このすば ハード?モード   作:ひなたさん

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文字数多め。
情報量も多め。

69話です。さあ、いってみよう。



69話

 

 

 王城に潜入して数日後の朝。

 人が気持ちよく寝てるというのに、遠くから怒声のようなものが聞こえて目が覚めた。

 ったくなんだこの野郎。

 そう思い、起き上がると玄関の方から聞こえてきたのはヒナの声だ。

 ヒナがこんなに怒るのはそんな無い…いや、そんなことないわ。よく怒るわ、あいつ。

 面倒くさいのが来てるなら、俺が対応しようと思い、軽く着替えて玄関へと向かうと

 

「とにかくダメです!帰ってください!」

 

「そ、そんなこと言わないでよ…。ちょ、ちょっと話があるだけだから…」

 

「いいえ、帰ってください!」

 

 ヒナの正面にいるのはクリスだった。

 クリスは少し泣きそうになっていたが、俺と目が合うと表情が明るくなる。

 

「ヒカル、おはよう!ちょっとだけ話が…」

 

「ダメです!ヒカルは部屋にいて!」

 

 クリスが話し始めたのを邪魔して、俺を部屋へと追い返そうとするヒナ。

 なんだこいつ、どうした。

 

「ちょ、お、お願いだってば!変なこととかしないし、少し話をするだけだから」

 

「信じられません!試練とかなんとか言ってたけど、やっぱりおかしいです!僕、クリスさんのこと憧れてましたけど、あんな痛ぶるような戦い方をする人だと思いませんでした!家族を傷付けられて、それを許して、今度は話があるから会わせろなんてお断りです!」

 

 ヒナはブチ切れモードだ。

 この状態になると大抵人の話を聞かず、相手が反省しきるまで絶対に許さない。

 こうなるのはだいたい俺ぐらいで、他の相手にこの状態で怒ってるのをあまり見たことが無いのだが。

 クリスは縮こまり、半ベソをかいてるが、ヒナの勢いは止まらない。俺をぐいぐい押して部屋へ押し込もうとする。

 

「ちょ、待て待て。一回落ち着け」

 

「落ち着いてるよ!ヒカルはクリスさんと会うの禁止!」

 

 いや、禁止って言われても。

 まるで子供がオイタして親がオヤツ禁止って感じで言われても、そんなの無理だろ。

 

「ちょっと話すぐらいだからいいだろ。ちょっと出掛けて」

 

「なんでさ!なんでヒカルは許すのさ!」

 

 先程よりもさらに大きな声で怒鳴るヒナ。

 流石の俺もヒナのブチ切れぶりに驚いて固まる。

 

「僕、ヒカルがあんな目にあってすごい心配だったのに!なんでヒカルはなんとも思わないの!?なんで許すの!?なんで受け入れるの!?試練が何さ!あんなもの!あんなもの受けなくていいよ!まだ、受けるんだったら…!」

 

 ヒナは怒鳴りながら、泣いていた。

 俺を睨みながら、俺の胸を平手でバシンとぶっ叩いた後

 

「僕の心配も考えないヒカルも、クリスさんも……エリス様も!大っ嫌い!!!」

 

 そう叫んだヒナはバタバタと走り、自分の部屋の扉を乱暴に閉めて、閉じこもった。

 止める暇もなく、止める余裕もなかった。

 殴られるより衝撃的で心が痛かった。

 エリス様だとか言えば、きっとヒナなら信じるとか思っていた俺の浅はかな考えに嫌気がさした。

 俺のことを大切に思ってくれているヒナの心を蔑ろにしたのを今やっと知った。

 今すぐヒナの元に行ってやりたいが、玄関で泣きながら固まってるクリスを放っておくわけにもいかなかった。

 

「あー…えっと、クリス?」

 

「……」

 

 返事は無く、口を軽く開けて涙を流しながら石像のように固まっていた。

 

「お、おい…」

 

 目の前で手を振っても、頬を抓っても何の反応を示さなかった。

 

 うわ、立って泣いたまま気絶してる。

 

 

 

 

 

 

「おねがいがあります」

 

「あー…まあ、はい」

 

