このすば ハード?モード   作:ひなたさん

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71話です。さあ、いってみよう。



71話

 

 

「ま、待ってくれ!頼む!諦めないでくれ!」

 

「そ、そう言われましても…」

 

「お願いだ!金なら多めに払う!マジで!」

 

「え、えぇ…正直できる気がしないのですが…」

 

「次は強力にかけてくれても構わないから!」

 

「は、はあ…。というか貴方は何者なんですか?貴方の存在が謎で少し怖いのですが…」

 

「え、あー…それは、えっと…少し教会周りで仕事してるっていうか…」

 

「それだけでそんな神聖な存在になるわけないじゃないですか!常連さんだから疑わずにやってきましたが、本当に大丈夫なんですよね?」

 

「もちろん!絶対にあんたらの害になるようなことはしないし、この街の共存だって邪魔する気はない!俺はここの味方だよ!」

 

「わ、わかりました。では今夜は二人がかりでやってみますね」

 

「ありがとうございます!!」

 

 土下座する勢いで頭を下げる。

 周りの客や店員さんに引かれながら、俺はペコペコしながら店を出た。

 

 エリス様に神聖が宿っただどーだと言われたが、まさかこんなところでも弊害が出てくるとは思わなかった。

 俺がその神様側の存在に片足を突っ込んだことでサキュバスさんの力を弾いてしまうようになってしまったらしい。

 サキュバスさんからシロガネさんの精気は吸いづらいと言われてたのは、神聖を宿し始めていたからみたいだ。

 弾いてしまう以上もうご利用は出来ませんと言われてしまい、なんとか泣きついてサキュバスさん達に強めに吸ってもいいから何とか出来ないかとお願いしてやっと承諾してくれた。

 

 ゆんゆんと付き合ってるけど、サキュバスさんのサービスが受けられないのは困る。

 ゆんゆんがガンガン来るせいで、冷静になれずに俺のペースを崩される場合が多い。

 ゆんゆんとのデート前日はサキュバスさんのサービスを受けてから行くと、俺はいつも通りの冷静な大人の男でいられる。なのでサキュバスさんのサービスを受けられないことは俺の体裁の死に繋がることになる。それはどうしても避けたかった。

 

 明日はゆんゆんとのデートの日。

 つまり今夜はサービスを受けなきゃいけない日なのだ。

 そんな日にまさかご利用出来ませんなんて言われたら泣きつきたくもなる。

 まあ、これで明日は俺も大人の男として、ガンガン来るのをにこやかにリードしてあげられる。

 ゆんゆんもきっと王都の行きたいところをチェックしてるだろうが、俺もちゃんと調べてある。何かあった時用に休憩出来る宿も確認済みだ。緊急時は何があるかわからないからねうん。盛り上がりすぎちゃったりとか天気が悪くなったりとかするかもしれないし、ゆんゆんの体調が悪くなってテレポートが使えなくなるかもしれないし、いろいろあるかもしれない。

 もしもの為に必要なことなのだから確認しておくべきなのだ。これは善意。変な意味は全くない。

 

 

 

 

 

 

 サキュバスさんの店を出て、暇になった俺はウィズさんの店へと向かった。

 ロクでもない商品も多いが、割と使いようによっては役立ったりもするものもある。

 バニルさんが来てから、普通に役立つ商品も増えてきていて客足も向いてくるようになったのだが、またウィズさんが良くない商品を仕入れて台無しにするのはよくあるパターンと化していた。

 少しは金もあるし、何か良さげな物が有れば買っていこうと思い、店の中へ入る。

 

「へいらっしゃい!む……?」

 

「いらっしゃいませー。シロガネさん、こんにちは」

 

「こんちは、お二人さん」

 

 二人に挨拶を済ませて、そのまま店内の商品を見ていこうとするが、バニルさんがジロジロとこちらを見てくる。

 いや、バニルさんの場合目が付いているわけではなく仮面なのでジロジロという表現が合ってるかは微妙だが、ずっとこちらに顔を向けているので、ジロジロという表現を使った。

 

「どうしたバニルさん?」

 

「……汝、とうとうそちら側になったか」

 

「??」

 

 言っていることがわからず、首を傾げた。

 ウィズさんも同じような反応をしていて、俺同様にわかっていないみたいだ。

 

「む?まさか自身の存在や立場を理解していないのか?」

 

「え、なに?存在?立場?俺なんかした?」

 

「あの、バニルさん?いきなりどうしたんですか?」

 

 ウィズさんの言う通りだ。

 いきなりなんだ?

