このすば ハード?モード   作:ひなたさん

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79話です。さあ、いってみよう。



79話

 

 

「円卓の騎士だとっ!?何故こんなところまで来ているっ!?」

 

 ジャティスが驚きの声を上げる。

 円卓の騎士は戦場を抜けて来たのだろうか。

 それともベルゼルグの方の戦力が撤退したのか。

 そんな考えが頭を巡るが、騎士達は一歩一歩確実にこちらへと近付いて来ていた。

 槍を肩に担いだ円卓の騎士、パラメデスの表情が見えるほど近くなった。

 嘲る様な笑み。

 あとは手を伸ばすだけの獲物を見るかのような目だ。

 俺達はすでに戦闘になってもいいように武器に手をつけていた。

 

「おいおい、マジだ。マジだよおい!」

 

 パラメデスとサフィアが立ち止まったと思えば、パラメデスが口を開いた。

 

「サフィアの馬鹿力のせいで、死体確認とかいうダリィ仕事が増えたと思ったら、こんな…こんな面白いことがあるかよ!」

 

「……」

 

 パラメデスが浮かれたように声を上げ、パラメデスとは対照的にサフィアは沈黙を貫いていた。

 

「王子様が生きてやがったのも、護衛を引き連れてるのもこの際どうでもいい!!あのチキン野郎に会えるなんてな!!」

 

 トリスターノを見て吐き捨てるようにしてそう言った。

 

「サフィア!お前は今日からラッキーボーイだ!これからも敵はドンドンぶっ飛ばせよ!」

 

「……ボーイじゃない」

 

 サフィアは初めて声を出した。

 まだ少年のような声。

 年齢はゆんゆんやヒナと変わらないぐらいだ。

 そんな少年が自身よりも大きい剣を引き摺るようにして片手で持っているのが余計に異様な光景に見える。

 

「ああくそ!ラモの野郎も連れてくれば良かった!死体探しなんて面倒くせえとか言って戦場に残りやがったからな!バカ面引っ叩いて連れて来てれば、もっと面白えことになったのによ!」

 

 ラモの野郎って言うのはもしかして三人目の円卓の騎士『ラモラック』のことか?

 つまり二人しかこの場にはいないってことか。

 

「ヒカル……」

 

 蚊の鳴くような小さな声で呼ばれる。

 振り返ると顔面蒼白のヒナが泣き出しそうな顔でこちらを見ていた。

 

「逃げよう…。すごく嫌な…最悪のことが…」

 

 昨日のこいつが感じ取ってた嫌な予感とやらはこれだったのか。

 マジで予知能力に目覚めたのかこいつは…って今はそんなことはどうでもいい。

 トリスターノは今まで見たことがない程の険しい表情でパラメデスの方を睨み、ゆんゆんもヒナの方を心配そうに横目で確認しながらもサフィアの方を警戒していた。

 くそ、どうするべきだ。

 

「貴様は一体何を言っている?貴様達なんかにチキン呼ばわりされる謂れはない」

 

 ジャティスからしたら何を言われてるのか、さっぱりなんだろう。

 でも俺達は分かってしまう。

 先程からパラメデスが誰に向かって何を言ってるかを。

 

「あぁ?何言ってんだ?王子様をチキン呼びするわけねえだろ。騎士王ほどじゃないが、あんた滅茶苦茶強いだろ。強い奴には敬意を払うもんだ。チキン野郎なんて、失礼なことは言わねえよ」

 

「では何を…」

 

 ジャティスが言い切る前に、パラメデスはトリスターノを指差して続けた。

 

「そこの裏切り者に言ってるのさ。トリ公、いやトリスタンの野郎にな」

 

「裏切り者…?トリスタン…?どういうことだ?」

 

 ジャティスが未だに状況がわからずに俺達にも視線を向けて来る。

 …説明するしかない。

 

「トリスターノが円卓の騎士の元トリスタンだってことだ」

 