「いまからこのダガーをかすので、ひとおもいにころしてくだ」

 

「ちょっと待て!しばらく待ってるから落ち着いてくれよ!」

 

 絶望しきった顔で泣きながら淡々と話すクリスは見てて少し怖い。

 泣いて立ったまま気絶してるクリスを放置出来ずに、とりあえず俺の部屋の椅子に座らせて、なんとか意識を取り戻したと思ったら、殺すように言ってきた。

 殺そうとしてきたり、自棄酒に付き合わされたり、部下にしようとしたり、面倒事に巻き込んできたり、殺せと言ってきたり、こいつ神様だからって自由すぎやしないか。

 

「もうむりなんです。おわりました。すべてが」

 

「何も始まってねえだろうが。何勝手に始めた気でいるんですかこの野郎」

 

 その後クリスは黙り込んだ。

 俺がなんとなくこの神様を憎めなかったのはヒナギクを純粋に好きだというのを感じていたからだ。いつも意気揚々とヒナギクのことを話す表情はキラキラとしていたものだ。最近は色々と拗らせてはいるが…。

 俺も好きなものを取られそうになったら、きっと怒るだろう。この神様の場合、度を越してる部分はあるけど。

 偉い目に合わされて、最初はご機嫌取りの気持ちだったが、なんだかんだで行動を共にしたり、寝食を共にしたりもした。

 殺そうとしてきても、放っておいたり出来ないのは、なんというか情みたいのがあるからだ。

 情というか、縁というか、絆というか。

 人生そんなもんだろう。これに動かされるんだ。

 まったく大変な目にあったのに、この神様は。

 

「ほら、諦めたらそこで試合終了って言葉があるだろうが。諦めるなよ」

 

「もうおわってるのです。しあいしゅうりょうごにぼーるをいれても、ぽいんとにはなりません」

 

「意外と詳しいなお前。じゃあ本当に諦めるのか?ヒナを?」

 

「……あきらめる、しか…ないのです…」

 

「じゃあこれからヒナが好きな男が出来たりしても、ちゃんと受け入れられるか?」

 

「……………は?」

 

「諦めるってのはそういうことだろ。これからヒナが好きな相手が出来て、付き合いはじめて、キスして」

 

「は?」

 

「デートして、ベタベタにくっつくぐらいに腕組んで」

 

「は?」

 

「そして夜は、宿でお互いの身体」

 

「そんなの許すわけないでしょおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 ブンっ!!

 

「あぶねえ!!」

 

 首近くに振るわれるダガーを寸でのところで避けきった。

 

「そんなの良いわけないでしょう!?はあああああああ!?ヒナギクの体は一生綺麗なままなんですうううううう!!!」

 

「わ、わかっ!?わかったから!!わかったからダガーを振り回すのやめろ!!わ、悪かったから!!」

 

 

 

 

 

 

「…はぁ…はぁ…落ち着いてくれましたか?」

 

「…ええ、すみませんでした」

 

 ダガーを振り回してくるのを避けたり捌いたりして、数分後ようやく落ち着いてくれたみたいだ。

 

「とにかく二人で謝りましょう。もう試練も無いって言って謝りましょう。このままは嫌でしょう?」

 

「…嫌なんですけど、また拒絶されたら多分死にます」

 

「はあ…」

 

 思わずため息をついた。

 本当に面倒な神様だ。

 

「今は距離を置いた方がいいと思いますし、それに、その、ちょっと」

 

 なんか言いづらそうにもごもご言ってる。

 

「なんですか?」

 

「その、バレました」

 

「は?何が?」

 

「バレたんです。創造神様に」

 

 全然わからん。そうぞうしんさま?

 

「創造神様は、すべての神の頂点に位置する神です。そんな創造神様に私がヒナギクに過干渉してるのがバレました」

 

「……まあ、今までバレてなかったのがおかしかったと思いますけど」

 

「…はい。もう少しで頭に風穴が空くところでした」

 

「いやいや、何が起こったんですか?」

 

「創造神様は大変お怒りで、私に銃を突きつけて」

 

「なんか一気に人間みたいな感じになってきましたけど、本当に神様のやりとりなんですよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『おじさん言ったよなぁ?やりすぎるなってよぉ。それがお前…お前、可愛いから手出したってなんだこの腐れパ◯ドがぁ!』

 

「あ、あの、◯ッドは関係な」

 

『だまらっしゃい!!』

 

「ひぃっ!すみません!!」

 

『しかももう『神聖』が付いてるだあ?それはどーいうことだぁ?三秒以内に簡潔にまとめて喋れ』

 

「え、」

 

『イチ』

 

 パァン!!