 

「ふむ……汝『神聖』という言葉に聞き覚えはないか?」

 

「ん?ああ、知ってるよ。最近俺の中にあるやつか」

 

「ええっ!?シロガネさん、それ本当ですか!?」

 

 ウィズさんは何故かビクビクしたような怯えた表情になり、身を屈めてカウンターに身を少し隠すようにしていた。

 まさかバニルさんから『神聖』って言葉が出てくるとは思わなかった。

 

「……宿っていることまで知っているのか。ならば、貴様の立場はわかっているだろう」

 

「え、た、退治ですか?退治にきたんですか!?」

 

 ウィズさんは顔を青くして、そんなことを言ってくる。

 あー、もしかして立場ってことは、神様とかと似た存在になったから、警戒されてんのかな。

 

「いや、俺は別に買い物に来ただけだぞ?」

 

「貴様はあの発光女やボクシング小娘と同じ存在になったのだろう?そして我輩は地獄の公爵、大悪魔のバニルとリッチーのウィズ。そんな存在を許せる立場ではあるまい?」

 

「ひぃ!あ、あの!どうかご慈悲を!」

 

 ウィズさんが悲鳴をあげながらカウンターの奥に完全に隠れてしまった。

 バニルさんはニヤリと笑いながらも油断なく立ってこちらを見てくる。

 バニルさんに敵意を向けられるとは思わなかった。

 『神聖』とやらが宿って良いことが無い気がする。

 

「バニルさん、俺は確かに『神聖』がついちゃったかもしれないけど、望んで手に入れたわけじゃないし、俺自身は変わったつもりはねえよ」

 

「……ほう」

 

 バニルさんは信じていないのか、すぐに警戒を解く気は無いみたいだ。

 ウィズさんが少しだけカウンターからひょっこり出てきたのが見えた。

 

「立場だなんだなんて知らねんだよこの野郎。俺の中身は変わってねえんだ。バニルさん達と敵対する理由もないし、したところで損しか無さそうだ」

 

「で、ですよね?も、もう驚かさないでくださいよ、バニルさん」

 

「……ふむ、そう言うのであれば良かろう。まあ勝負したところで我輩の圧勝だろうしな」

 

 そう言ったバニルさんは警戒を解いたように見えた。

 

「ぶっちゃけいきなり神様側だって言われても困ることしか出てきてないしな」

 

「そうなんですか?例えばどんな?」

 

「そりゃあもちろんサキュ」

 

「さきゅ?」

 

 ウィズさんが純粋な目でこちらを見てくる。

 あっぶね。ウィズさんはリッチーだけど、女性なんだ。自分からバラすところだった。

 

「ああ、いや、何でもないです」

 

「え?そんな途中まで言われたら気になるじゃないですか」

 

「い、いや、マジで」

 

 なんとか誤魔化そうとしたところ、バニルさんが口を挟んできた。

 

「そこの男は自分に『神聖』が宿ってしまってサキュバスからのすんごい夢を見られなくなって困っているだけだ」

 

「バラすなよおおおおおおお!!」

 

「……」

 

 せっかく誤魔化そうとしたのに、ウィズさんの顔が真っ赤になってるじゃないか。

 

「フハハハハハハハ!!汝の悪感情……あまり美味しくないな。『神聖』のせいか、残念だ」

 

「勝手に食べたくせに勝手にガッカリされるのは腹立つな!?」

 

 俺がツッコミを入れてると、ウィズさんがおすおずと声をかけてくる。

 

「あ、あの。シロガネさんって、その、ゆんゆんさんとお付き合いされてるんですよね?サキュバスから夢を見せてもらう必要はないんじゃ…?」

 

 あ、この話続けるんですか…。

 

「あー、それはですね…」

 

「なに、そこの男はこれから来たる生殖活動の予行練習と性欲を満たす為に」

 

「だからバラすんじゃねえええええええ!!!」

 

「よ、よこうれんしゅう…」

 

 ウィズさんはいつも顔色の悪い顔をしてるが、それが嘘のように顔を赤くして呟いた。

 くそ、女性陣にバレたくない秘密をあっさりバラしやがった。

 バニルさんの高笑いが店内に響く中、どうすればバニルさんに仕返し出来るかを考え始めたところで店の扉が開いた。

 

