まで救いが無い。
そんなことがあっていいのか。
「鳴呼、ヒナギクと幸せに暮らす日々が、更に良いものに…。都合の良い下僕…じゃない家政夫まで手に入れてしまうなんて、これも私の日頃の行いが良いからでしょう。ヒナギク、私と幸せになりましょうね」
恍惚としたエリス様の顔を見て、色々な意味でもうダメなのだと思い知った。
俺は天界で、この神様の下につかないように神様を目指さなきゃいけないらしい…。
「うっ……ぐすっ……ふぅぅえええぇぇぇ…」
「……そろそろ泣き止んでくれ」
「ふわああああああ!!ううううぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「はあ…」
衝撃の事実を知って数日後、クリスの自棄酒に付き合わされていた。
アルコールが回っているのか、悲しみの限界を超えたのか、わんわん泣いている。
ヒナには神からの試練だとかなんとか言って誤魔化したが、痛ぶるような戦い方をしたクリスをよく思わなかったのか、ヒナはクリスを徹底的に避けるようになっていた。
殺されそうになったが、クリスの何とも可愛そうな姿に同情し、ヒナには気にしなくていいと言ったり、クリスと口裏を合わせた説得を試みたがダメだった。
「ヒナは、しばらく会いたくないって言ってたんだし、時間が経てば解決してくれるって」
「それはあとどれくらい経てば会ってくれるの!?何時間!?何分!?何秒!?」
泣きべそをかいて、唾を飛ばしながら俺の胸倉を掴んでぐわんぐわん揺らしながら叫んでくる。
「やめろ、揺らすな!少なくともその単位で許してくれないのは確かだよ」
「うわああああああああ!!少し前まであたしを見かけると満面の笑みで小走りで近付いてきてくれてたのに!何でこんな目に合わなきゃいけないのさ!あたしはヒナギクのことが大好きなだけなのに!愛してるだけなのに!」
「殺そうとしたからだろうが。というか何でお前は人間のまま殺りに来たんだ?また前みたいに神様パワーで閉じ込めればよかっただろ。そうすればヒナに見られることも無かったのに」
「だって、あたしは別に戦闘が得意なタイプの女神じゃないもん!この前だって証拠隠滅とか楽だから教会に閉じ込めて大剣で殺そうと思ったのに、意外と君が抵抗するせいで殺せなかったんだよ!」
「全力で抵抗するわ!じゃあお前あれか?あの時女神モードだったから、俺は生き残れたわけだ」
「…そうだよ。このまま殺しに行ってれば確実に殺れてたのに。君のことだから、女神モードのあたしの言うことをホイホイ聞いて、素直に首を斬られると思ってたのに」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ」
「あの時はただの雑魚のヒナギクを誑かすゲロカス以下のゴキブリ野郎だと思ってたよ」
「怒っていい?そろそろ俺も怒っていいよな?」
「なにさ!ヒナギクの胸を堪能したり、ヒナギクの父親ぶったりしてるくせに!なんて羨ましい!何でヒカルだけ良い目に合うのさ!理解出来ないよ!」
「別に堪能なんかしてねえよ。あと父親みたいなことしてるのはヒナギクがホームシックになってるからで、もう少ししたら里帰りさせるから、それまでだよ」
「…それを信じるなら今はヒナギクを誑かす最低の男ぐらいにしか思ってないよ」
「よーし、表出ろ。この前の続きだ。今度は俺も本気でしばきにいってやる」
「あーもう終わりだよ!世界の終わり!せかおわだよ!」
何がせかおわだ。
そう言って突っ伏してまた泣き始めた。
何で酷い目に合った俺が、酷い目に合わせてきたクリスの自棄酒に付き合わなきゃいけないのか。
時間を見ると、そろそろ帰る時間だ。
「悪い、クリス。俺はそろそろ帰」
「はああ!?こんなに酔っ払って泣いてる女の子を置いて帰る気!?」
「勝手に酔っ払って、勝手に泣いてんだろうが!今回はお前が招いた事だし、俺も手を尽くして無理だったんだから、素直に諦めろ!」
心底驚いた表情で俺を見てくるクリスに当然のようにツッコんだ。
「ヒカルしかあたしの事情を知らないんだし、もう少しぐらい付き合ってくれてもいいじゃん!ここはあたしが奢るから、飲んでいきなよ!それならいいでしょ!?」
「悪いけど、ゆんゆんに異性と飲むのは、ほぼ禁止されてるんだよ」
「……ふぅーん、あたしのこと異性として意識しちゃってるんだぁ?残念でしたぁ、クリスルートは存在しませーん」
そう言ってニヤニヤし始めるクリス。
何を勘違いしてるんだこいつは。
「いや、お前のことは何とも思ってないけど、周りやゆんゆんがどう思うかはわからないからな」
「誰が男の子だああああああああああ!!!」
ブンッ!