 俺がそう言うと、ジャティスは警戒するようにこちらに体を向けて後退りながら、俺達も睨んでくる。

 

「そなた達!まさか!」

 

「違うっつーの!元トリスタンだ!『元』!俺達がお前を殺すならいくらでも殺す機会はあっただろ!?信用するのは難しいかもしれないけど、俺達とそこの円卓の騎士、どちらに背中を預けられるか考えろ!」

 

 ジャティスの言葉を遮るように俺は一気に捲し立てた。

 仲間割れしてる場合じゃない。

 ジャティスがこちらを向いていると、サフィアの方に背中を晒すことになる。

 離れられるともしもの為のテレポートで逃げることも出来ない。

 

「……そなた達、後で何もかも喋ってもらうからな」

 

 そう言って、また俺達に背中を預けてくれた。

 

「いくらでも喋ってやるよこの野郎」

 

「おいおい、トリ公のこと知らなかったのかよ!そりゃあそうだよな!?そこのチキン野郎は臆病者の裏切り者、更には卑怯者だからな!王子様が知らねえのも無理ねえよ!」

 

 ……こいつ、好き勝手言いやがって。

 

「ゆんゆん、トリタン、テレポートで逃げようよ…!」

 

 ヒナがここまで怯えるのを初めてだ。

 俺も苦戦するのがわかるようなヤバい敵とわざわざ戦うよりは撤退を選びたい。

 

「……私もテレポートをおすすめします」

 

 トリスターノはパラメデスを睨みながら静かにそう言った。

 だが

 

「行くならそなた達だけで行け。余は戻らねばならん」

 

 ジャティスはやはり撤退を良しとしなかった。

 

「ジャ、ジャティス王子!ジャティス王子の気持ちは痛いほどわかりますが、今は生き残ることを最優先に…」

 

「余にも守りたいものがある。ここで退けば余の守りたいものは守れない」

 

 ヒナの必死な言葉にも視線すら向けずに頑として拒否した。

 無理矢理連れて行くか、俺達だけで逃げるか、それとも戦うか。

 無理矢理連れて行くのが正解だろうが、ジャティスの守りたいものはきっと守れず、ジャティスとの関係も壊れるだろう。

 俺達だけで逃げる事は選択肢としてはあるが、それが出来るかと言われると出来ない。

 ジャティスとはもうバカやるような仲になっちまった。

 そんなやつを一人で置いて行くなんてことは出来ない。

 戦う選択肢は、

 

「おいおい、チキン野郎どうした!?お前らしくねえじゃねえか!臆病者のお前が逃げないなんてよ!明日は矢でも降るんじゃねえか!?」

 

 自分達が優位に立ってると思ってるのかペラペラ喋ってやがる。

 戦う選択肢は無いと思っていたが、これはチャンスなのでは?

 この油断し切ったところに付け入る隙があるかもしれない。

 

「……」

 

「睨むだけじゃつまんねえよ、トリ公。だから騎士内でも浮いてたんだろうけどよ」

 

 正直言って本気で戦いたくない。

 ここで戦えば、確実に生きるか死ぬかの命の取り合いになる。

 人同士の殺し合いなんてしたくない。

 喧嘩や競争の類ならいくらでも出来るかもしれないが、殺し合いになると話は別だ。

 

 だが、これ以上黙ってることもできない。

 友達を、家族を好き勝手言われて、ヘラヘラ出来るほど人間は出来ていない。

 

「そこでギャーギャーと一人で盛り上がってるパリピ野郎」

 

 戦う覚悟は決めた。

 油断し切ったこいつなら多分やれる。

 どれだけ強かろうと、上位職三人と円卓の騎士一人を同時に相手にするのは難しいはずだ。

 

「……………え、もしかして俺に言ってる?」

 

 呆けた顔でパラメデスが聞いてくる。

 

「そうだよこの野郎。日サロ通いすぎなんだよ。焼けてればカッコイイとか思ってんだろ?」

 