「バニルさん!言われた通り持ってき…ってヒカル?どうしてここに?」

 

 店に来たのはゆんゆんだった。

 両手いっぱいの膨らんだ袋を持っている。

 

「あ、おかえりなさい」

「ふむ、ご苦労であった。我が友人よ」

 

「は、はい!これどうぞ!」

 

 その袋を渡し、やり遂げた顔のゆんゆん。

 ……はあ、もう少し普通の友人を作ってほしい。俺がとやかく言う問題じゃないと思うが。

 

「ゆんゆん?えっと、何してんの?」

 

「えへへ、『友人』のバニルさんに頼まれちゃって。私にしか出来ないことだからって」

 

 めちゃくちゃ利用されてんじゃねえか。

 嬉しそうに微笑むゆんゆんの顔を見てると、利用されてるとかは言い辛くなってしまって、ため息が出た。

 ただ流石に黙ったままという訳にもいかず、バニルさんに注意ぐらいはしておこう。

 バニルさんに近付き、バニルさんにしか聞こえないような声で話す。

 

「バニルさん、なるべくこういうのは控えてくれよ?」

 

「了解した」

 

 仮面に覆われてない口をニッカリと笑いながら、そう言った。

 バニルさん、絶対了解してないだろ。

 その後バニルさんはゆんゆんへと向き直る。

 

「さて、最近なかなか恋仲が進展せずモヤモヤしてどうアタックするか日々悩んでいる娘よ」

 

「わあああああああああああ!!!な、ななななんてこと言うの、バニルさん!?ち、違うから!!今のはバニルさんの冗談だから!嘘だから!」

 

 いや、こういう時のバニルさんって嘘付かないからな…。

 そ、そうか。悩んでたのか…。早く進めすぎると、がっついてる感があってダメかなとか思ってたけど、ウエルカムだったか。

 ありがとう、バニルさん。俺頑張るよ。

 ゆんゆんが言い訳を俺に必死に並べ立てると、バニルさんがゆんゆんを手招きする。

 ゆんゆんは涙目になりながらも素直にバニルさんの元へ行く。

 俺も気になったので近くへと行こうとしたら、これは我輩を手伝ってくれたお礼だと言って近付くのを許してくれなかった。

 不審に思いながらも言う通り離れると、ゆんゆんとバニルさんはヒソヒソと話し始めた。

 俺は良さげな商品が無いか見に来たのが本来の理由だ。客も少ないし、適当に見させてもらおう。

 一分もしない内にゆんゆんが隣に来た。

 

「もう終わったのか?」

 

「うん。ちょっとした助言?みたいなものだったから」

 

「へえ、なんだったんだ?」

 

「えっと、明日のデートで行った方が良さそうなところを教えてもらったの」

 

「あ、ああ。そ、そうか」

 

 照れ臭くなって、誤魔化すように商品棚の方に顔を向けた。

 わざわざ見通す悪魔のバニルさんに教えてもらってたのか。

 明日は良い日になるように全力で頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 今夜はなんだか落ち着かなくて、早めに家を出た。

 もしサキュバスさん達から夢を見せてもらえなかったらどうしようという不安もあったが、久しぶりのサービスが楽しみでしょうがなかった。

 今のゆんゆんに加えて大人ゆんゆんも相手にするという最高の夢だ。

 前回はヒィヒィ言わせるまで二人を攻める夢だったが、今回は二人にご奉仕してもらう夢にした。

 

 いつもの宿に着いた俺は宿の主人から鍵を受け取り、その部屋へと向かう。

 部屋は二階の奥にあるところだった。

 そこを開錠し、扉を開けて中へ入ろうとした瞬間

 

 ドン!!

 

「っ…な、なんだ…?」

 

 驚き思わず声に出た。

 俺のすぐ横の壁を思い切り叩いたような音が静かな宿に響き渡った。

 そこはこの宿の二階の突き当たりの壁なので、叩くような音がするのはおかしい。

 この宿でこんな現象は起きたことがないが、外で何かがぶつかったのだろうか。

 数秒程その壁を見ていたが、特に何も起きなかったので、そのまま部屋へと入った。

 施錠し、ベッドへ向かおうとして固まった。

 ベッドの前に人が立っている。

 その人物は杖を持ち、ニコニコした表情を浮かべ、紅い瞳を爛々と輝かせていた。

 

 というか、ゆんゆんだった。

 

「!?」

 

 俺が声すら出ない程驚いて固まっていると、ゆんゆんは俺に杖を向けてくる。

 まるで銃を突きつけられた時のように、無抵抗を全力で示す為に俺は両手を上げた。

 

「え、な、なんでっ!?なんでゆんゆんがここにいるんだ!?」

 

「バニルさんが今夜のヒカルの動向を見ておくように言われたの。それで『ライト・オブ・リフレクション』で後を追ってきたの」

 

「……」

 

 あ、あ、あのくそ悪魔あああああああああああああ!!!!やりやがったな!!