「あぶねえ!?誰もそんなこと言ってねえよ!ジョッキを振り回すな!」
「ううぅ…どうせあたしなんか…あたしなんかぁ……」
面倒くさい。アルコールのせいで、いつもより更に面倒くさい。
本当に神様なんだろうなと思うが、散々目の前でこの人が神様なところを見せられてきたから、疑いようもない。
「飲み過ぎだよ。ほら、一回帰ろう。送ってやるよ」
「嫌だよ!まだ飲む!飲まなきゃやってられないよ!」
俺が肩を叩いて店を出ようと言ったら、まるで机にしがみつくようにして、抵抗を見せた時
「あらあら、私を出し抜いた大物の盗賊の姿とは思えないわね」
「あ?」
「へ?」
俺とクリスの後ろから女性の声が聞こえて振り返る。そこには腰まで届く紫色の長髪に、胸元が開いた軽装で抜群にスタイルの良い女性がこちらを見ていた。挑戦的な目をしていて、自信満々な表情からは勝気な女性だろうということがわかる。
「メ、メリッサさん」
「誰だ?」
この女性はメリッサというらしい。
クリスの声からして、あまり会いたくなかったみたいな声色だ。
「この人はメリッサさん。凄腕のトレジャーハンターだよ」
「へえ」
「あら?この私を知らないなんて、新人かしら?まあ、いいわ。あなたになんて興味ないし」
特に挨拶もなく、メリッサは言葉通りにすぐ俺から興味を無くしたように視線を外し、クリスを正面に見据える。
スタイルは良いが、愛想は悪い。見る限りSっぽいし、俺とはあまり相性は良くなさそうだ。
SとSは相容れない。反発し合う関係だ。
俺も今はゆんゆんがいるから、ただスタイルが良いだけの女に興味は無い。メリッサはクリスに用があるみたいだしな。
ここは黙っていることにする。
「この前はどうも。あなたには随分とお世話になったわね」
「あはは…。久しぶり、メリッサさん」
メリッサの表情はニヤつくような余裕が感じられるものだが、目はなんというか敵意のようなものを感じる。
なんだろう、同業者同士の競争意識だろうか。
「ええ、久しぶり。こんなところで男を捕まえてお酒を飲んでるなんて、大物の盗賊は随分と余裕があるのねぇ?」
「な、何言ってるのさ。ヒカルはただの友達だし、あたしは大物なんかじゃないよ」
「へえ、そう。そういえば面白い話を聞いたのよ。興味あるんじゃない?」
「えー、どうかな。あたし達いつも取り合いしてると、どちらか損するし、わざわざあたしに教えない方がいいんじゃないかな」
「まあ、聞いていきなさいよ。王都のとんでもない効果を持ったお宝の話よ」
それを聞いたクリスは苦手な人を相手にするような表情とは打って変わり真剣な表情になった。
「ね、ねえ、メリッサさん。こんなところで話す話題じゃないと思うなぁ。ほら、もし新しく狙う人が増えたら厄介だと思うよ?」
「…その反応を見ると知ってるのね?あのお宝のこと」
メリッサはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
「メ、メリッサさん、王城に潜入なんてやめたほうがいいと思うよ?もし捕まったりしたら」
「ご忠告どうも。前回の借り、返させてもらうわ」
「ちょ、メリッサさん!?」
一方的に言って、そのまま背を向けて去っていく。
クリスが呼び止めても、手をふりふり背中越しに振って止まる気は無さそうだった。
「ま、まずいことになった!あの人何で知ってるの!?しかも前回のこと根に持ってるし!」
クリスはメリッサが去った後、頭を抱えていた。
「なんだよこの野郎。さっきまでわんわん泣いてたくせに、今度は頭抱えて」
「よりによってメリッサさんに狙われるなんて!まずい、早く準備しなきゃ!今日は付き合ってくれてありがと!また今度ね!」
「は?お」
おいと言い終わる前にクリスは支払いを済ませてバタバタと慌ただしく去って行った。
「あの変な女が来たときに帰っておけば良かったな」
思わず独りごちる。
俺もさっさと帰路に着くことにした。
この時の俺は先程のクリスとメリッサの会話の内容に巻き込まれることになるなんて、夢にも思っていなかった。
こういう説明とかする回は苦手で避けてきたのですが、そろそろ入れないとなぁと思い、書きました。ちょっとしたフラグも立てつつ。
天使が安月給うんぬんは原作13巻での設定をちょろっと使わせていただきました。
このファンのキャラ、メリッサ登場です。
この前の借りはメイドガチャのストーリーのことですね。
多分二話ほどこの話が続きます。
この調子だと五章も長くなりそうです。