 ヒナの支援魔法を全員にかけて、ジャティスにサフィアと戦ってもらい、時間稼ぎをしてもらう。

 その間俺達がパラメデスを相手にして、無力化あるいは倒す。

 その後ジャティスと合流してサフィアを全員で倒す。

 これだ。

 

「……えっと、わりいんだけど何言ってるか全然分かんないわ。誰か翻訳してくんない?」

 

 まあ、この世界に日サロなんて無いだろうな。

 頭を掻いて、困惑した顔をしてるパラメデス。

 

「リーダー、煽るのはやめてください。危険です」

 

 トリスターノが止めてくるが、もう突き進むと決めた。

 俺達はなんだかんだで強敵と渡り合って来た。

 今回はジャティスもいる。

 俺も強くなったんだ。

 魔王軍幹部を相手に一人で前衛を張れるぐらいに。

 なら、ここでやらないとダメだろ。

 

「ジャティス、支援魔法有りでその大剣の騎士とどれぐらいやり合える?」

 

 俺が背中越しにジャティスに聞くと、全員が動揺したようにこちらを見てくる。

 

「ねえ、何言ってるの…?ヒカル、ねえ?」

 

 ヒナが震えながら俺に聞いてくる。

 

「……支援魔法があるなら、騎士一人ぐらい互角以上にやり合えるはずだ。いや、ヒナギクの愛の支援があるなら…」

 

「バカ王子は一回やられて来い。そうすればバカも治りそうだ」

 

「バカではない。余はベルゼルグ王国第一王子、ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・ジャティスだ。そなたの方がバカだろう」

 

「いちいち名乗るんじゃねえっつってんだろうが。つまり、一人で戦えるんだな?」

 

「数多の戦場を歩いてきた余を舐めるな。一人の騎士を集中して相手にするのであれば負けることは無い」

 

 なら、俺達全員でパラメデスを倒しに行ける。

 やろう。

 上手くいけば殺さないで済む可能性もある。

 

「ヒナ、支援魔法を頼む」

 

「…ぇ」

 

 ヒナが信じられないものを見る顔でこちらを見てくる。

 

「ヒナ、俺を信用してくれ。頼む」

 

「で、でも…」

 

「リーダー」

 

 トリスターノも俺を止めてくる。

 

「ジャティスを置いて行くわけにもいかないし、ジャティスを連れて王都に逆戻りしたとして戦況が壊滅するかもしれない。それにトリスターノ、お前の存在を知られたんだ。どうなるか、わからないだろ」

 

「そ、それは」

 

「やるしかねえんだよ。わかってくれ。ヒナ、支援魔法だ」

 

「……」

 

「ヒナ!」

 

「っ!」

 

 俺の声にビクついたように驚いた後、俺達全員に支援魔法をかけ始めた。

 

「お?やっと終わったか?最期のお別れ」

 

 茶化すようにパラメデスが話しかけてくる。

 

「わざわざ待っててくれてありがとよ。日サロ君もそこのラッキーボーイだかにお別れしなくていいのか?少しだけ時間やるよ」

 

 刀を抜き、腰を低くして構える。

 

「……てめえ、剣を抜いたな?俺の前で。じゃあてめえもトリ公と同じ殺す対象だ」

 

 そう言ったパラメデスの目は先程までとは違い、明確な殺意が見えた。

 

「まさよし、そっちはマジで頼んだぞ。なんなら一人で倒してもいいぞ」

 

「誰がまさよしだ馬鹿者。そなたこそ、その騎士は任せたぞ。ちなみに一瞬でこちらに合流してくれても構わんぞ」

 

 背中越しに言い合う。

 マジで一人で倒してくれてもいいんだぞ。

 いや、マジで。

 

「おい、サフィア!バレバレの作戦だけど乗ってやろうぜ!お前には王子様の首をやるから、俺にはトリ公とそのおまけの首を寄越せ!まとめて騎士王に献上だ!」

 

「……いいよ」

 

 どうやら二人の騎士も俺の考え通りに戦ってくれるらしい。

 これなら本当に倒せるかもしれない。

 