 

「2と3はあああああああああ!?!?」

 

『神は全ての頂点に君臨し、世界の管理を行うもの。数字なんか1だけ知っておけばいいのよ』

 

「さ、先程三秒って」

 

 パァン!!

 

「ひぃっ!!」

 

『口答えしてる暇があったら、早く始末書書いてこい!このパ◯ド神が!!おじさん撃っちゃおうかな?撃っちゃおうかなあ〜?』

 

「も、もう撃ってるじゃ…!」

 

 パァン!パァン!!

 

「ひいぃぃぃっ!!すぐに書いてきますううううううううう!!!」

 

 

 

 

 

「ということでして」

 

「……」

 

 死んだ後が一気に不安になってきた。

 なんとか天界で仕事をしない未来はないものか。

 

「なんか伏せ字があって、よくわからなかったんですけど」

 

「そこは気にしなくていいです。これも良い機会です。私はしばらくヒナギクに会うのを控えます」

 

「そういうことなら」

 

 この神様がそう思ってるなら、それでいいや。

 

「そういうことなので、貴方にはしばらくヒナギクに私の好感度を上げる手伝いを」

 

「はあ!?何言ってんだ!?そもそも元はと言えば全部あんたのせいだろうが!」

 

「た、確かに私のせいかもしれませんが、私の部下なのにそんなこと言っていいんですか!?」

 

「何が部下だ!!少し可哀想だから助けてやったのに、好き勝手言いやがって!」

 

「なっ!?同情!?私だって怒る時は」

 

「こっちが怒ってんだよこの野郎!もうあんたは俺を殺せないんだよな!?なら、こっちにも考えがあるぞ!」

 

「な、何をしようっていうんですか!?私に乱暴する気ですか!?」

 

 自身の体を抱くようにして、一歩引く変態女神。誰が変態女神なんか襲うか。

 

「変なこと考えてんじゃねえよ!今から謝れば許してあげないこともないぞ?どうする?」

 

「謝りませんよ!だいたい何が出来るって」

 

 謝らないのか。そうか。

 

「今からヒナに全部話す」

 

「……はい?」

 

「あんたが最悪の変態女神だって話して、説得して、二人でアクシズ教に入る」

 

「…………………………はい?」

 

 何を言ってるのかわからない、いや、わかりたくないという顔だ。

 クリスの顔は段々と汗がダラダラと流れている。

 

「俺の家族のヒナだ。これから面倒を見るためにも俺も一緒にアクシズ教に入る。今までありがとうございましたエリス様。今度からはアクア様にお世話になります」

 

「え、あ、あの、冗談ですよね!?嘘ですよね!?そんな悪魔より非道な行いが出来るわけないですよね!?」

 

「もううんざりだ。あんたの元で働くぐらいならアクアのところの方がマシだ。さようなら」

 

 そう言って背を向けて、部屋を出て行こうとすると

 

「ご、ごめんなさいいいいいいいい!!!!調子に乗ってました!!今までのこと全てを謝ります!!出来ることなら何でもしますから!!だからアクア先輩の元に行くなんて言わないでください!!ゆ、許してくださいいいいいい!!!」

 

 俺の腰にしがみつき、泣き喚きながら許しを乞う女盗賊の姿がそこにあった。

 

 

 

 

「ひっぐ……グスッ……うぅ…」

 

 涙やら鼻水やらで、女の子がしていい顔じゃないと思うけど、そこは黙っていることにする。

 余程ショックだったのか、しばらく経っても泣き続けていた。

 

「あんたがまた好き勝手言った時は、マジで俺はヒナを連れてアクシズ教に入るからな」

 

「わ、わかりました!貴方様に全て従いますので、やめてください!」

 