 『ライト・オブ・リフレクション』光の屈折魔法。姿が見えなくなる魔法だ。

 ずっとゆんゆんは姿を隠して着いてきていて、部屋に入る前に音が壁を叩いたような音がしたのは、姿を隠したゆんゆんが壁を叩いて部屋に入れるように俺の注意を引く為のものだったのか。

 

「ヒカル」

 

「はいっ!」

 

 聞いたことがないほど冷たい声で呼ばれたのが怖くて、恐怖を払拭するように大きな声で返事をした。

 

「『フリーズ・バインド』と『ライトニング・バインド』どっちがいい?」

 

「待って!?なんで魔法を撃たれる前提なんだっ!?俺なんもしてないぞ!?」

 

 そ、そうだ。まだサキュバスさんのお世話になったことは知られていないはず。

 ゆんゆんは杖を持ったまま俺へと近付いて来る。

 

「い、いやいやいやいや!おかしいって!な、何が起こった!?俺なんかした!?」

 

「……こんなところに来ておいて惚けるんだ?」

 

「は、はあ!?ま、まじで何の話!?いや、何の話ですか!?」

 

 俺が喋ってる途中で更に杖が突きつけられて恐怖で思わず敬語になった。

 

「……してるんでしょう?」

 

「え…な、なんて?」

 

 ぼそぼそと話すせいで聞こえなかった俺は聞き返すと、ゆんゆんはキッと睨むような目付きになり、先程とは表情も声も変わっていた。

 

「浮気してるんでしょう!?」

 

「は、はああああ!?」

 

 いきなりの浮気判定を食らった俺は素っ頓狂な声を上げた。

 わ、訳がわからん。ゆんゆんと付き合いだしてから、他の女性になんか興味無いぞ。

 

「ちょ、ちょっと待った!なんでそんな話になったんだ!?」

 

「惚ける気!?一人でわざわざこんな宿に来る訳ないでしょう!?」

 

 え、あー……なるほど。

 俺の行動は確かに誤解をさせるものだったかもしれない。

 目を紅く輝かせた興奮気味のゆんゆんにどう説明したものか。

 

「い、いや、違うって!ちょっと落ち着いて」

 

「落ち着けるわけないでしょ!?誰よ!?私の知ってる人じゃないでしょうね!?」

 

「浮気なんかするわけないだろ!ゆんゆんのことが一番好きなのに!」

 

「っ……じゃ、じゃあ何でこんなところに来たのよ!私達の家があるのに、一人で宿に泊まりに来るなんておかしいでしょ!?」

 

 少し照れたが、すぐに怒り顔に戻って怒鳴り散らして来る。

 これ以上ゆんゆんに誤解されたくないし、不安にさせたくない。

 俺は全てを話すことにした。

 

 

 

 

 

「……つまりサキュバスが男の人の都合の良い夢を見せてくれるサービスを売りにしてる店があって、今夜それを受けようとしてってこと?」

 

「はい」

 

「……」

 

 疑うような、睨むような視線を俺へと向けてくる。

 床に正座して、今夜エロい夢を見ようとしてましたーなんてことを彼女に打ち明けた上に、そんな視線を向けられて俺の心はボロボロだ。

 バニルさんめ、覚えておけよ。

 

「……本当なの?」

 

「あの、疑うのならこの宿にいればサキュバスさん来るし、夢を見るのがダメなら素直に帰るよ」

 

「…………見ようとしたの?」

 

「はい?」

 

「どんな夢を見ようとしたの!?」

 

 顔を赤くして俺に聞いてくる。

 え、これ言わなきゃダメなんですか?

 目も紅く光らせて、俺に迫るように近付いてくる。

 ダメだ、これ言わなきゃダメなやつだ。

 

「あー…ゆんゆんとなんというか」

 

「わ、私となに?」

 

「その、あれっていうか」

 

「あ、あれ?」

 

 くそっ!この羞恥プレイはなんだっ!?