「ヒナは回復と支援に徹底しろ。トリスターノとゆんゆんは俺の援護。俺は前衛だ」

 

 ゆんゆん達が心配そうに俺を見ていた。

 

「安心しろよ。モンスター相手ならともかく対人戦の俺なら信用出来るだろ?」

 

 そう言うと、ゆんゆん達はまだ迷っているような表情だったが少しだけ安心したように見えた。

 

「さーてと、ちょっくら運動して良い晩飯にするか。今日は極上のチキンだ。それとデザートはまだガキ臭そうだが良い女がいるじゃねえか。今日は楽しめそうだ」

 

 よし、倒すとか無力化とか甘いことを言うのはやめだ。

 殺す。

 

「まさよしぃ!!ぶっ飛ばされた借り、返してこい!!」

 

「まさよしではない!!言われなくてもそうするつもりだ!!」

 

 気合を入れる意味で声を張り上げると、ジャティスも返してくる。

 俺とジャティスはお互いの敵へと突っ込んで行く。

 

「ヒカル、気をつけて!」

「リーダー、彼とはあまり打ち合わないでください!槍の攻撃は全て避けてください!」

「ヒカル、危なかったらすぐに戻ってきて!」

 

 全員の声を背中に受けて、踏み砕かんばかりに地面を蹴る。

 俺の後ろから矢と雷の魔法が俺を追い越し、パラメデスへと向かうが、矢を羽虫でも払うかのように槍で弾き、俺へと一直線に駆けて来ることで魔法を避けた。

 

 

 打ち合うな。

 

 トリスターノはそう言った。

 力が強いのか、それともミツルギが持っている魔剣のように何か特殊な武器や能力があるのかもしれない。

 十二分に気を付けることにしよう。

 

 接敵。

 パラメデスの獰猛な笑みが見えて、槍が凄まじい速度で俺に突き出される。

 それを踏み込みつつ刀でいなして更に間合いへと入り込む。

 そうするとパラメデスは軽く驚いたような表情へと変わる。

 左半身を前に出した槍の構えの突きから、左半身を後ろへと下げて、右半身が前の構えにシフトしつつ、突いた方とは逆の刃で下から俺の体を斬るように振るう。

 その振りを刀で右へと払い、更に切り進むように前に出る。

 相手が戦いの素人であれば、右半身を前に出した振りを俺側から右へ払えば、左へと槍は払われて背中を俺に見せることになる。

 だが、相手は円卓の騎士。

 俺の払いの勢いを利用し、後ろへと下がりながら、器用に槍を回して振るってくる。

 中段、上段、下段。

 俺のガードと、刀でガードし辛い場所への連続攻撃。

 その槍の振りはトリスターノの矢も落としているらしく、本当に恐ろしい奴を敵に回したことを改めて知る。

 いなす刀とガードが間に合わず、槍を避ける。

 そうするとその一瞬の隙を利用して、刀の間合いから離れて、パラメデスは槍を構え直した。

 こうなると槍の間合いだ。

 簡単には攻めには入れない。

 

「てめえ、どこの生まれだ?」

 

「あぁ?んなもん聞いて何になんだよ」

 

 パラメデスの表情から笑みは消えて、凛としたような真面目な顔付きになっていた。

 殺気は今も健在だが、俺の出身なんて聞いてきた。

 

「てめえは別に強くはないが、巧いな。どこかで修練を積んだ、そんな技術を感じる。それにそんな剣は見たことねえし、小さな剣をわざわざ二本目として持ってるのも初めて見た」

 

 いろいろと引っかかる言い方だが、純粋に気になっているのだろう。

 パラメデスの視線は一瞬だけ俺の刀の方へと移動した。

 

「それに援護があるとはいえ無傷で俺の槍を初見で見抜いたことは褒めてやりたくてな」

 

