74話です。さあ、いってみよう。
「貴方達が明日から向かうヒノヤマですが、魔王軍との最前線の戦場に近いので気をつけてくださいね」
「どう考えてもその話はついでじゃないだろ」
「多少離れてるので、余程劣勢になって撤退したりしない限りは巻き込まれることはないと思います。と言っても王族やニホンの方が多く参加してますので、ほとんど勝ち戦みたいなものです。ですが用心しておくことに越したことはありませんよ」
「そうか。それなら大丈夫か」
ヒノヤマまで五日間程の旅になるのだが、面倒な要素がプラスされてしまった。
まあエリス様もこう言ってるし、多分大丈夫だと思うが遠回りすることぐらいは考えておこう。
くれぐれもヒナギクと菓子折をよろしく、とか言ってくるのを聞き流しつつ布団を被って、布団の上から叩いて、聞いてるんですか!?などと騒いでるのを無視して寝ることにした。
この時、もしくは翌朝にちゃんとした迂回ルートを考えるなり、ヒノヤマへ向かうのを延期にするなりすれば良かったのだが、その時の俺は知る由もなかった。
「おはよう」
「……はよ」
ヒナに起こされてもそもそと準備を始める。
「…」
俺が着替え始めても出て行かないで、ぼーっと俺を見てるヒナ。
「なんだ?何か言いたいことでもあるのか?」
「へ……?」
俺に言われたことがわかってないのか、それとも聞いてなかったのか、首を傾げていたヒナだが、顔を少し赤くしてすぐに出て行った。
なんなんだ、あいつは。
「準備出来たか、お前ら」
荷物を置いて、声をかける。
「一番最後に来たくせに何言ってるのさ」
「また楽しみで寝れなかったのでは?」
「またなの?」
生暖かい視線を向けてくるな。
誰かさんのせいで少し寝るのが遅かっただけだ。
その誰かさんのことを言うわけにいかないんだが。
「んなわけあるか。そう言うヒナはどうなんだよ。楽しみで寝れなかったんじゃねえのか?それなら早起きもくそもないだろうが」
「ヒカルじゃないんだから、そんなことあるわけないでしょ」
いつものように俺よりも出来てるアピールをするヒナ。
「でもヒナちゃん今日起きるのすごい早かったね」
ゆんゆんがニコニコしてそう言ったのを聞いて、ギョッとするヒナ。
ゆんゆんは俺と目が合うと悪戯っぽい笑みを見せてくる。
「ちょ、ゆんゆん!?なんでそんなこと言うの!?」
「おいおい、ヒカルじゃないんだからとか言っておいて、やっぱり寝られなかったんじゃねえか」
「ち、違うから!ゆんゆんの勘違いだよ!」
そんな顔赤くして言っても説得力の欠片も無い。
「王都に行った後、しばらくは馬車の中で寝られますから、安心ですね」
「違うよ!というかトリタンもそっち側なの!?」
「眠いんだろ?早めに行こうぜ」
「だから、違うってば!!」
王都にテレポートした後、早速馬車乗り場へと移動した。
馬車で三日移動し、徒歩での二日間の旅となる。
ヒノヤマ近辺は人が住むような場所は無く、歩きの移動がどうしても発生してしまう。
ヒナの父親が元魔王軍幹部を無理矢理抜け出すみたいな破天荒な生き方をしていなければ、わざわざ人里離れたヒノヤマに住む必要も無いらしいのだが、それに文句を言っても仕方ないだろう。
馬車での移動ぐらいはのんびりと過ごそう、そう言って少し高い金を払って広めの馬車に指定した。
馬車に乗って少し時間が経つと、案の定ヒナはゆんゆんの肩に頭を預けて寝ていた。
やっぱり寝てなかったらしい。
きっと楽しみで仕方なかったのだろう。
今はゆんゆんの膝枕とかいう羨ましい状態で寝てるが、邪魔しないでやろう。
そう言えば膝枕をする側ばかりで、されることが無いな。
普通…かどうかはわからんが、男はされる側じゃないのか?
馬車が急停車して、目が覚める。
俺もどうやら寝ていたらしい。
「お目覚めですか?」
「あ?」
状況を確認すると、トリスターノの肩に頭を乗せて寝ていたらしい。
「うわ」
急いで離れて、距離を取る。
「そのリアクション、普通に傷付くのでやめてくださいね」
「今更こんなんで傷付くほど、メンタル弱くないだろ」
「そういう問題じゃないと思うんですが…」
そんな会話をしている中、周りの状況を確認する。
ヒナは相変わらず、ゆんゆんの膝枕で熟睡中。
ゆんゆんは起きていて、何故か俺を睨んでいる。
え、なに?何かした?