「い、いや、そこまでは求めてないんだけど…」

 

「あ、あの、出来ればエッチなことはやめてほしいです…。神様としての力が無くなってしまうので…」

 

「だから求めてねえって言ってんだろうが!何だと思ってんだこの野郎!」

 

「男の人はそういうものだと…。カズマさんも潜入する時に、その、すごい触ってきましたし」

 

「…一緒にしないでくれ」

 

「はい…すみません…」

 

 アホな発言に調子を狂わされた俺はため息をつく。

 この大人しくなった言動を見るに、もうアホなことはしないだろう。した時はした時だ、ヒナを連れてアクアの元に行ってやる。

 

「これからはちゃんと女神をやってくれ。そうすればきっとヒナも嫌いなんて言わなくなるだろ」

 

「うっ…はい。申し訳ありませんでした」

 

 深々と頭を下げるクリス。

 変態なだけの女神なら国教として崇められたりしないだろう。

 一先ずこれで大丈夫だろう。

 

「とりあえず許すよ。さて、そろそろヒナが心配だし、行ってくるよ」

 

「あの……実はまだお話があるので、また後にお時間をいただいてもよろしいですか?」

 

「構いませんが…」

 

「わかりました。ありがとうございます。ヒナギクのことよろしくお願いします」

 

「はい、それでは」

 

「あと、本当に少しだけでいいので私の好感度を」

 

「失礼します」

 

 そのまま部屋を出て、ヒナの部屋へ向かった。

 ノックをしても、返事は返ってこない。

 拗ねているのか、激怒しているのか、それとも不貞寝でもしているのか。

 ドアノブを捻り、そのまま部屋へ入った。

 

「ヒナ?」

 

「勝手に入ってこないで」

 

 ヒナのベッドの膨れた布団の中から、ヒナの辛辣な言葉が帰ってきた。

 その声は涙声のように聞こえた。

 

「ヒナ、話があるんだ」

 

「僕には無い」

 

 鼻をすする音が聞こえて、俺を拒絶し続ける。

 

「ヒナ、ごめん。俺が全面的に悪かった」

 

「……」

 

「普通心配するよな。俺は馬鹿野郎だ。もう試練とかなんとかは無しだ」

 

「……」

 

「真面目に反省してる。許してくれないか?」

 

「……いや。ヒカルのことなんか嫌い。僕達の心配をなんとも思ってないヒカルなんて嫌い。僕よりも……クリスさんのことを優先するヒカルなんて、嫌い」

 

「そうじゃないんだ。心配させて本当に申し訳ないと思ってるし、クリスのことを優先したわけじゃない」

 

「嘘だよ。じゃあ何でずっとクリスさんといたのさ。僕を放っておいて」

 

「…お前に嫌いって言われて泣いてたんだ。放っておけないだろ」

 

「だから何さ。クリスさんのこと優先してるじゃん。僕のことなんかどうでもいいんでしょ?放っておいてよ。僕もヒカルのことなんか嫌いだから」

 

 その後啜り泣く声が聞こえた。

 俺はベッドに近付き、そのまま腰掛けた。

 

「来ないで」

 

「お前のことがどうでもいいわけないだろ。俺の家族だ」

 

「クリスさんを優先したくせに」

 

「ごめん。俺が間違ってた。お前の方が大事に決まってる。もう心配もかけさせない。クリスを優先したりしない。だから、許してくれ」

 

 そう言って布団をめくると、うずくまるようにして丸くなっているヒナがいた。

 顔は伏せたままで見えない。

 きっと泣いている。

 俺がそうさせた。最低の人間だ。

 

「来ないでよぉ……嫌い、きらい…」

 

 いやいやと首を振ってくる。

 俺が頭を撫でると、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げて、頭突きの如く抱きついてくる。

 

「きらい!きらい!!きらい!!!」

 

 ボロボロと涙を流しながら、ヒナはさらに抱き付く力が強くなる。

 俺もヒナの頭に手を回し、抱きしめる。

 

「ごめん、心配させた。バカな俺を許してくれ」

 

「バカ!本当にバカ!ヒカルなんか…!ヒカルなんか!」

 