 強くはない。

 そうはっきりと俺に言ってくる。

 お前じゃ俺に勝てない、と。

 ふざけんなこの野郎と言いたいが、ぶっちゃけると俺も同じ意見だ。

 槍の突きと槍捌き、身体運びに一瞬の判断。

 全てが俺より上だ。

 最悪、今の動きもまだ加減してる可能性もある。

 流石円卓の騎士。マジで戦いのプロだ。

 

「そりゃどうも。俺の出身は日本だよ」

 

 俺が吐き捨てるように答えると、パラメデスは気にしてないみたいで興味深そうな顔だ。

 

「ニホン?聞いたことねえ。お前みたいな戦士がいるなら行ってみてえな。最近はすげえ武器やらスキルやらに頼りきりのやつばかりでいけねえ。体に染み込ませた技術がねえハリボテみたいな奴ばっかりだ」

 

 そのハリボテ、もしかしたら日本のやつかもしれないけど、それは黙ってよう。

 パラメデスは槍を回しながら動き、まるで演舞でも見せているかのような華麗さでトリスターノの執拗に狙ってくる矢を躱して弾く。

 ゆんゆんの『ファイアー・ボール』も難なく躱して、地面に着弾して発生した爆風すら

利用して俺の方に突き進んで来た。

 俺も合わせて踏み出す。

 槍の間合いではやらせない。

 わざと剣の間合いでやろうとしているのか、パラメデスはすんなりと俺が間合いに入ることを許した。

 数度の攻防をして、改めてわかる。

 俺一人では絶対に勝てない。

 加減しているのもなんとなくわかってしまう。

 だが、この程度ならトリスターノが言っていた『化物』とは程遠い。

 

「お前、グレテンに来ないか?根性もありそうだし、俺が鍛えてやるよ」

 

 剣と槍が鍔迫り合いのように押し合い睨み合う中、パラメデスが口を開いた。

 随分と余裕があるじゃねえか。

 だが、そんな余裕を許してしまう程の実力差があるのも事実。

 何度も言うが、こいつには俺一人では絶対に勝てない。

 俺一人では。

 

「いらねえよ。だいたいこの話に修行編なんて作っても面白くねえんだよこの野郎」

 

「…ごめん、やっぱお前の言ってること全然わかんねえや」

 

 こいつと戦ってるのは俺達だ。

 シルビアと戦った時も一人じゃ戦おうなんて思わなかっただろう。

 あの時と変わらない。

 俺一人では勝てない相手もこいつらと戦えば勝てる。

 

「『ボトムレス・スワンプ』ッッ!」

 

 ゆんゆんの泥沼魔法。

 ゆんゆんは器用にもパラメデスの足場のみを泥沼へと変えた。

 足場を崩されたパラメデスは驚愕するも、すぐに体勢を立て直そうとするが、その一瞬の隙をトリスターノは見逃さず、矢を放つ。

 わざと急所を逸らした矢は咄嗟にガードした槍をすり抜けて、パラメデスの右肩と左腹部に突き刺さった。

 

「チッ!トリスタン、てめえッ!!」

 

 トリスターノの矢で注意が逸れたこの瞬間が最大のチャンス。

 

 この時、即座に首を切り落とすようにして首を斬りつけるか、それとも頭をぶち抜くように突きを放っていれば殺せた。

 いくらでも方法はあった。

 ただ、俺には覚悟が足らなかったらしい。

 

 殺すことを躊躇した。

 

 峰打ちでいいんじゃないか。

 そう思った俺は刀を返し、峰で頭を横から殴るようにして振るった。

 ただ、その一瞬の躊躇いと刀を返す行為は円卓の騎士を相手に致命的なミスに繋がった。

 パラメデスは俺の刀を躱してまだ泥沼化していない地面へ槍を突き立て、そのまま体を泥沼から抜け出しながら、刀を振って隙だらけの俺に蹴りを打ち込んできた。

 そこまで強くない蹴りではあるが、俺を後退させるには十分の威力。

 怯んで刀を咄嗟に構えるが、槍で払うようにして刀が弾かれて俺の手を離れた。

 トリスターノとゆんゆんの立ち位置からは俺が影になっていてパラメデスに矢も魔法も撃てない中、俺は刀を失った。

 