目を合わせると、そっぽを向かれた。
何故か不機嫌だ。
今聞いても多分答えてくれないし、トリスターノに聞くことにする。
「なあ、何で止まったんだ?」
「モンスターの襲撃です。敵感知にも反応がありますから」
「そういやたまに来るんだったな」
こういった旅行や商業用の馬車には客や馭者とは別に、もしもの時の為に護衛用の冒険者が乗っている。
モンスターの襲撃時にはそいつらが仕事をすることになる。
きっとそいつらが片付けるんだろうが、暇で仕方がない。
馬車でじっとしてるせいで体が凝り固まってるような気がする。
「トリスターノ。モンスターは多いか?暇潰しに手伝ってこようかと思うんだけど」
「王都のそれなりの冒険者が乗っていますから、手伝う必要はありませんよ」
そういえば王都のギルドのクエストはレベル制限があったりとかするんだったな。
腕利きがいる中、俺が行っても下手したら邪魔になるだけか。
「それに仕事を取るなんていけませんよ」
悲し気な遠い目になり、俺に訴えかけるように語りかけてくる。
なんだこいつ、どうした。
「仕事が取られると……役割が被ると悲しいものです。最近ではゆんゆんさんも『サーチ』とか『テレポート』を覚えるせいで、私はこれから何のスキルを覚えようかと」
「トリタンさん、そんなの気にしてたの!?もしもの為に覚えただけだから、気にしないでよ!?」
ゆんゆんが驚愕の声を上げる。
ゆんゆんの言う通り、こいつはそんなこと気にしてたのか。
「一人で負担するより、二人で出来た方が色々と楽だろうが。変なこと気にしてんじゃねえよこの野郎」
「それはわかってますが……」
「馬車乗り終わったら、二日は歩くことになるんだぞ。夜の見張りが出来るように二人で分担できるだろ。いちいち気にすんな」
「そ、そうよ。ヒカルと私で夜の見張り、その後トリタンさんとヒナちゃんで交代って出来るし!」
「え、ええ。そ、そうですね。」
ゆんゆんの勢いに押されたトリスターノは引き気味に頷いた。
ちゃっかり俺と二人になろうとするところを愛おしく思うが、俺も少し恥ずかしくなってくるから、大声でそんなことを言うのをやめてほしい。
夜になった。
夜中に馬車の行軍は出来ないので、これから夜休憩だ。
各々、飯やら寝る準備を始めるところだが、俺のところに冒険者らしき人物が数人やってきた。
「やっぱりだ。あの悪魔の時の」
「あ?」
いきなり話しかけられて、雑な返しをしてから顔を見る。
顔に十字の傷が入った大柄の男。
その男は大剣を背中に背負っている。
そいつの後ろに大柄の男女が一組。
どこかで見覚えがあるような…。
「って、おい。まさか覚えてないんじゃないだろうな?」
俺のリアクションを見て察したのか、その男が信じられないとばかりに俺を見てくる。
確かに見たことがある気がするけど、誰だっけ。
「アクセルの街に上位悪魔が来た時に一緒に戦っただろ!?お前らが後から来てペース乱してきてさあ!?」
ああ、あれだ。
ホーストの時に一緒に戦った。
「久しぶりだな、セッ◯ス」
「レックスだボケェ!!」
「やっぱりめちゃくちゃだな、お前」
「何言ってんだこの野郎。俺は普通だぞ」
「大した装備も無くて、二桁もレベルいってないくせに、上位悪魔相手に頭のおかしい名乗り方して正面から戦った奴が言うと、説得力が違うな?」
顔をしかめながら、俺を見て皮肉を言うセッ、じゃなくてレックス。
「あの時はホーストも弱ってたしな」
そういえばホーストを弱らせたのは誰だったんだろうか。
未だにあれはわからん。
もしかしたらヒナを怪我させたのを見たクリスがブチ切れて、ホーストをあそこまで追い込んだのだろうか。
いや、それは流石にないか。
「だからって、あれはないな」
うんうんと後ろにいるレックスの仲間のテリヤキだかゾフィーだかが頷いている。
「やかましいんだよこの野郎。あれでなんだかんだ上手くいったんだからいいだろうが」
「結果論が過ぎるっつーの」
呆れたように言うレックス。
レックス達と話していると、ゆんゆん達がやってきた。
「お、お久しぶりです。レックスさん!」