「ごめんな。不安にさせたな」

 

 ヒナの頭を片手で撫でる。

 サラサラと黒い髪を優しく触れるようにして撫でる。

 

「ヒカルのことなんか……大好きなのに!きらいじゃないのに、きらいって言って、ごめんなさい…!」

 

 泣きながら好きだと言ってくれた。

 泣きながら謝ってくれた。

 

「俺も大好きだ。わかってる。わかってるから」

 

「クリスさんにも、エリス様にも言っちゃったよ…!僕、どうしよう!どうしよう…!」

 

「大丈夫。大丈夫だから。きっとわかってくれるから」

 

 泣き続けるヒナを俺は泣き止むまで抱きしめ、撫で続けた。

 

 

 

 

 

 スースーと静かに寝息を立てるヒナの顔を眺めながら頭を撫でる。

 あの後ヒナは泣き疲れたのか、寝てしまった。

 ふと横を見ると、布団から黒い布が出てきていた。

 何だと思って引っ張ってみると、それは黒いシャツ。というか俺のシャツだ。

 何故?俺のがここに?

 シャツはこのまま洗濯に出そうと思っていたら、ヒナが起きた。

 

「ぅぅん…ひかる?」

 

「ああ、起きたか?」

 

「ぅん……っ!?そ、そそそそれはっ!?」

 

 起き上がり、目を擦っていたヒナは俺が持っているシャツを見て驚き固まる。

 

「このシャツどうした?洗濯物か何かに紛れ込んでたのか?」

 

「えっ!?そ、そう!そうだよ!?それ以外にあると思う!?」

 

「え、いや、知らないけど。まあ、これは後で洗濯に出すから、このまま預かっておくぞ」

 

「う、うん…」

 

 起きてから落ち着きがない。

 驚いたり、焦ったり、残念そうな顔になったり。

 

「そ、その、ヒカル…」

 

 言い出し辛そうにヒナは口籠る。

 

「どうした?」

 

「僕、その、変で………変なことばっかり言ってごめんなさい…」

 

 顔を伏せて、謝ってくる。

 

「いや、俺が悪かった。何かあったら俺に言えって言ったのにな」

 

「う、ううん。違うの。その、嫌いなんて言って、ごめんなさい。僕、そんなこと言うつもりなかったのに」

 

「わかってるよ」

 

 頭を撫でてやると、少し安心した表情を浮かべた。

 だが、それはすぐに曇り始める。

 

「クリスさんにも、謝らなきゃ…。エリス様に」

 

「まあ、それはあれだ。もう少し後でいいんじゃないか?」

 

「え、何で…?」

 

 不思議そうな顔で、首を傾げてくる。

 

「具体的に言うと一週間後ぐらいでいいんじゃないか?」

 

「え、一週間?なんで?」

 

 一週間ぐらいは反省してほしい。

 それぐらいの罰はあってもいいだろ?

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 俺が部屋で寛いでいると、光が集まり、扉のようなものが出てきた。

 驚いてると、扉がゆっくりと開き、エリス様が顔を半分だけ出して

 

「こんばんは。お話しの続きなんですけど…」

 

 恐る恐る話しかけてきた。

 

「こんばんは。どうぞ」

 

 言われたエリス様は扉から出て来て、俺の部屋の椅子に座った。

 その後扉は元から無かったように消えてしまった。

 

「あのですね……創造神様にヒナギクのことがバレたと言ったじゃないですか?それで芋づる式にヒカルさんのこともバレまして…」

 

 天界のことを詳しく知ってるわけじゃないが、おかしくない話じゃない。

 

「二人に干渉して、一つの世界から『神聖』持ちを二人も増やしたとなると、私の頭に風穴が空くどころか、私の首から上が無くなりかねないので、そのぅ…ヒカルさんは私の協力者ということにして誤魔化したんです」

 

「……」

 

「ごめんなさい!そ、そんな嫌そうな顔しないでくださいよ!なるべく迷惑はかけないようにしますから!」

 

 エリス様が必死にそんなことを言ってくるが、嫌な顔もしたくなる。

 確かに首がかかってるとやらの状況なら仕方ない気もするが、この言い方的に絶対迷惑がかからないという感じでは無さそうだ。

 