 も、もう知らん!全部綺麗に何かも言ってやるわこの野郎!

 

「ゆ、ゆんゆんと大人ゆんゆん二人を相手にセッ◯スする夢を見ようとしてました!」

 

「っっ!?!?」

 

 耳まで真っ赤にしたゆんゆんは今にも爆発しそうな程だ。目も更に紅く輝かせている。

 聞いてきたのはゆんゆんだからな。

 俺は悪くない。

 

「ちなみに今日は二人のゆんゆんにいろいろなご奉仕をしてもらう予定だった。具体的には二人のゆんゆんの胸で」

 

「まっ!?待って!わかった!わかったから!」

 

 ゆんゆんは手で顔を覆い、指の隙間から俺と目が合うとすぐにまた隠した。

 そんな反応が可愛く見えてしょうがない。

 一分ほど沈黙が続き、ゆんゆんは顔を明後日の方向に向いたまま話しかけてくる。

 

「ねえ、何で大人の私もいるの?」

 

「夢はでっかく持てって、お父さんとお母さんに言われました!」

 

「それ違う夢でしょ!?そ、そうじゃなくて、い、今の私じゃ不満なの…?」

 

 少し不安そうな目をこちらへ向けてそう言った。違う。そんなんじゃなくて。

 

「いや、そうじゃないよ。前二人を相手にする夢が最高だったのでつい」

 

「二回目なの!?」

 

「いや、多分四回目ぐらい?」

 

「や、やめてよ!もうそのサキュバスのお店は禁止!禁止だから!」

 

「お、俺に、死ねと……?」

 

「い、言ってないわよ!だ、だから、その、えっと…」

 

 再び顔を赤くして、モジモジし出すゆんゆん。

 

「お店は禁止、だけど、その、現実の私がいるから…」

 

 上目遣いでそんな爆弾発言をしてきた。

 あまりの衝撃で固まる俺と、歩いてベッドへと向かい、そのまま腰掛けるゆんゆん。

 ベッドへ腰掛けたゆんゆんと目が合うと、恥ずかしそうに目を逸らしたが、すぐにまた目を合わせて、自分の隣をポンポンと叩いてそこへ座るように指示してくる。

 

 ま、まじで?

 明日デートだよ?今日行っちゃっていいんですか?イッちゃっていいんですか?いいんだよねこれ。

 

 俺も立ち上がり、ベッドへと向かおうとする。

 

「ヒカル?な、なんでそんなおじいちゃんみたいに腰曲げて歩いてるの?」

 

「え、いや、これはちょっとですね」

 

 適当に誤魔化しながら、ベッドへ辿り着く。

 だが、まずい。この状態で座ったらすぐバレる。やばい、どうしよう。

 

「きゃっ!?ちょっと、いきなり飛び込まないでよ」

 

「ご、ごめんごめん!なんかベッドに飛び込みたくなる時ない!?いやあ、良いベッドだなあ!」

 

 俺は誤魔化す為にベッドへ飛び込み、うつ伏せでそのまま話す。

 

「え?そう?普通のベッドだと思うけど…。それよりも、隣に座ってよ。一緒の時間、作りたいから」

 

 照れながらも直球で気持ちをぶつけてくるゆんゆん。

 これ以上の誤魔化しは逆に失礼になる。

 俺は起き上がって、ゆんゆんの隣へ座る。

 するとすぐに、ゆんゆんは腕を組んで嬉しそうな表情を見せた。

 

「あのね、ヒカル。…あっ」

 

 すぐに気付いたゆんゆんはバッと顔を背けた。

 

「あのな、ゆんゆん。これは…」

 

「う、うん。わ、わわわわかってるから!そ、そのちょっとだけ待って!」

 

「いや、これはアレだから。服のシワだからまじで」

 

「……そ、それはその、あり得ないと思うけど」

 

 ゆんゆんがチラチラと俺のズボンのシワのところを見てくる。

 やめて。見過ぎだって。

 治ってくれなくなっちゃう。

 

「ゆんゆん!その気にしなくていいから!普通に俺と話そう」

 

「え、う、うん!そ、そうね!」

 

 そう言いながらと俺と会話する時チラチラと俺のズボンのシワを見ていた。

 会話してると気分が紛れてくると思ったのに、ゆんゆんがたまに見るせいでまた意識し始めちゃうじゃねえか!