 死んだ。

 

 パラメデスが槍を突き出してくるのが見えて、呆然とそう思った。

 狙いは心臓。

 頭じゃなくてよかった。

 そう思った俺は最後の抵抗で二振り目の脇差を槍から自分の体を守るようにして引き抜いた。

 それが本当に意味があったかはよくわからない。

 だが不思議な光景を見た。

 確かに二振り目の刀は俺の体と槍の間に入り込んだ。

 そこまではよかった。

 

「…え?」

 

 刀も防具も何も無いかの様に貫通し、俺の体に槍が入り込んで行くのを見て、俺は間抜けな声を出した。

 まるで豆腐に箸でも入れ込むかのように刀も防具も何の意味を為さなかった。

 刀を持っている手に槍の突きの衝撃が全く伝わらなかった。

 意味がわからない。

 

「トリスタンから言われただろ。俺の槍と打ち合うなってな。その様子を見るに『ラウンズスキル』のことは知らねえみたいだな」

 

 らうんず、すきる?

 パラメデスはつまらなそうに俺を見て、静かに言った。

 

「俺の『ラウンズスキル』は『防御無視』。俺が持った武器の刃は何でも通すのさ」

 

 貫かれた痛みは無い。

 致命的なことをやらかして、頭が真っ白になった。

 

「良い戦士だと思ったんだがな。パーティーにも恵まれてるしな。ただ俺を相手に躊躇した。それがてめえの死因だ」

 

 誰かの絶叫が聞こえた。

 振り向くことすら出来ず、ただ目の前の光景を茫然と眺めていた。

 

「ま、良い経験にはなった。強くは無いが面白かった。『ニホン』という地名、確かに覚えたぞ」

 

 槍が勢いよく引き抜かれて、俺は支えを失ったように倒れた。

 死ぬ。

 槍で体をぶち抜かれてもその事実が信じられなかった。

 いや、信じたくなかった。

 誰かが走り寄ってきたのを感じたが、そうじゃない気もする。

 もしそれが合っているのなら、今すぐ引き返してほしい。

 こいつ相手に何の警戒も無しに近付くのは死を意味する。

 俺みたいになってほしくない。

 そう考えていたら、目の前が真っ暗になった。

 




今回後書き長めです。

しばらくシリアスです。多分。

少し前にアンケートを取らせていただきましたその意味をここでお教えします。
アンケートの意味ですが、シロガネヒカルの冒険が少し変わるようになっています。
イージーの場合、円卓の騎士に遭遇するも超強力な助っ人(ヒナの両親)がやって来てくれてヒカルは死ぬことは無い。けどヒナの父親に殺されかける。
ノーマルの場合、円卓の騎士に遭遇するが、円卓の騎士と同じく王子を探しに来た王子の側近である王国騎士団の将軍が来て、協力して何とか倒す、もしくは撤退する。
ハードの場合、今回の話のように誰も助けに来ず、ヒカルは死ぬ。その後も……。

こんな感じです。
アンケートのご協力頂きありがとうございます。

シロガネヒカルの冒険は終わってしまいましたが、私の次回作にご期待ください。

と言うのは冗談です。
この後もちゃんと続きます。
ただ、この後の展開をエクストリームハードにするか、普通のハードにするかで少し悩んでいます。
多分普通のハードにします。エクストリームハードにすると、ギャグ無しのずっとシリアスさんになってしまいそうなので。
シリアス続きだと僕が書くの疲れるので…。

あと申し訳ないですが、五章のお話が長くなってしまうので、五章は途中までの日常みたいな話までを五章にして、このお話が始まったあたりを六章スタートにしようと思います。

次回のお話はちょくちょくこのお話が書きたくて前に書き貯めてたシーンがあるので多分そこまで時間はかからないと思います(かからないとは言っていない)
ということで次回に。

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