「そんな怖い顔しないでください…。あまり迷惑がかけるような状況にはならないと思いますし、なった時の為にも一つだけ特典をお渡ししますから」

 

「特典?」

 

「はい。これです」

 

 渡されたのは本のしおりのようなサイズの紙切れ。

 ただ触ってみると、柔らかさや重さは紙に似ているが、触り心地や固さは紙とは思えないものだった。

 

「それは『神聖』を持つ者だけが使えるテレポート装置のようなものです」

 

「テレポート装置?」

 

「はい。本来の『テレポート』は登録した場所にしか行けませんが、それは頭に思い浮かべることが出来るところなら何処へでも移動することが出来ます」

 

 それが本当なら危なくなった時にでも使えそうだな。

 使い方によっては相手の背後を取ったりとか…。

 

「あ、ただ便利と思ってる顔ですね。本当に何処へでも行けますよ?例えば、日本とか」

 

「……はい?」

 

「残念ながら、その強力な力故に回数制限がありますけどね。それは私が頑張って手に入れたもので三回もテレポート出来るものです」

 

 えっへん、みたいな感じで胸を張ってるが、そうじゃなくて。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!い、今、日本って言ったか!?」

 

「言いましたよ?私達神が世界を渡るというのは隣の家に行くようなものです。神になったばかりの者やそれ以下の天使のような存在が世界を渡るために作られたものです。だから『神聖』持ちの人間なら扱えるのです」

 

「じゃ、じゃあこれで日本に一回は行って帰って来ることが出来るってことか!?」

 

「ええ、一度は往復が出来ます。ですが、日本にいられるのは一時間だけです」

 

「え、な、なんでだ?」

 

「貴方は一度死んで、こちらの世界の住人として転生しました。貴方はもう日本がある世界からしたら別の世界の住人ということになります」

 

「……」

 

「貴方は向こうの世界では異物として扱われるでしょう。一時間程経った時、世界から弾き出されてしまいますから、それが起こる前に帰ってくれば問題ありません」

 

「…日本に」

 

 独り言のように口から漏れ出す。

 まさかこんなものが出てくるとは思っていなかった。

 

「今までのお礼とお詫びも兼ねてそれを差し上げます。今まで見てきましたが、貴方ならそれを悪いことには使わないでしょう」

 

 こんなものがあるのか。

 

「これは、何人までテレポート出来るんだ?」

 

「はい?何故そんなことを?」

 

「いや、何かあった時に四人でテレポート出来れば、みんな無事に帰れるだろ?」

 

「……なんというか、貴方らしいとは思いますが、私が考えた使い方ではないですね」

 

 少しきょとんとしたような表情の後、微笑みながらそんなことを言ってくる。

 

「俺が何に使うと思ったんだ?」

 

「…貴方は家族に別れを言えなかったことを後悔しているのではなかったのですか?」

 

 少し悲しい表情になり、俺に問いかけてくる。

 …それは、確かにそうだ。

 俺は後悔していた。

 あの夢を見るまで、考えないようにしていたけど、俺は確かに後悔していた。

 もし、死んだ後に未練というものが残るのだとしたら、俺はきっとそれが未練になるだろう。

 

「もしかしてデモゴーゴンの時のことでも気にしてるのか?」

 

「…はい。私達の世界の都合で日本の方をこちらの世界へ連れてきていますから」

 

 少し暗い表情でそう言った。

 

「貴方達は本来死んでしまった人です。いくら連れてきた人間と言えど、死んだ人間がまた戻るというのは許されるものではないでしょう。ですが貴方は街や里、国を守り、多くの人を救ってきました。私の頼みも我儘も聞いてくれました貴方へ特別に一度だけ世界の理から外れる行為を許します」

 

 優しく微笑んだ表情で、俺を見てくる。

 …ヒナが絡まないと本当に女神様なんだな。

 ヒナのことばかり考えてるかと思ったら、意外と俺のことも覚えてたりしたんだな。

 

「エリス様、俺は後悔してたよ。何も言えないで別れるのは辛かった」

 

「…それなら」

 