「おお、紅魔族の。久しぶりだな、ってお前のパーティーメンバーは全く変わってないんだな」
レックスが俺達を見回して言ってくる。
確かにあの時から変わってない。
「そっちも変わってないだろ」
相変わらずムキムキの前衛しかいないように見えるが。
「王都に来てから、ちゃんとパーティーメンバーは増えてるよ。この前後衛職の奴が体調悪いのに無理しやがってなぁ。前回のクエストでやらかして療養中だ。で、暇潰しと金稼ぎに三人で馬車の護衛なんかに入ってるわけだ」
特に興味があったわけではないが、詳しく語ってくれた。
「へえ、そら大変だな」
しばらくそんな世間話をした後、
「立場は違えど、しばらくは同じく旅する者同士仲良くやろうぜ。またな」
護衛する冒険者としてやることがあるのだろう、そう言ってレックス達は別の馬車の方へと向かっていった。
次の日の夜。
またレックス達がやってきて、飯を一緒に食おうぜと誘われた。
「なあ、俺のことが好きなのか?悪いけど、俺はそういう趣味はないぞ」
「違えよ!なんでそうなんだよ!?見知った冒険者同士なんだからいいだろ」
「別にいいんだけど、そんな好かれる仲でもないと思うんだけど」
「別に好き嫌いの話じゃないんだけどよ。お前のことは嫌いじゃないぞ?ダチの為に上位悪魔に立ち向かうなんて、なかなか出来ることじゃないからな」
そう言われると悪い気はしない。
だけど、あの時はなんというか無知だったし、ゆんゆんの為に必死だったし、ただただ幸運に助けられてたようなものだったが。
「まあ、もう少し考えて来て欲しかったけどな」
レックスが呆れたようにそう言うと、周りが皆頷き始めて
「私もそう思う」
「僕もそう思う」
「私もそう思います」
「うるせえんだよこの野郎!というかトリスターノは俺に言える立場じゃねえだろうが!」
「いえ。リーダーがあんなに寂しそうな顔をしてらしたので」
「え、そ、そうなの?」
何を嬉しそうにしてるんだ、ゆんゆん。
「あの時の二人のくさいやり取りは今でも覚えてるよ。僕、あの時ムズムズしちゃって全然寝られなかったし」
「やかましい!というかお前もくさい言葉吐いてただろうが!」
「ね、ねえ?私もそのやり取り気になるなぁ。聞きたいなぁ」
ゆんゆんが俺に何度も目配せをしてくるが、あんなのを自分から話すのは流石に恥ずかしい。
ゆんゆんが知ってればいいのは、俺達三人がゆんゆんの為にゆんゆんの元へ向かった、という事実だけでいい。
「あれはね。トリタンが」
「何語ろうとしてんだこの野郎!言っとくが、そうやって他人事みたいなツラしてるけど、お前も十分くさいからな!」
「女性に向かってくさいってなにさ!僕は二人に合わせただけだもん!僕自身はくさくないもん!」
「いえ、失礼ながらあれはヒナさんもくさかったです」
「ねえ!?くさいなんて今更気にしないから、聞かせてよ!?」
「お前らって結構騒がしいパーティーだったんだな」
レックスの呆れたような一言が聞こえた気がしたが、俺は他のバカどもの相手をしてるせいでほとんど聞こえなかった。
「お前、上位職になってたのか」
あの後、騒ぎを聞きつけたのか、それとも飯の匂いに釣られたのか、モンスターの襲撃があった。
それなりに数がいたので俺達も手伝って、今片付け終わったところだ。
俺の戦いを見てたのか、レックスが話しかけてくる。
「まあな」
ゆんゆん達が俺のところに来て労ってくる。
「ソードマスターか?」
「いや、狂戦士だな」
「狂戦士!?珍しいな…。でも、お前なら納得だな」
「なんだこの野郎。どういうことだ?」
「……お前、知らないのか?狂戦士が珍しいことぐらいは知ってるだろうが、狂戦士の適性が出る奴はだいたい変わり者だぞ」
「え、そうなの?」
「マジで知らなかったのか」
確認の意味を込めて、ゆんゆん達を見ると、ゆんゆん達は目を逸らした。
こいつら、知ってたのかよ。
まあ、変わり者扱いされるぐらい構わないが。
「他に良い職業無かったのか?」
「ソードマスターがあったが、物理特化の狂戦士が良かったんだよ」