 ゆんゆんの顔に優しく触れて、こちらへ向けさせる。

 

「ぁぅ…」

 

 顔を赤くしたゆんゆんと見つめ合う時間が過ぎる。

 こんなドキドキして、幸せな時間を過ごしてといいのか、なんて思ってしまう。

 

「ゆんゆん、その」

「ヒカル、あのね?」

 

 二人の言葉が同時に出てきた。

 俺が黙ると、ゆんゆんも少し黙ったが、意外にもそのまま話し続けた。

 

「バニルさんが言ったこと、実はその本当なの」

 

「バニルさん?」

 

 いきなり出てきたバニルさんに思わずきょとんした表情になる俺。

 

「ヒカルと進展してなくて焦ってる、っていうそのアレです…」

 

 昼間のウィズ魔道具店での会話だ。

 知ってはいたが、事実だゆんゆんが認めるとは思わなかった。

 

「だから、その、ヒカルと進展したい、です」

 

 顔を真っ赤にして、真っ直ぐな紅い瞳でそう言った。

 ゆんゆんからまた言わせてしまった。

 今度こそ俺がリードしようと思っていたのに。

 自分を情けなく思っていると、ゆんゆんは目を瞑り、俺が来るのを待った。

 俺は返事は出せなかったが、ただ動くことは出来た。

 これ以上、情けない姿を見せない為に。

 ゆんゆんの顔へ近付き、唇を重ねた。

 

 唇を離すと、ゆんゆんは幸せな表情を浮かべて俺に抱きついてくる。

 幸福感に包まれた俺達は、二人で夜を明かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて、都合の良い終わりは無く。

 

「あの、ゆんゆんさん」

 

「わ、わかってる!わかってるけど、もう少し待って!」

 

「いや、あのそうじゃなくて」

 

「もう少し心の準備だけさせて!そ、その私はは、初めてだから…その」

 

「違うって。そうじゃないんだってマジで」

 

 幸せに抱き合った俺達は、今夜はどうしようかという話をしたら、今日は帰りたくないとゆんゆんに言われてしまってこの宿で過ごすことになった。

 そこまでは良かったのだが、もう今夜は寝ようとなってから緊張してガチガチになったゆんゆんを見て俺はすでにズボンのシワもなくなるほど冷静になっていた。

 二人でベッドに入ってから話しかけているのだが、ゆんゆんは完全にこの後アレな展開になると思い込んでいて、全然話を聞いてくれない。

 

「ゆんゆんさん、今日はしないから。落ち着いて」

 

「えっ、な、なんで!?ヒカルの、あの、ズボンのところ大変なことになってたのに…」

 

「も、もう大変になってないから!今日はしっかり寝て、明日のデートを楽しもう。な?」

 

 そう言うと、ホッとしたような、納得いってないような表情を見せた後、頷いてきた。

 

「ごめんね。待たせちゃったからだよね?」

 

「違うって。ほら、早く寝る」

 

 そう言って抱き寄せると、ゆんゆんは幸せそうなため息を吐く。

 その息が胸に当たってくすぐったい。

 ゆんゆんの匂いが充満して、今度は俺が落ち着かなくなってきた。

 あ、やばい。ちょっと反応してきちゃった。

 

「ゆんゆんさん、お願いがあるんですけど」

 

「なあに?」

 

 甘えるような声で返事が返ってくる。

 

「あの、落ち着かなくなってきたので、スリープかけてください」

 

「……もう」

 

 呆れてるけど、少し微笑むような顔になり、スリープの詠唱を始めた。

 

「ありがとな、ゆんゆん」

 

「うん。『スリープ』」

 

 ゆんゆんに魔法をかけられて一気に目蓋が重くなっていって

 

「おやすみ、ヒカル」

 

「お、やす…み」

 

 意識が無くなる直前、唇に柔らかい感触がした。

 





またpaprika193様に絵を頂いちゃいました。
ああ、もう本当にありがとうございます。
絵は頂いてますが、更新ペース変わらなくてすみません。
許してください、なんでも島風。
さて、絵ですがトリスターノの日常風景みたいな絵ですね。
トリスターノ単体の絵って、愛されすぎでは?
それにイケメンだな、腹立つ。
これだからイケメンは。
重ねてお礼を言いますが、素敵な絵をありがとうございます!
また目次のところにありますので、皆さんも是非見ていってください。

次回から5章ラストに入っていきます。
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