「でも夢の中でさ、親に「いってらっしゃい」って言われたんだ。俺は「いってきます」って言えたんだ。だから、俺はもう後悔してない。たかが夢でも、俺は別れを言えたんだ」

 

「…」

 

「だから、俺はいらない」

 

 『テレポート装置』とやらを返す。

 俺はもう後悔なんてしていない。

 この素晴らしいバカ達とこの世界で生きていく。

 俺のこれからの人生はその為に使うべきだ。

 もうそれ以外考えられない。

 

「…わかりました。ですが、返さなくていいです。それは貴方のものですから、返されても困ります」

 

 真剣な顔で俺の言葉を聞いた後、エリス様は嬉しそうに微笑みながらそう言った。

 

「持ってていいのか?」

 

「ええ。三回だけ、ですからね?」

 

 悪戯な笑みでエリス様は言う。

 これは危なくなった時に使おう。

 その後の説明では、俺の弱い『神聖』では二人までしかテレポート出来ないが、ヒナと協力すれば五人程テレポート出来るらしい。

 

 また今度頼みたいことがあると言われて、思わずめちゃくちゃ嫌な顔をしてしまったが、エリス様は苦笑いするだけして先程のように扉を出して去っていった。

 





とある少女の話。
少女は父が帰ってくるのを待っていました。
今日は少女の誕生日。
誕生日パーティーの日です。
たくさんの準備をして、父を出迎えようと少女は待ち続けますが、父は帰ってきません。
結局帰ってきたのは夜遅く。
日付が変わった頃でした。
父は心から申し訳なく思い、謝ります。
ですが、少女はきっと来てくれると思っていた父に対して怒りをぶつけてしまいます。
その怒りはあらゆる感情を振り切って、やがて少女は「きらい」と父に言ってしまいました。
そう言うだけ言って、少女は自身の部屋へと閉じこもり、泣いてしまいます。
でも、その涙がどうして流れているか、わかりません。
来てくれなかったことが許せなかった。
それはそうでしょう。
ですが、涙の理由にはなりません。
大好きな父に「きらい」と言ってしまったこと。
それが涙の理由でした。
一緒にお祝いをしようと待ち続けた大好きな父を「きらい」になんてなるはずがありません。
ですが、少女は「きらい」と言ってしまいました。
後悔と不安。
何故あんなことを言ってしまったのだろう。
父に嫌われてしまったらどうしよう。
そんな気持ちが少女を苦しめます。
それからすぐに父は少女の部屋へ入り、泣いている少女に謝ります。
父に謝られてしまい、自分の感情がわからなくなってしまった少女は父の胸に抱きつき、謝ります。
「きらい」なんて言ってごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。
お父さん、「きらい」にならないで。
父は泣き続ける少女を優しく抱きしめます。
ごめんな。待たせてごめんな。
お前のことを嫌いになるはずがないだろう。
大好きだ。愛している。
そんな言葉を受けて、少女は安堵し、泣き続けます。
その優しさに包まれて、泣き疲れるまで。

少女はどうして泣き続けてしまったのか、きっとわからないままでしょう。
ですが数年後、数十年後に理解します。
不安と後悔でどうしようもなくなってしまった自分に歩み寄り、抱きしめてくれた父の無償の愛の温かさに泣いてしまったのだと。









え?エリス様?
だれです、それ?

いえ、冗談ですよ。
あの人なら始末書を提出した後、減給を言い渡されて、パンパン銃を撃たれて命からがら逃げたところを多くの神や天使に見られて、上司になってほしいなんとかランキングの上位から名前が消えました。

女神エリスも反省し、色々とやらかして怒られてますが、また規約を破ってでもヒカルの後悔の為にあれを渡しました。
結局ヒカルは使いませんでしたが。

女神エリスがヒカルへ渡したものがかなり重要なものになってきます。
ヒカルはどの場面でどこへ移動する為に使うのでしょうね。


次回はトリスターノのお話。
トリスターノのお話の後、五章ラストへ入ります。多分。
もしかしたら、ゆんゆんとのお話が入るかも。

今回のエリス様に対してのヒカルの口調ですが、意図的に変えています。最終的にはもうタメ口でいいやになってます。
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