「そうなのか。それはともかく手伝ってくれてありがとな。飯食おうぜ」
大した事もなく三日が過ぎた。
何かあるとするならレックス達と仲良くなったことだろう。
王都でクエストを受ける時は声をかけてくれ、と言ってくれるぐらいには。
馬車を降りた俺達は世話になった人達に挨拶して早々に出発することになった。
半日程歩いた時だろうか、森を抜けている途中、近くの茂みがガサゴソと揺れる。
俺達はすぐに構える。
トリスターノを見ると、首を横に振る。
敵感知には反応が無かったらしい。
モンスターの中には感知が出来ないモンスターもいるらしく油断は出来ない。
刀の鯉口を切り、すぐに抜刀出来る様にしていると、茂みから出て来たのは人間だった。
煌びやかな全身鎧を纏った、両手剣を装備している金髪碧眼の男性。
全身傷だらけでボロボロになっていて、あらゆるところから出血している。
足を引き摺るようにして出てきた人物は俺達を見ると安心したのか、そのまま前のめりに倒れた。
「たす…け、て…くれ…」
そう言い、静かになった。
俺達は顔を見合わせると、とりあえず手当てすることになった。
「こいつ、めちゃくちゃ綺麗な鎧来てるけど、貴族か?」
ヒナが回復魔法で傷を癒した後、木に寝かせるようにして、様子を見ている。
寝顔を見ると、トリスターノよりは歳上に見える。
オールバックの金髪はこの前見た第一王女と同じぐらい綺麗な色に見える。
というか、こいつもかなりのイケメンだ。
「そうだと思うけど…」
「高貴な生まれの方だろうけど、それぐらいしかわからないなぁ」
「……」
ゆんゆんやヒナがそう言う中、トリスターノだけが無言だった。
「トリスターノ、どうした?」
「…いえ、私の勘違いだと思います」
なんだ?知ってるのか?
トリスターノに何を勘違いしたのか聞こうとしたら、件の男が身じろぎしたかと思えば目を覚ました。
「ん……」
「おい、大丈夫か?」
一応声をかけてみると、目が合った。
その男は周りを確認した後、自身の姿を確認して驚いていたみたいだが、ゆっくりと立ち上がり、低い声で話しかけてきた
「……世話になったようだな」
「何があったんだ?」
「魔王軍と戦っていたら、思わぬ事態になってな」
魔王軍?
それはもしかしてヒノヤマ近くが戦場になってるってエリス様が言っていたところだろうか。
「思わぬ事態?」
その男は重々しく頷く。
「まさかグレテンの円卓の騎士が三人も来るとはな」
横目でトリスターノが声を押さえて驚いているのが見えた。
まさかもうその名前を聞くとは。
「すまない。そなたらには関係の無い話であったな。余に回復魔法をかけてくれたのは誰だ?礼を言いたい」
「えっと、僕です」
おすおずとヒナが名乗り出る。
男はヒナを見て、そのまま沈黙する。
なんだ?そう思っていると
「……美しい」
「はい?」
「あ?」
男は呟いた後、跪いてヒナの手を取る。
俺達が驚いていると、男はペースを崩さずヒナに話しかける。
「そなたが余の傷を治してくれた者か。そなたのような美しい女性に傷を癒してもらえるなんて余は幸運だ。礼を言う」
「へ?」
え、何言ってんのこいつ。
ヒナも混乱してるのか、「へ?」しか言っていない。
「今は礼を言うことしか出来ないが、今度必ず礼の品を用意しよう。また余と会ってはくれないか?」
「え、えっと、あの」
ヒナが赤面し、狼狽える。
なんだこいつ、いきなり。
「おいこら、いきなり口説いてんじゃねえよ。どこのどいつだか知らねえけど、調子乗んなよこの野郎」
俺がそう言うと、男はハッとしたような表情になり、ヒナの手を放し、立ち上がった後、佇まいを正す。
「すまない、紹介が遅れた。余はベルゼルグ王国第一王子、ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・ジャティスという」
お、王族かよおおおおおおおお!?
シロガネヒカルの冒険は
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そろそろ許してあげて。イージーモード